FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
「――空は海と書き換えられ、星は大地と書き換えられた。1000年前、災厄をもたらす“シン”の復活と共にスピラの実権を握ったエボン寺院は、古代ベベルの痕跡をほぼ全て抹消した。書庫の歴史書は全て改竄された記録。機械の使用を禁止したのは、いずれ“シン”を倒す兵器を造られないため、機械に精通するアルブとベドールを中枢から排除し、迫害の対象と定めたのは、シン復活後のスピラの実権を握ったエボン寺院の権威を脅かす存在だから......」
騒動が一旦の収束を見せた後リュックとパインにアソオスからもたらされた情報を聞き、聞いた話を冷静に整理するためひとり飛空艇の甲板に出て。扉横に腰を下ろし、背中を預ける。
日暮れ前までの騒動が嘘だったかのように静かで、穏やかなビサイドの夜。見上げた夜空には星々が瞬き、海は無数の幻光が乱れ舞う幻想的な景色が広がっている。
「――星詠み」
戦後一度は実権を握りかけたアルブ、シンの復活から1000年もの長い時間スピラを統治し続けたエボン寺院にとっても、一番厄介だったのが、スピラの歴史を伝承する少数民族――星詠みの一族。
「でも、どうして......」
当時から映像スフィアは存在していたにも関わらず、スピラの歴史を伝承する星詠みの一族にこだわったのか。
『人は過去に縛られずにはいられない。ゆえに未来に目を向けるためには過去を封印するしかあるまい』
不意に頭を過ったのは、新エボン党の創設者であり、二年前真実騒動を引き起こし、永遠のナギ節を向かえたスピラを二分した元僧官トレマの言葉。理由はどうあれ、スピラの行く末を案じて行った行為。
「トレマと同じことを考えた?」
「ちょっと違うんだよね、それが」
「――誰!?」
立ち上がって、声が聞こえた方を見る。
月明かりに照らされた横顔、目立つ赤毛に灰色の瞳が光る。
「......アソオス!」
「ん? また後でって伝えたはずだけどなあ。まあ、いいや」
「何の用......?」
杖を持つ手に力が入る。
「星詠みの一族については、既に彼女たちから聞いているよね」
声には出さず、小さく頷いて答える。
マヤナとシキ、二人をスピラの祈り子......クシュに会わせないという条件と引き換えに得た情報。理由までは知らされていない、けど今はそれとなく察しがついている。
並外れた戦闘能力、幻光移動、類い希な幻光の扱い。
彼は、シキは――マヤナが召喚している幻光体。
召喚されている側が自身が召喚されていることを理解してしまうと、現世に留まる幻光体を保てなってしまう。そう、クシュが召喚していたブライアがそうだったように。
「キミはアルブと志を共にしていない。対抗するには、シキの力が必要だった。だからキミは、マヤナと同じことをしている祈り子との接触を拒んだ。悟られないために」
「ふむ、なるほど。大召喚士ユウナ様はそう考えた訳か」
相変わらずこの呼び方、もう拒否する気も起きない。
「違うの?」
「あの人と考えが違うことは確かだね。そう遠くない未来に滅びる運命の星の行く末には興味はないよ」
――スピラが、滅びる運命。
ただの与太話と想いつつも、いつもの軽口の様には感じられないのもまた事実で。だから引き止める。他の誰よりも技職の神・アルブのことを、誰よりも機械のことを、そして、誰よりもスピラの歴史を熟知している彼を――。
「キミは、どこへ行きたいの?」
それなのに、考えていた言葉とは別の言葉を口にしていた。
赤毛の髪を夜風に靡かせて、灰色の瞳で遠くを、まるで夜空のその先を見ているような遠い目。アソオスは視線を変えることなく答えた。
「どこへ、か。あそこになるんだろうね」
視線の先にあるのは、一際輝くナイトベリーよりも大きく、銀色に輝く天体。
「月?」
「そういうと思った。あれは月じゃない。スピラが月なんだよ」
夜空に浮かぶ月と呼んでいる天体は惑星で、スピラこそが月を回る衛星。そして、あの月の裏側には未知の大地が広がっている。
「天文学はからっきしだからねー、スピラは。ま、仮に外宇宙進出が実現するとしても数世代先の話。それこそ、この星の終わりが先か、人類の破滅が先か――」
「科学者じゃなくて、占い師?」
