レウスはレイアを拒めない   作:黒雪ゆきは

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シビレ罠に関して独自設定があるのですが、少し説明が長くなってしまいましたので活動報告の方にまとめました。お時間のある時に確認していただければ幸いです。


014 情欲の炎は赤々と燃えて。

 ───誰しもが過ちを犯す。

 

 

 もちろん、ほとんど過ちを犯さない者もいるのだろう。

 それでも完全にゼロではないはずだ。

 だからこそ、過ちを犯さないよう事前に備えることと同じくらい、過ちを犯してしまった後の行動も大切になってくる。

 優秀な者とは往々にして、過ちを犯してしまった後それを補うための行動が迅速であり的確なものなのだ。

 

 

 ───とはいえ、取り返しのつかない過ちというのもやはりあるのだろう。

 

 

『孕んだ』

 

『……は』

 

『私には分かる。確実に孕んだ。フフ、安心しろ。強き子を産む』

 

『…………』

 

「お、おおぉぉ、おめでとうにゃ……!!」

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 驚愕と戸惑いとその他諸々の感情によって、今俺の頭はかつてないほどにぐちゃぐちゃとなっている。

 過去に戻れるならば、軽率な自分を思いっきりぶん殴ってやりたい。

 

 

 ───話は俺たちが初めて人間を狩り殺した直後まで遡る。

 

 

 俺は最後のハンターにトドメを刺した。

 だというのに、はっきり言って特別な感情は抱かない。

 なんなら普段の狩りとあまり大差ないと思ってしまったのだ。

 

 ただ───ほんの僅かな達成感のようなものは感じていた。

 

 この感情は、俺が初めてアプトノスを狩り殺した時によく似ている。

 何となくできるだろうなとは思っていても、実際にやってみるまでどこか不安を抱えているのが俺なんだ。

 だからアプトノスを初めて狩り殺したときはとても嬉しかった。

 

 ……それと同じだ。

 

 いや、やはり今回の方が達成感は大きかっただろう。

 事前にハンターへの対策を入念に行った。

 ハンターの脅威をとてもよく知っているからこそ、妥協は許されなかったんだ。

 ネルギガンテと戦う『主人公』の姿が脳裏にチラつく度に、屈辱的な恐怖を感じてしまう。

 だからこそルナにも人間を侮らないよう徹底させた。

 

 その事前の対策が実を結び、ほぼノーダメで人間を狩り殺すことができた。

 僅かばかりの達成感を感じてしまうのも仕方がない。

 

 逆に言えば……抱いた感情はそれだけだ。

 罪悪感のようなものはまるでなかった。

 もう受け入れてはいるが。

 

 その後、脚の爪についた汚い血を地面に擦り付けるように拭いながら、目の前に転がる人間の死体をどうしようかと考えた。

 ほんの一瞬……本当にほんの一瞬だけ『食べる』という選択肢が過ぎったが、オモチもいるのだからそれは良くないと思えるほどには理性が戻っていた。

 

 ……とはいえ、すでにルナが『ん? 硬いな』などと言いながら俺が最後に狩り殺した人間に噛み付いていたのだが。

 

 毒があるかもしれないから、と言ってなんとかルナを止めた。

 オモチに見せたくなかったんだ。

 

 

 だって───俺と同じ転生者かもしれないんだから。

 

 

 結局、把握していたシャムオスの巣に放置してくることにした。

 ブレスで炭になるまで焼き付くそうかとも思ったけど。

 

 それから俺たちは巣に帰った。

 本当はオモチに色々聞きたいこともあったが、狩りの疲れもあるため今日のところは寝て、煩わしいことは明日考えることにしたんだ。

 

 

 しかし、なぜか全く眠れない……!! 

 

 

 いや、理由は分かっていた。

 戦闘直後はそこまで感情の起伏はなかったというのに、今になって俺のなかの人間の残滓は人間を殺してしまったという事実に衝撃を受け、確かに興奮していたんだ。

 だが、それでもやはり罪悪感などはありはしない。

 あるのは『ついに人間を殺ってしまった』という、表現できないほどの異様な高揚である。

 

 強烈なアルコールを呑み下したように、体の奥深くから熱が広がっていく。

 遅れてやってきたこの収まりのつかない興奮をどうするべきか。

 それにしても皮肉な話だ。

 本能が収まり、理性的になったからこそより強い本能的な感情が芽生えてしまったのだから。

 

 

 ───『どうした、ソル?』

 

 

