FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
広場へ戻り、焚き火を囲む。火の中の枯れ枝は時折パキッと弾ける音を鳴らし、オレンジ色の柔らかな炎が揺らめき、月明かりと共に辺りを照らしている。
「クシュを殺して欲しい......か」
正確には、依頼主のイファーナルが召喚している祈り子像を壊して欲しい。彼女もまた、そうなることを望んでいる。そう言葉にしたイファーナルの表情はどこか諦め混じりでありながらも、いたたまれないほどの悲痛な表情だった。
「どうしましょう?」
「そうだね」
体育座りをしたのまま、夜空を仰ぐ。ビサイドから見る夜空とよく似た満天の星空の中、ナイトベリーが一際明るく瞬いている。
「彼女......クシュは、あの星を『メノウ』と、古代ベベルの名称で表しました。老人の願いは抜きにしても、彼女は探していた機械戦争以前の記憶を持ったベベルの祈り子。そして、終戦後も召喚され続けていた。接触する価値は充分あると思われます」
「うん。訊いてみよう、クシュの話。同じ時代を生きていたなら、アルブのことも何か知ってるかもしれない」
「はい」
火の始末をして、イファーナルを訪ねる。退室した時と同様、建物の一室で座っていた彼は、静に顔を上げた。
「どうやら、決断してくれたようだね」
「はい。あなたの望み通り、クシュの祈り子像を壊します。教えてください。クシュのこと、あなたのこと、技職の神アルブのことを」
イファーナルは小さく頷く。
「ああ、どうにせよ少々時間がかかる。私の知っていることを話そう。クシュを祈り子としたのは、この私だ」
「ベベルにも、祈り子を造れる技術があったんですか?」
「ある程度の力を持つ召喚士ならば可能だ。言葉で説明するのはいささか面倒だな」
突然、頭の中にイメージが浮かんだ。思わず顔を背けてしまう。頬が、身体が熱を帯び、鼓動が少し激しくなっている。
「ああー、すまない。私が知っている一番簡潔な方法がそれなんだ。手段はどうあれ、なり手と使い手が同じ精神状態であればいいと理解すればいい。今見せた方法では、ザナルカンドの住民すべてを祈り子とするのは到底不可能なことだろう」
見せられたイメージは、男女の営みのような映像。
確かにそれでは、数万、十数万の民を一度に祈り子とするのは不可能な方法。ザナルカンドの指導者エボンと、その娘ユウナレスカは、イファーナルのイメージとは別の方法を用いて祈り子を造り出した。
「まあ、それは然したることではない。これから話す経緯に必要な知識だとでも思ってくれ。私がクシュを祈り子にしたのは、機械戦争末期のこと。ザナルカンド軍は、スピラの僻地にまで侵攻していた。狙いは、ベベルの招喚士。複数の召喚士が身を隠していた島は、当然のことながら攻撃目標になった」
スピラ辺境に位置する名もなき島は、ザナルカンド軍の飛空艇からの空爆、戦力が続々と送り込まれた。しかし、ベベルにとって召喚士は貴重な存在。島の中心に位置するこの建物を拠点に防衛線を築き、瞬く間に激戦地へ。劣勢の様相を打開すべくベベルが開発していた新兵器の完成間際それは起きた。
「アルブの反逆。ベベルが研究・開発していた偽装ベドールが実戦導入され、召喚士が身を隠してた施設を襲撃した。偽装ベドールはベドールと区別が付かない様にベドールと同じ体格、全身を防護服で覆い隠した人工的に造られた人型機械兵器。キミたちを襲ったブリッツボール型爆弾も、アルブが考案した兵器だ」
「この島、アルブの残党もいるんですか?」
「いいや、ここには私とクシュ以外は存在しない。あれは、一時的に防衛策に使っていただけのこと。ここは今、とある事情で存在そのものが不安定な状態が続いている。勘づいているとは想うが、この島は現実ではない」
イファーナルが、1000年以上招喚し続けている島。
戦時中のビサイドがモデルのこの島は、ビサイド近海に融ける無数の幻光を利用して召喚された島。島は巧妙に隠され、本来なら部外者が足を踏み入れることはないはず......だったのだが。
「幻光が急激に安定し、この島の維持どころか、私自身が異界へ送られかけた」
「異界へ? それって――」
自虐的に小さく笑ったイファーナルは、マヤナを見る。
「その扉を開けてみたまへ」
「あ、はい」
