FFX-2 Another After ~薄れゆく意識の中で~ 作:ナナシの新人
突如として現れた伝説のガード・ジェクトを目の前にして面を喰らって動けずにいた。けれど当の本人はそんなことはお構いなしに、手を添えた首を少し気怠そうにして鳴らしている。
「ほ、ほんとに、ジェクトさんなんですか?」
「ん? おうよ」
蹴られた患部を押さえながら立ち上がって尋ねたところ、屈託のない笑顔を向けて、拳を握って曲げた腕を軽く振り下ろして見せる。それは、彼の息子――ティーダが気合いを入れる場面で何度も見せた仕草そのもの。信じられない、とただただ目を丸くすることしか出来ない。
「って、なんで攻撃してくんの!」
リュックは眉をつり上げて、怒鳴り声を上げた。それは、困惑している自分自身を誤魔化し、どうにかして自分を保つために咄嗟に出た言葉で。それ証明するようにパインは、どう反応すればいいのか戸惑いを隠せないでいる。
「まぁ、なんだ、あれだ。スーパースターの登場に相応しい演出ってやつだな」
「サイテー! てゆーか、死んでるはずでしょっ?」
「そうだな。
顔を背けたジェクトは、バツが悪そうに後頭部を掻いた。リュックも、無神経に言い放ってしまったことを気にして、頬を掻く。
「けど、呼ばれちまったもんは仕方ねぇ」
「呼ばれたって。もしかして、アイツが呼んだの?」
「まぁ、そんなところだな」
事態を受け止め、落ち着きを取り戻し始めたパインは見解を求める。
「ユウナ」
「呼び寄せ、だね」
「やっぱり、そうか。でも、呼び寄せは――」
「うん。本来なら呼び出した人にしか声は聞こえないはず。でもここは、現世とは異なる時を刻む異界の深部。何が起こっても不思議じゃない」
「細かいことはいいんだよ。この先に、用事があるんだろ?」
深刻な表情で話し合うのを後目に、ジェクトは曲た肘の親指で背中のゲートを差した。
「通してくれるのか?」
「フッ、そう簡単には通せねーな。この先へ進みたいってんなら、このオレを倒す以外の選択肢はねーぞ?」
「結局、戦う相手が替わっただけだか」
「アイツもそうだったけど、何で頑なに通してくんないの?」
「この先は、それほど危険なんですか?」
「そいつは自分の目で確かめな。けど、ここの門番にオレを選んだのは、アイツなりの情けだ。覚悟が決まったら武器を取れ。そいつが、試合開始の合図だ。最初に言っとくけどよ、始まったら、女の子が相手でも手加減出来ねぇからな?」
警告を発し、異界の深淵へ続くゲート前に移動したジェクトは、地面に黒刀を突き刺して、腕を組んで立ちはだかる様に仁王立ち。少し離れた場所で、戦闘前にケガと体力の回復に努めて話し合いを行う。
「どうすんの?」
「もし、仮に本物だとして。相手は伝説のガードなんだろ。わたし達が相手になるのか?」
「一度戦って倒した。“シン”を倒した三年前のあの日に。でも、あの時のジェクトさんは、お父さんの究極召喚だったけど」
「ユウナの父親、大召喚士ブラスカの究極召喚?」
「パインには、ちゃんと話してなかったね。究極召喚は、長い旅の中で生まれた絆で結ばれたガードが、究極召喚のための祈り子になるんだ」
苦楽を共にした召喚士のガードは己を犠牲にして、召喚士専用の祈りの子に姿を変え、“シン”が纏う鎧を破壊する力を持つ究極召喚なる。しかしそれは、上辺だけの解決法でしかなかった。究極召喚を使った召喚士は代償に息を引き取り、残された究極召喚獣に“シン”の核が乗り移る。鎧の再生にかかる時間がちょうど10年間、復活にかかる期間が“ナギ節”。
「ザナルカンド遺跡で真実を知った私たちは、別の方法で“シン”を倒す方法を探した。飛空艇で“シン”の体内に入って直接、“シン”を形成する核を倒したんだ」
「それが、あの祈りの歌の作戦の全容だったのか」
「うん」
「けどさ、同じ人間同士なら勝てるかも。相手は、死人だけど。同じ死人のシーモアも、ユウナレスカも倒したし。てゆーか、倒さないと先に進めないんでしょ?」
「やるしかないな。地上の異変を解明するためにも――」
「そだね。戦おう」
戦う決意を固め、各々武器を持って、ジェクトの前に立つ。
「どうやら、腹は決まったらしいな」
「はい......!」
