FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission31 ~導き~

『間もなくビサイド島上空、飛空艇は着陸態勢に入る』

 

 機内に機長のアナウンスが流れた。シートベルトを付けて、着陸の備える。ビサイド島上空を旋回しながら徐々に高度を下げる飛空艇は、隣島のキーリカ、本土を繋ぐ連絡船が停泊する船着き場付近に着陸。愛用の杖と手荷物を持ち、船着き場と砂浜を繋ぐ桟橋を歩いて、第二の故郷ビサイド島の大地に降り立つ。依頼の手紙を受け取って数ヶ月、ビサイド島は変わらない平穏な時間が流れていた。

 

「おーい! ユウナー!」

「あ、ワッカさん」

「飛空艇が見えたから誰が来たのかと思ったら、お前たちだったんだな。連絡......は無理か。まだ使えないんだろ? 通信スフィア」

「うん。私たちは特別な通信スフィアを持ってるけど、既存の通信スフィアはハッキングのおそれがあるから」

「なんつーか、また物騒な世の中になったもんだな。シンがいなくなって、ようやく世界が落ちついてきたってのに......ハア」

 

 出しかけた言葉を飲み込み、頭を掻きながら大きなため息をひとつ吐き出したワッカは顔を上げて、飛空艇で一緒にビサイドへ来た二人へ視線を向ける。

 

「マヤナだったよな、従送儀士の。それと......」

「彼は、シキ。マヤナのガードだよ」

「ガードが付いたってことは正式に、公認送儀士になれたんだな。それで、三人揃って何しに来たんだ?」

 

 本題に入る。

 

「もう一体の祈り子かあ。なるほどなあ」

 

 村へ続く山道を歩きながら、ビサイドへ来た理由と目的の祈り子像について何か心当たりがないか訊ねるも、結果は予想通りの返答。ビサイドで生まれ育った彼もまた、既存の祈り子像以外の存在については何も心当たりはないという回答が返ってきた。

 

「ルールーも同じだ。ルーが知ってるなら、俺も知ってるからな。だけどよ、本当にあるのか? 祈り子像がもう一体」

「それが不確定情報なんだ。情報を流したのは今回の騒動の主犯格なの」

「吹かしかも知れねえってことか。とりあえずルーに顔を見せてやってくれ。顔には出さねぇけど、心配してるからよ」

「うん」

「お前たちもな」

 

 マヤナは丁寧にお辞儀を、シキも小さく会釈。

 村の入り口付近に到着するとビサイドオーラカの面々を引き連れてワッカは、本島から隣島のキーリカ島を経由した連絡船の到着時刻に合わせ、再び港へと向かった。

 二人を案内して、村長を務めるルールーの家へ。

 

「お帰りなさい」

「ただいま、ルールー」

「二人は、いらっしゃい」

 

 幼子を抱く彼女にも事情を話す。

 

「ルールーも知らないよね」

「ええ、聞いたことないわ」

「じゃあ、祈り子様に伺ってみる」

「いってらっしゃい......と言いたいんだけど」

 

 彼女の視線の先にある、村の通りには、久しぶりの帰省と面会を待ちわびていた来訪者の人集りが出来上がっていた。面会希望者との対話は半日以上を費やして日暮れどき、二人が宿を取る寺院の客間を訪ねて進行状況を伺う。

 

「寺院の祈り子様もご存じないそうです。足で行ける場所は調べましたけど、それらしいものは何も。島の幻光は特別な変化は感じませんでした」

「じゃあ後は、島の反対側だね」

「はい。それから、本部から緊急連絡がありました。詳細は判りませんけど、コンタクトには成功したみたいです」

 

 ビサイドへ飛ぶ直前、ヌージから受けた緊急要請。

 隠れエボナーの集落で回収した人造兵器を、依頼主である科学者アソオスに引き渡す際、情報を引き出す交渉材料として持ち出した。評議会議長バラライ自らが交渉の席に付き、クルグムとチュアミが護衛として同行。コンタクトに成功したことは知らされたが、通信をジャックされるの恐れがあるため、交渉の詳細は伏せられている。

 

「とにかく、みんな無事そうでよかった。私の方も一段落したから、明日は朝から調べてみよ。ところで、彼は?」

「見回りに出ています。捜索中、魔物が出たので念のため」

「そっか。じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 

 客間を出て、寺院の外へ。すっかり日が暮れた夜空には、半分近く欠けた銀色の月と、まるでミルクを流したような帯状の星々が瞬く中で一際目を引く星、ナイトベリーが光輝いている。

 久しぶりにビサイドの夜空を眺めながら歩いていると、村を出て行く人影に気がついた。観光客の可能性がある、急いで後を追った。しかし前を行く人影にはなかなか追いつけず、いつの間にか浜辺まで来ていた。月明かりが照らす砂浜で、ひとり静に佇む背中に声をかける。

