レウスはレイアを拒めない   作:黒雪ゆきは

15 / 25
015 諸先輩方。

「ああぁぁぁ…………疲れたぁぁ……」

 

 テーブルにくっつけた頬が鉛のように重くて上げられる気がしない。

 この疲労は肉体的なものではない。

 心だ、心が疲れて悲鳴を上げている。

 

「相棒! 料理が冷めちゃいますよ!」

 

「先に食べててくれ……俺はもう少しこうしていたい」

 

「もう! 食べないと元気出ませんよ!」

 

 最近またしても新たな悩みの種を発見してしまった。

 それは、瘴気の谷で簡単なクエストをこなしていたときのことだ。

 もちろん、瘴気なんていうよく分からんもんが充満してる場所に長居したら、確実に寿命縮むだろうなっていう悩みもある。

 フィールドマスターの婆さんヤバすぎだろってのは毎日思ってる。

 

 だけど、そんな長期的な悩みじゃない。

 

 もっと急を要する問題がある。

 

 

 ───『麻痺』ってヤバくね? 

 

 

 これだ。

 ギルオスを狩り殺しながら、ふとそう思ったんだ。

 モンスターの目の前で完全に動きが封じられるって、ヤバすぎねぇか……? 

 同様の理由により睡眠と気絶も超絶危険。

 

 毒とか爆発やられなんかはいい。

 動けるんだからどうとでもなる。

 でも動けなくなる系は本当にヤバい。

 

 なぜかって? 

 防具は全身くまなく覆えているわけではないからだ。

 関節がある以上必ず隙間がある。

 それに、あまりに無防備だ。

 

 ウラガンキンの睡眠ガスによって眠らされ、顎スタンプをくらう。

 ぶっちゃけ防具の部分に当たるなら大したダメージはないだろう。

 ミラ装備はそれだけ優秀だ。

 

 だが例えば、指先にあのめちゃくちゃ硬くて巨大な顎を振り下ろされたら? 

 当然潰されるだろう。

 ゲームと違い、リアルだとこういうことが起こり得るんだ。

 

 いや、それなら命がある分まだマシなのかもしれない。

 丸呑みにされたらどうする。

 麻痺状態の時、防具の隙間にドスギルオスの牙がぶっ刺さったらどうする。 

 

 ふざけんな。

 もう嫌だ。

 何だこの世界。

 クタバレまじで。

 

 はぁ……。

 

 俺はこんな最悪なことばかり考えてしまう、臆病を極めに極めた男なんだ。

 周りのみんなが言うような、優秀なハンターなんかじゃ全くねぇんだよ。

 

 あぁ……胃が痛い。

 

 すっかり俺の持病となってしまった胃痛は悪化する一方だ。

 改善の兆しがまるで見えてこない。

 

「はぁぁぁ…………」

 

 日を追う事に溜息の回数も増えていく。

 

「相棒、大丈夫ですか……? 今日はいつにもましてネガティブなようですが」

 

「……うるさい、ほっといてくれ。お前は……毎日楽しそうでいいよな」

 

「はい! 毎日、驚きと発見ばかりです! どれだけ調べても調べたりません!」

 

「ハハっ……強いよお前は。強すぎる……そんなお前に、か弱い俺の気持ちなんざ分からないだろうさ」

 

 俺は樽のジョッキに注がれたよく分からん飲み物をグビっと一気に飲み干した。

 酒は飲まない。

 ほんの僅かにも感覚を鈍らせたくないから。

 

 いや……カッコつけたけど猫飯で飲んでるかも。

 

「私が……強い? よく分かりませんが、私が強いなら相棒はその何倍も強いですよ!」

 

「…………」

 

 時々、この底抜けに明るくて前しか見ていないようなコイツに、ほんの少しだけ救われているような感覚を味わう。

 それが妙に悔しい。

 まあ、普段はウザったいだけだが。

 

 本当に……偶にだ。

 

「みんな言ってますよ! 相棒は数十年、いや、数百年の逸材だって!」

 

「……あっそ。そりゃどうも」

 

「だからこそ不思議です。こんなに凄いハンターなのに、相棒は現状に全く満足していません。その向上心は本当に尊敬していますが、少しくらい……自分を認めてあげても良いのでは?」

 

 うん、いいこと言ってくれる。

 コイツがテーブルの料理を半分以上食い漁ってなかったら、ちょっとは感動したかもな。

 

「そうだ! 私の祖父が新大陸に居た時も、ものすっごいハンターがいたそうですよ!」

 

「そりゃいるだろ。一応、新大陸調査団は優秀な奴が集められてんだし。珍しくもないわ」

 

「確か名前が……『ノウキン・ガチムチ』だったと───」

 

「いやちょっと待て」

 

 …………。

 

 …………。

 

 ………………はい? 

