FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
祈りの間で祈りを捧げるマヤナが、スピラの歴史を記録、後世へ伝承する「星詠み」と云われる一族の中で、もっとも特別な才能を持つ"星詠みの巫女"の生まれ変わりである、と彼女のガードのシキは言った。
「星詠みの言葉で――"マナ"は"真実"を、"マヤ"は"記憶"を意味する言葉――」
「記憶と真実⋯⋯」
真実の記憶――【真実の記録】と訳した方が理解しやすいかもしれない。
「星詠みにはついて、どこまでご存じですか?」
「スピラの歴史を伝承していた少数民族。1000年前の機械戦争終結、シン復活後スピラの政権を握ったエボン教の襲撃を受けた。真実の歴史を闇に葬るために⋯⋯」
「少し異なります。星詠みを襲撃したのは、戦勝国・ベベルの兵――"シン"が復活を遂げる以前の出来事。機械戦争に勝利したベベルは権力誇示のため、敗戦国ザナルカンド兵の残党狩りを各地で行っていた」
1000年前動乱の機械戦争時代を生き抜き、本国ザナルカンドを遠く離れた僻地で終戦を迎えたメイチェンも、シキと同じことを言っていた。
召喚士エボンが召喚した"シン"の攻撃により甚大な被害を受けた当時のベベルは皮肉なことに自らが下の者と位置づけ、迫害の対象としていたベドールが提供した機械導入し、早期復興を遂げた。そして、機械部隊を指揮した技職の神・アルブがベベルの政権を握ると、ザナルカンド兵の残党狩りに着手。ベベルの復権、機械の優位性、ベドールの地位向上、他の国への牽制と見せしめの意味を持って行われた、と――。
「星詠みは常に中立です。すべての物事に干渉しません。感情は、真実を歪めてしまう」
星詠みの役目は、脚色せず起きた出来事をそのまま後世へと伝承すること。
「なぜベベルが、アルブが狙ったのか、当時は定かではありませんでした。ですが、今は――」
アルブの復讐の動機、生まれ変わりというマヤナの素質。
星詠みの巫女マヤは、優秀な召喚士だった。アルブは魔法を使える人たちを、召喚士を酷く憎んでいた。加えて、開発した記録用のスフィアを開発したベドールの優位性を誇示するため、歴史を伝承する星詠みの一族は邪魔でしかなかった。
そして、改めて疑問に思う。なぜ当時の出来事を、滅亡した星詠みの一族について詳しいのか。
「⋯⋯キミは、死人? それとも――」
言い終える直前、ふと視界に人影が過った。
反射的に追って、視線を向ける。薄紅色の羽織を着た少女の後ろ姿があった。
「マヤナ?」
――違う、彼女じゃない。
後ろ姿は似ているけど、彼女よりも少し小柄。西日を避けるように木陰に入った彼女は、胸の高さまで左手を上げた。前へ伸ばした左の手のひらの上で、集まってきた幻光が優雅に舞う。
違和感を覚えた。夜だったのに夕方になっていた。正確には、彼女の周囲だけが夕方になっている。まるで、イファーナルが作り出した幻想の世界を見ているような感じ。
「これって――シキ?」
近くに居たハズの、シキが見当たらない。
不意に背後から声が聞こえた。シキと思って後ろを振り返るも、彼ではなかった、彼女と同じくらいの背丈で、黒っぽい羽織を着た少年。逆光で顔立ちは分からない。ただ彼の呼びかけに応えて振り返った、彼女の顔が見えた。似ていた。顔立ちは幼いけれど、どことなくマヤナと雰囲気が似ている。
『おかえり。街の様子はどうだった?』
『前よりも復興は進んでた。特に、ベベルは速い。ベドールの人たちがたくさんの機械を使って、夜通しで作業してる。ただ、イレミアは殆ど手つかずのままだったよ』
『そっか』
『それと――』
何かを言いかけた時、大人の男性の声が少女の名を呼んだ。
同時に突如として場面が変わる。何本かのロウソクの火が、薄暗い石造りの室内を照らしている。星詠みの長と思われる年配の男性と向かい合っている彼女――「星詠みの巫女・マヤ」は何か話している。けど、どうしてか二人の会話は聞き取れない。深々と頭を下げて表へ出たマヤは小さくため息をもらすと、場面が変わった。
