レウスはレイアを拒めない   作:黒雪ゆきは

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011 穏健派と過激派。

 人間の『慣れ』とはこんなにも恐ろしいものなんだと、俺は改めて思い知った。

 俺はいつしかこの命の軽い残酷極まりない世界に順応し始めていたんだ。

 その理由はいくつか考えられる。

 

 まずは、この世界でもモンスターに一定のモーションが存在していたこと。

 もちろんモンスターが生きている以上、ゲームとそのまま同じとはいかない。

 しかし、そのモンスターの最も警戒しなくてはならない攻撃や特徴的な攻撃なんかの前には確実に固有の溜めモーションがあるんだ。

 

 だからこそ俺のモンハンの知識と経験を生かすことができた。

 幸い、思い描いたことを忠実に再現してくれる強靭な肉体もある。

 鍛えればそれだけ応えてくれるのだから、大抵のモンスターを狩り殺すのに恐怖をそこまで感じなくなった。

 

 今思えば、最初に見たリオレウス希少種とリオレイア希少種の戦闘は『縄張り争い』の一種だったのかもしれない。

 そう考えると、あの型にはまらない苛烈で恐ろしすぎる戦闘も理解でき……なくはない。

 だがこの予想には俺の希望や願望が色濃く反映されてしまっていることを忘れてはいけない。

 

 そうだったらいいな、と思っているだけなんだ。

 当然、あの2匹が完全に俺の知らない行動をする可能性も視野に入れなくては。

 その覚悟と心構えがなければ、逃げ延びることすら難しいのだから。

 

 もう一つの理由としては、俺の防具がめちゃくちゃ優秀だったこと。

 防御力の概念がしっかりとあり、現状では大抵のモンスターの攻撃にはダメージがほとんどないのだ。

 吹き飛ばされたりはするが、それにさえあまり痛みがない。

 

 これは本当にありがたい。

 

 生存率がうんと上がった。

 

 とはいえクエストをこなすのは簡単ではない。

 ゲームのように数分、数十分で終わるわけではないからだ。

 俺が主にクエストをこなしていた『古代樹の森』は一歩間違えば迷って出られなくなってしまう。

 

 まあ、最悪モドリ玉で翼竜を呼び寄せることもできるから本当に危機を感じているわけではないんだが。

 

 足でモンスターを探し、周囲を警戒しなくてはならない。

 なぜなら、他のモンスターに乱入されでもしたらたまったもんじゃないからだ。

 

 その他にもどんな危険があるかわからない。

 注意しすぎるなんてことはないだろう。

 

 だから俺は、常に隠れられる場所を意識して探索を進めている。

 ヤバいモンスターを見つけた瞬間に隠れ、生き残るためである。

 臆病で何が悪い。

 例えどんなに情けないと罵られたとしても、俺は臆病でい続けるさ。

 死ぬよりはいいんだから。

 

 まあつまりは何が言いたいかというと、ゲームとリアルのギャップはやはり大きいということだ。

 

 モンハンなんて購入したその日、遅くても2日以内にはラスボスを討伐していた。

 それが当たり前。

 ラスボス倒してからのやり込みが本番なのだから。

 

 だが、この世界ではどうだ。

 

『ゾラ・マグダラオス捕獲作戦』に至るまでに数ヶ月もの時を要した。

 

 当然と言えば当然なのだろう。

 

 これでも総司令を始めとした色んな人からよく賛辞の言葉をかけられているんだ。

 君のおかげで調査がとても捗っている、と。

 

 そう、現実はとても大変なのだ。

 一つの簡単なクエストでさえ神経をすり減らす。

 ほんの僅かなミスによって命を落とす残酷な世界なのだから。

 

 

 だが、さらに恐ろしいことがある。

 

 

 本当に恐ろしいのは───こんな残酷な世界にさえ、人間は『慣れ』てしまうことだ。

 

 実際に俺はこの世界に慣れ始めていた。

 いや、すでに慣れきっていたのかもしれない。

 古龍である『ネルギガンテ』と対峙しても、俺は恐怖をあまり感じなかった。

 

 心にはあったのは『恐怖』ではなく『高揚』。

 狩りのスリルに全身の血が沸き立ち、俺はいつの間にか楽しんでいたのだ。

 

