FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
スピラ評議会議長バラライの命を受け、ナギ平原のレミアム寺院、盗まれた祈り子の洞窟の二箇所を巡り、急激な雪が溶けの影響で立ち入り禁止になっているマカラーニャ寺院を訪れた後、年中鳴り止むことのない雷鳴が轟く「雷平原」の旅行公司で、しばしの休息。
「次は、どこの寺院だ?」
「ジョゼ大陸沿岸沿いの頭に大陸の冠が付く、ジョゼ寺院。雷を司る祈り子様」
「マカラーニャ寺院みたいなことはないよな?」
「あそこは特別だよ。祈り子様が眠りにつかれて、マカラーニャ湖の氷が砕けて、寺院へ続く道も、マカラーニャ寺院そのものも水没しちゃったんだ」
「おかげで、死ぬかと思った。命懸けのスキューバダイビングは、もうゴメンだからな」
不満顔でひとつタメ息をつき、空をどんよりとした黒雲が覆い、降り続く雨と共に時折、稲妻が走る窓の外へ向けていた顔を、机に向かっているクルグムへ向ける。
「で、お前は何をしてるんだよ?」
「バラライ委員長宛にレタースフィア。ポストがあるから、旅の記録の報告をしておこうと思って」
「生真面目なやつ。わざわざそんなことしなくたって筒抜けじゃないか」
店先に置かれた、通信スフィアへ目を向ける。
「それでも、ちゃんと報告しないと。それと、例の件も――」
例の件と聞いて、いやでも神経が過敏になる。
「ナギ平原と、マカラーニャの旅行公司で聞いた墓荒らしのことか?」
「うん。盗掘は、実刑が科される重犯罪からね。評議会に調査してもらわないと、埋葬された死者が浮かばれないよ」
――しまった、とクルグムは手を止めて顔を上げた。
「ご、ごめん」
「別に、お前が謝ることじゃない。犯人には、キツーい制裁を科してもらわな――」
言いかけたところでドーン! と、大きな物音が店の外で響いた。ここは四六時中雷鳴が轟く雷平原、落雷もさして珍しくない。しかし、大きな物音に反射的に外を見た二人の目に飛び込んで来たモノは、落雷とは別のモノだった。
「また、魔物か!」
「マズい、外には旅人が居る! チュアミ!」
「わかってる、やるぞ!」
立て掛けていた武器を手に、旅行公司から飛び出した。
スラリとした華奢な体にそぐわない太刀を構える。遅れてきたクルグムは、異界送りの儀式にも使う杖を持つ。出現した魔物は、本来の赤紫色に巨体ではなく、青紫色の中型のベヒーモス。
「みなさん、落ち着いてください! 僕らは、スピラ評議会公認送儀士とガードです。守備隊の方々の指示に従って、旅行公司の中へ避難を!」
「このモンスター、ベヒーモスか? 生息地は、ガガゼトより北のはずだろ? なんで、雷平原に」
「気をつけて。この辺り一帯の幻光濃度が高まってる。おそらく、今まで何度か対峙した魔物と同様にオーバーソウルしたモンスターに匹敵するはずだよ。守護の盾・鎧、物理・魔法攻撃防御――」
雷平原に派遣されている守備隊に人々の避難誘導と護衛を任せて、魔物の対処にあたる。補助魔法の効果によって体が光に包まれて身の守りが大幅に強化された。攻撃を仕掛けるタイミングを伺いながら、ジリジリと間合い詰める。そして、ベヒーモスが先手で振り降ろした腕を回避し、横へ回り込んで太股に太刀を打ち込んだ。
「くっ、タフなヤツ! クルグム、時間を稼ぐ。突破口!」
「了解、
ベヒーモスの詳細が、網膜に浮かび上がる。
「雷属性の攻撃には強力な耐性持ち、重力魔法は無効。どこかつけ入る隙を――見つけた! チュアミ、距離を取って!」
その声を受け、振り下ろされた腕をかわすと同時にバックステップして距離を置く。そこへクルグムが、アルベド印の石化手榴弾をベヒーモスに向かって放り投げる。石化効果を伴う爆発で全身......とまではいかないが、五割ある石化耐性をすり抜け、左上腕部の一部が石化した。
「よし、入った!」
「後は任せな、喰らえー!」
