FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~   作:ナナシの新人

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Mission34 ~終焉~

 召喚世界との境界線を通って、元の現世へ帰って来た。

 空は明るく、青空の中に白い雲が流れている。

 

「戻ってこれた?」

「そう、みたいですね」

「急ぎましょう。ベベルの捜索隊が到着する前に」

「うん、そうだね。どの辺りだろう?」

 

 周囲を見回す。イファーナルが創り出した世界から戻ってきた場所は、迷い込んだ入り江を少し外れたビサイド沖の海。行きと同じ要領で生み出した風を推進力にして航行。ビサイドに近づくと、通信スフィアが微弱な電波を拾った。

 

「クルグム、聞こえる?」

『ユウナ様! よかった、無事だったんですね。マヤナさんたちは?』

「二人も一緒、大丈夫だよ。今、ビサイドの港へ向かってるところ。スピラの祈り子様が何処にあるかわかったから、ヌージさんたちにも伝えてもらえるかな?」

『本当ですか!? わかりました、すぐに連絡します』

「ありがとう。それと、ベベルの応援は今どの辺りまで来てるかわかる?」

『え? あ、はい。今朝、本部に連絡を入れたので、速くてもルカ辺りかと思います。どうして、そのことを?』

「いろいろあって。ビサイドに着いてから話すよ。また後で」

 

 クルグムとの通信を終えて、再び魔法の集中。比較的穏やかな潮の海を20分ほど航行し、複数の人影が待つビサイド港の桟橋に無事船を着ける。手を貸してくれたワッカに礼を言って、小船から桟橋に降り立つ。

 

「ありがと」

「ったく、探したぞ」

「ごめんなさーい」

「ま、全員無事で何よりだ。幻光って言ってたし、マカラーニャの時みたいにどっかに飛ばされたんだろ?」

「そんな感じ」

 

 ベベルからの応援は、まだ到着していない。空と海に注意を払っていると、クルグムが前に出た。

 

「ユウナ様、バラライ議長から伝言です。至急連絡が欲しいとのことです」

「バラライさん? 何の用?」

「わかりません。ただ、緊急を要することだとだけ」

「そっか」

 

 通信スフィアを取り出し、本部へ回線を繋ぐ。すぐさま応答があった。

 

『ご無事で何よりです、ユウナさん。二人も』

「何かあったんですか?」

『技職の神・アルブが動きました。ビサイドへ向かっているという情報です』

「アルブがビサイドに! どうして!?」

『秩序の神・ヴァルムを討つため......それが、科学者アソオスからもたらされた情報です。真偽は定かではありません、ですが万一に備え、パインとリュックさんがビサイドへ向かっています。到着はおそらく、捜索隊よりやや遅れるものと思われます』

 

 捜索隊の一員として参加している、秩序の神・ヴァルムことブライアの到着よりも後。本来なら今すぐ祈り子のクシュの下へ向かいたいところだが、アルブが近くに潜んでいる可能性がある以上迂闊には動けない。

 

「シキ」

「ああ」

「ユウナさん、アルブはあたしたちで食い止めます。行ってください」

「今度こそ捕まえてやる!」

「そうだね、武器の扱いもだいぶ慣れたし。僕も足手まといにはならない」

「みんな......ありがとう」

「おいおい、何のことなんだよ? いったい何が起きてるってんだよ!」

 

 状況を飲み込めず、若干取り乱すワッカ。説明している時間も惜しいが、ワッカを始めとしたビサイド駐在の守備隊の力も必要になることも十分考えられる。ビサイドの峠へ続く道を彼と二人で急ぎ足で歩きながら、今まで起こったことを掻い摘まんで伝える。

 

「なんだよ、そりゃ......1000年も境遇を怨み続けてたってのか? その、技職の神ってヤツは。どんだけしつこいんだよ」

「もう一人の科学者は、アルブは生にしがみつくことが目的になってるって言ってた」

「復讐は理由付けって訳か」

 

 それでも、アルブは動いた。

 

