FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
「方法はいくつかあるし。その中でも主に考えられる理由は、三つ」
スピラの首都・聖ベベル宮最下層のアンダーベベルで、幻光河での話しを聞いたシンラはしばらく考え込み、思いついた考えを話し出した。
「ひとつは、強化・改造した武器を使っている。切れ味をよくして貫通力を上げたり、鉱石を組み込んで擬似的な魔法の効果を乗せたりとか」
「貴重な素材、知識、
「ああ。俺とギップルが扱う銃も威力や精度、反動に耐えられる強度・耐熱処理能力を高めるため、弾丸や銃身などに特殊な加工を施してある。警備兵の特殊装備、火炎放射器も同様の代物だ。しかし、甲殻よりも硬度の高いモンスターをいとも容易く切り裂くほどの武器となれば、生半可な知識や技量では不可能だろう」
「その分野に深く精通した人物となると、ギップルやリュックさんの同胞、アルベドの人間か?」
ギップル、ヌージと共にこの密談に参加しているバラライに、シンラを加えた前者三人の推察を聞いた上で実際に対面した時のことを尋ねられ、小さく首をかしげて、当時のことを思い返す。
「どうだったかな? 言葉は、スピラの標準語だったけど」
「警戒して距離とってたから、アルベド族特有の渦巻き模様の瞳だったかまではわからないな」
「まじまじ見る余裕なかったしね。てゆーか、顔見る前に飛ばされた!」
「フッ、それは酷な要求だ。仮に同じ状況に遭遇していたとしても、冷静に判断できたか自信はない」
お手上げ、と言わんばかりにヌージはやや自虐的な笑みを浮かべ、杖を突いていない右手を軽くすくめて見せた。彼の仕草に合わせるように、ギップルとバラライも張っていた気を緩める。
「そうだね。その辺りは、通信スフィアの映像を洗ってみよう。写っている姿があるかもしれない」
「けどよ、シドの娘に見覚えがねーなら、アルベド族の可能性は低いと思うぜ。大抵のヤツは、顔見知りだからな。ま、使い手の
「“シン”がまだ存在していた時、私たち使ってたよね」
同意を求める。リュックは、頷いて答えた。
「うん。
「いわれてみれば、一部のドレスフィアにも似たような機能があるな。なるほど、オートアビリティを利用すれば、常時発動状態で能力の底上げをはかれる」
「そういうことだし。今、守備隊の装備に活用出来ないか研究してたとこ」
ひとつ目の可能性の話しに一段落が付いたところでシンラは、次の可能性について話す。
「ふたつ目の方法はひとつ目からの派生で、機械の活用。異界から飛ばされた強制転位も、魔法を使わなくても機械を使えば難しくないし。実際、ベベル内部でも移動手段として重宝されてるし」
聖ベベル宮内にいくつも設置されている移動用のリフターや、転位装置。キノコ岩街道の昇降機。ガガゼト山の登山道、ザナルカンド遺跡などにもベベルと同様の転位装置が配備されており、ガガゼト遺跡にも古代の昇降機がある。
「装備じゃなくて、装置なら限定的に作用させられるし」
「装置か。ギップル」
「ちとムズいな。仮に作れたとしても、動かすためのエネルギーが必要なる。パイン先生たちの話しじゃ、大型の機械を使ってるとは思えない。少なくとも服の内部に違和感なく収まる程度の大きさ。けど、機械ってのは、小型化すればするほど付きまとうのが、エネルギーの問題なんだ」
ギップルの懸念に解消の手段ついては、シンラに心当たりがあった。
「異界に溢れるエネルギーを利用すれば可能。異界は、未知なる無限のエネルギーで満ちてるし」
「出来んのか?」
「僕、まだ子供だし」
「三つ目は何だ? まぁ、おおかた想像がつくがな」
そう言ったヌージに、シンラは少しタメを作って三つ目の可能性を口に出した。
「実力」
「バカにしてるっ?」
物の見事にはっきり指摘され、怒りを露わにするリュックをなだめる。
「リュック、落ち着いて。聞いてからにしよ?」
「むむ~っ」
「別にしてないし。冷静な視点からの意見だし」