マヤナは、入り口とは別の扉を開ける。扉の向こう側は、何もない空白が広がっていた。
「半ば未練を諦めかけていたとはいえ。大した召喚士だよ、キミは。さすがは――いや。あの異界送りで、島の約1/4を持っていかれてしまった。時間や天候にも影響が及んだまま修繕しきれていない状態だ」
「えっと......」
何かを言いよどんだが、それ以上に自身の異界送りが島を、イファーナルの存在にまで影響を与えていたことに戸惑うマヤナを後目に、彼は話を続ける。
「そういった事情で時折、現実世界と召喚世界を隔てるバランスが崩れてしまうことがある」
「私たちは偶然、バランスが崩れて出来た境界線の裂け目を通ってこの島に来た」
「しかし、訪れた者がキミたちでよかった。お陰で短期間の間に再び相見えることが出来る、あの男......秩序の神・ヴァルムと」
「ヴァルム!?」
アルブ配下、片手がないベドールが口にした言葉。技職の神アルブと同じ神の冠名を与えられた、いにしえのベベルの民。
「ヴァルムとアルブの関係は、ヴァルム本人に訊きなさい。私は所詮部外者にすぎない」
「ヴァルムは今、どこに居るんですか?」
「ビサイド付近、ヤツはベベルに身を置いている。今も、昔も。今度こそ決着をつける、そのためにもクシュを――永遠の夢を終わらせてくれ」
クシュの祈り子像の場所とヴァルムの特徴を聞き、建物を出る。外はもう朝で、柔らかな日差しが辺りを照らしていた。建物の外にも、広場にも、クシュの姿は見当たらない。今この場所で話すことは諦め、島に上陸した際に船を付けた砂浜へ向かう。
「ヴァルムは秩序の神の総称で本名は、ブライア」
先日シキと一緒に閲覧した、ベベルの関係者名簿に載っていた名と同名。外見の特徴は実際ブライアと話したことのある、二人の記憶とほぼ一致していた。
ベベルの兵士として機械戦争で奮闘したブライアは今も、昔も、ベベルに身を置く男性。
「アルブとヴァルム、イファーナルとブライアの因縁......」
「エボナーの集落で遭ったベドールも、ヴァルムと何かあったみたいでした」
「何があったんだろう。1000年前、この島で――」
立ち止まり、振り返る。ビサイドによく似た島。
ここで四人の間に何が起きたのか、それを知ることが出来れば何かが変わる、何故かそんな漠然としたことが頭を過った。
「境界線です。しっかり掴まっていてください」
「うん、戻ろう。私たちの世界に――」
「はい」
イファーナルから聞いていた通り、入り江に出来た裂け目を潜り抜けた。
* * *
「本当にここに居るんだよな? あの科学者」
「たぶんねぇ。あれから移動してなければだけど」
ユウナたちが姿を消したと報告を受け、手掛かりひとつ見つからないことに緊急を要す事態と判断したスピラ評議会議長のバラライは、本部とベベルの警備の任にあたっているパインとリュックに特命を送った。
特命は、科学者アソオスとの接触、協力要請。
当然のことながら渋った二人だったが、通信スフィアが繋がらない今、何も手掛かりが掴めない以上藁にもすがる思いで了承。エボナーの集落で回収した人造兵器を引き渡したキノコ岩街道の崖下、封印された洞窟へと向かった。
「てかさ、どうやって行く?」
「強行突破以外にあるか?」
扉前の広場には、複数の人影。
その人影は、銃火器を使って扉を破壊しようと試みているが、固く閉ざされた扉はびくともしない。
「アルブの手下......ていうか、あれって遺体兵器だよね?」
「おそらく、な。手をこまねいてて仕方ない。あれはわたしが引き受ける。扉は任せる」
「りょーかい。んじゃあ、行くよ。ワン、ツー、スリー!」
合図で飛び出す。ゴーグルを掛け、閃光弾を投げる。
人影の中で破裂した閃光弾の影響で、辺りが眩しく照らされた隙に乗してパインが切り込む。
「どれくらいかかる!?」
「わかんない! これで開けばいいんだけどっ!」
先日の取引前、扉の解除に必要なスフィアのデータを移植ダミースフィアを、スフィアを収める窪みに設置していく。そして、最後の一個を嵌め込んだ。
「どうだ!?」
「うーん、やっぱダメっぽい!」
「くっ! とりあえず始末するぞ」
「了解!」
連携攻撃で一体一体確実に機能を停止させ、最後の一体の胸部をパインの剣が貫き、現場を制圧。座り込んだリュックはため息をつき、パインはいたたまれない表情で眉間にしわを寄せる。生者ではないとはいえども、生身の人間を斬ることは戦闘慣れした二人にはまだ葛藤が伴う。