「ワッカさん、村のみんなをお願い。わたし、行かなきゃ」

「おう、寺院に避難させる。いざって時は、リュックの飛空艇で脱出するさ。気をつけろよ、ユウナ」

「ワッカさんも」

 

 ワッカと峠で別れ、浜辺へ顔を向ける。

 アルブを迎え撃つ準備をしている四人が居る浜辺のその先、沖合にはまだ何も見えない。これから争いが始まる雰囲気などいっさい感じないほど、海は穏やかに揺れている。

 

『......ユ......ナ......ユウナ!』

「あ、リュック!?」

 

 リュックの声が聞こえた通信スフィアに向かって話かける。

 

「パインも一緒だよねっ? 今、どの辺りにいるのっ?」

『ルカだ』

「ルカ!?」

 

 バラライからの連絡を受けて30分弱、キノコ岩街道の谷底からフルスロットルで飛ばしてももっと時間を要するはず。でも、このペースなら捜索隊と同時ないし早く着く可能性も十分ありえる。

 

『詳しい話は後だ。ビサイドの祈り子を見つけたんだろ?』

「うん、今、会いに行くところ」

『そうか。ユウナ、よく聞いてくれ。アルブの狙いは、秩序の神ヴァルム。ヴァルムは今、別の名前でベベルの捜索隊に加わってる。アルブが決戦の場をビサイドに選んだのは......おい!』

『大召喚士様、ご機嫌麗しゅう』

「その声――アソオス!?」

 

 まさかの声に驚きと戸惑いが隠せない。

 

「ど、どうして、キミが......!」

『ただの暇つぶし。ま、ボクとしても面倒事はご免だからね。あの人が、どこに潜んでるか知りたいんでしょ?』

「......知ってるんだ。どこ?」

 

 小さな笑い声が返ってきた。

 

『さあ? どこだろうね』

『ちょっと! あの事言っちゃうよ!』

「あの事?」

 

 リュックの言葉を受けて、彼の笑い声が治まった。

 

『ふむ。じゃあ、ヒントをあげよう。機械の動力は必要なものは?』

「機械の動力......幻光!」

 

 普段以上に意識的に幻光を探る、無作為に飛散して舞う幻光が留まり極力安定している場所。多くの幻光が融ける空は分散していて一個所には留まらない。幻光を留める術――水。はっとして気づく。

 

「――海!」

『返せ! ユウナ! アルブは、捜索隊に同行している秩序の神ってヤツを狙ってる! 機械兵器を使う瞬間必ず姿を見せるハズだ!』

「みんなに伝える! 私は、祈り子様に会いに行くから!」

『スピラの祈り子のところだな。わたしたちは、ビサイド村の防衛に回る』

「みんなをお願い!」

 

 通信を終え、砂浜に居る四人へ回線を繋ぎ、特に沖合いを注意するよう伝えてから。幻光に導かれるまま、道もない山の中へ入っていく。

 どれくらい歩いただろうか、木漏れ日が照らす広場で視線を上げる。イファーナルが創り出した世界の建物に似たデザインの遺跡が建っていた。彼の祈り子になったクシュが眠る古代遺跡。

 

「――着いた」

 

 入り口を覆う草木を掻き分け、遺跡に入る。一歩を踏み出すたびの足下で土埃が舞うほど風化して脆くなった階段を慎重に昇り、開きかけのドアに手を伸ばす。キィ......と錆び付いた金属音、埃に混じって微かに香る潮の匂い。そして、日が差し込む窓辺の日陰の椅子に座る女性の後ろ姿。

 彼女がクシュであることは直感的に判った。

 両手で杖を持ち直して、静かに心を静め、真摯に呼び掛ける。

 

『お待ちしていました』

 

 透き通るような声を聞き、ゆっくり目を開ける。

 目を奪われてしまいそうな程の美しい半透明姿の女性が、椅子に座る女性を背に立っていた。あの島で出会ったクシュと姿は瓜二つ、でも、雰囲気はまるで別人。

 

「あなたが、クシュ」

 

 問いかけに彼女は小さく頷き、そして語り出した。

 

『......あの人を守りたかった。きっと、彼も――』

 

