FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
『......消えた? 消えた、とはいったいどういうことだ』
通信スフィアの向こう側から、バラライの戸惑いの声が聞こえる。
『代われ。クルグム、起きたことを順を追って説明しろ』
バラライに代わって通信に出たヌージに多少時間をかけ、先ほど目の前で起きた出来事をクルグムがいちから説明している間も、三人が忽然と姿を消した湾内を、手こぎボートに乗って捜索活動を続ける。小船らしき残骸は見つからない、沈んだとは思えない。
「どこに......」
「消えたんだ」考えても答えには辿り着けない。確かなことは小船に乗っていた三人が、乗っていた小船ごと姿を消したという事実だけ。
「チュアミ。一度、ビサイド村に戻ろう。ルールー村長に知らせないと」
「あ、ああ......」
異界送りの影響で、渚に集まっていた数多の幻光は空に融け、幾分見えやすくなった海面に映る月明かりは異界送り前とは違い、夜空に浮かぶ半分欠けた月と同じ形をしていた――。
「どういうことだよ? ユウナたちが消えたって――!」
ワッカとルールーも、バラライと同じリアクション。
「海上で異界送りを行っていた際、空に融ける幻光に包まれて消えてしまったんです」
「異界送りを? なんで、異界送りをしたの? 魔物が出たの?」
「魔物じゃなくて。海に反射してた月の形がおかしくて、それを調べようとして......でいいんだよな?」
「うん。僕たち送儀士、召喚士は、幻光を敏感に捉えます」
「反射した月の形がおかしいというのは?」
動揺が走る中ところどころ横道に逸れたり、辿々しくなりながらも、可能な限りありにままを、視たままを伝えた。ワッカは眉間にシワを寄せ、ルールーは冷静に受け止めている。
「確かに、妙な話ね。心当たりある?」
「いや。夜にトレーニングすることはあったけど、そんなこと頭過ったこと一度もなかったぜ。ま、あったとしても余裕がなかっただろうけどな」
「それもそうね。濃度の高い幻光の集合体が幻を映した可能性が高いわ」
「そうか、シンの毒気か!」
様々な人の思念を持った高濃度の幻光虫で形成されたシンに近づき過ぎると、幻光虫が持つ莫大な数の情報量に一時的に脳の処理に支障をきたす事を、“シンの毒気”にあてられたと表現される。
「幻光と一緒に漂う人の想いが、幻を見せた。ですがそれと、ユウナ様たちが消えてしまったことに関連があるのでしょうか?」
「......もう、三年近く前になるわ。居たのよ、シンとの戦いの後突然姿を消した人がね」
ルールーの言葉を聞いたワッカは息を吐き出し、ござから立ち上がって、木箱に腰を下ろした。
「そいつは最初、突拍子のないことばっか言ってた。シンの毒気にやられた中でも、とびきり重症だって思った。なんせ、自分は『ザナルカンドから来た』なーんてことを平然と言ってたからな」
「ザナルカンドからって――」
「ザナルカンド遺跡からということですか?」
「いーや、古の機械仕掛けの都市ザナルカンドだ。しかも、ブリッツボールのチームでエースだったって豪語してたぞ」
突拍子のない話しに、クルグムと顔を見合わせる。
「もちろん最初は信じなかった。シンの毒気にやられただけだってね。だけど、一緒に旅をしている間にまんざら違うとは言いきれないんじゃないかって考えるようになった。毒気にやられて記憶が混乱してるんじゃなくて『本当に何も知らない』そんな感じだったから」
「実際オレたちも、シンに接触して、マカラーニャ寺院からビーカネルに飛ばされた経験があるからなおのことな」
長い間スピラの人々から不当な迫害を受けていたアルベド族のホームが存在していた、スピラ本土を遠く離れた砂漠の島ビーカネル。
「よし、探すぞ。相手はシンじゃない、そんな遠くには行ってないはずだ」
「今から、ですか?」
