FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
「よりによって、ここが指定ポイントか」
キノコ岩街道の谷底の奥。
悲劇の始まりの場所、アカギ隊最終試験場跡地の固く閉ざされた扉の前に立つ。
「洞窟の中は、高濃度の幻光に満ちてる。確かに、姿を隠すには持って来いの場所だな」
「だけど、どうやって入ったんだろ? 扉を開くのに必要なカギは、私たちが持ってるのに」
「だよねー」
リュックの手には、施錠された扉を開けるのに必要な鍵となる赤色のスフィア。
「それも行けば分かる」
「そだね。リュック、お願い」
「りょーかい」
リュックは、扉のくぼみにスフィアを順番にはめ込んでいく。そして、最後のスフィアをくぼみに収めると、重量感のある扉が音を立てゆっくりと開いた。
「すんごい幻光。今度は、幻覚見せられないよね?」
「大丈夫。私たちは、悲劇の始まりを知ってるから」
「自分を見失わないように気を張れ、だな」
「行こう」
無数に揺らめく幻光が溢れ出る薄暗い洞窟の中へ足を踏みれた。段差がいくつもある蛇行した道を進み、途中数体の魔物を退けて、悲劇が起きた洞窟の最深部に到達したものの、悲劇の元凶になったシューインの思念も残っておらず、特に変わった様子は見受けられない。手分け探してもみても、やはりこれといったものは見つからなかった。
「ユウナ」
「うーん......」
目をつむり、直接対面した時のことを思い返す。
機械に精通しているアルベド族よりも高度な技術を持つ科学者、決して本心を悟らせない食わせ者。何より、あの時の言葉。
「今回は思惑が偶然一致しただけ、居場所は知らないから自分で探せ、そう言ってた」
「くそ、あの科学者にまんまと一杯食わされたってことか」
「でもさ、それなら何でここに来いって言ったんだろ?」
何かしらの理由がある。それとも、単なる気まぐれ。
そう想っていると、背後から足音が響いた。振り返る。赤毛に灰色の瞳、白衣を羽織った科学者――依頼主のアソオスが姿を現した。
「おや、これはお早いお着きで」
まさかの状況に、臨戦態勢に入るのにワンテンポ遅れるも取り立ててリアクションは見せない。切っ先を向けたまま、パインが問い質す。
「こんなところに呼び出して、いったいどういうつもりだ? 異界に現れた科学者は、お前の仲間じゃないのか?」
「これはまた可笑しなことを聞くね。あなた方に依頼をし、報酬の前払いとして事前に情報を提供した。以前、あの人が何処に居るかは知らないとも伝えたでしょ」
確かに。依頼は、年齢が異なる二人の科学者が同一人物であるという情報と交換条件で提示された。異界から持ち運ばれた辻斬りの回収もしくは破壊。事実、ポイントを指定しただけで、ターゲットがここに居るとはひと言も言っていない。
「ふむ。さて――」
「やるのか......!」
「ん? 何で身構えてるの? ま、別にどうでもいいけどね。用件は済んだから、後はあなた方が履行すれば契約は終了。はい、めでたしめでたし」
「どういうこと? あなたの本当の目的は何?」
「用件は済んだ」という表現、本命は間違いなく別にある。
ただ、訊いたところで飄々とした態度は微塵も崩さないでのらりくらり躱されるだけ。周囲は高濃度の幻光で満ちている、強力な魔物を生み出せる相手に真っ向から対立すれば、混乱に乗じて逃げられた挙げ句、こちらの死闘は必至。何も得られない。今、有力な情報を持っているのはアソオスだけ。あの時と同じ轍は踏まないように、どうにかして足を止めないと。
「取引しよ」
「ユウナん!?」
「ユウナ、お前何を――」
「へぇ、具体的な内容は?」
興味を示した。ひとまず、足止めは出来た。
「辻斬りを回収した科学者の正体と目的」
「取引とは、互いの利害が一致して初めて成立するもの。それ相応の対価を示して貰うことになるけど?」
「出来る限りのことはするよ」
「じゃあ、ここのキースフィアを貰おうかな」
アソオスは、この洞窟の扉を開くための鍵となるスフィアを要求してきた。目的は、この洞窟。ここで何かを行おうとしている。
「こんな場所何に使うつもりだ? もし、何かするつもりなら......」