そんな二人の心労を余所に、固く閉ざされた扉が内側から開いた。洞窟から姿を現したのは、接触を図ろうとしてた科学者その人。
「騒がしいと思えば、キミたちか」
「ふぅ......まさか、自分から出てくるとはな。お陰で手間が省けた」
「ちょっと、どうせわざとでしょ!」
「さて、なんのことやら」
二人にアルブが差し向けた刺客を始末させたことを惚けた様子で流し、壁に寄りかかったアソオスは腕を組む。
「それで、僕に何か用かな?」
「ユウナが消えた、ビサイドで」
「へぇ、それで?」
軽い受け答えに対し、斬り掛かろうとするのを堪えながら用件を伝える。
「探してる、通信スフィアが通じない」
「三人が居なくなった時、海岸で大量の幻光が溢れてたって話。んで、幻光を操れるチイなら何か知ってるんじゃないかと思ったわけ。ユウナたちがビサイドへ行くの、チイが仕向けたんでしょ。これ、バラライから正式な協力依頼の書状」
「議長閣下直々にねぇ」
受け取った封筒を指先で遊ばせる。読む気は一切感じなかったが、予想外の返事が返ってきた。
「ま、暇つぶしにはなるかな。大召喚士様のお供は、議長閣下殿に随伴した二人?」
「違う。別の召喚士とガードだ。お前も知ってるだろ」
「なら、ボクが出る必要はないね。その内出てくるでしょ」
「どういう意味だ?」
「知識は強力な武器。何でも簡単に答えを得ようするのは愚かなことだね」
「だったら吐かせる。力も強力な武器だろ?」
構えた剣の切っ先を向けたパインを、通信スフィアを持ったリュックが止めに入った。
「ちょっと待って! うん、わかった。了解、すぐに行く。ユウナんたち、見つかったって」
「ホントか?」
「全員無事だって。スピラの祈り子の在処もわかったってさ。それから、ヴァルムの意味も。アルブと同じベベルの神だって」
「ベベルの神、ヴァルムは人の名前だったのか。スピラに留まる死人か」
「ふむ」
二人のやり取りを聞いたアソオスは考え込む素振りを見せ、やや落としていた視線を上げる。
「そっちの破廉恥な格好の人」
「誰か破廉恥さ!」
「返事したから、リュックだな」
「あー! ズルい!」
「で、何だ? お前の言った通り、ユウナたちは自力でビサイドへ戻ってきた。わたしたちの用件は済んだ」
「どうでもいいよ、それは。わかっていたことだからね。ボクが訊きたいのは、あの人、アルブは“呪縛”を解いていたかな?」
質問に答えられないでいると、アソオスはひとり納得した様子で腕を組んだ。
「囚われたままか。仕方ない、邪魔されると面倒だし。至急、大召喚士様に取り次いで。一緒に行動してる女の子の召喚士を、ビサイドの獣芯と会わせないように」
「マヤナのこと? どうゆーこと?」
「お前の企みに手を貸すつもりはない。それが、人造兵器の引き渡し条件のハズだ」
「ボクとしても面倒だけど、結果的に困るのはキミたちも同じだよ。あの人――技職の神アルブは、秩序の神ヴァルムを討つつもりだね。ビサイドは、戦場になるよ」
「ふえっ!? じょ、冗談だよね......?」
「ここに転がってる、キミたちが倒した遺体の性能向上してたでしょ。奪取された人形のデータを元に改修されたんだろうね。おそらく、量産化も進んでる」
苦労して倒した兵器の量産化。それらをつぎ込んでの総力戦。被害の規模は計り知れない。
「ど、どうしよう? ねぇ、パイン」
「......仮に事実だとしても、マヤナと祈り子を会わせないようにする理由にはならない」
「そうも言っていられないんだよね、これが。秘密を守れるのなら話そう。洩れたら関係者はすべて始末する」
「リュック、録音止めて」
毎度の軽口ではないと断定したパインは、懐に忍ばせていた小型スフィアカメラを地面落とし、踏み潰した。
「ハァ、りょーかい」
ギップルと繋がったままの通信スフィアを止め、パインが壊した物と同型のスフィアを地面に叩きつけた。
「満足か?」
「デタラメだったら請求するからね!」
「オーケイ。では話そう。あの子は、ただの召喚士じゃない。無論、送儀士でもない。まだ覚醒してはいないようだけど、彼女は――」
アソオスの口から語られた真実。
マヤナは、星を継ぐ者の末裔――星詠みの巫女。