異聞帯モルガンと幸せに暮らす話   作:マハニャー

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 ワクチン二回目の接種を終えて、副反応で数日寝込んでました。
 更新が遅れて申し訳ないです。


モルガンと家族でお出かけする話

 現在の季節は4月中旬、春。日本でもまだ若干肌寒い季節だが、イギリスの気候はそれよりさらに寒い。

 日中の最高気温も10度を上回る日は珍しく、手袋やマフラーとまでは言わずとも、コートは必須である。

 幸い今日は天候に恵まれ、空は快晴、気温も8度と季節にしては若干高め。絶好のお出かけ日和だ。

 

 お出かけを決めた一家は十分ほどで着替えを済ませ、モルガンの魔術で時計塔を経由してロンドンの街へと繰り出した。

 ちなみに今日のモルガンの装いは、ゆったりとした暖色のセーターにベージュのパンツ、その上からねずみ色のスプリングコートという、彼女の持つ怜悧な美貌と見事なスタイルを最大限生かしたクールなものだ。

 対してバーヴァン・シーは、白のブラウスの上に赤いジャケットを羽織り、下はひざ丈の黒のプリーツスカートに同色の二―ハイソックス。足にはもちろん丈の高い真っ赤なハイヒールである。派手と言えば派手なファッションだが、彼女の華やかな雰囲気によくマッチしていた。

 そんな二人の隣に立つ慎也はと言えば、シャツにジーンズ、黒のトレンチコートという平凡なものである。しかし慎也自身平均以上のルックスで、身長も180cmほどあるために、ともに170を超える女性陣に見劣りすることもなかった。

 

 今日三人が向かうのは、ロンドンのウエストエンドにあるナイツブリッジ。

 ここには多くのブティックやデザイナーズブランドが揃い、ファッションのチェックをするには最適な場所である。

 建物の外装など上品な雰囲気が漂い、高級感がある。

 同じファッション目的ならキングスロードという選択肢もあったが、そちらは富裕層がこぞって利用するような本物の高級店ばかりで、他の同年代と比べると経済的余裕はあるが学生の身では流石に敷居が高かった。バーヴァン・シーは不満げだったが、勘弁してほしい。

 

 ナイツブリッジは時計塔からそれなりに距離がある。

 徒歩で行くには厳しい距離なので、今回は馬車を使って移動することにした。

 バスという手段もあったのだが、妖精にとって加工した鉄は毒になる。まして機械の塊である車という密室となれば、例え短時間であっても、人間として受肉したモルガンはともかく妖精として召喚されたバーヴァン・シーにどんな影響があるかわからない。

 そんなモルガンの主張により、馬車を呼び寄せることなった。

 呼んだのは四輪二頭立て屋根ありの辻馬車。6人は乗車できる馬車を三人で使用する。

 

 御者との待ち合わせ場所である駅までは徒歩だ。

 休日の昼間だけあって人通りはそれなりで、手を繋いで仲睦まじい様子の母娘はやはり周囲の注目を浴びていた。なにせ信じられないような美女と美女だ。

 そんな二人の一歩後ろを歩く慎也は、時々二人から振られる話に受け答えしながら、周囲に目を光らせていた。

 美女二人へのナンパな男たちや痴漢などはもちろん、受肉した神代の魔女と現界したサーヴァントの組み合わせだ。魔術的な価値も計り知れない。

 実際にこれまでも先走った魔術師や、犯罪行為に魔術を行使する魔術使いなどに襲撃されたことがあり、その度に二人は敵を排除していた。警戒するに越したことはない。

 

 表面上和やかに歩む一行は、やがて目当ての駅に到着した。

 そこで待機していた辻馬車の御者に声をかける。彼は二人の顔を見て随分と動揺した様子だった。

 明らかにぎくしゃくした動きで案内する彼に苦笑しながら、一行は馬車に乗りこみ、行き先を告げる。

 三人横一列で座り、モルガンを慎也とバーヴァン・シーの二人で挟む形だ。

 