「いい目だ。ブラスカにそっくりだ。よっしゃ、いっちょおっぱじめるとすっか!」
黒刀を抜いたジェクトは、目にもとまらぬスピードで突進。
防御しようと杖を身構えたところへ、パインが庇うように入り剣で受け止めたが、圧倒的なパワーで押し込まれる。体勢が崩れかけたところを、ガードの上からだろうとお構いなしに連撃。
「オラオラオラオラーッ! ワンマンショーだッ!」
「ぐっ!」
防ぎきるだけで精一杯のラッシュのラストで掴まれた腕が、爆発した。爆発を受けた腕を抱え、パインはその場で片膝をつく。
「パイン!」
「大丈夫だ。油断するな、本気で
「どうした? もう、ギブアップか? ウォーミングアップにもなりゃしねぇぞ」
不敵に笑う、ジェクト。
容赦のない連撃の圧倒的なまでのプレッシャーを感じてしまい、なかなか攻撃を仕掛けるタイミングを掴めない。
「なんだ? 来ねーんなら、またこっちから行くぞ?」
「来るぞ、散れ!」
パインの合図で、バラバラに動く。標的になったのは、リュック。
「スピラに来たばっかの頃、息子が世話になったんだってな」
「どういたしまして! お礼に通してくれると嬉しいんだけどっ!」
「そいつは、出来ねぇ相談だ! 泣くんじゃねぇぞ? オラよッ!」
金属製のアーマーで覆われた左腕を振り払い、短剣の攻撃を防御。攻守交代、即座に反撃に転じる。拳を地面に叩き込んだ際の衝撃波で吹き飛んだリュックは、空中で体勢を立て直し、バック転で着地。
「なんか、究極召喚の時より強い気がするんだけど......」
「きっと、異界だからだよ。幻光濃度が高い異界は、死人ととの相性が良いんだと思う。一対一は、ジェクトさんの土俵。私たちが勝つためには、コンビネーション」
個々の能力では勝てない、チームワークで攻撃を仕掛ける他勝機はない。リュックとパインは、各々の特徴を最大限活かし、接近戦に持ち込む。鍛え上げたパインの剣は、左腕を覆う金属製のアーマーの上からでも確実にダメージを与え。小回りの利くリュックは、ヒットアンドアウェーの激しい出入りで揺さぶりをかける。そんなふたりが必死に時間を稼いでいる間に、詠唱に時間がかかる魔法を打ち込むタイミングを虎視眈々と狙う。
「よっと、はっ!」
「喰らえ!」
「チッ! ちょこまかと鬱陶しいってんだよ!」
バックステップしたリュックのタイミングに合わせて思い切り踏み込み、右足を振り抜き蹴り飛ばした。
「あ、イタっ!?」
「リュック!?」
「よそ見してる暇はないぜ? 逃がさねぇぞッ!」
「しまっ――!?」
渾身の力を込めた左ストレート。剣でのガードが間に合わず、咄嗟に受けた左腕の骨が砕けるような鈍い音を鳴らす。防御していなければ、顔面に直撃していてもおかしくない猛烈な一撃を貰って顔を歪めたパインは身体を打ち付けて転がり、リュックと同様に地面に膝をつく。
「ま、こんなもんか。さてと」
「――今だ!」
「ぬうぉ!?」
動きが止まったところへ、強力な重力魔法を発動。ジェクトの体に強烈な負荷がかかる。重力場に引かれて落ちた両肩を膝をついて立っているのがやっとの状態。
「ジェクトさん、私たちの勝ちです。降参してください」
「ハハ、やるじゃねぇか、ユウナちゃん。けどよ、勝った気になるのはまだ早いぜ。手加減出来ねーって言っただろうがよ! ウオォーラァッ!」
力を解放させ、体の自由を奪う重力場を突き破ったジェクトの姿が変化。体の大きさはそのままに、ブラスカの究極召喚獣の姿に変貌を遂げる。
「なっ!?」
「うそ、反則だよ」
「召喚獣化? そんな――」
「さぁ行くぜ、第二ラウンドだ!」
変身したジェクトの攻撃はますます激しさを増し、防戦一方の展開を強いられる。それでも、寸での所で凌ぎきり、決定打を浴びずにいる。
「ユウナ。わたしとリュックで時間を稼ぐ。もう一撃、強烈なのをお見舞いしてやれ」
「でも......」
幻光河で重力魔法の威力を身をもって知り、一から必死の努力の末に会得した重力魔法は、ある種切り札的な
「わわっ! パイン!」
「とにかく、考えてくれ。頼んだ!」
援護へ走る、パイン。必死に考えを巡らせる。重力魔法は効かない、無属性のフレアをものともしない耐久性。
「――そうだ!」