 終わりの見えない戦争。

 召喚士が保護されていた島に迫り来る危機、一刻の猶予もない中彼女は想い人を守るため、イファーナルの協力で祈り子になることを自ら選んだ。しかし、儀式の場を見てしまった彼女の想い人ブライアは、真相を知らないまま命を落とした。

 想い人に裏切られたと思い込んだまま命を落としたブライアが魔物になってしまう前に、彼女が取った行動は――。

 

「ブライアを、召喚......」

『私のワガママで現世に縛り付けているだけ、彼の心がバラバラにならないように。でも、もう終わりにしてあげたい。どうか、あの人を自由に――』

 

 悲痛な表情を浮かべ、一歩横に移動。

 誰よりも大切だから、何よりも大切だから、彼女は自分で終わらせられない。

 祈り子像に近づこうとした次の瞬間、建物が揺れた。

 

「な、なに?」

『これは――』

「クシュ」

 

 揺れが鎮まったのとほぼ同時に、イファーナルが姿を現した。

 

「ヤツは間もなく、ビサイドへやって来る。アルブが動くぞ」

『そう。ブライアとアルブが』

「これが最後だ。僕は、ヤツと決着をつける。大召喚士ユウナ、あなたはアルブを引き止めて欲しい」

「でも――」

『お願いします。わたしも、あなたと共に......』

 

 クシュと、身体が重なる。

 彼女の想いが、記憶が、ドレスフィアを通して感じた時と同じように心の中で溢れた。

 

「そんな、こんなことって――」

「急ごう。猶予はあまり残されていない」

 

 遺跡を出て、来た道を走って戻る。生い茂る木々の隙間から、浜辺が見えた。入り江には中型の飛空艇が停泊し、何機かの小船が港へ向かっている。時折響く、乾いた発破音。音の出所は、甲板の上の人影が構える銃火器。

 そして、沖合には飛空艇がもう1機。

 

「ベベルの飛空艇! みんなは......!?」

「私は先に行く。もしも時は、クシュを喚びなさい。彼女は必ず力になってくれる」

「は、はい!」

 

 微かに幻光の気配を残し、イファーナルは消え去った。

 足を止め、杖を構える。

 

「お願い......もう一度あなたの力を貸して――ヴァルファーレ!」

 

 呼び掛けに応えてくれた。ビサイド寺院でまる一日祈り捧げて心を通わせた初めての召喚獣。鋭いくちばしと、美しい大きな翼を持つヴァルファーレの背中に乗り、森を抜けて、空から浜辺へ向かって斜面ギリギリを滑空。

 沖合に見えていた飛空艇の影が、二つになっていた。後から来た飛空艇は前を航行する飛空艇を抜き去り、もの凄い速さでビサイド島へ向かってくる。

 

「リュックたちだ! 浜辺は――?」

 

 既に戦闘が始まっていた。

 銃火器を装備した上陸部隊が港へ送り込まれているが、シキを先頭にビサイド駐在の守備隊も防衛に加わり迎撃、村へ続く山道には近寄らせない。今はまだ大丈夫と判断して、飛空艇へ進路を変える。スピードを落とした飛空艇と並走、ビサイド村の寺院裏へ誘導して着陸。

 

「ありがとう」

 

 感謝の言葉を伝え、胸を離れる。ヴァルファーレは、遥か上空へ飛び去った。そうしている間に、リュックとパインが合流。

 

「アソオスは?」

「興味ないから後は勝手にやれって、ムカつき~!」

「それより、祈り子は?」

「会ったよ。ちゃんと話せた。今は、ここ」

 

 左手を胸に添える。

 

「召喚獣になったってこと?」

「うーん、そんな感じかな? 捜索隊と連絡取れる?」

「飛空艇同士の無線でなら出来るよ」

 

 飛空艇に乗り込み、ブリッジへ向かう途中、飛空艇が突然動き出した。

 

「わわっ!?」

「アイツ!」

「急ごう!」

 

 ブリッジに入ると、そこに彼が居た。科学者アソオス。

 