「朝一に応援を寄越すって連絡あったけど」
「それじゃ遅い」
「幻光の扱いに長けた召喚士といっても、長時間の接触は最悪命に関わるわ」
「つーことだ。行くぞ」
ワッカの後に続いて家を出て、三人の捜索活動を再開した。
* * *
「ここは?」
視界に映るのは、透き通る様な綺麗な海。視線を空へ向ける。夜だったはずの空は明るく、流れる白い雲と共に青空が広がっていた。
「夢?」
「いえ、違います」
シキの声。
顔を向ける。彼の隣には、マヤナの姿もあった。
「人が観ている夢であるのなら、意思の疎通は不可能です。これはおそらく、幻光による現象と断定していいでしょう」
「幻光の。エボン=ドーム内みたいな感じなのかな? だけど......」
濃密な幻光が人の記憶、残滓を記録し投影するエボン=ドームとは異なり、視界に広がる景色からは妙なリアルさを感じていた。仮にそうであるなら、別の可能性を話す。
「どこか別の場所に飛ばされた。キミの移動法と同じだよね」
「どうでしょう」
そう言った彼は辺りを見回すと、やや眉をひそめた。
「幻光移動は移動先の座標を認知して初めて成立します。もし仮に同一の方法ならば――」
「ビサイドに、シキと同じ能力を持つ人がいた?」
「うーん、それはないと思う。ビサイドには私以外の召喚士はいないから。面会者の中に居れば気がつくと思う」
停滞していた小船が潮に流され始めた。ひとまず話し合いを中断し、二人で炎と氷の魔法を使って風を起こし、目視出来た島の浜辺を目指して航路を取る。
「どこなんだろう? ここ......」
無事、珊瑚礁が彩る浅瀬に到達。小船を降りて、さらさらした砂浜に降り立つ。自然豊かな島、海風、潮の香り、それらはどこかビサイド島を想わせる空気を漂わせていた。
「どうだ?」
「ダメみたい。ユウナさん、本部と連絡取れませんか? あたしのスフィア繋がらなくて」
「試してみるね」
通信スフィアに向かって呼び掛けるも、酷いノイズが返ってくるだけで機能を果たさない。
「私の方も繋がらない」
「そうですか。シキ」
「探索。この島には文明の痕跡が多い」
彼の言う通り、ビサイドに似た雰囲気のこの島には、無人島とは到底思えないような建造物が複数点在している。砂浜の近くにも、ベベルの都市に似たデザインの建物もある。
復興が始まったスピラの街よりも発展した建造物に気をかけながら、島の奥へと足を進める。林道の中ふと、先頭を歩く彼の足が止まった。周囲を警戒する彼の反対側へ気を配る。木々のさざめき中、それは起きた。
林の中から、マヤナを目がけて球体らしき物体が飛んできた。それをいち早く察知したシキは、左腕で抱きかかえた彼女を自身の背に隠し、腰の刀を抜く。一連の動作から一呼吸置いて、真っ二つに切り裂かれた球体が爆発。白と青色の破片が地面に散らばった。
「ブリッツボール型の爆弾!? まさか、アルブの根城......!」
「追います」
彼がそう言いかけた時、歩いていた林道の先から人影が現れた。それは、技職の神・アルブ、科学者アソオスとも、配下ベドールとも違う、目を奪われてしまいそうな美しい女性。歩いてきた彼女は立ち止まると、小さく微笑む。
「こんばんは」
挨拶に違和感を覚えたけれど、それは些細なことで。ついさっきまで明るかった周囲は突然暗転し、日が暮れた空にはいくつかの星が光り輝き出した。それはここが、現実でも、異界でもない別の場所であることを嫌でも認識させる。
屈託のない柔らかな微笑みを絶やさない女性にどう応対すればいいか考えていると、マヤナがすっと前に出た。
「こんばんは。お訊きしたいのですが、この島はスピラどの辺りですか? あたしたち、乗っていた船が流されて気がついたらここに」
「そうでしたか。ご無事でなによりです。ここは、ベベルから遠く離れた南方の名も無き島。この先に、広場があります。こちらへ」
不安を抱きながらも促されるまま、女性の案内で、月明かりが照らす林道を歩く。