効果は充分。石化した部位に切り掛かり、体の一部を粉砕されてバランスを崩した。あとは一方的な攻撃で一気に仕留めにいったが、倒れる寸前ベヒーモスは断末魔を上げ、上空から多数の隕石を呼び寄せた。
「メテオ!? くっ⋯⋯!」
太刀を盾代わりにして上空から降り注ぐ隕石に耐え忍び、ベヒーモスが力尽きると同時に太刀を地面に突き刺して、両膝に手をつき、上がった息を整える。
「大丈夫? チュアミ」
「あ、ああ、どうにか。お前がかけてくれた
「上位種にあたるキングベヒーモスは命と引き換えに唱えることもあるそうだけど、魔物の力が全体的に上がってる。よくない傾向だよ。レタースフィアに付け加えておかないと」
幻光になって消えていったモンスターが倒れた場所を、危機感を持った顔で見つめていたところへ、難を逃れた旅人のひとりが、エボン式の祈りで感謝の気持ちを伝えた。
* * *
「待ってよ」
「ジョゼ寺院でのお役目は済んだんだろ。次だ」
雷平原での戦闘後から、あからさまに虫の居所が悪い。理由は、自分自身が一番よく分かっている。あの礼を。エボン式の礼で感謝を意思を示されたから。
「僕に対していいよ。けど、事情を知らない無関係な人にしてみれば、ただの八つ当たりだ。感じ悪いだけだよ」
ジョゼ寺院とジョゼ街道を繋ぐ海の参道に出たところで、歩みの速度が少し落ちた。
「......悪かった。反省してる」
顔を向けないが、反省の言葉を伝える。クルグムも、イラついている理由を知っているから、これ以上は咎めなかった。
「旅も、もう半分まで来たね。ここからルカまでは、乗り物を使おう」
「いいのか? 反省を示す懺悔の旅なんだろ」
「ポルト=キーリカまで寺院はないし。何かあった時は、その場で降ろしてもらえばいいよ。僕にも、急ぎたい事情が出来たから」
「あの“シン”を倒した大召喚士、ユウナ様のことか?」
「うん。グアドサラムと幻光河で、ユウナ様の姿を見かけたって話しを耳にしたから。もしかすると、今回の件でも奔走していらっしゃるのかも。それに、聞けるかも知れないよ。チュアミの、おと――」
素早く首に腕を回し、クルグムの口を塞ぐ。
「しー! あれは、いざって時の切り札、トップシークレットだ。こんな人目の多いところで話してみろ、大事になるだろ」
「く、苦しいよ......」
「わかったか? 返事!」
「わ、わかった、わかったから、腕を――!」
「なら、よし」
首ごと絞めていた腕を放し、クルグムを解放。
「し、死ぬかと思った......。口もだけど、先に手が出るの――」
「何か言いましたかー?」
「い、言ってないっ」
身の危険を察知し、後ずさりして距離をとった。
「ったく、さっさとホバー乗り場に行くぞ」
「ハァ。今、行く」
絞められた首をさすりながら、先を行く世奈かを追いかけていったクルグムの後ろ姿を、評議会の依頼でジョゼ街道沿いの集落異界送りに来ていたマヤナがベンチに座って、目で追っていた。
「今の――」
「どうした?」
ベンチで休憩中の彼女の背を向け、反対側に広がる海の方を見ている彼女の従者、シキが問う。
「じゃれ合ってたふたり。男の子の方、召喚士だよ。きっと、ユウナ様の“ナギ節”に入ってから目覚めたんだと思う」
「“永遠のナギ節”の後に覚醒したのか。珍しいな」
「きっと、理由があるんだよ。覚醒しなくちゃいけなかった理由が――」
軽く膝を払って、ベンチから立ち上がった彼女を気遣う。
「いいのか?」
「平気。ひと休みできたから。ベベルに戻るね。ジョゼ寺院の祈り子様から聞いた話しだと、一番古くからいらっしゃる祈り子様は、ベベルの祈り子様みたいだから」
「そうか。俺も、異界へ向かう。あれから二週間あまり、どれ程のチカラを得たか」
「無茶しちゃだめだよ、シキ。異界は現世とは違っても、一歩間違えると自我を保てなくなっちゃう」
「なれば、冥利に尽きるというもの」
軽口に憤りよりも、哀しさが勝る。
「案ずるな。そこまで行きはしないさ。キミと彼女たち、そして、この世界の行く末を見届けるまでは――」