 

「どうしたの?」

「......この島には、妙な感覚を覚えます」

「どういうこと?」

 

 人知れず村を出た人影――シキは、神妙な面持ちを崩さずに静に目を閉じた。

 

「解りません。ただ、漠然とした違和感を覚えただけに過ぎません。お気になさらず」

 

 ビサイドで過ごして10年以上。彼のいうような違和感を覚えたことは一度もない、だけど。

 そっと胸に手を添える。

 

「信じるよ。キミの勘」

 

 あの人が――ザナルカンドから来た彼がビサイド島に流れ着いたのもきっと偶然じゃない。あの出会いも、一緒に過ごした短くもかけがえのない時間その全てに意味があった。

 

「どうして、浜辺に?」

「幻光の流れを追って来ました」

 

 先日、彼に指摘されたことを思い出し、意識を集中させる。

 地面、草花、滝、山、島中の幻光が集まりやすい海へと向かって流れ。流れ込んだ幻光は一定の間隔で寄せては返す波の満ち引きとは異なる柔らかで優雅な動きで、揺れる波の上を舞う。

 

「ビサイドの浜辺は、こんなにも多くの幻光が舞ってるんだね。キミから教わるまで知らなかったよ。他の場所もそうなの?」

「ビサイドと、あの村だけです。安定という観点では、ベベルも」

「そうなんだ。じゃあ戻ろう、明日は朝から対岸を捜索だよ」

 

 くるっと踵を返す。聞こえる足音は、ひとつだけ。

 彼は、動かなかった。ただ静に、凜とした佇まいで、空と海に融ける幻光を、ただじっと見つめていた。

 翌朝、島の峠道。

 目の前には海岸へ抜ける山道とも、村へ降りる道とも違う道なき道。人の手がいっさい加わっていない険しい斜面と、鬱蒼とした森が広がっている。

 

「ま、島の反対側は手つかずだけどよ。本気で行くのか?」

「出直した方がいいんじゃない」

「島の対岸からは登れないんですか?」

「断崖絶壁よ。海は遠浅で岩礁地帯、起伏が多くて、沿岸まで近づけないわ」

 

 ワッカとルールーから「無茶だから止めておけ」とやんわり忠告を受けたものの、遺跡らしき建造物が山の奥の方にいくつか視認できる。危険を承知で森の中を登っていく以外ない。

 

「うーん......あ、そうだ。飛空艇ならどうかな。遺跡の上に空から下ろしてもらうの」

「それはそれで無茶な方法ね」

「大丈夫、ガガゼト遺跡で経験済みだから。二人は、平気?」

「はい。ね?」

「問題ありません」

「決まり。じゃあ、港でチュアミたちの到着を待とう」

 

 港へ向かって歩みを進める。

 

「おいおい、マジでやる気かよ。下手すりゃケガじゃ済まねえぞ」

「言っても無駄よ。それに――」

「あん?」

「ここに居た時よりずっといい顔してるわ」

「......だな」

 

 背中越しの二人の会話はどこか呆れたようで、それでいてどこか安堵したような穏やかな声色だった。

 

           *  *  *

 

「どこに降りるんですか?」

「峠道付近の遺跡郡だよ。古代の遺跡は山から突き出てるから、そこを伝って島の反対側へ向かう道を切り開くつもり」

「なるほど、それで。機長さん、峠道へ行く前に島の対岸へお願いします」

「どうするつもりだよ?」

「地図と実際の地形を照らし合わせよう思って。降りられそうな場所があれば、手分けして探した方が効率もいいしね。互いの位置関係は......」

 

 クルグムは、手荷物から通信スフィアを取り出した。

 

「これで」

「場所を決めて、日暮れ前に落ち合うんですね」

「そうです」

『了解。高度を上げて旋回する。何かを掴め、揺れるぞ』

 

 機長の指示に従いシート付近の手すりを掴む。急上昇した飛空艇は大きく旋回、手すりを掴んでいても持っていかれそうになる。沈んだ谷の湖沿いを抜けて、島の反対側へ。

 

「かなり急な斜面だ、対岸は切り立った崖が続いてる。海からは専用の装備がないと登れそうにありませんね」

「予め見ておいて正解だったな」

「あ、遺跡が見えましたよ」

「あれくらいの広さがあれば降りられそう、かな? 近づけますか?」

 

 機長に頼む。遺跡のほぼ真上に付いた飛空艇は、慎重に高度を下げる。

 

『ここが限界点だ。下から吹き上げの上昇気流が吹いてる。気をつけろ』

「ありがとうございます。詳しい話しはまた、夜に聞かせてね」

 

 ブリーフィングルームを出て、搭乗口横の緊急脱出用のドアから投げようとした縄梯子を、シキが持つ。彼の隣には、マヤナ。

 