 御者が手綱を握り、馬車はゆっくりと進み始める。

 カッポカッポと蹄が石畳を叩く音が響く。街中ということでそくどはそれほどでもないが、緩やかに上下する光景は、馬車に乗った経験のない慎也には新鮮なものに思えた。

 しかし、同乗者の二人はそうでもないようで、

 

「二人は慣れてるみたいだね?」

「妖精國では馬車が基本でしたので」

「つーか遅くね? もっと飛ばせよー」

 

 不満げにぶーたれるバーヴァン・シー。今にも車体を蹴りそうな勢いだ。

 モルガンはそんな娘に溜息を吐いて、

 

「落ち着きなさい、バーヴァン・シー。慌てずとも、店が逃げることはありませんよ」

「……時間は逃げるわ」

「む」

 

 お母様と行くショッピングが余程楽しみで仕方がないらしい。

 窘められても頬を膨らませたままのバーヴァン・シーに、モルガンも困った様子だ。

 聞き分けのない娘に呆れればいいやら、とても可愛らしいわがままに笑えばいいやらで、実に奇妙な表情をしている。

 助けを求めるようにこちらを見るモルガンに、思わず苦笑する。

 

「まぁまぁ。旅は道のりを楽しむものとも言うし。それほど大袈裟なものでもないけど、君もこうしてロンドンの街並みをじっくり見たことはないだろう?」

「むぅ」

 

 流石にこれでは駄目なようだ。大人しくしていてくれるだけでも御の字だろうか。

 こっそりと御者にチップを渡し、少しだけスピードを上げてもらえるように頼んでおく。

 

 そして一時間ほどの移動時間を経て、三人はようやく目的地であるナイツブリッジに到着した。本来の所要時間より30分近くも早い。

 馬車から降り、御者に運賃を払う慎也。無茶を言って申し訳ない、と謝罪するが、楽しんできてください、と笑顔で返された。ありがたい限りだ。

 

 モルガンと手を繋ぎ直したバーヴァン・シーも待ちきれない様子だ。

 早速三人は、事前に予定した通り、デパートの中にあるとある高級ブティックへ向かう。

 高級デパートだけあって、店内を歩いてショーウィンドウを見て回るだけで結構楽しめた。

 

 そして、三人は目的のブティックに到着した。

 見るからに高級感漂う佇まいの店で、小市民の慎也は少し気後れしてしまったが、かつては一つの世界を統べていた女王とその娘は気にした様子もない。

 無人の野を行くように堂々とした足取りで入店した二人を見て、店員たちは驚いたような顔をしつつも、すぐに表情を整えて綺麗な一礼を見せる。流石はプロである。

 その後に続いて慎也も足を踏み入れる。本人は内心ひどく恐縮しているが、はたから見ればそう見劣りするものでもない。

 整った顔立ちや体格だけでなく、かつて多くの戦場を経験した彼には、ある種の風格のようなものが備わっていた。

 

 とんでもない美人が二人と、妙に風格のある青年という、様々な客を迎えてきた百戦錬磨の店員たちも動揺を隠せない。

 所狭しと並ぶ服を見物しながら、三人は連れ立って店内を歩き回る。

 

「見て見てお母様! これ可愛くない? きっと似合うわ!」

「えぇ、きっとお前によく似合うでしょう」

(モルガン)に似合うって意味だと思うなぁ……」

 

 手に取った服を広げて笑いかけるバーヴァン・シーに、モルガンは大真面目な表情で頷いた。

 思わず突っ込みを入れると、彼女は「む」と唸って、

 

「……ですが、今日の主役はバーヴァン・シーでは」

「私がお母様の服を選んであげたいの!」

「……では、お願いしましょうか」

「えぇ、任せて! とびっきり可愛くコーディネートしてあげる!」

 

 どこか困ったように、けれど嬉しそうに微笑むモルガン。

 バーヴァン・シーに次々と服を押し付けられ、押し込まれるように試着室へと入っていくモルガンの助けを求めるような視線を、慎也は笑顔で封殺して見送った。

 本人も本気で嫌がっているわけではなさそうだったので、娘の気が済むまで着せ替え人形になるといい。

 