そう言い残して、いつかと同じように音も立てず姿を消した。
「あたしも、行かなくちゃ」
迎えの飛空艇に乗って、ベベルへ戻った。
* * *
「さーて、それじゃあ」
「いきますか」
「リベンジ・パート2!」
シンラ、三盟主との密談から約二週間。新しい装備を手に入れ、必要最低限の鍛錬を積み、再びグアドサラムを訪れていた。前回の時と同様、異界の門を通り、崖下の花畑から異界の奥へと進む。
「あれ? あの人も、魔物も居ないね」
「安定化が進んでるみたいだからな。ま、もっと奧に進めば出てくるだろ」
「だねぇ。ちゃちゃっと進んじゃおー」
グアド族の尽力の賜で安定を取り戻しつつある異界の更に奧へと歩みを進める。途中、現れた魔物と戦闘を繰り返しながらも、前回は二日以上かかった場所まで半日程で到達した。
「ヴェグナガンがあった異界の深淵まで、あと半分くらいかな?」
「てゆーか、アタシたち強くない? 前は、あんな苦労したのに」
「シンラの新装備のおかげだな。それにここへ来るまで、いい実戦経験を積めた」
手に持つのは、“シン”との戦闘、異界送りに使って役目を終えた杖――ニルヴァーナのレプリカ。パインはギップル手を借りて、貫通力と硬度を高めた使い慣れた剣。リュックは、独自に改良を加えた逆手持ちで取っ手の部分が円状形の短剣二本。それらの武器に加え、ドレスフィアの能力を引き出すリザルトプレート小型化し改良した新システムが登載されている。
「おっ、出たよ出たよ、出ましたよ」
「あの時と同じ魔物、新種のウェポンだね」
「お待ちかねのリベンジマッチだ。どれだけ変わったか、試させてもらう!」
前回引き返すことになった魔物、新種のウェポンと奇しくも同じ場所で遭遇。新しい装備で戦う様子を、少し離れたところで、彼は観察していた。ドレスフィアの最大の特徴である衣装チェンジの機能をカットし、別のシステムを搭載したため見た目の変化は起こらない。そのため、外見は変わらないが。しかし、前回とは明らかに戦闘の幅が広がっていた。
広く浅くの戦闘術は、高いレベルでの臨機応変の戦闘に様変わり。遂には、退散せざるを得なかったウェポンを倒した。
「ふぅ、よし」
「ちょっと時間かかったけど、倒せたね」
「慎重に戦い過ぎたか?」
「ふふーん、どうにしても強くなったってことだよねぇ。って、ことで――」
大きく息を吸ったリュックは、大声を張り上げる。
「こらーっ! 出てこーいっ!」
「出てきてくれるかな?」
「さーね」
しばらくしても反応は返ってこない。
「行こっか?」
「そうだな、ここで待ってても仕方ない」
「むむ~っ」
「リュック。わたしたちの目的は?」
「......異界の異変を調べること」
「正解。答えは、もっと先にある」
「ヒョーワミ」
アルベド語で「りょーかい」とむくれっ面で言いながら、両手を頭の後ろで組んで付いてくる。その後も、強力な魔物との戦闘をくぐり抜け、以前は辿り着けなかった、異界の最深部まで到達。
「ああー!」
大声を上げたリュックが、異界の深淵と繋がるゲートの前に立つ人影に気づいた。
「見つけたー!」
「ようやくお出ましか」
「待って」
臨戦態勢に入るふたりを制止し、前に出る。
「こんにちは」
「ご無沙汰しています、大召喚士様」
「その呼び方は、やめて欲しいかな」
「では、ユウナ様」
「様も要らないんだけど」
深呼吸をして、真っ直ぐ見る。
「ここまで来たよ」
小さく頷いた彼の背中にある、異界の深淵へと続くゲートへ視線を向ける。
「この先に、何があるの?」
「それは、ご自身の目で確かめてください。ただし――」
シキは、左の腰に差した脇差しに手を添える。
同時にパインとリュックは改めて、臨戦態勢に入った。
「結局、こうなるってことだな」
「最初から、リベンジするつもりだったし」
「待って! どうして戦うの? 一度......ううん、二回も助けてくれたのに」
「今は、話せません。ただ、ひとつだけ――」