「答える義務は取引に含まれていない。この取引は、決裂――」
「待って! キミが何をするか詮索はしない。先に、スフィアを渡すから」
不快感を滲ませるパインを抑え、躊躇しているリュックから受け取ったスフィアを差し出す。
「本物のようだね。確かに譲り受けました、と。取引成立。じゃあ話そう」
「教えて」
壁に背を預け、腕を組んだ彼の言葉を聞き逃さないように耳を澄ます。
「あの人の目的は、スピラ――とりわけ旧エボン寺院の僧官、人々の敬愛の対象だった召喚士への復讐。ま、後者はただの逆恨みだけどね」
以前に聞いた、技職の神・アルブの私怨の話。
「もう一人の科学者はキミと違って、アルブの意思を、復讐心を継いでるの?」
「継ぐ? あの人は最初から何も変わってないよ。自身の目的を遂行するため、生に執着を続けているだけに過ぎない。長年の障害は排除されたんだから、やるならさっさと実行に移せばいいのにね。目的と手段が入れ代わってる。憐れな人だよ」
「話しが見えてこないな。お前は今、いったい誰の話しをしてるんだ?」
「誰って、あの人の話しだけど? ああー、そうか。確か今は――」
科学者アソオスの言葉を聞き、三人で顔を見合わせる。
ずっと思い違いをしていた。話しが噛み合うはずがなかった。そもそもの前提が間違っていたんだから――。
* * *
「異界で遭ったあの科学者が、技職の神・アルブだったなんて......」
「てゆーか、細胞を若返らせたって何? 意味分かんないんだけど!」
「まともな感性じゃないことは確か。他人を犠牲にしても生き長らえようとする生への執着心は尋常じゃない。もうすぐ出口だ」
各自、戦闘準備を整え。パインが、最終確認を取る。
「いいか? 開けるぞ」
「オッケー」
「うん、いいよ......!」
扉が開き、目映い光と共に乾いた銃声が響いた。
頑丈な扉を背に、外へ出るタイミングを窺う。
「アイツの言った通り、待ち伏せされてたな。リュック!」
「とりあえず、二人!」
手鏡に写った人数は、最低でも二人。
「強行突破するか? 四、五人くらいならやり過ごせる」
「ダメ! 使われてる銃弾はたぶん、アンチ・プロテス弾」
「あの科学者――技職の神・アルブが使ったヤツか。けど、このまま隠れてても埒があかない」
「わっ! 鏡、撃ち抜かれたー!」
今、聞こえた銃声は一発。リュックの周囲に展開されている
「夜まで......待ってはくれないよな。二人とも伏せろ!」
咄嗟に地面に伏せた直後、弾んだブリッツボールが破裂音と共に土煙が周囲に巻き上げる。そして同時に、牽制射撃が来る。
「もー! 容赦なさ過ぎじゃないっ?」
「まったく、なりふり構わずだな」
「それだけ都合が悪いのかも。私たちが、ここにいることが。リュック、通信スフィアはっ?」
「ムリ! 幻光濃度が高すぎてノイズがヒドい! もう少し
どうにかして情報だけでも、彼女たち――召喚士の才能を持つ二人に伝えないと。でも、一歩でも外に出ようものなら激しい銃弾の雨が容赦なく降りかかる。長丁場の持久戦を覚悟する中、不意に、銃声が鳴り止んだ。
「銃撃が止まった? 罠か?」
「弾切れかも」
「それならチャンスだけど」
おそるおそる、外の様子を窺う。
「あっ!」
ハデな服装の女性と体格が正反対の男性二人が、アルブの配下を相手取り戦闘を繰り広げていた。
「ルブラン!」
「何やってんだい、ぼやぼやしてんじゃないよ! さっさと退くよっ!」
「危ない! 後ろ!」
「お嬢!」
ウノーの盾が、プロテスを貫く弾丸を弾き返し。相棒のサノーが、得意の二丁拳銃で反撃。
「あの弾丸、盾は貫けないんだ」
「そういうことならわたしに任せろ、全部防ぎきってやる!」
「飛空艇呼び寄せたよ! この谷底から突破さえ出来れば、アタシたちの勝ち!」
「行こう。ミッションスタート!」
合図で、洞窟を出る。扉が閉ざされた、もう退けない。
周囲に物理と魔法障壁を最大限に展開。リュックは、サノーと同じ二丁拳銃で。パインは、剣の面でプロテスを抜けてきた弾丸を受け流す。無防備な広場を駆け抜け、ルブランたちと合流し、リモートで呼びよせた飛空艇に乗り込み窮地を脱した。