 ウキウキと落ち着かないバーヴァン・シーを宥めながら待つこと数分。

 遠慮がちに引かれたカーテンの向こうから姿を現したモルガンの姿に、慎也は息を呑んだ。

 

「私には、このような服は似合わないと思うのですが……」

「そんなことないわ! とっても綺麗で可愛いわ! ね、お父様!」

「――もちろん。本当によく似合ってる」

 

 彼女が身にまとうのは、清純な印象の白いワンピースと、薄紅色のカーディガンだ。

 普段は凛々しくキリっとした格好いい女性という印象が強い彼女だが、その儚げな美貌も相まって、一気に清楚で物静かな深窓の令嬢といった風情の美女になった。

 どこか気恥ずかしそうにする仕草も、その印象を助長している。

 

「とりあえずこれは買いで」

「ありがとうお父様!」

「…………」

 

 諦めたように、ふぅ、と一息つくモルガン。

 しかし、

 

「じゃあ次の服ね!」

「⁉」

 

 愕然とするモルガンだが、一着だけで終わるはずもなく。

 それから実に1時間ほど。はしゃぐバーヴァン・シーの熱に吞まれるように、バーヴァンシーによるモルガンのコーディネートは続いたのだった。

 誰もが目を奪われる美貌を持つモルガンのそんな光景は、当然のように他の客の注目を集め、店内は彼女のファッションショーの様相を呈していた。

 最愛の女性が衆目を集めることに、誇らしさと嫉妬が入り混じった複雑な感情を抱いていた慎也だったが、撮影などの不埒な真似をする者が出てこないように目を光らせるのは忘れない。

 結局、店員の注意で集まった客が散らされるまでそのショーは続き、店員からは謝罪を受けることになってしまうのだった。

 

 ともかく、一通り見て回りバーヴァン・シーが満足したところで、そのショーは終わりを告げた。

 厳選して尚相当な量になった服をレジに持って行き、清算する。

 ……予想していたより高い。カードを持ってきてよかった。

 胸を撫で下ろす慎也だったが、

 

「……では、次はバーヴァン・シーの番ですね」

「えっ?」

「そもそも今回の目的はバーヴァン・シーの服を見繕うことだったはずでしょう? それに、今日の主役はこの娘です。この母が、お前を美しく飾り立ててあげましょう」

「嬉しいわ、お母様!」

「は、ははは……」

 

 そうは問屋が卸さないようで。

 慎也は引き攣った笑顔を浮かべて、買った服を宅配便で家まで送り届けてもらうための手続きを始めるのだった。

 

 

§

 

 

 ようやく服選びを終えた3人は、バーヴァン・シーきっての要望であるハイヒールを見るためにデパート内で最大の規模の靴屋に向かっていた。

 手を繋いで歩く母娘はとても仲睦まじく和やかな雰囲気だが、慎也は先ほどのブティックで購入した商品のレシートを眺めながら、重い溜め息を飲み込んでいた。

 家族の幸せのためなら躊躇はないが、それはそれとして中々に痛い出費である。

“彼女”に頼んでそれなりに稼ぎのいい案件でも回してもらおうか。お金の余裕はあるに越したことはない。

 

 そんな中で、ふと甘い匂いが漂ってくるのに気づく。

 

「何か美味しそうな匂いがするわ……」

「たぶんあれじゃないかな」

「クレープ、ですか」

 

 慎也が指を指す先には、一軒のクレープ屋があった。

 あまり甘いものが得意ではない慎也ですら店名に聞き覚えがある有名店で、店の前には行列ができていた。

 

 最初に気付いて声を上げたバーヴァン・シーを見ると、どこか物欲しそうな視線をそのクレープ屋に向けていた。

 

「欲しいなら買ってこようか?」

「い、いいの?」

「もちろん。何をそんなに遠慮してるの?」

「だ、だって……さっき、凄く深刻そうな顔してたし……私、ワガママ言い過ぎたかな、って……」

 