「これはこれは、大召喚士ユウナ様。ご機嫌麗しゅう」

「それ止めて」

「ちょっとアンタ! 勝手に動かしてどういうつもりさ!」

「少しくらいいいでしょ、協力してあげたんだから」

「むむむ~っ!」

「協力?」

「コイツが飛空艇の動力が改良したんだ。で、何をするつもりだ?」

 

 パインは、剣の切っ先をアスオスに向ける。

 

「ただの調べ物だよ」

「どうでもいいからどいてよ、向こうの飛空艇と連絡取るんだから」

「ああー、それは一歩遅かったね」

「そんな......!」

 

  モニターに映る海岸の様子を見る。

 捜索隊の飛空艇は沖合に着水し、入り江に停泊中のアルブの別働隊と交戦中。しかし、イファーナルとアルブの姿は見当たらない。

 

「ヴァルムは、どこ!?」

「ここ」

 

 映像が切り替わる。髭を蓄えた男性とイファーナルと思わしき人物が、港の桟橋で対峙してた。画面越しに緊迫感が伝わる。イファーナルの口元が動き、次の瞬間――戦闘が始まった。

 

「速い......!」

「カメラ追いつかないじゃん!」

「行くなら急いだ方がいいよ。あの人が狙ってる」

「アルブが!」

 

 再び映像が切り替わる。沖合に停泊している捜索隊の飛空艇の更に後方に、大型の機械兵器が映し出された。

 

「ふむ。あの砲身の形状は、リニアキャノンか」

「どんな兵器なのっ?」

「ん? ヴェグナガンほどじゃないけど。ビサイドが地図上から消える位の威力はあるかな?」

「それって、シンの攻撃に匹敵するってことじゃん!」

「止めるぞ! リュック!」

「りょ、了解!」

 

 コクピットに座ったリュックは操縦桿を握り、飛空艇を急発進させる。

 

「どれくらいかかるっ?」

「元々機動してたから、3分もあれば接触出来るよ!」

「......全部お前の思惑通りか?」

「さあ? ボクにとっても邪魔とだけ言っておこうかな。アレには欠点がある。発射には莫大なエネルギーが必要、チャージにも時間がかかる」

「それなら、撃たれる前に壊せばいいんだね。リュック」

「おっまかせ! 進路クリア、ターゲットロック、ミサイル発射!」

 

 前方に発射されたミサイルは交戦中の上空を通り過ぎ、目標の砲台に向かって一直線。爆音、爆風、爆煙、水柱がビサイド沖で噴き上がる。

 

「やったか!?」

 

 風で流れた爆煙の切れ目から見え隠れするのは、何ごともなかったかのように鎮座している砲台。

 

「物理障壁! くっ、取り付いて壊すぞ!」

「無理だと思うよ。砲台周辺には視認可能なレベルの強力な障壁が常時展開されている、生半可な攻撃は無意味」

 

 モニターに一瞬目を向け「早めるつもりか」と小声で呟いたアソオスは、くるりと踵を返す。

 

「さて、ボクはこの辺りで失礼しようかな?」

「待って、早めるって何のことっ?」

「いずれ判るよ。ま、本気で止めたいのなら、あの障壁を断ち切れる人を呼ぶしかないね。じゃあ、また後ほど――」

 

 意味深な笑みを浮かべた彼は、微かな幻光を残して消え去ってしまった。

 

「アイツも幻光移動が出来るのか」

「どうするの? とりあえず撃ちつづける?」

「......シキに頼もう。彼なら、あの障壁もきっと切れる」

 

 浜辺を防衛しているマヤナに連絡入れため、通信スフィアを取り出す。

 

「どうしたの?」

 

 二人とも、どこか浮かない顔をしていた。

 

「話した方がいいよね?」

「そうだろうな。いずれ判ることだし」

「何のこと?」

「マヤナとシキの関係。時間がないから簡単に説明すると、マヤナは星詠みの一族の末裔で、シキは式神っていう星詠みの巫女の守護者で、二人は召喚士とガードみたいな関係なんだけど、ちょっとややこしくて......」