 行き場のない興奮にソワソワしていた時、そんな声が聞こえた。

 振り向けばそこには、月明かりに照らされたルナが佇んでいたんだ。

 

 

 神秘的で、妖艶で───蠱惑を凝縮したような麗しい姿。

 

 

 俺の中で燻っていた『興奮』は『情欲』へと名前を変えてしまったのである。

 

 普段なら抑制できたのかもしれない。

 最近ルナに欲情してしまう頻度が増えてきていたとはいえ、それでも一線を越えるようなことはなかった。

 俺の中に残る人間の残滓が、ルナに欲情しているという事実を未だに受け入れられてなかったんだ。

 

 だが、なるほど。

 

 

 ───『一夜の過ち』とは、こうやって起こるのか。

 

 

 気づけば俺は、ルナを組み伏せていた。

 

 

 そして、話は冒頭へと戻る。

 事実かどうか定かではないが、ルナは『孕んだ』らしい。

 こんなにすぐ分かるものなのか甚だ疑問だが、なんというか、うまく説明できないがルナが嘘をついているとはどうしても思えないんだ……。

 ルナが孕んだというならば、やはり孕んだのだろう。

 

『…………』

 

 いや、まぁ、何も悪いことはない……よな? 

 だって俺はリオレウスになったわけだし、人間のような交際期間もありはしない。

 結ばれたならば即交尾、なんて当たり前だろモンスターにとっては。

 

 うん、開き直ろう。

 順応しなくては。

 

 じゃなきゃやってられん。

 

 それに、なんだかとても心が軽い。

 ここしばらく感じていた戸惑いや葛藤といった、心に沈んだ重い鉛が嘘のようになくなっている。

 後悔もなくはないのだが、それは本当に小さなものだ。

 それ以上に、何十年も自分を拘束し続けた枷がようやく外れたように清々しい気分なのである。

 

『あぁ……ルナ、その、昨日はすまんな。何だか強引に───』

 

『何を言う。あれほど素晴らしい夜を私は知らない』

 

『……そ、そうか……』

 

 まあやってしまったもんは仕方ない。

 考えるべきは次だ。

 さて、どうしたものか。

 いろいろ考えるべきことは山積みだが、何よりもルナのことを最優先に考えなくてはならないな。

 

 

 だって……ん? いや、そうか。

 

 

 俺は───親になるのか。

 

 

 脈絡なくそんなことを思った。

 

 参ったな。

 

 これじゃもう、ルナを拒めないじゃないか。

 

 俺は笑ってしまった。

 とっくに惹かれていたくせに、今さら何を言ってるんだか。

 いい加減認めろよ。

 

 

 そもそも───レウスがレイアを拒めるはずないだろ? 

 

 

 ++++++++++

 

 

『オモチは……“転生者”なのか?』

 

「───っ」

 

 ルナには少し散歩に行ってもらった。

 どうしてもオモチと二人きりで話したかったからだ。

 

 そして、俺は単刀直入に聞いた。

 違っていたならそれでいい。

 その場合は言葉の意味すら理解できず、戸惑うだけだろうから。

 

 だが、オモチの反応を見る限りどうやら正解のようだ。

 

 これまでもいくつか不可解なことがあったが、アルバトリオンの装備を見て確信した。

 当然その選択肢も存在していたはずなのに、無意識に除外していたんだ。

 

 

 ───転生者は俺だけではない。

 

 

 となれば転生者はオモチと俺だけ、などと考えるのはあまりに浅はかだ。

 他にもいると考えて今後は行動すべきだろう。

 様々な最悪を想定しなくては。

 

「じゃ、じゃあやっぱりソルさんもなのかにゃっ!? やっぱりにゃ! リオレウスにしてはさすがに賢すぎると思っていたのにゃ! というか、出会った時にソルさん“こんがり肉”って言ってたにゃ。その時に気づくべきだったにゃ」

 

 オモチはとても饒舌だった。

 まあ、最近はルナともよく喋るほうだったけど。

 何だか嬉しそうでもあり、安心しているようでもある。

 

『やっぱりそうなのか。まさか俺以外にもいたなんて……』

 

「ほんとにビックリにゃ! ソルさんも、気づいたらって感じかにゃ?」

 

『あぁ、そうだ……気づいたらリオレウス希少種になっていた』

 

「ボクもにゃ!! ボクも……気づいたらアイルーになっていたにゃ……」

 

