FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
「ずいぶん賑やかだな」
調査・監視班の責任者に就任したギップルは、スピラ評議会の定例会議に出席する前に、ベベル内に創ったモニタールームを訪れていた。世界各地に設置した通信スフィアから送られてくるリアルタイムの映像が、室内のスフィアモニターに映し出されている。集められたそれらの映像を、機械の扱いに長けたアルベド族を中心に、三交代二十四時間フルタイムで解析・監視が行われ。僅かでも異常を感知した際には、すぐさま各地に展開された守備隊の部隊長へ報告が行くようになっている。
「で、なに騒いでんだ?」
自他ともに認めるアルベド族の天才少年、ぶかぶかの防護服を着て、ガスマスクを常に着用している「シンラ」が、手元のキーボードを叩きながら疑問に答える。
「アニキが、一人で発狂してるだけだし」
「ユウナと話せない! 話しとちがーう!」
金髪でモヒカン頭、目元は派手なメイク、と強烈な個性を放つ男性。リュックの実の兄で、アルベド族の兄貴分として慕われている。しかし、彼の実名は妹のリュックはおろか、本人すらも覚えていない。ある意味で謎に包まれた存在。
「荒ぶってんなぁ」
「ユウナが飛空艇を降りてから、ずっと口実を探してたみたい。今も隙あらば、通信スフィアを私用に使おうと企んでるし」
「ほぼストーカーじゃねーか」
「フフーン、アニキのモニターの通信はカット済みだし」
「なかなか鬼畜の所業だな。例の
「出来てるし。これ」
いったん手を止め、デスクの引き出しから取り出したスフィアと、要点をまとめた資料を数枚手渡す。
「サンキュー。ほれ、例の
「ありがと」
お菓子が詰まった袋を受け取ったシンラは、周りに漏れないように声を潜めて言った。
「最後のページ、ちょっと個人的に気になったことメモしといたし」
「あいよ。見終えたら処分しておく」
頷いたシンラは、モニター作業に戻る。
モニタールームを離れ、会議室へ向かう途中足を止めて、シンラがいっていた部分を一足先に確認。資料の最後のページに手書きで書かれたアルベド語の文章に頭を掻き、四つ折りにしたメモを懐のポケットにしまって、会議室へ急いだ。到着したのは、参加予定の議員の中で一番最後。すぐにプレゼンの準備を済ませ、定刻通り開廷の時を迎えた。
「時間です。それでは定刻通り、定例会議を開催いたします。では先ず、マキナ派の代表ギップル。現時点での調査、対策の進行状況を伺いたい」
例によって、評議会議長のバラライが司会役を務める。
彼に指名され、シンラから受け取ったスフィアを議場のスクリーンに映し、現在の状況・解説を始める。
「主要都市への通信スフィアの設置及び、各地方への守備隊の配置は八割方完了した。成果については、こいつに表示されてるデータ通りだ」
各地方の魔物の出現率、出現地域と傾向、被害状況などが映し出されている。設置数に比例して、魔物の唐突な出現にも対応出来ていることをデータは示していた。
「ふむ、有効であることは確かなようだな。しかし、これほどの数とは......今のところ死者が出ていないことが、せめてもの救いと言ったところですかな?」
「でしょうな。だが、ガガゼト山より北の大地のデータが少ないのは?」
「ああー、それに関しては――」
「キマリが、話そう」
他議員の疑問に言い淀んでいたところ、データ不足の要因に詳しいロンゾ族の長老が助け船を出す。ユウナのガードを務めたうちのひとりで。現在は、万年雪が降り積もるガガゼト山で暮らす民族――ロンゾ族の長老を務めている、キマリ=ロンゾ。
「ロンゾ族は、魔物との戦いに長けている。今は“シン”が消え、召喚士が居なくなり、霊峰ガガゼトに登る者もいない」
そう言ったキマリは、どこか寂しげに小さく首を横に振った。