「星詠み巫女? 式神?」

「詳しい話は後だ。とにかく連絡をマヤナに、今はシキの力が必要なことに変わりない。わたしたちは、砂浜で敵の上陸を食い止めるぞ」

 

 沖まで出た飛空艇は目標を前にUターンして海岸へ戻り、開いた後部ハッチからパインと一緒に、砂浜へ飛び降りる。

 

「二人ともお願い!」

「はいっ! シキ」

「ああ」

 

 マヤナを抱きかかえたシキは、飛空艇に飛び移る。交戦中のクルグムと、チュアミと合流。杖を構え、手分けをして上陸部隊を迎え撃つ。しかし、倒しても倒しても、何度も立ち上がってくる。

 

「コイツらまさか、完全な機械兵か!」

「きっと、アソオスから奪取した技術だよ。チュアミ、右!」

「このっ!」

「サポートは任せてください!」

 

 一体一体の性能はオリジナルほど脅威でないが、例え胴体を真っ二つにしても上半身だけで動き、尚かつ無尽蔵に湧いてくる。胴元を止める他ない。不意に声が聞こえた。

 

「――えっ? みんな下がって! フリーズ!」

 

 杖に魔力を込め、最大級の氷魔法を解き放ち。アルブの部隊が進軍してくる海と砂浜を隔てるぶ厚い氷壁を作り出す。

 

「パイン、後をお願い」

「ユウナ? 判った。チュアミ、体勢を立て直す。クルグムは治療にあたってくれ」

 

 戦場を離れ、声がする方へ走る。村へ続く峠道の途中で、二つの人影を見つけた。ひとりはイファーナル。そして、彼と向かい合う髭を蓄えた男性。

 

「あなたが、ヴァルム?」

「大召喚士ユウナ、なぜここに。これも貴様が仕組んだのか、ジョイト!」

「呼んでなどいない。これは彼女の、クシュの意思だ!」

 

 激しい打ち合い、どちらも引かない。

 闘うことを止めようとしない。

 

「やめて! どうしてクシュのことを、大切な人の言葉を信じてあげられないの!?」

「フッ、若いな。大召喚士とはいえ所詮は娘か。恋だの、青春だの、遥か昔の物語にすぎん」

「ブライア!」

「黙れ! ジョイト、俺の苦しみが判るか!? 共に歳を重ねられない、最愛の妻に先立たれ、娘とは縁を切るしかなかった。後を追って死ぬことさえも許されない、それがどれ程残酷なことかキサマに判るか!」

「......永遠に縛り付けるつもりなどなかった。だがお前は、何度話そうと一度も聞く耳を持とうとはしなかった、彼女の純粋な想いを信じさえすれば!」

「裏切り者が言うことか!」

「......やめて、もうやめてー!」

 

 光が、想いが――弾けた。

 周囲の幻光が共鳴し合い、まるで夢の中にでもいるような不思議な感覚。声が聞こえる。ここまで導いてくれた、クシュの儚げな声。

 

『――ブライア』

「クシュ......」

『ごめんなさい。あなたを苦しめたのは、わたし』

「俺は。俺はただ、キミを護りたかった。キミの獣芯になってキミを......」

『わかってた。私も同じだから。だから、ジョイトに頼んだの。獣芯になれば、あなたを護れると想ったから』

 

 互いを大切に思っていた故の誤解。

 初恋、青春、そうなのかも知れない。それでも純粋に愛し合っていたことは確かで。そんな二人は、ボタンの掛け違えで1000年もの長い時間をすれ違い続けてしまった。

 

「クシュ。キミはもう一番じゃないんだ。もうあの頃とはちが――」

 

 乾いた音が鳴り響いた。

 一瞬の静寂のあと、ブライアが膝から崩れ落ちる。

 

『ブライア!?』

 

 クシュは駆け寄り、イファーナルは呆然としている。

 ――撃たれた。反射的に振り向く。滝が流れる近くの岩場に、白衣を靡かせる白髪交じりの男性。右手には、銃が握られていた。

 