羽織の黒いフードを被ると一歩前に出て、耳元で小さな声で囁いた。
「もし、期待にそうものなら。面白いものをお見せしましょう」
「――えっ?」
すっと距離を取り、被ったフードを脱いで、右を前に半身で構える。
「さあ、始めましょう。いつでもどうぞ」
「ユウナん!」
「構えろ、的になるぞ!」
「う、うん......」
動揺を抑え、杖を手に前を向く。
そして、戦いの火蓋が切られた。先陣を切ったのは、パイン。
「フッ!」
剣を持っていない左手で、無詠唱で数発の
「くっ、ふざけたマネを!」
「パイン、大丈夫っ?」
「ああ。何か付けてるぞ。攻撃を受けた時、素手の感触はなかった。硬い何かで殴られた感じだ。だけど思った通り、接近戦なら重力魔法は防げる」
「そうと分かれば、アタシの出番!」
身を屈めて左右に小刻み動きながら突っ込み、逆手に持った短剣を立て続けに振るう。
「このっ、このっ!」
かわされながらも、反撃の隙を許さない素速い連続攻撃。 一見意味のないように見える攻撃だったが、徐々にゲート付近にまで追い込んだ。サイドステップして大きく距離を取った一瞬の隙を、リュックは狙っていた。
「いっけー!」
右手の短刀を放り投げた。回転しながら向かってくる短刀を避け、体勢を立て直して、リュックを見た直後、避けたはずの短刀がブーメランのように弧を描いて戻ってきた。
「あったれー!」
「遠隔攻撃」
横に飛んで刀を抜き、戻ってきた短刀を空中で叩き落とす。
「いっただき!」
背を向けた背後を狙い済まし、もう片方の短剣で斬りかかる。狙いは、完全無防備になっている脇腹。直撃と思われた瞬間、弾き飛んだのは、リュックの短剣の方だった。
「い、いった~......」
「狙いは悪くありませんでした。さて――」
短剣を逆に弾いた刀の鞘を、元の左の腰へ収める。
「次は、私の番」
「杖で、刀と打ち合うつもりですか?」
「やってみないと分からないよ。
行動スピード上げ、魔力を込めた杖が輝き出した。
「えいっ!」
刀を横にして、刃ではなく面で受け止める。
その攻撃には明らかに、杖本来の打撃以外のチカラが宿っていた。
「この、チカラは......」
「聖なる魔法、ホーリー。次は、これっ!」
二撃目は、火花が散った。三撃目は、雷撃が走る。
「なるほど。その杖の一撃ごとに異なる魔法を乗せている。それも、任意で切り替えられるようですね」
「正解。感覚を掴むのに苦労したよ。でも、それだけじゃない」
やや距離を置き、杖をシキに向ける。
すると突然、小さな魔法陣が彼を囲むように足下に出現。二人が戦っている間に、拵えた魔法陣。
「これは、
「フレア!」
詠唱に合わせ、複数の魔法陣から眩い閃光と轟音と共に火柱が立ち上がった。
「もしかして、やった?」
「どうだろうな。そう簡単な相手じゃない」
「......まだだよ」
ウェポンの魔弾を全て逸らしきった防御力。そうやすやすと通るとは思わない。すると突然、火柱が揺らぎ、周囲を踊っていた焔の中から、猛スピードで人影が飛び出してきた。
「うっ!」
ガードする間もなく正面からまともに蹴りをもらい、数メートル吹き飛ばされ、地面を転がる。二人が、心配そうに駆け寄る。
「ユウナ!」
「だ、大丈夫、プロテスで軽減したから。それより気をつけて......」
「軽減して、今の威力って――」
「どうやら、やっと本気に......えっ?」
パインは、自分の目を疑った。それは、みんな同じ。
「う、ウソ?」
「あ、あなたは――」
「おいおい、あの程度で参ってるようじゃ話しになんねーぜ?」
戦っていたはずの少年の姿はなく。
黒い長髪、頭に赤いバンダナを巻き、逞しいヒゲを蓄えた色黒で大柄な男性が、巨大な黒刀を肩に担いでいた。
それはかつて、ユウナの父と共に“シン”を討伐した伝説のガードのひとり。
「よう、ユウナちゃん」
「ジ、ジェクトさん......?」
黒刀を地面に突き刺し、伝説のガード・ジェクトはニヤリと笑って見せた。