ランタンが置かれた木の机で書き物をしている少年を、マヤが訪ねたところ。
『表向きに復興は進んでるけど、実際のところ戦時中より殺伐としてる。各地で大小さまざまな暴動が起こってた』
『新政府――ベベルは?』
『復興優先というより、意図的に後回しているようにも感じた。前回、ベベルに治安部隊が結成されたのは記録したでしょ。治安部隊の多くは今、ザナルカンドへ派遣されてるみたい』
『ザナルカンドに?』
『目的は解らない。この記録を終えたら、ザナルカンドへ向かうよ』
『でも、ガガゼト山の登山口へ繋がるイレミアは、ベベルの管理下に置かれて封鎖されたままなんでしょ? 飛空艇は飛んでないし』
『迂回ルートを探す。戦争が終結して5年が経つのに、今さらザナルカンドで何をしているのか調べないと』
危険を伴おうとも歴史を記録する、星詠みの使命感。
二人の会話の中で時折上がる"イレミア"という単語は、地理情報から「ナギ平原」のことを指していると仮定して会話を聞くことにする。
そしてまた、場面が変わった。
* * *
数メートル先も見えない横殴りの吹雪の中、足下に気を払いながら慎重に一歩ずつ歩みを進めていた。数歩前を行く大人の男性が足を止め、振り返った。
『大丈夫か?』
『はい』
『もう少しで峠だ。今日は、休もう』
頷いて、再び足を前へ進める。たどり着いた峠を少し降り、雪と風を凌げる岩場の陰にテントを張って、焚き火で暖をとる。
『よし、明日には着けるな。予定より二日も早い、これなら調査に時間を割けるぞ』
『抜け道を教えてくれた、ロンゾ族に感謝ですね。それにしても――』
前のシーンでマヤと話していた少年は、吹雪く空へ視線を向けた。夜にも関わらずときどき雲が明るく光って見えた。
『飛空艇⋯⋯ベベルは、ザナルカンドでいったい何を――』
『さあな、行けば分かるさ。くれぐれも憶測はいれるなよ』
『解っています。星詠みの役目は"真実を伝える"こと。私情、感情は入れてはならない』
『解ってるならいい。で、巫女の修行の方は?』
『順調です。まあ、星詠みの巫女と言っても召喚士の素質を持って生まれただけですし』
星詠みの巫女は、召喚士の素質を持った星詠みの一族。
『気にかけるのは解るが、軽率に口にするなよ。星詠みに召喚士の素質を持つ者が――"星詠みの巫女"が生まれる時『世界に変革が起こる』と伝承されている。星詠みの巫女は、一般的な召喚士とは違う特別な秘術を扱う』
『"獣芯"を必要としない"式神使い"、何度も聞きました。"式神"とはなんですか?』
『星詠みの巫女の特別な従者⋯⋯としか残されていない。残っている記録は直近で100年以上前に遡る、実際目にした者は生きていない。今ほど保管設備もよくなかったしな。さて、先に休め。夜明け前に出るぞ』
返事をして横になったところで、三度場面が変わった。
翌朝、ガガゼト山祈り子の岸壁。
召喚士エボンの力で強制的に祈り子にされたザナルカンドの住民たちが乱雑に積み重なった祈り子像を前に、二人は言葉を失い、立ち尽くした。
『これ全部、獣芯なのか?』
『これほどの数を⋯⋯記録するぞ』
『は、はい!』
男性は小型のスフィアカメラを、少年はメモ帳に書き綴る。
記録作業は一時間ほどで切り上げ、機械都市ザナルカンドへと向かった。
『――ここが、ザナルカンド』
『見ろ。ベベル兵だ』
『えっ?』
ベベルの治安部隊が、廃墟になったザナルカンドの街に散らばっている。しばらくして、倒壊した建物に兵たちが集まってきた。
『あれは――獣芯!』
『広場に停泊している飛行艇へ運んでる。獣芯を移送しているのか』
ベベル兵の行動、ザナルカンドの住民の捜索、それらの記録を数日かけて取り終えた二人は収集した記録をまとめるため、急いで帰路へついた。