「アルブっ!」

「ア、アルブだ、と......?」

 

 撃たれた腹部を押さえながら、ブライアは顔を上げる。

 

「久しいな、ヴァルム。そう、貴様の言う通り所詮全ては過去の出来事。だが、その過去の結果が現在なのだ」

「き、キサマ......」

 

 見下すような笑みを浮かべるアルブは、銃を持っていない左手をあげる。すると、配下のベドールたちが周囲を囲み、一斉に銃口を向けた。

 

「貴様がゴミ同然に扱ってきた我らに、二度も刺される気分はどうだ?」

「......最悪だな」

「フッ、冥土の土産に教えてやろう」

「待て! グッ......!?」

 

 警告もなしに引き金が弾かれた。

 右肩を押さえ、イファーナルは膝をつく。

 

『ジョイト! もうやめて!』

「喚くな耳障りだ。どうせ、貴様らも同じ道を辿るのだからな。秩序の神ヴァルム、貴様は“死人”ではない。豊穣の神クシュの力で存在を保たれている死に損ないだ」

「クシュ?」

 

 クシュは口を結んで、何も答えない。

 それはつまり、肯定を意味する訳で。全てを察したブライアは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「そうか、そういうことだったのか。大召喚士ユウナ、クシュを――二人を頼むぞ」

 

 ブライアの姿が消え、一番近くのベドールの腕が飛んだ。

 やや苦い顔を見せたアルブは、ベドールたちに命令を下す。

 

「始末しろ」

「退くぞ!」

 

 イファーナルに腕を掴まれ、幻光移動で戦線を離脱。直後、背後からブライアに組み付いたベドールが自爆、周囲を爆煙が包む。

 

「そ、そんな」

「幻光体は、主の想いが繋がっている限り存在を保てる。だが――」

 

 煙の中から姿を見せたブライアからは幻光が溢れ、身体は半透明に。

 

「自身が幻光体であると自覚すると実体を保てなくなる。姿を形成する幻光を使えば使うほど消滅は速まる」

 

 残された時間は、もう僅か。

 だとしても、最後はちゃんと解り合って別れて欲しい。

 

「時間を作ります」

「いや、僕に任せて欲しい。策はある」

『ジョイト......あなたには感謝してもしきれません。ありがとう』

「その言葉だけで報われる。キミが信じ続けていたのに、僕は半ば諦めてしまっていた。どれだけ保つか判らないけど、僕の存在を賭してでもアルブを止める!」

 

 周囲の気配が変わった、召喚世界へ迷い込んだ時と同じ感覚。異変を感じ取ったアルブが、こちらに気づいた。先ほどまでとは打って変わって焦りの表情が窺える。

 

「くっ、またしても邪魔を! ええい!」

 

 手榴弾を投げ、岩場を爆破。滝の流れに乗って、逃げられてしまった。ベドールたちも次々と戦線を離脱していき。クシュは、残されたブライアの下へ駆け寄る。今にも消え去りそうなほど存在感は希薄。

 

「やはり、死人ではなかったんだな」

『ごめんなさい。わたしが、あなたを縛ってしまった』

「いいや、理不尽な運命を呪ったこともあった。だが、確かに幸せな時間を過ごせたことを今は感謝している。疑ってすまなかった」

『ううん。わたしも、あなたからたくさんの幸せな時間をもらった。それだけで充分。だからもう、自分を責めないで』

「ありがとう」

 

 感謝の言葉を伝えたブライアは、現世を去った。

 残されたクシュは頬を伝う涙を拭い、イファーナルと向き合う。

 

『ジョイト、ありがとう。ごめんなさい......』

「謝らなければならないのは、僕だ。キミの想いを知っていながら――」

 

 彼女の言葉を聞いたイファーナルは小さく息を吐き、目を閉じて天を仰ぐ。彼の体からも幻光が溢れだした。

 

「ユウナ、クシュを頼む」

「はい」

 

 ブライアの後を追うように、イファーナルも現世を去る。

 1000年前の一つの物語が幕を下ろした。

 そして、新しい物語が始まろうとしていた。

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