「やっぱ、バカにしてるでしょ、三人揃って手も足も出ずに飛ばされたからってさっ!」
「言いがかりだし」
「あながち的外れじゃないさ。いい武器は、使い手を選ぶ。強力な武器や便利な機械も、使い方を間違えれば使い手の方に危害が及ぶことも少なくない」
「強力になればなるほど使いこなす側の技量がモロに試されるからね。僕もギップルの手を借りて、既存の武器の強化に取り組んでいるけど、まだ潜在機能の半分も使いこなせていないからよくわかる」
三盟主の話しに冷静に頷いたパインは、壁に寄りかかって組んでいた腕を解き、背にしていた壁から離れて、話し合いの輪の中心へ移動。
「結局は、そこに終着するわけだな。わたしたち自身がもっと場数を踏んで強くならないといけない。新しい装備を自在に使いこなせるように」
「そだね。シンラくん、お願い出来るかな?」
「了解だし。実はもう、新しい装備の構想自体は固まりつつあるし。完成次第連絡するし。でも実戦で扱えるかは、ユウナたちの腕次第」
「まっかせてー。今度こそ、目にものを見せてやるんだから!」
やる気満々のリュック。パインも、力強く頷いた。
「よし、じゃあ今日のところはこれくらいにして解散にしようぜ」
「僕も、そろそろ寝たいし」
「ゴメンね、シンラくん。そういえば、どうしてこんな遅くに、アンダーベベルで?」
緊急時は、正面玄関から面会に来てくれればいいと事前にスフィアで聞かされていた。大召喚士の来訪ならば貴賓室でもてなすのが通常、スピラ評議会でも9割以上の人間が知らず、誰も足を踏み入れないこの場所で意見交換をすることになった経緯について。バラライは、やや言いづらそうに理由は話した。
「実は、あなた方が訪ねてくる前、ちょっとした騒動がありまして。困ったことに、会議を盗聴されてしまった」
「危機管理が甘いぞ。情報漏洩に関して念を押してきたのは、お前たちだろ。言葉には、責任を持て」
「返す言葉もない。申し訳ない」
深々と頭を下げ、平謝り。
「ここは、大丈夫なんですか?」
「当然、事前に調べてあるさ。熱センサー、その他のセンサーにも異常はない。盗聴、盗撮は不可能だ。安心してくれ」
「それはいいけどさ。犯人はもう、割れてんのー?」
「スピラ評議会公認送儀士と、幼馴染みの護衛だ」
ヌージから聞かされた予想外の犯人の正体に、呆れを通り越して反応に困ってしまった。
「しかし、お三方の話しを聞いて、決めかねていた処分が決まった。彼らにも動いてもらうことにする」
この、七人での密談が行われたのは、チュアミとクルグムが議会に忍び込んだ当日未明のこと。
* * *
クルグムとチュアミが旅立ってから数日後の昼過ぎのこと。
三人を異界から飛ばした少年――シキと別行動を取り、スピラ評議会が入る聖ベベル宮の書庫で調べ物をしている。壁一面に設置された本棚から、スピラの歴史にまつわる本を何冊か抱えては、机に向かって目を通す。そんな一定の行動を時間が許すまで何度も繰り返していた。
「ん、ん~......」
小柄な背丈で背伸びをして、目当ての書物にめいっぱい手を伸ばしてみるも、あと僅かに届かない。その時、横から別の手が伸びて、本棚から目当ての書物が引き抜かれた。
「これで、よかったかな?」
「あ、ありがとうございます」
受け取った本を胸に抱いて、丁寧に頭を下げる。
本を取ってくれたのは、後ろで髪を結んだ青年――元召喚士のイサール。以前は、ナギ節が始まったことで観光地化していた聖地・ザナルカンドのガイドを勤めていたこともあったが。現在は、スピラ評議会役員のひとりで、送儀士の指導の任を一任されている。
「ずいぶん熱心だね。スピラの歴史に興味があるのかい?」
「あ、はい。ベベルへ来る前に暮らしていた村には、あまり詳しく書かれた本はなかったので。やっぱり、ここはたくさんありますね。もう、何冊も読んでいるのに読み切れる気がしないです」