「ま、そういうこった。ザナルカンド遺跡も同じ理由な。一時期、観光客で賑わってたけど。今は、飛空艇も飛んでねーから、わざわざ危険を冒してまで立ち入る物好きはいない。リスクの低い地域は、後回しにしてるってわけだ」
それでも、緊急時の救援要請に備えた通信スフィアの設置と、麓のナギ平原にはいつでも救援に向かえるよう、守備隊が待機している。今の説明で、ひとまず納得してもらい話しを戻した。
「各地に守備隊と一緒に、調査団を送っちゃいるが。原因は、依然として不明なままだ」
「トワメル氏、異界の現在の様子は?」
「はい。異界は現在、安定を取り戻しつつあります。しかしながら、今回の一件との関連性につきましては。我々にも分かりかねます」
疑問を投げかけたヌージは更に、トワメルに問う。
「長期間、異界の調整を放置したことにより何らかの影響が出たという可能性は?」
「否定は出来ませぬ。ただ、グアド族がグアドサラムを離れていた間に、異界から漏れ出ていた幻光が各地に影響を与えていたことは確かでしょうなぁ」
「そうか。やはり、結論に至るまでの確証は持てないな。バラライ」
「ああ。では、今後についてですが――」
各議員の意見を聞きつつも上手く間を取り持ち、折り合いを付け。更なる対応が必要との認識を全会一致で可決し、この日の定例会議は幕を閉じた。
各議員が議場を退室して行く様子を、ふたりの男女が、天井裏に設置されている通気口の中から覗き見ていた。
「聞いただろ? クルグム。やっぱり、私の睨んだ通りだ。評議会もまだ、全容を把握できてない。この件、かなり奥が深いぞ」
「......早く戻ろうよ、チュアミ。評議会の会議を盗み聞きなんて――」
「バーカ。今、動いたらバレるじゃないか。見てみろ。まだ、バラライ議長、青年同盟の盟主、マキナ派のリーダーが残って話してる。広場に現れた強力な魔物を仕留めた三人の会話を聞ける絶好のチャンスだ。お前だって、気になるだろ?」
「そ、それは――」
気にならないと言えば嘘になる、クルグムは押し黙った。そんな彼の対応に得意気な表情を見せ、バラライたちの会話を聞き逃さないよう聴き耳を立てる。
「それで、何か新しい情報は掴んだのか?」
「まーな」
「どんな?」
「データ解析を行ってるモニター班の情報によると、出現する魔物には共通の特徴が存在していることが判明した」
「特徴だって?」
「ああ、そいつはな――」
若干前のめりになった二人に対し、ニヤリと笑って「エブイ」と答えた。二人は、すぐさま言葉の本質を察知。しかし、天井裏で聴き耳を立てている二人は、意味がわからず困惑していた。
「『エブイ』って、なんのこと?」
「さあ、僕に聞かれても......」
天井裏で首をかしげる二人をよそに、会話は続く。
「な? 言った通りだろ」
「どうやら、そうらしいな」
「まったく、困ったものだ」
「エブイってのはな、アルベドの言葉で『ネズミ』って意味だ。さっさと出てこいよ」
潜んでいる通気口に向かってギップルが言い放ち、ヌージに至っては、広場に現れた魔物にとどめを刺した愛用の銃を構えた。
「10数えるうちに投降しろ。出てこなければ、反逆者とみなし、容赦なく引き金を弾く。弁明は聞かない、命の保証もしない。10、9、8――」
――ガタンッ! と大きな音を立てながら、天井裏に潜んでいたチュアミとクルグムは、通気口のフェンスをぶち破って会議室に飛び降りた。そして、間髪入れずに膝を畳んで正座、手を付いて深々と頭を下げる。
「ったく、何してんだ。お前ら」
「クルグム。キミは、公認送儀士だろう。盗聴は、立派な犯罪行為だ。ましてや、スピラ評議会の会議の盗聴するなんて言語道断もいいところだ。資格を剥奪されても文句は言えない案件だぞ」
「......申し訳ありません、バラライ委員長。どのような処罰も謹んでお受けします」
「ちょ、ちょっと待ってっ! こいつは、クルグムは悪くないんだ。わたしが、強引に――」