 おずおずと、普段とは打って変わって弱弱しい様子のバーヴァン・シーに、あちゃーと天井を仰ぐ。

 かつては妖精であった彼女にとってお金という概念はまだ慣れないもののようで、慎也の意図を正確には読み取れなかったものの、その表情から察してしまったらしい。

 

「大丈夫さ、クレープの一つや二つで今更どうにかなるほど逼迫してるわけじゃない。これからヒールも見に行くんだろう?」

「そ、そうだけど」

「よいのです、バーヴァン・シー。お父様はその程度のワガママも聞き入れてくれないような甲斐性なしではないのだから。そうでしょう?」

「ははは……お手柔らかに」

 

 二人に励まされて、バーヴァン・シーはまだ少し気にした様子ながらも、笑顔で頷いてくれる。

 クレープ屋の方に向かって歩きながら、看板のメニューを凝視してうんうんと唸っている。

 

「チョコバナナ……ストロベリー……キャラメルホイップ……うぅ、どれも美味しそうで選べないわ……!」

 

 頭を抱えてしまうバーヴァン・シーに、慎也とモルガンは微笑み合った。

 

「では、こうしましょう。私とお前と慎也で1つずつ違うメニューのクレープを買い、それを分け合うのです」

「……! それだわ! 流石お母様!」

 

 ぱっと笑顔を輝かせるバーヴァン・シー。

 そんな彼女とモルガンを置いて、慎也は一人列に並ぶ。二人のような美女二人を置いていくのは少し心配だが、モルガンが付いていれば問題はないだろう。

 列に並んでいるのは十人前後。それなりに待たされることになりそうだ。

 

 

§

 

 

 列に並ぶ慎也を見送って、モルガンはそっとバーヴァン・シーに語り掛けた。

 

「……バーヴァン・シー。我が娘」

「なぁに、お母様」

「お前は今、幸せですか?」

「幸せよ、すっごくね!」

 

 モルガンの問いに、バーヴァン・シーは一瞬の躊躇もなく答えた。

 思わず口を閉じてしまうモルガンに、彼女は屈託のない笑顔で言葉を重ねる。

 

「確かにこの世界はチョット退屈かもしれないけど、ご飯は美味しいし、ゲームは楽しいし、夜も寒くないし……とっ、トモダチもできたし! お父様も……まぁ、お父様で遊ぶのは楽しいし、ワガママも聞いてくれるし」

 

 何より、と。

 

「お母様が、笑ってるもの!」

「私が……?」

「えぇ。妖精国の時のお母様もとっても格好よくて素敵だったけど……今みたいに、幸せそうに笑ってるお母様の方が、ずっとかわいいし、ずっと好きよ」

「…………」

「お母様を幸せにしたことだけは、あのヒト(お父様)を認めてあげなくもないわ。ほんのちょっとだけどな!」

 

 ふん、とそっぽを向くバーヴァン・シーの表情は、言葉とは裏腹にとても嬉しそうだった。

 

 彼女は、変わらない。妖精國に居た頃の彼女。モルガンが、全てを賭けて守ると誓った彼女。

 どこまでも自分のことを蔑ろにできて、どこまでも他人のために自分を捧げられる彼女。

 誰かの幸福こそ己の幸福なのだと心の底から思える、思えてしまう、誰よりも心優しい小さな妖精。

 

「お母様はどう? 今、幸せ?」

「――えぇ、幸せです。とても……とても」

 

 ――お前が笑ってくれるのなら。

 

 かつて、妖精國の女王として在ったモルガンの最大の望みは、バーヴァン・シーというちっぽけな妖精が幸せであってくれることだった。

 その妖精がくれた言葉は、擦り切れた彼女に、理想に縋って立つしかなかった彼女の心に、愛をくれた。

 その笑顔を守るためならば、数千年の理想を捨てても惜しくはないと思えるほどの、光をくれたのだ。

 

 けれど彼女は失敗した。

 愛を守ろうとした彼女は、その愛によって、己の理想を、命を、愛を奪われた。

 