 これが『ハンター』の気質なのかもしれない。

 本来、こんな世界を楽しめるはずがないんだ。

 

 

 俺は……心もこの世界の『ハンター』になりつつある。

 

 

 しかし、俺は恐怖を再び思い出した。

 あの金銀夫婦と再会したことで。

 濃厚すぎる殺気を直接ぶつけられた。

 戦慄が身体を突き抜け、寒くもないのに震える歯がガチガチとうるさかったのを今でも鮮明に覚えている。

 

 

 そして───その金銀夫婦を従える謎のアイルー。

 

 

 それを見た瞬間、俺は頭がどうにかなりそうだった。

 アイルーのモーション知識などありはしない。

 あったとしても勝てる気がまるでしないが。

 

 俺は心に刻んだ。

 

 あの恐怖を忘れてはいけないんだ。

 

 一縷の隙もあってはならない。

 

 慢心は死に直結する。

 

 所詮俺は脆く弱い人間でしかないのだから───。

 

 

 ++++++++++

 

 

「クソッ……やっぱり無理だ。何回やっても勝てん……」

 

 金銀夫婦との戦闘を想定しての訓練。

 だが毎回とてつもなく被弾してしまう。

 俺は数回被弾したら撤退すると決めているので、その時点で負けだ。

 何度やっても撤退せざるを得なくなる。

 

 いや……それ以前に恐怖で体が竦み、動きが悪い。

 

 俺は汗を拭いながら大剣を地面に突き刺した。

 

 イメージトレーニングでさえこの恐怖。

 戦うべきではないと改めて思う。

 まず2匹同時に相手にしなくてはならないというのが、ハードルが高すぎる。

 ふざけんな。

 無理だわそんなんボケが。

 

「相棒ーっ!!」

 

 ……いや、ちょっと待て。

 なんで俺はソロで挑もうとしてんの? 

 クソ、バカかッ!! 

 とりあえずどんなクエストもソロで攻略しなくてはならない、という呪いに知らず知らずのうちにかかっていたッ!! 

 

 これは現実だぞっ!? 

 何考えてんだ俺はッ!! 

 

「相棒ーっ!!!!」

 

 ゲーム脳の悪い部分がでた。

 まだ抜けきっていなかったのか。

 こんなヤバすぎるクエスト、パーティーを組んで挑むべきなんてこと駆け出しハンターでも分かるぞ。

 

 でもどうする。

 人数が多ければいいというわけではない。

 大剣を使う俺からしたら邪魔なだけだ。

 それにヘイトが分散して火力がだせない。

 

 ……いや、火力ってなんだよ。

 

 まただよバカタレ。

 火力なんて二の次。

 大事なのはいかに安全に、リスクを少なくして討伐できるかどうかだろうが。

 

「もうッ!! 相棒ってばぁぁぁッ!!!」

 

 パンッ、と頭を衝撃が襲った。

 

「あたっ」

 

 ちょっとハードに訓練しすぎたせいか身体から力が抜けてしまい、俺は衝撃と重力に抗うことなく地面にバタリと倒れてしまった。

 

「えっ……あ、相棒ぉぉおおおおっ!! 死なないでください相棒ぉぉおおおおっ!!」

 

「……うるさい」

 

 相棒相棒うるっさいんじゃバカタレ。

 全く気づかなかった。

 いつからいたんだろコイツ。

 

「よかった……生きてたんですね。あまりに死んだように倒れるもんだから私てっきり……。相棒の死んだフリはゲリョス顔負けですね!」

 

「鬱陶しい……疲れたからどっか行ってくれ……」

 

「そうはいきません! お忘れですか? 今日は『過激派』の方々との討議が行われる日。この討議によって総司令がアステラの方針を決定するんですよ。相棒もこの日だけは譲れないと意気込んでいたではないですか」

 

「───あぁ、今日だったか」

 

 俺は地面から起き上がり、軽く汚れを払った。

 

「すぐに準備する。お前は先に行っておいてくれ」

 

「分かりました! 遅れないでくださいよ!」

 

 今日も元気はつらつな受付嬢の後ろ姿を見ながら、俺はため息をつかずにはいられない。

 実は……ゲームとは異なるのはモンスターに関することだけではないんだ。

 

 

