FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission30 ~転換期~

 対策本部からの緊急連絡を受けて、日の光もあまり差さない鬱蒼とした深い森の中を、通信スフィアの位置情報を頼りにスピラの首都ベベルを目指して歩みを進めている。

 

「ビサイド島に、もうお一方祈り子様がいらしただなんて。どうして、気づけなかったんだろう。あたし......」

「旧エボン管轄の寺院に安置されている祈り子とキミの会話にあがらなかったのは、機械戦争終結以前から存在していたからだ。既存の祈り子像はベベルの祈り子を含め、ユウナレスカのナギ節以降に移設、新造されたもの。祈り子自身も、もう一体の祈り子の存在を把握していなかったと考えるのが妥当だろう」

 

 左隣を歩くシキは、落ち度はないとやや素っ気なくも気遣ってくれる。

 ビサイドは、本島から遠く離れた孤島。島の集落は、山の中腹に切り開かれた小高い丘の上。周囲は切り立った斜面も多く、海上に建てられた舟屋で生活を送るキーリカ島の島民とも生活環境がやや異なることもあり、手つかずの自然が多く残っていることも影響しているのかも知れない。

 森を進んだ先に現れたやや開けた場所で、同じく招集指令を受けたもう一人の送儀士、ガードと合流。その場でしばしの休息を取りつつ、情報交換を行う。

 

「あたしたちは、森の北部を調べました。未開の遺跡を複数調べましたけど、それらしいものは何も」

「僕たちも似たようなものでした。遺跡の他にも廃村らしき跡地はあったんだけど」

「ご丁寧に全部荒らされてた。ルブラン一味のマークがあったから、あの人たちの仕業だな」

「お互い収穫はなしですね。だけど、ユウナ様が有力な手掛かりを掴んでくれた。やっぱり凄い方だよ」

「そればっかだな、お前」

「事実だよ。僕たちが血眼になって調べていたことを――」

「待て」

 

 会話には参加せず周囲の警戒に当たってくれていたシキの声に、三人揃って顔を向ける。

 

「気配が変わった」

「......ホントだ、幻光の流れが微かに変わった。この感じ、近くで何かが起きているみたい」

「何だろう? 魔物の兆候とは少し違うけど、少しイヤな感じがする......」

「お前たちよく分かるな。それで、どこで何が起こってるんだ?」

 

 逃さないように周囲に全神経を集中させ、ほんの僅かな変化も取り残さない様に気を配る。

 

「なあ、何か煙ったくないか?」

「そう?」

 

 疑問を投げかけた彼女の近くへ、クルグムは移動。そこは、ちょうど風下に当たる場所。風向きが変わって漂ってきた焦げ臭さを追ってきたかように、木々の微かな隙間から灰色の煙が周囲に立ち込めて来た。

 何かが燃えている、鬱蒼とした森の中で。

 そしてそれは、心当たりがある感覚。

 

「この感じ......まさか。シキ!」

「先に行く」

 

 躊躇することなく、煙の中へ飛び込んでいった。視界を奪う煙の中を、袖で口と鼻を覆って、後を追う。突然、悲痛な叫び声が響いた。一斉に飛び立つ鳥たち、周囲の木々がざわめき立つ。

 

「悲鳴!?」

 

 鬱蒼とした森を抜けた先は、三年前、故郷の村が壊滅した時と被る惨状が広がっていた。荒らされた田畑、焼け落ちた家屋、道ばたには複数の人たちが倒れている。

 

「集落か? こんな森の中に......」

「行きます!」

「あ、チュアミ!」

「あ、ああ!」

 

 手分けして、倒れている人たちの救助に当たる。まだ息はある、襲われて間もない。回復魔法で応急処置を施し、状態から優先順位をつけて、別の負傷者の下へ向かう。

 

「家屋の外で倒れてたのは、これで全員か?」

「見落としがなければ。すぐに応援を呼ぶ。全員今すぐ命に関わる感じじゃなかったのは幸いだよ」

「......けど、いったい何があったんだ?」

 

 集落の奥から、シキが姿を見せた。羽織が紅く染まっている。

 

「大丈夫!? 怪我したの!?」

「案ずるな、返り血だ。あの時と同じだ」

 

 彼の手には、人のものと思しき肘から先の腕。内部には、ケーブルらしき物が仕込まれており、本来流れるはずの紅い血の代わりに、行き場を失ったオイルが切れたケーブルの先から滴り落ちている。

 

「また、死者の遺体を利用した襲撃。どうして......」

「事情は不明だが、倒壊したの奥の社に祈り子を模した木彫りの像が安置されていた」

「つまりこの集落は、エボナーの集まりだったってことかよ」

「チュアミ、今は......」

「分かってるって。この集落の人たちに罪はない、そんな聞き分けの出来ないほど子供じゃない」

 