「警戒は厳に。何もかもが異様です」
「うん、そうだね。ところで、対応早かったね」
シキの言葉に頷き、マヤナに話を振る。
「ずっと旅してましたから」
「そっか。慣れてるんだね、こういうこと」
夜空へと視線を移す。
旅人の道しるべとなる星――ナイトベリーが、視線の先で一際明るく瞬いている。少なくとも、ここがスピラであることは間違い。前を歩く女性も夜空を仰ぐ。
「今夜は、月も星も綺麗ですね。メノウがあんなにも輝いて」
「メノウ......ですか?」
「ご存じ在りませんか? あの星です」
女性が指を差したのは、夜空に一際輝くナイトベリー。
「あなた方はそう呼んでいるのですね。ふふっ、不思議。同じ星の下に生まれたのに。きっと1000年の月日が流れも誰かがこうして同じように、あの美しい星に想いを馳せることでしょう。たとえ、呼び方が変わっても――」
一瞬、愁いを帯びた儚くも美しい表情を見せた女性だったけれど、何ごともなかったように微笑むと、止まっていた再び動かす。十分程で開けた場所に出た。樹の根元に荷物をまとめ、女性に訊ねる。
「島民はいないんですか?」
「ええ。先日の空襲のおり、島の外へ避難しました」
「空襲?」
「ご覧の通りです」
「えっ?」
木々が繁っている林の奥には、崩れ落ちた建物の残骸がいくつもの点在し、周囲には焼け落ちた木々、焦げた臭いが鼻に付く。道中に調べた建物は多少風化した感じではあったが、ここまで無惨に朽ち果ててはいなかった。
「あれ? ユウナさん、うしろ......!」
「う、嘘......そんな」
振り向くと、今の今まで歩いてきた道が、瓦礫と倒木で塞がれていた。
「ここは比較的被害規模が小さかった場所です。痛ましいことこの上ありません、戦争は――」
「お疲れでしょう。お休みください」と言った女性は、林の奥の焼け落ちた建物の方へと歩いていった。
集めた枯れ枝で起こした焚き火を囲って話し合う。
「ここは、どこなんだろう。それに、戦争なんて。確かに、混乱はあったけど」
「過去の出来事でしょう。クシュと名乗った女性が死人なら辻褄が合います」
腰の刀を差し直したシキは、寄りかかっていた木を離れる。
「どこ行くの?」
「彼女に真意を問います。死人だとしても説明がつかないことが多々ある」
「待って。私も行くよ」
判らないこと、知らないこと、まだまだたくさんある。
彼の推察通り、クシュが1000年前の機械戦争のことを話していたのなら近づけるのかもしれない。機械戦争以前に造られたベベルの祈り子の手掛かり、そして、同じ時代を生きた技職の神・アルブとの関連も。
火の始末をし、彼女が向かった建物へ。暗く荒れた室内、クシュの名を呼んでも返答はなかった。
二階へ続く階段を上り、比較的被害のない留め具が壊れた扉を開けた先に居たのは、独特な雰囲気を醸す年配の男性。
その男性は、突然の訪問にも特段反応することもなく、腰を下ろしたまま平然と話し出した。
「判っている。知りたいことは、クシュが何者であるか。そして、技職の神・アルブのことだろう」
「あなたは――」
「失礼。私は、イファーナル。キミたちと同じ召喚士だ、と言っても察している通り......」
男性の身体から幻光が漏れ出た。死人――。
「私には、叶えなければならない託された願いが残っている。だが、私はその願いを果たすことは叶わない。獣芯、アルブについて知っていることは全て教える。私の代わりに果たしてはいただけないだろうか?」
二人へ目を向ける。シキは表情を変えず、マヤナは小さく頷いた。
「わかりました。私たちに出来ることでしたら」
安堵したように小さく息を吐いたイファーナルは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、いたたまれないほどの悲痛な表情で告げられた願いは――彼女を、クシュを殺して欲しい。