「あたしたちも、ここで降ります」

「遺跡は複数。手分けして調べる方が効率的でしょう」

「わかった。じゃあ、先に降りるね」

 

 揺れる梯子を踏み外さないように慎重に降り、ある程度の高さから飛び降りる。後からの二人も無事、遺跡の上に降り立った。クルグムたちを乗せた小型の飛空艇は当初の予定通り、峠道付近の遺跡地帯へ向かい、マヤナたちとは二手に別れる。

 調査を開始した遺跡は幾度となくシンの攻撃を受け、塩を含んだ雨風に晒され続けた足場は脆く、壁も崩れかけ。隅々まで調べるには想像以上に難航した。

 結局、奥まで調べきる前に日暮れを迎え、予め決めた場所で四人と合流。住み慣れた島内の見知らぬ島の対岸の広場にキャンプを張り、科学者アソオスとの交渉の内容について詳しい経緯を聞く。

 

「回収した辻斬りの引き渡しと引き換えに話しを聞き出しました。話しの中で、例の辻斬りを制作したことを認めました」

「やっぱり、アソオスが作ったんだ......」

「だけど、辻斬りが引き起こした通り魔事件の関与は否定してた。未完成のまま持ち出されて迷惑だったって言ってた」

「それで、回収か破壊の依頼を持ちかけてきたんだね」

 

 死者の遺体を必要とする技職の神・アルブと、必要としない科学者アソオス。二人の間には、科学力の決定的な差が存在している。微かに、二人の関係性が見えてきた。

 

「その科学者的には、本来の目的とは違うと言うことなんでしょうか?」

「バラライ議長もその点を聞き出そうと尽力したんですが、肝心なところは悉くはぐらかされてしまって。ただ、気になることを言っていました。ソフトウェアは別にどうでもいい、と」

「ソフトウェア?」

 

 聞き慣れない言葉に、自然と首をかしげる。

 

「私たちもよく分からなくて、アルベド族の子供に聞いたんです。そうしたら――」

 

 チュアミは、剣を抜いた。

 

「剣がソフトウェアで、剣に組み込んだ新システムがハードだって」

 

 ――ソフトウェアは不要。

 辻斬り本体ではなく、積んだシステムこそが、アソオスにとっては重要なもの。

 

「あ、シキ。どうだった?」

「魔物の気配はないが、違和感を感じる」

「違和感?」

「もしかして、昨日と同じ?」

 

 集中してみる。幻光の密度は、浜辺がある島の表側よりも薄い。ただ、規則性の様なものを感じ取った。どこかへ向かって流れている。流れを追って、暗い山の中を慎重に歩く。林を抜けた先は、今では湖底になった谷付近。浜辺のすぐ近く。

 

「す、スゴい。海に向かって流れ込んだ幻光で、水面と空が光輝いてる」

「確かに。幻光河ともちょっと違うな」

「ザナルカンド遺跡がこんな感じでしたよ」

「昨日と同じだね」

 

 彼は、水面に舞う幻光を見つめたまま反応を示さない。

 やがて、空を覆っていた雲の切れ間から銀色の月が姿を現した。

 水面に舞う幻光、海に反射する幻光の光に月明かりも加わり、より幻想的な風景に変えた。いつまでも見ていられる美しい景観。でも今は、のんびりしていられない。

 

「戻ろう」

 

 後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ歩き出す。

 

「あれ?」

「チュアミ、どうしたの?」

 

 足を止めて、振り返る。チュアミは、海を見て立ち止まっていた。

 

「なあ、何か変じゃないか?」

「え? 何が」

「分かんないけど、何か変な気がするって言うか......」

 

 彼と、シキと同じようなことを言っている。詳しく問いかけると、水面を照らす半分欠けた月を指差した。特別違和感は感じない。

 しかし、とある瞬間――猛烈な違和感を覚えた。

 

「今、出せる船はありますか?」

「停泊してる小船を使わせて貰おう、こっち!」

 

 桟橋を走って、小船を固定している縄を解く。

 船の定員は三人、浜辺に残ったチュアミとクルグムに指示を仰ぎながら船を移動させる。幻光の光に遮られ視認は難しい。そこへ「そこ!」とチュアミの声。船を止め、空を見上げる。

 

「......間違いない。ここだね」

「はい」

「ええ」

 

 水面に映る右半分が欠けた月、空に浮かぶ左半分欠けた月。

 水面に映る月は、鏡の様には反射しない。何かが歪めている。

 何かに導かれるかの様に二人揃って杖を持ち、月の姿を隠す行き場を失った幻光を空へと送る。

 

「ここは、いったいどこなの......?」

 

 異界送りを終えて、閉じた目を開けると、にわかには信じがたい光景が広がっていた――。

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