「はぁー、何とか助かったー」
操縦席に座ったリュックは、操舵にもたれ掛かるようにして大きく息を漏らした。流石のパインも、椅子に座って休息を取っている。ルブランたちの下へ。
「ありがとう。助かったよ」
「礼なんていらないよ。ヌージのダンナに頼まれただけさね。どこへ向かうかは知らないけど、ベベルへ寄ってくれ。ダンナに報告しないとならないからねえ」
「行き先は、私たちも同じだから」
ベベルに到着してすぐヌージの下へ向かうルブラン一味と別れて、さっそく情報共有の場につく。一通りの報告を聞き終えたバラライは、静に目を閉じた。
「1000年前の亡霊が動き出したきっかけは、旧アカギ隊の生き残りの対立......」
「いつ、世界を滅ぼし兼ねないヴェグナガンを残しておくよりマシだろ。アルブの計画を潰すことは当然として、もう一人の科学者の動きも不審だ。取引を持ちかけて来た科学者は、何をしようとしてるんだ?」
「分からない。でも、あの洞窟で何かしようとしてるのは確かだと想うよ、詮索されるのを嫌がってた。あと、二人の科学者は志を共にしてない」
洞窟の外で待ち伏せしていたアルブの配下は、全身を覆う防護服とガスマスクを付けたベドールではなく、ナギ平原の一件と同じ虚ろな目をした人、おそらく、死者。回収、破壊を依頼された辻斬りとは別件。
「そのことで、僕から報告があるし」
会議に同席しているシンラが、ソファーから立ち上がった。
「辻斬りは、ユウナたちの動きをトレースしてると思う。一年前、ユウナたちが魔物と戦ってた時に飛んでた鬱陶しい機械。あのレコーダーは、ユウナたちの戦闘データを収集してたと考えれば納得いくし」
「なるほどな。異界で戦った時、わたしの動きを模写してた」
「アタシもやられた。けど、アタシとパインを模写してきたのは二回目に戦った時だよ。最初は、誰の動きだろ?」
「う~ん、剣だったよね?」
攻撃を受けようが関係なく、鋭い太刀筋で反撃を繰り出す向こう見ずな戦闘スタイル。ここに居る誰とも違う。今、ここへ向かっているヌージとも。
「たぶん、マヤナのガード」
「シキの? でも――」
他を圧倒する彼の動きとはほど遠い。
「きっと処理が追いつかないんだと思う。実際見たけど、機械で処理出来る次元の動きじゃないし」
「理想は、あの子のガード。けど再現出来ないから、先生たちで妥協したってか」
「なにそれ、ムカつき~!」
「バカにして、ぶっ壊す......!」
これでもかと、二人は不快感を露わにする。
若干場の空気がピリついた時、ヌージがやって来た。
「少し冷静になれ。話しは、通信スフィアで聞いてた」
「ヌージさん、クルグムとマヤナは?」
「連絡は入れた。今、現場から戻ってる最中だ。バラライ、アルブの意識を評議会に向けさせるぞ」
「分かっている。しかし、簡単に誘いに乗ってくるとは想えない」
「ま、1000年間生身の肉体で生き抜いた執念だからな。直接ここを叩きに来ないのは、慎重深さの裏付けだろ」
「なら、動かすまでのこと。あの時と同じ状況を作ってやればいい。遷都するぞ」
――遷都、首都を移す。
「ベベルを動かすつもりですかっ?」
「評議会の頭だけさ。それらしい理由を付けて、ナギ平原に本部の機能を一時的に移設する。当然警戒されるだろうが、警備が手薄になれば何らかのアクションを起こすはずだ。その間に、ビサイドへ向かってくれ」
スピラ最南端のビサイド島。
異界で、プセマと名乗っていたアルブは、微弱な反応がビサイドから出ていると言っていた。本性を知った今は、ベベルを離れさせるための虚偽である可能性が高いと仮定していた。けど、ビサイドには祈り子が二体安置されていることを科学者アソオスから聞いた。追加の取引材料もなしに教えてくれた理由を訊くと「面白そうだから」と無邪気に笑っていた。
完全に信用している訳じゃない。けど、洞窟を出た直後に狙われたのは、アルブに取って不都合な理由があった、そう考えれば......。
「――分かりました。お任せします」
リュックとパインにベベルの防衛を頼み、ビサイドへ向かうことを決めた。
何かが変わる、真相に近づくための手掛かりになると信じて――。