 聖杯戦争に召喚されて、好機だと思った。

 全ての願いを叶える、万能の願望器。

 彼女が願ったのは、やり直し。今度こそ。今度こそ、決して揺るがない己の王国を作り上げ、あの哀れな少女を幸せにしてみせると。

 史上最高位の楽園の妖精として生まれた彼女は、聖杯というものの本質を見抜いていた。

 聖杯には彼女の願いをそのまま叶えるような力はない。しかしその莫大な魔力は利用できる。

 英霊として汎人類史の聖杯戦争に召喚されるという数奇な運命を嘲笑いながら、彼女は戦争に臨んだ。

 

 しかし、彼女はその戦争で、恋をした。

 彼女を召喚したマスター。己を取り巻く世界に裏切られて、生贄として浪費される死を受け入れようとしていた、一人の青年。

 彼と言葉を交わし、戦いを共にし、時を過ごす中で。彼女は、愛を知った。

 小さな妖精に向けるそれとは異なる、けれど同じぐらいの熱を持った感情。

 

 それを知ってしまったら、もう駄目だった。

 思ってしまったのだ……幸せになりたい、と。

 何もかもを奪われてきた人生。今度こそ、自分も幸福を手に入れたい。

 

 そのために、彼女は戦った。

 死闘を潜り抜け、他の英霊たちを蹴落として、聖杯を手にして、人間として生まれ変わった。

 

「慎也に出会って、愛を知って、結ばれて。平凡で、けれど暖かい営みを手に入れて。私を慕ってくれる若い弟子たちも居て」

 

 そして、バーヴァン・シーが居て。

 彼女のワガママでここに居る少女。最愛の娘。守りたかった光。

 バーヴァン・シーは今、笑っている。彼女の隣で。

 今が幸せだと、そう言ってくれている。

 

「お前が……お前が、私の隣で笑ってくれている。

 慎也が、私を愛してくれている。私も彼を愛している。

 家がある。キャメロットの城塞とは比べ物にもならない、けれど、とても暖かい。

 ――幸せです。私は、この世の誰よりも、幸せなのです」

 

 胸を張って、そう言える。

 

 そっと目の前の赤い髪の少女の頬に手を当てると、くすぐったそうに微笑んで、握り返してくれる。

 ……暖かい。触れ合った手のひらから伝わる熱が、どうしようもなく心地いい。

 

「おや、何だかいい雰囲気だね?」

 

 ……そして、もう一つ。

 

 彼女の幸せが、不思議そうに首を傾げている。

 手を握り合ったままのバーヴァン・シーがふん、と鼻を鳴らすと、彼はますます首を傾げてしまう。

 そんな彼の、ちょっと間抜けな仕草が、心の底から愛おしい。

 

「はい、これ。こっちがストロベリーで、こっちがチョコバナナ、キャラメルね。どれがいい?」

「私はストロベリー! ……んー、おいしー!」

 

 目をばってんにして歓声を上げるバーヴァン・シー。

 

 モルガンも慎也からクレープを受け取って、一口齧る。

 口の中に広がる、暴力的なキャラメルの甘味。甘すぎるほど甘い味。

 ふっ、と笑みが漏れる。

 

「美味しいですね、とても」

「でしょ? こっちも食べてみて、お母様!」

 

 バーヴァン・シーから差し出されたクレープを一口含むと、さっきとは打って変わって、酸味と甘味が入り混じった刺激的な味が弾けた。

 これも、美味しい。

 

「ほら、お父様。一応、買ってきてくれたお・れ・い」

「最初から分け合おうって話だったよね? まぁ、ありがたく……ってこら、引っ込めるな!」

「キャハハッ、引っかかってやんの! 先にそっちをもらってからだぜ!」

「まったく……ほら。……フッ、引っ掛かったね!」

「ふぐぅ……! 器のちっせーヤツ!」

「はははは僕もまだ18歳なんでね! 大人の余裕なんてのは期待しないでほしいな」

 

 ぎゃーぎゃーと、笑顔でじゃれ合う二人を見て。その光景を、目に焼き付けて。

 

 ……あぁ、幸せだ。

 




 幸せって単語がゲシュタルト崩壊しそう。

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