 複雑そうな表情を覗かせるも、そう自身に言い聞かせる様に言葉に出した。

 

「はい。はい、お願いします。失礼します。本部と連絡がついたよ、グアドサラム在中の守備隊が応援に来てくれる。それから、調査団を派遣するから襲撃犯を確保――」

 

 通信スフィアで対策本部と連絡を取っていたクルグムの肩を、シキが強引に押し退けた。目が眩む一瞬の閃光、竹を割ったような轟音と共に衝撃波が足下から伝わる。押し退けられたクルグムが先ほどまで立っていた地面が、今の落雷の影響で陥没した。顔を上げて、周囲を見回す。鬱蒼とした森の中から、異様な瘴気を発した魔物の群れが、この集落を目指して向かって来ている。

 

「なんだよ、あの魔物の数。10体はいるぞ!」

「キミたちは行け。ここは、俺が引き受ける」

「シキ。でも――」

「思案の余地はない、襲撃犯鹵獲を最優先。大通りを真っ直ぐ突き当たりの社だ」

「わ、分かりました。二人とも、行こう! 例の科学者、技職の神・アルブが首謀者なら、助手が襲撃犯の回収に向かうはずだよ、急がないと!」

「わーたよ! 私が先陣を切る、遅れたら護ってやれないからな!」

 

 一足先に、二人が駆け出す。

 

「気をつけてね」

「急げ」

 

 一人、魔物に立ち向かう彼に背を向けて、二人の後を追う。

 技職の神・アルブが関与している可能性を否定出来ない。戦闘、不意討ちを視野に入れ、普段使いの杖を、模擬戦で使用したニルヴァーナモデルの杖に完全手動での調整を要求された従来のシステムを改修し、半自動化された新システムを搭載型の杖に持ち換える。

 先に建物に着いた二人は、壁に背を預けるように身を潜め、社内部の様子を窺っていた。

 

「あれが、お前のガードが倒した襲撃犯」

「服装は似てるけど、あの時の辻斬りじゃないみたいだね。近くに落ちてるのは、銃かな? 慎重に行こう」

「はい」

 

 社に入り、互いに背中を預けながら細心の注意を払い、糸が切れた人形の様に地面に膝を着いている襲撃犯の下へ向かう。斬られた腕からはオイルが、機能を停止した体からは幻光が漏れ出ているが、原形は現世に留めている。

 

「周りに人の気配はなさそうだけど。どうする? コイツ」

「集落の外で引き渡せれば、ベストなんだろうけどね。外は、魔物の大群......合流して、退路を作ろう」

「あの」

 

 二人の視線が向く。

 

「なに?」

「何か気になることがありましたか?」

「えっと、襲われた人たちの殆どが切り傷、刺し傷でした」

 

 一呼吸の間を置き、全員揃って臨戦態勢を取る。

 襲撃犯とは別の、刃物を持つ者が存在している......次の瞬間、それは確信に変わった。藁傘を被り、黒装束に身を包んだ人物が、社の中に入ってきた。

 

「剣、あの時の辻斬り......!」

「お前たちは下がってな。コイツの相手は、私がする」

「一度倒してるからって油断しちゃダメだよ、チュアミ」

「するかよ!」

 

 地面を蹴り、一気に間合いを詰め、躊躇無く懐に飛び込むと、振り下ろされた辻斬りの刃よりも先に強烈な一撃を腹部に叩き込み、すぐさま体勢を立て直すも。先手の一撃を受けた辻斬りはふらふらとよろめき、やがて前のめりに倒れ込んだ。

 

「......はあ?」

「もしかして、倒したの?」

 

 まさかの事態に、唖然とする二人。

 恐る恐る確認に向かう。黒装束の下は、剥き出しになったツギハギだらけの機械の体。藁傘に隠れていた顔の赤い目の光りは今にも消えそうに弱々しく揺らいでいるが、幻光は漏れ出ていない。完全な機械兵器。

 

「異界で回収されたって聞いてたけど、直ってなかったんだ」

「だからって、こんな状態で使うか? 普通」

「普通じゃないからね。自分の目的のためなら人の死を厭わない異常者――」

「ずいぶんと口が達者な小僧だ。口の聞き方を知らんようだな」

 

 聞こえた声は、背中側。大召喚士を模した石像の台座に背を預け、腕を組んで立っている初老の男性。白衣、銀縁の眼鏡。聞いていた情報通りの風貌、異界に現れた技職の神・アルブ。

 

「い、いつから......」

「実に愚かな疑問だ。答える価値すらない」

 

 世界の全てを憎むような鋭い目つきのまま、機能を停止した二体の人造の機械兵器に目を向け、不快感を表すように眉間にシワを寄せた。

 