 それから俺はオモチと会話を重ね、事実の共有を確実なものにしていった。

 まずは俺のことを話した。

 前世の記憶はまるでないこと、にも関わらずモンハンの知識だけがあること。

 オモチと出会うまでどうやって生きてきたのか等、本当に色んなことを話した。

 

「えぇーっ!! 『古代樹の森』のリオレウスに7日連続で襲われたのかにゃーっ!?」

 

『いやぁ、実はそうなんだ。まあ今思えば悪いのは俺だと分かる。あそこはアイツの縄張りだからな』

 

「ボ、ボクも危なかったにゃ……」

 

『でも、アイツに襲われたおかげで身体の使い方を学べた。攻撃が思いのほか痛くなかったから、練習相手にはちょうど良かったよ。その後は妙に懐かれて困ったがな』

 

「いやたくましすぎにゃ!」

 

 オモチの話も聞いた。

 はっきり言って、オモチが話すことは全てが衝撃だった。

 まず、モンハンのゲーム内で獲得したアイテムを引き継いでいるらしい。

 装備含めてなのだから凄まじい。

 しかもモンスターと話す能力や、ちょっとしたサバイバル知識なんかもあるという。

 俺よりはるかに多くのものをオモチは持っている。

 

 何より恐ろしいのは───小さなアイテムポーチである。

 

 オモチの最も恐ろしい力は持ち運び可能であり、どこでも好きなだけアイテムを取り出せるそのポーチで間違いない。

 

 ただ、オモチ自身が『アイルー』という決して強い生物ではないことも否定できない。

 俺が勝っている点があるとすれば、これくらいか。

 しかもなぜか一人称が「ボク」となり、語尾に「にゃ」を付けてしまうらしい。

 なんとも不憫だ。

 

「これからも、ボクはソルさんとルナさんをサポートするにゃ!」

 

 ただ、その言葉には正直驚いてしまった。

 

「ん、どうしたのかにゃ?」

 

『いや、今後も俺たちと居てくれるのか……? 正直言うと、アステラ辺りまで送ろうと思ってい───』

 

「な、なんでにゃ!! ボクは迷惑だったかにゃ!?」

 

 珍しく、オモチは大きな声を上げた。

 だが俺のなかの困惑は増すばかりだ。

 アイルーは人間の世界で生きるか、同族同士で小さな集落を作って生きるものではないのか……? 

 

 オモチへの感謝は計り知れない。

 本当に楽しく色鮮やかな毎日を送ることができた。

 

 しかし、だからこそオモチの幸せを優先すべきだと会話を重ねながら思っていたのだ。

 

 

 そして───理由はそれだけではない。

 

 

『俺は……人間を殺した』

 

「そ、それはボクだって……」

 

『なのに、全くと言っていいほど罪悪感を抱いていない。きっと俺は、人間と共存することなくリオレウスとしてこれからも生きていくのだと思う。……だけど、今ならばオモチは選べる。人間と生きる道だってあるんだ。オモチには感謝してもしきれないからこそ、より幸せな方を───』

 

「ならもう答えは決まっているのにゃ」

 

 呆気ない程の即答だった。

 しかし、オモチにふざけた様子はない。

 

「ボクはソルさんやルナさんといたいのにゃ」

 

 そのつぶらな瞳には、確かな覚悟が宿っている気がした。

 どうしてそこまで俺たちといたいと思ってくれるのか、完全に理解することなんてできない。

 むしろ助けられてばかりだ。

 

 

 ただ───俺はとっても嬉しかった。

 

 

 これだけはわかる。

 

『嬉しいよオモチ。でも……最後にもう一度だけ確認させてくれ。本当にいいのか? 俺やルナと共に居るということは、時には人間と敵対することもあると思うんだが……』

 

「そ、それはその……自分でもびっくりするくらい大丈夫なんだにゃ……」

 

『え、そうなのか?』

 

「そうだにゃ」

 

 まさかオモチも俺と同じように、人間への同族意識のようなものが薄らいでいるのだろうか? 

 定かではないが、これははっきり言って驚きだ。

 ただまあ……ハンターに攻撃してくる野良アイルーもいるし珍しいことではない……のか? 