「ははっ、僕も子どもの頃は、よくここで読みふけっていたから分かるよ。召喚士になると決めて、少しでも知識を身に付けたくて。けれど、トレマが唱えた真実騒動を期に、ここを訪れる人も、利用する機会も減ってしまった」
少し寂しそうに言って、思い出深そうに本棚に手を添える。
「すまない。水を差すようなことを言ってしまった。そういうつもりじゃなかったんだけど」
「いえ。あの、トレマは何をしたかったんでしょうか?」
「さぁ、どうだろう。風の噂では、今を生きる人々が過去に縛られないために、なんてことを言っていたとか、言わなかったとか。どうにせよ、真実は闇の中だよ」
「噂ですか?」
「ユウナくん......いや、大召喚士ユウナ様。彼女が、スピラ中から集めた貴重な
「そうだったんですね」
噂の情報源は、アニキ。休憩時間の会話の中で、何気なく漏らしてしまった言葉が一部の間で広まった。しかし、シンラとアニキの親友でアルベド族の「ダチ」の機転で噂は最小限に留まり、今ではアニキが一緒に旅をしていたことを自慢するために誇張した作り話ということになっている。
「いたいた、兄貴ー!」
「マローダか。すまない、失礼するよ。どうした?」
書庫へ来たイサールの弟マローダは、評議会からの伝言を伝えた。内容は、送儀依頼。首都ベベルから遠く離れたビサイド村で、ご老人が老衰で亡くなったという内容。
「送儀依頼は、ビサイド村か。ユウナくんは?」
「それが今、不在なんだとよ。それで、ビサイドの村長さんから、バラライ委員長へ直接依頼があったらしい」
「そうか」
「どうする? ビサイドから一番近い集落ポルト=キーリカ在住の元召喚士、ドナに連絡してみるか?」
「そうだな。頼まれてくれるかな? ビサイドでの送儀」
「あたしが、ですか?」
書物から視線を外し、聞き返す。
「その子って確か、今週来たばっかの新米の従送儀士だろ。まだ早いんじゃないのか?」
「もちろん、従者は帯同させるさ。ひとりで行けだなんて無茶なことは言わない。けど、実戦に優る経験はないからな」
「ま、兄貴がそういうなら。んじゃあ、飛空艇の手配してくる」
「あっ――」
止めるまもなく、マローダは書庫を出ていってしまった。
「勝手に決めてしまってすまない」
調べ物目的でベベルへ潜入したため、あまりよくない想定外の出来事。しかし、この後に続いたイサールの言葉は、その心境に影響を与えることになる。
「“シン”が消えたことで、召喚士の素質を持つ者が生まれづらくなってしまった。召喚士としての
“シン”の脅威に立ち向かう召喚士としてではなく、大切な人を喪って負った人々の悲しみ寄り添う送儀士としての大切な役目を教わった。
「......そうですね、わかる気がします」
返事を聞いたイサールは、どこか嬉しそうに微笑んだ。
そして、翌朝。ベベルを飛び立った飛空艇は数時間のフライトの後、目的地のビサイド島の港に着陸。飛空艇を降り、ビサイド村へ向かって浜辺を歩いていると、村の峠道からワッカが走って来た。
「わりぃわりぃ、ちとバタバタしてて遅れちまった」
「いいえ。今、着いたところです」
「そっか、そりゃよかった。こっちだ」
何度か魔物に遭遇したが、ワッカが撃退して無事にビサイド村に到着。「ちょっち休憩するか?」と気遣ってくれたが「大丈夫です」と首を横に振って、村への奧に鎮座する寺院へ向かう。
「遠いところご苦労さま。着替えは、必要なさそうね」
「はい」
「少し待ってて。今、最期のお別れをしているところだから――」
試練の間へ続く階段の横の客間へ通され、儀式の時を待つ。しばらくして呼びに来たルールーと一緒に寺院を出ると、村人のほぼ全員が広場の中央に集まっていた。ここで親族と関係者以外は別れ、列の最後尾を付いて歩き、ビサイド島を一望できる小高い丘の上の墓地へ移動。慎重に、静かに、棺が墓地に収められた。
「じゃあ、お願い」
「はい――」
前に出て、胸の前で手を結び、目を閉じて心を静める。
ゆっくり息を吐いて目を開け、杖を振り、心を込めて舞った。