「おい! なんで、この集落を襲った!?」

「またも愚問だな、小娘。回答してやる義理はないが、偶然とだけ言っておこう」

「偶然、偶然だって? 理由もなく、何の罪のない人たちを襲ったのかよ!」

「何をいきり立っているかは知らんが、地図にも載らん集落のひとつやふたつ消えたところで微かな影響も及ぼさん。事実、隠れエボナーの集落のことなど貴様らも認知していなかっただろう」

 

 淡々と自己主張を述べる声色からは、悪気や罪悪感は一切感じられない、恐怖を覚えるほどの冷徹さを感じる。

 深い深呼吸をして心臓の鼓動を落ちつかせ、科学者と向き合う。

 

「あなたが、技職の神・アルブですか?」

「その装い、召喚士か。災厄をもたらすシンが朽ちた世界で召喚士とは、実に滑稽なものだな。誰から聞いたかおおよその見当は付くが、まあいい。如何にも、私が神だ」

「では、ヴァルムを知っていますね」

 

 台座を離れたアルブは組んでいた腕を解いて下ろし、眉尻を上げる。

 

「......娘、その名を何処で。あの、愚か者めが。余計な入れ知恵だけでは飽き足らず、またしても勝手な真似を......」

 

 科学者アソオスの依頼は、異界で奪取された辻斬りの回収または破壊。ベストは先に挙げられた、回収。けれど今、やみくもに対峙したところで結末は火を見るよりも明らか。僅かでも可能性を高めるために行動する他ない。

 アルブが右手を挙げる。社の出入り口、二階に現れた複数の人影から一斉に銃口が向けられ、アルブもまた、懐に忍ばせていた銃を構えた。

 

「マズい! 囲まれた!」

「くっ!」

「......あなた方を迫害の対象と定めた、エボン寺院に対する復讐が目的だと聞き及んでいます。そのエボン寺院は、もうありません。それなのに、どうして無関係な人たちを巻き込むんですか?」

「知る必要はない、知ったところで意味のないことだ。獣芯が永遠の眠りについた今、存在価値のない無力な半端者。召喚士の時代は、シンの滅びと共に終焉を迎えた。そして間もなく、新しい時代を迎える。新時代には召喚士も、ガードも、エボンの残党も必要ないのだ」

 

 アルブの人差し指が引き金にかかる直前、発破音が社内に響いた。

 

「何事だ、誰が撃った? あれは――」

 

 銃を構えていた人影が、次々と倒れていく。

 

「......間に合った!」

「よし! 今だ、クルグム!」

「行こう!」

 

 混乱の隙に乗じて斬り込んだ二人をサポートするため、杖を握り直す。杖を数回振るだけで上がる息が切れない。新システムを搭載した杖は、魔法以外の使用でもポテンシャルを発揮してくれている。

「これなら、あたしも戦える」そう思った矢先、死角から狙撃を受けた。展開したプロテスでやや威力を失うも、放たれたアンチプロテス弾が障壁を突き抜けた。

 

「あ、シキ」

「キミは相変わらず無茶をする。下がっていろ」

 

 抱きかかえた腰の腕を放すと、やや身を屈め、死角から銃撃してきたアルブの配下に斬り掛かる。二射目が放たれる前に、斬り落とした襲撃犯の腕で投げつけて気を引き、間合いに入ると、瞬く間に手首を斬り落とした。斬り落とした部位からは血は流れない。

 

「義手?」

「――腕、腕......ルム? ヴァ、ルム、ヴァルム......!」

 

 アルブだけではなかった。アルベド族の天才少年シンラと似た服装の配下は、ヴァルムとただならぬ因縁を持っている。シキは迷うことなく、標的をアルブに再設定。ベベルでアソオスと対峙した時と同様、幾重にも厳重に施されたアルブの物理障壁を確実に切り裂いていく。

 

「この力は......シキ? そうか貴様は、シキ――」

「終わりだ、1000年前の亡霊」

「おのれ、そうはいかん!」

 

 地面に向かって発射。閃光弾、視界が奪われる。

 

「逃しはしない。技職の神・アルブ、お前は今、ここで斬る」

 

 不意討ちを受けた目ではなく、幻光の気配を捉え、後退するアルブを追撃を試みるも倒し損ねた敵の銃撃を受け、科学者アソオスと同じく、またしても取り逃がしてしまった。

 

「おーい、こっちだ!」

「退路は確保しました」

「行こう、シキ」

「――ああ」

 

 刀を鞘に収めた彼の後に続いて、二人が作ってくれた出口へ向かう。社の外に出ると、ベベルから派遣された調査団と守備隊が住民の救護に当たっていた。救護を手伝いながら、技職の神・アルブが口にした言葉を思い返していた。

 ――シキガミ。

 この言葉が何を意味するのか知った時には既に、世界は転換期を迎えていた。

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