 

「だけど、一つだけお願いがあるにゃ」

 

『ん? なんだ?』

 

「えっと……できればアイルーはあまり殺して欲しくないのにゃ……」

 

 なぜかオモチはとても申し訳なさそうだった。

 なんだ、そういうことか。

 

『7日連続で古代樹の森のリオレウスに俺が襲われたって話、したよな?』

 

「うん、したにゃ」

 

『でも俺はアイツを殺していない。ルナに襲われた時だって、死ぬかもしれないと思うほど激闘だったが、なぜか殺せなかった。───俺たち、似た者同士だな』

 

「ハハっ、そうだにゃ!」

 

 そう言って静かに笑い合った。

 なるほどな。

 どうやら俺たちは、“同族”には同情できるらしい。

 面白い共通点だ。

 

『なら、そうだな。これからもよろしく頼むよ、オモチ』

 

「はいにゃ! これからも上手に“こんがり肉”を焼くにゃ!」

 

『お願いするよ。この手では、どう頑張っても上手に焼けそうにはない』

 

 そう言って、俺はオモチとの出会いを思い出してまた笑ってしまった。

 オモチと別れずにすみ、内心ではかなりホッとしている。

 

 

 なぜならすでに───オモチも俺の大切な存在なのだから。

 

 

 俺は本当に恵まれているな。

 守るものが多くて困ったものだ。

 

「それで、これからどうするのにゃ? このまま陸珊瑚の台地に住むのかにゃ?」

 

『いや、龍結晶の地に行こうかと思っている。その……ルナが孕んだと言っているからな。できれば人間との絡みを避けたい』

 

「あ……なるほどにゃ……」

 

『…………』

 

 なんとも言えない気まずい空気が流れた。

 転生者であるとお互いに認識したからこそ、俺がリオレイア希少種と“行為に及んだ”という事実がより一層空気を重くするのだ。

 

「で、でも! 龍結晶の地は養分が豊富だって聞いたことあるにゃ! 子育てにはもってこいだと思うにゃ!」

 

 この空気をなんとか打開しようとオモチが声を張り上げた。

 

『そうだよな! もってこいだよな!』

 

 だから俺も便乗することにした。

 だが、会話はまたしてもそこで途絶えてしまった。

 あはは、というオモチと俺の乾いた笑いだけが虚しく響いていた。

 

 誰か何とかしてくれ! 

 

 内心で激しくそう願っていたとき、遠くから翼をはためかせる音が聞こえてきた。

 こちらへ近づいてくる。

 とても聞き慣れた羽音だ。

 

 どうやら、俺の願いは叶ったらしい。

 

『帰ったぞ』

 

 ルナの声だ。

 

「おかえり……! にゃ……」

 

 ただ、オモチの声には明らかに戸惑いが混じっていた。

 俺もルナに声をかけようと振り返る。

 真っ先におかえりと言うべきなのだろう。

 だが、まったく別のことを聞かずにはいられなかった。

 

『それは……なんだ?』

 

 ルナは何かを持っていたのだ。

 青白い何かを。

 

『あぁ、コイツがギャーギャーとうるさくてな。馬鹿なのか私に攻撃を仕掛けてきたもんだから、仕留めた。オモチ、焼いてくれ』

 

「は、はいにゃ……」

 

 ぐったりとして息をしていないそれは、どう考えても『レイギエナ』だった。

 確か、レイギエナって陸珊瑚の台地の生態系トップだったような……。

 めちゃくちゃ生態系を壊してるのではと思ったが、今や俺もその生態系の一部なんだから問題ないよなと無理やり思うことにした。

 

 オモチが焼いてくれたレイギエナの肉は最高の味で、なんならもう一匹食べたくなった。

 

 それから、ルナにオモチのことやこれからのことを軽く説明した。

 とりあえずオモチはめちゃくちゃ強いアイルーだって言ったらそれで納得するのだから、純粋な奴だ。

 まあ、古龍の防具を見たのだから分からなくもないが。

 

 龍結晶の地に行くことにも快く賛成してくれた。

 どうやら元々ルナも気になっていたらしい。

 並々ならぬエネルギーを感じるのだとか。

 それは俺も感じている。

 なんだろうなこの感覚は。

 妙に惹き付けられる。

 

 ハンター達が龍結晶の地に来るのはまだ先のはずだ。

 

 唯一懸念があるとすれば……ネルギガンテが現れるかもしれないということ。

 

 ただどうしてだろう。

 古龍だというのにまるで恐れを感じていない。

 目障りならば狩り殺せばいいと、そう思うだけなんだ。

 

 だがこれは俺の本能。

 理性で制御しなくてはならない。

 慢心はダメだ。

 ネルギガンテの対策も磐石なものにしておくとしよう。

 

 

 ───それにしても、リオレイアってどのくらいの期間を経て卵を産むんだろうな……? 

 





リオ夫婦、番で子育てするとか尊い。
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