優美な舞に合わせるかのように風はなびき、木々たちがざわめき立つ。やがて、遠くの海が、島に豊かな恵みをもたらす透き通った湧き水が、緑あふれる大地に溶け込んでいた幻光が集まり周囲を覆う。
「すっげー......」
「まだ、従送儀士って話しだったけど......」
棺の上空に集まった幻光で作られたスクリーンに、棺から抜け出た幻光が共鳴し、故人の想い出がまるでアルバムを捲る様に浮かんでは消えていく。最後に映しだされた想い出が消えると同時に、異界送りの舞も終わり、舞っていた幻光も空に溶けていった。
「お疲れさん」
「お疲れさま」
寺院の客間に戻り、ワッカとルールーから労いの言葉をもらう。
「ナギ節っていっても、最近は不安定な情勢だからな。万が一魔物になるんじゃないかって不安だったらしいけどよ」
「ご家族も安心できたはずよ。ありがとう」
「いえ、お力になれたのでしたら」
「充分よ。それに、あんなスゴい異界送りを見たのは初めて」
「だよな。ユウナが、雷平原で歌ってた時みてーだった。どうやったんだ? あん時みたいに、スフィアスクリーンを使ったのか? もしかして、ベベルじゃああいうのが流行ってんのか? てか、ホントに初めての異界送りなのか?」
「えっと......」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、返答が詰まる。
「困らせない。いっぺんに答えられるわけないでしょ」
「ああー、わりぃ。ついな、つい」
「まったく。ごめんなさい。夕食の用意してあるから、食べていって」
「あ、お構いなく――」
「遠慮すんなって。どうせ、飛空艇は明日にならないと飛ばねーんだから」
「そういうこと。さあ、こっちよ」
半ば強引に連れられ、夫婦の家で夕食と風呂をいただき。二人に案内されて、寺院の客間に戻る。
「何か困ったこととか、分からないことがあれば知らせて」
「ありがとうございます。あの、ここの歴史の書籍を拝読させていただいていいですか?」
「それは、構わないけど。あまり、鵜呑みにしないでね」
――どういうことですか? と、小さく首を傾げる。
「スピラの歴史書は、寺院に都合よく書かれたものばかりなんだ。寺院は、いくつか大きな嘘をついてた。“シン”は、人の犯した罪が具現化した存在とか。機械を使うと罪が重くなる、とかな」
「わたしたちも信じて疑わなかった。実際それで、スピラの秩序は保たれていたから」
「全部が全部悪いってわけじゃない。普通にいいことも言ってた。自然の恵みに日々感謝して、困ってる人がいれば手を取り合い助け合って生きようとか、な。けどそれ以上に、寺院が権威を保つためについた嘘は重いって話しだ」
「祈り子様からなら、限りなく真実に近い話しを聞けるかも知れないわね。召喚士としての素質を持つ、あなたなら」
「......祈り子様。今はもう、眠っていらっしゃるんですよね?」
「ああ。試練の間の奧、祈り子の間で眠ってる。ただの石像だ」
「挨拶させていただくことは可能ですか?」
「おう、もちろん、いい心がけだ。案内するか?」
「いいえ、ひとりで大丈夫です。ありがとうございます」
ワッカに向けて、丁寧に頭を下げる。
「そっか。けど、もう遅いから気をつけろよ」
「警備員には話しておくわ。そういえばまだ、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「マヤナです」
「そう。じゃあ、おやすみ」
「お疲れさん」
「おやすみなさい」
ふたりを見送り、かつて、召喚士の行く手を阻む仕掛けが数多く設置されていた試練の間を通って、祈り子の間へ扉を潜った。
既にチカラを失い眠っているとはいえ、独特の空気が漂う部屋の中央の床に、祈り子の石像が埋め込まれている。
「祈り子様、どうか......」
石像の前で跪き、真摯に祈りを捧げる。
呼びかけに答えるかように、チカラを失ったはずの石像が輝き取り戻し、半透明の女性が姿を現した。
「祈り子様、お教えください」
――あの時、1000年前に起きた悲劇の始まりを。