弁解を遮り、ヌージが断罪。
「今、この場にいる時点で同罪だ。事情はどうあれ、お前は潜入することを最終的に自分の意思で選んだ。そうだな?」
「はい......」
「聞く耳なしかよ。話しくらい――」と小声で呟いたのを聞き逃さない。
「どうやら、しでかしたことの重大さを理解していないらしいな。だが、その度胸だけは買ってやろう」
「ヌージ。これは、僕の監督責任でもある。この件は、僕に一任してくれ」
「そんな、バラライ委員長......!」
「とにかく、二人とも早々に退室するんだ。処遇は、追って通達する。それまでの間、自室と食堂以外の行き来は禁止だ。いいね?」
「はい。行こう、チュアミ」
「あ、ああ......」
「失礼しました」と深々と頭を下げて、二人は退室。会議室の扉が完全に閉ざされたことを確認して、改めて話し合いが行われる。
「熱センサー、盗聴器の類いもない。よし、本命に戻すとすっか。なにを置いても先ずは、コイツだよな」
テーブルにはいくつかの資料が置かれている。先ず最初に目に付けたものは、調査協力を引き受けてくれたユウナたちから送られてきたスフィア。
「パイン先生のスフィアに録画されてた魔物を、データベースと照合した。やっぱ、新種で間違いねーってさ」
「先日、ベベルに出現したキマイラと同じか。守備隊からは?」
「今のところ挙がってきている情報ではすべて、既存の魔物と一致している。新種の出現は、稀なケースだろう。現時点では、な。しかし――」
ヌージは、スフィアと一緒に置かれていたメモを手に取った。
「スピラを滅ぼすほどの兵器“ヴェグナガン”を破壊した彼女たちが多少のブランクがあったとはいえ、手を焼くほど魔物を一撃で仕留めたという謎の少年――」
「重力魔法か。何人いるよ?」
「数えられるほどしかいない。空間系の魔法は、
「何者だ? いったい――」
評議会があずかり知らぬところで起こるイレギュラーな事態の数々に、実質すべての対応にあたっている彼らは、頭を更に悩ませた。
「ま、ここで考えても答えはでねーよ。分かんねーんだから。それよか、シンラからだ。結構気になることが書かれてるぜ?」
ギップルは、懐に入れておいたシンラのメモをテーブルに置いた。
「これは?」
「この言語、アルベド語だね」
「ああ。こいつには魔物の出現について、シンラの見解が書かれてる。どういうわけか、多いんだとよ。魔物の出現する時――」
――近くに、人が居ることが......。
* * *
後日の明朝、謹慎を命じられていたクルグムとチュアミは、マカラーニャの森の入口へ続く、ベベルのグレート=ブリッジを歩いていた。バラライから直々に言い渡された処罰は「各地の寺院を巡って、自分自身を見つめ直して来い」というもの。
「で。どこから行くんだ?」
「一番近いのは、ナギ平原の“レミアム寺院”。そこから行こう」
分かれ道をナギ平原へ向かうクルグムの後を、やや不服そうな顔で付いていく。
「なんで歩きなんだ? 飛空艇を使えばすぐじゃないか。そもそも、祈り子はもう居ないんだろ。今さら寺院を巡って、なんの意味があるんだ?」
「反省のためだよ。バラライ委員長も言ってたじゃないか。これで許してもらえるんだから、ありがたいと思わないと。本当なら、もっと厳しい処罰を受けてもおかしくないんだから」
「まぁ、そうだけどさ。わーたよ。道中は、私が守ってやるから安心しな」
「はいはい、頼りにしてるよ。さあ、行こう」
並んで歩く二人の後ろ姿を、会議室の窓辺から三盟主が見守っていた。
「これで、よかったのか?」
「ああ。これから先、きっと必要になる。特別なチカラを、送儀士としてではなく、召喚士としての資質を持つ彼らのチカラが――」
「俺たちには気づけないナニカ、か」
「ああ。さあ、僕らも出来ることをやろう。今は、それしかない」
二人を見送った三人は今、己のすべきこと、出来ることするべく、各々個別任務に戻った。