「預言なんて非科学的なものじゃないよ。アルブが1000年の歳月かけ基礎理路を構築し、アルブとボクとで開発、実用化した『量子演算システム・クロノス』が導き出した予測。予測では、スピラは今から1000年後に星の崩壊の時を迎える」
突拍子のない話しの連続に理解がついていかない。でも――スピラ崩壊。今までのような抽象的な言い回しではなく、具体的な数字を出されてしまったからには今までのようには話半分では聞き流せない。
「遠い未来だからこそ正確な予測が可能なんだ。近すぎる未来は結構簡単に変えられるけど、本筋に影響を与えるまではいかない」
目の前を流れる川の流れを大きく変えたとしてもそれは一時的なことで、流れが変わった川の行き着く先は"海"。それは決して変わることはない。だけど「結果にたどり着くまでの時間を変えることは不可能じゃない。あの人は、自らの運命に抗おうとしている」と彼は続けた。
「秩序の神ヴァルムが現世を離れた今、あの人の次の標的は――」
「スピラ評議会」
紆余曲折ありながらも、スピラの舵取りを担う屋台骨。
「そういうことだね。さてと。やることは一通り終わったし、そろそろ逝こうかな」
「いいの? キミは、月へ行きたいんじゃないの?」
「言ったでしょ。実現するのは数世代先の話。あなたも決して生きては見届けられない。それとも、"死人"でありながら世界滅亡の危機を乗り越えるために人々を導くかい?」
それはきっと――ううん、絶対にしない。
死の螺旋から解き放たれた世界は、今を懸命に生きる人たちが悩んで、迷って、たくさん苦しんで作っていかなきゃいけない。新しい時代を、これからを。だから、必ず絶ちきらないといけない。
「アルブの企みは必ず止める。お願い。キミの力を私に貸して」
「ふむ......まあ、いいか。暇つぶしにはなりそうだし。ただし条件がある」
「出来る限りのことはするよ」
「ベドールの末裔が欲しい。そうだな......例の通信スフィアを開発したベドールがいいなー」
「どうするつもりなの......?」
「知識を継承するだけだよ。理論を理解出来ないと意味がないからね」
「......話してみる。約束は出来ない」
「どうぞ。でも、急いだ方がいいよ。残された猶予はそう長くはないからね」
話しが決まり次第キノコ岩街道の谷底の封印された洞窟を訪ねると決め。そして、アソオスは夜の波間に舞う無数の幻光様にこの場からで姿を消した。
飛空艇に戻って、リュックとパインがいる居住区へ。
「遅かったねぇ」
「物思いにでもふけてたか」
「そんなところ」
椅子に腰を下ろし、話を切り出す。
「アソオスが、シンラ君を弟子に取りたがってる」
「見返りは?」
「アルブ討伐の協力。それと、未来への希望――」
顔を見合わせる二人に、アソオスの予測を伝える。
「まさか本気で信じたのか?」
「そうそう! いっつも人のこと小バカするやつだよ」
「そうは想ったんだけど、具体的に何かされたかなって」
神出鬼没で現れては、戦況を混乱させる言動する。
けど、それは結果的に毎回アルブの企みを阻止する方へ向いていた。
「まあ、今回間に合ったのは、アイツが動力改良したおかげって言えばおかげだけど......」
「ハァ......分かった。わたしたちはユウナの判断を信じる」
「ありがと。マヤナとシキ、どこに居るか知ってる?」
「呼びに来たワッカと一緒に村へ行ったよ。前に異界送りしてもらった遺族の人がちゃんとお礼をしたいみたい」
二人の居場所が判明。
ビサイド寺院の客間を訪ねると、僧官から二人は祈り子の間へ向かったと聞かされた。試練の回廊を抜けて、祈り子の間へ急いだ。
マヤナは初めて会った時と同じように、真摯に祈りを捧げていた。彼女の傍らには、ガードのシキ。祈りの邪魔にならないよう、祈り子の間から外へ連れ出す。
「何か?」
「キミに訊きたいことがあるんだ」
ひとつ深呼吸をして、彼の顔を真っ直ぐ見詰める。
もし、マヤナがクシュと同じことをしていたら取り返しのつかないことになってしまう。だけど、アソオスのニュアンスは少し異なるものだった。何より――そのことを彼は、シキは自ら示唆していた。
「そうですか。彼女には内密にお願いします。彼女は真実を知りません」
「うん、分かった」
「彼女の、マヤナの真名は――マヤ」
シキから語られたのは理解を遥かに越えるものだった。
マヤナは、星詠みの一族最後の「星詠みの巫女"マヤ"」の生まれ変わり――。