思いついた戦術を行うべく、杖に全神経を集中させる。
ジェクトと戦っている二人は、とあることを感じていた。
「あのさ、ちょーと思ったんだけどっ!」
「なに?」
「結構、避けれてる気がしない?」
「奇遇だな。わたしも同じことを思ってた」
二人の感覚の通り、ジェクトの動きが僅かに鈍くなってきていた。避けながら、会話を交わせるくらいにまで。
「だよね!」
「もしかすると、召喚獣化は身体にかかる負荷が大きいのかも」
「なら、もっと揺さぶって――」
遠距離から、石化効果を持つ光線が放たれた。一瞬目を離したリュックに直撃、大きなダメージを受けるも、防具に組み込んだ
「あ、イタタ~......あっ!」
「ゲームオーバーだ」
そのリュックを目がけて振り下ろされた黒刀を、パインが剣で受け止める。
「くっ、動けるかっ?」
「う、うん......」
足を引きずりながら、リュックが離脱するも、腕を痛めているパインは、攻撃を受け止め続けるだけで精一杯。一瞬でも力を抜けば、斬撃をまともに喰らってしまう。痛みに耐えながらのつばぜり合いの均衡が破れ、徐々に押され始めた、その時――。
「さて、どんだけ耐えられっかな?」
「くっ!」
「パイン!」
「ユウナ!?」
二人の声を聞いたジェクトが振り向く。頭上からの攻撃。つばぜり合い中の黒刀から放した左腕で、振り下ろされる杖を受け止めるも。
「えいっ!」
「甘ぇ......な、何ッ!?」
重力魔法を纏わせ、自由落下の力も利用して破壊力が向上した杖を叩き込まれ、金属製のアーマーごと腕を弾かれた。続けざまに右手を、ガラ空きになったジェクトの胸に押し付ける。
「これで、ラスト! ホーリー!」
「やべぇッ!?」
ゼロ距離からの、全力のホーリー。
聖なる光りが視界を遮り、徐々に辺りが見えてくる。ふたつの人影が、向かい合ったまま座り込んだ。
「今のは、さすがに効いたぜ」
「でも、倒せませんでした......」
「はっはっは、オレは特別だからな。座らせただけも大したもんだぜ。なーんてな......」
召喚獣から元の姿に戻ったジェクトは、そのまま仰向けに寝転んだ。
「もう、動けねぇ。ユウナちゃん、お前たちの勝ちだ。行きな」
立ち上がり、身体から幻光が抜けつつあるジェクトに向かって丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました。またお会いできて嬉しかったです」
「おうよ。オレも、久々に全開で暴れられてスッキリしたぜ。嬢ちゃんたちもな」
回復薬や包帯で治療しているリュックとパインに、屈託のない笑顔を向ける。
「殺されるかと思った」
「たまんないよねぇ~」
そんな二人に対し、満足そうだった。
ジェクトにもう一度頭を下げ、二人と共に「異界の深淵」へと続くゲートの前に立つ。
「いよいよだな」
「うん」
「準備いい?」
「ああ、治療は済んだ。ユウナ」
「じゃあ、行こう!」
緊張した面持ちでゲートを潜った。
少し歩いて、かつて、ヴェグナガンが存在していた異界の深淵へ辿り着いた。
「これ、どういうこと?」
「何も......ない?」
いくら周囲を見回しても、何一つとして変わった様子は見受けられない。
「ユウナ」
「幻光は多いけど、特に変わった様子はない、かな」
「それって、普通ってこと? でも、ここへ来れば何かが分かるんじゃなかったの?」
「いや、誰もそんなことは言ってない......」
語気を強めるリュックとは対照的に、パインは冷静に思い返していた。
「行ったところで今は、どうすることも出来ない。あの言葉を、わたしたちの
「......そっか。根本的な原因は別にあって、異界そのものにはない。でも、幻光が多くて安定していないことは事実だから近づくな、危険だから。そうとも解釈できるね」
「なにそれ、なんでそんな誤解させるような言い方。もう! コラー! 納得出来る説明しろー!」
木霊する怒鳴り声が消えると同時に、後方から足音。
「あー!」
「ホントに出たな」
二人の前に出て、姿を現した少年――シキと向き合う。
「説明してもらえるよね?」
「ですが、その前に単刀直入にお伺いします。あなた方は――」
後に続いた言葉は――人を斬れますか。