 それは───『人間』

 

 

 このアステラが一枚岩とはとても言えないことだ。

 当然だが、ゲームでは気にすることもなかったサブキャラ、いわゆるモブもこの世界では立派に生きている。

 それぞれに信念や思いがあり、考え方も異なる。

 各分野におけるエリート、それも奇人変人と言われる人々さえここにはたくさんいるのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

 

 それでも4期団までの団員は比較的まとまっているのだから、総司令はやはり有能なのだろう。

 

 しかし……ここに来て日の浅い5期団は別だ。

 まだとてもまとまっているとは言えない。

 

 特に優秀なハンターが集められているのが5期団であり、規模も過去最大だ。

 だからと言うべきか、己の力に自信と誇りを持っている者も多い。

 もちろんこれは悪いことではない。

 自信があるというのは、これまで幾重もの修羅場をくぐり抜け、研鑽を重ねてきたという証なのだから。

 

 ただ、そのせいで『推薦組』とのちょっとした確執があるのもまた事実だ。

 これはごく一部であり、ほとんど団員はそんなもの気にもしていないだろう。

 だが、俺や他の推薦組に対してあからさまに嫌悪感を示す者も確実にいる。

 

 今回の『過激派』のメンバーを見る限り、そんな小さな歪みが最悪のタイミングで表面化してしまったのではないかと思わずに入られなかった。

 

 金銀夫婦を積極的に調査し、可能ならば捕獲もしくは討伐すべきという『過激派』。

 安易に干渉せず、慎重に事を進めるべきだという『穏健派』。

 

 臆病な俺は当然『穏健派』だ。

 

 今日行われる討議はこの2つの派閥によるものである。

 

「あ、やっときた! こっちですよ相棒!」

 

 準備を終え、俺は討議が行われる場所へと向かった。

 真っ先に俺を見つけたらしい受付嬢がこちらに手を振ってくる。

 こっちですよって、見りゃわかるわと思わなくもないがとりあえず手は振り返しておいた。

 すでにその場には多くの者が集まっており、どうやら俺が最後らしい。

 

「相変わらず時間にルーズだな、エクレア」

 

 赤髪の大男が俺にそういった。

 その風貌はまさしく筋骨隆々。

 背にはその巨躯に見合った大きなランスがある。

 

 コイツの名前は『ギルゴール』。

 

 俺に因縁をつけてくる奴らの代表みたいな奴であり、『過激派』の筆頭でもある。

 ゲーム内にこんな奴いたか? とは思うが、実はそういった見たことない奴は割といるので今さら気にしても無駄だ。

 

「まだ時間じゃねぇだろ」

 

「こういうのは早く来て待つもんだろーが。んなこともわかんねぇのかよ。さすがは推薦組様だ」

 

 そして、推薦組をよく思わない奴の一人でもあるわけだ。

 まあコイツの気持ちは分からなくもない。

 明らかに歳下の俺が何かと持ち上げられているのだから、面白くはないんだろう。

 

 ただ、俺は意外とコイツのことを認めているんだ。

 一度クエストを共にしたことがある。

 簡単な調査クエストだったが、場所が件の古代樹の森だったので総司令が俺ら2人で行うようにと言ってきたのだ。

 

 最初は不満タラタラだったが、クエストが始まればそんな様子がキッパリとなくなった。

 その際アンジャナフと戦闘になったが、ランスの腕も確かなものだった。

 やはりコイツも一流のハンターであることに違いないのである。

 まあ、プライドが高すぎて何かと俺に突っかかってくるのはウザイけど。

 

「ちょ、ちょっとやめてくださいよ2人とも! 総司令の前ですよ! それにこれから討議が始まります! 意見があるならそこで───」

 

「ケッ! 話し合いなんて必要ありませんよ総司令!! 俺たちは新大陸の未知を解明するために来た調査団!! 今回の件だって例外ではないでしょう!!」

 

「未知だからこそ慎重になるべきだ。あのリオレウス希少種とリオレイア希少種のヤバさを肌で感じなかったのか? 希少種との戦闘経験のある奴がどのくらいいる? それに……あの未知のアイルー。今回はあまりにも不確定要素が多すぎる」

 

「不確定要素だぁ……? んなもん新大陸に行くと決めた時点で百も承知だったはずだろう!! それともビビってんのか? 俺はハンターッ!! 死ぬ覚悟なんざとっくの昔にできてんだよッ!!!」

 

『ウオォォォォォォォッ!!!!』

 

 ギルゴールの勇敢で熱い言葉を受けて、『過激派』の奴らが一斉に雄叫びを上げた。

 そうだ! そうだ! と囃し立てる。

 

 

 もう嫌だこの原始人共……。

 

 

 そうだよ、俺はビビってるよ。

 ビビって悪いかコノヤロウ。

 こんな原始人の考えなんて理解できてたまるか。

 

「でも、アイルーが従えてるなら交渉の余地はあるんじゃないっスか?」

 

 お、ナイスだエイデン! 

 陽気な推薦組! 

 やっぱ優秀だよお前。

 こういう飄々としてるキャラが強キャラじゃないわけがないんだ。

 ほぼ裸同然の装備でリオレウス希少種の調査に行ったときは正気を疑ったけどな。

 

「交渉するつもりならなぜあの時しなかった? それはつまり、向こうには交渉するつもりなんてないってことだろう。ならば戦闘を視野に入れて動くべきだ!! 先手を打たれでもしたらそれこそ終いだぞ!!」

 

 ……チっ。

 

 このゴリラ野郎。

 見た目に似合わず頭が回るじゃねぇか。

 

 そう、穏健派の考えにもリスクはある。

 それが今このゴリラが言ったこと。

 アイルーという知能が高い生物がいる以上、先手を打って攻めてくるなんていう最悪の事態を想定しないわけにはいかないのだ。

 

「───確かにどちらの考えにもメリットとデメリットがあるようだ」

 

 議論が白熱するなか、総司令が口を開いた。

 

「だが……やはりエクレア達の考えの方がメリットが大きいと私は判断する」

 

「総司令ッ!!!!」

 

 よし。

 

 ギルゴールがドンと怒りの拳を振り下ろすのを見ながら、俺は内心でガッツポーズをした。

 

「まあ聞けギルゴール。あのリオレウス希少種とリオレイア希少種の危険性は私の友も認めるところなのだ。未知のアイルーも同様。並々ならぬものを感じた、と言っている」

 

 そう言って総司令は静かに座っているソードマスターの方を見た。

 それを受け、ソードマスターは小さく頷いて応えた。

 

「な、納得できませんッ!!」

 

「だがお前の言ったように、先手をうち襲ってくる可能性も否定できない。だからアステラの防衛体制を今以上に整えておく。調査もしないわけではない。ただし、発見にいたってもこちら側から攻撃を仕掛けるようなことはしてはならん。これは総司令である私の最終決定だ」

 

「───ッ!!」

 

 総司令は力強く言い切った。

 ギルゴールは歯を食いしばり怒りに身を震わせながら俺を睨んでくる。

 

 しかし、ふと急に落ち着いた。

 

「……エクレア。お前ほどの男がなんでこうも弱腰なんだ。それが俺は、何より納得いかねぇ……」

 

 先程までとはうってかわり、ギルゴールは小さくそう言い残して去っていった。

 その言葉に俺は少しだけ驚いてしまう。

 だってそうだろう。

 アイツが最後に言い残した言葉はどういうわけか、俺を認めているようだったんだから。

 

「フッ……彼奴は某並に不器用とみえる」

 

 ソードマスターが静かに笑った。

 え、なんなんアイツ。

 

 ……身震いするような気持ち悪さもちょっと感じるけど、認めてたのは俺だけじゃなかったんか。

 

 まあ、よかったんだろうな。

 

 とりあえず、あのヤバすぎる存在と直接敵対するようなことは避けられた。

 

 でもなぜだろう。

 

 

 ───嫌な予感は未だに消えない。

 

 

 ギルゴールは粗野でプライドの高いゴリラだが、ハンターとしての誇りも持っている。

 総司令の言いつけを破るようなことはしないだろう。

 

 しかし、過激派はアイツだけではない。

 

 もし過激派の他のメンバーがあの金銀夫婦とアイルーに何かしらの干渉をしてしまったら……と考えてしまう。

 

 ほんと頼むよ。

 

 最悪なことにはならないでくれ。

 




お読みいただきありがとうございました。
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