 

 

 ノウキン・ガチムチ……だと。

 

 

 俺の内側には、ありとあらゆる疑問の泡がぷつぷつと湧き出す。

 それはもう止めることはできない。

 頭が活性化したせいかやたらと腹が減り、俺は目の前にあるドデカい骨付き肉にガブリとかぶりついた。

 

 いや、俺が今考えていることは早計すぎる。

 ここでは珍しくもない普通の名前……の可能性だって残されている。

 

「そういえば……『ノウキン・ガチムチ』さんは一期団だったそうですが、二期団の『カカリチョウ』さんとパーティを組んで───」

 

「確定じゃねぇかッ!!!!」

 

 俺は思わず大声を上げた。

 とはいえ、今は夜中だが大声で笑いながら食事をしてる奴なんて珍しくもないから、別に目立ちはしない。

 

 それより───カカリチョウ……だと? 

 

 …………。

 

 絶対『係長』だろうがッ!! 

 

 この世界にそんな役職あってたまるかッ!! 

 

「な、なぁ……その、『ノウキン』さんって、まだ新大陸にいたりするのか? アステラにはいなさそうだが」

 

「いえ、私の祖父と一緒に現大陸へ帰還したそうです。といってもハンターを引退するわけではなく、世界を回ると豪語していたそうですが。本当にすごいですよね!」

 

「そうか……それは、残念だ…………」

 

 テンションが一気に下がっていく。

 いつの間にか完食してしまっていた骨付き肉だったものを皿に置いた。

 そして別の骨付き肉を手に取った。

 

 クソ……会えないか。

 超絶会いたかったんだが……。

 

 

 ───『ノウキン・ガチムチ』

 

 

 ───『カカリチョウ』

 

 

 この二人はおそらく……俺と同じ“転生者”だ。

 しかも前世は、ネームから分かるようにかなりハッちゃけたタイプのモンハンプレイヤーだったんだろう。

 

 だが、実力は保証されている。

 なんせこんな世界で何十年も生き抜いているんだから。

 俺からすればそれだけで賞賛に値する。

 しかもかなり歳をとっているはずなのに、世界を回るなんて豪語しちゃうイカレっぷり。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 

「その二人は同期じゃないのか?」

 

「はい、私が聞いた話によると『ノウキン・ガチムチ』さんは一期団で、『カカリチョウ』さんは二期団と聞いています」

 

「……なるほどな」

 

 ちくしょう、なんだよ。

 ここにきてのこのとんでもない事実の発覚。

 総司令もソードマスターもなんも話してくれかったぞ。

 

 ただ、話を聞けたおかげで俺は一つの仮説が脳裏に浮かんだ。

 これは希望的観測に他ならないが、どうにもそう思わずにはいられない。

 

 一期団の『ノウキン・ガチムチ』、二期団の『カカリチョウ』……。

 

 

 そして───五期団の俺。

 

 

 なら……三期団と四期団の“転生者”もいるんじゃないか? 

 

 

 もしそうなら、俺の生存確率がグンと跳ね上がるぞ。

 あのヤバすぎるアイルーと金銀夫婦も何とかなるかもしれない。

 

「いつも祖父が話してくれるのは、新大陸が如何に謎に満ちているかということと、お二方の活躍のことでした。とても印象に残っているのが、新大陸で初となる希少種の狩猟に成功した───」

 

「ちょっと待て」

 

 希少種……今コイツ希少種と言ったか? 

 

「新大陸で発見された希少種は……あの金銀が初ではないのか?」

 

「え? 違いますよ? 約40年前にティガレックス希少種、約10年前にナルガクルガ希少種が発見されています。新大陸では、目撃例自体が極めて少ない希少種が二種も発見されたことにより、古龍の調査と同じくらい希少種の調査も期待されているんです。……新大陸に渡る前、説明を受けたではありませんか」

 

「…………」

 

 頭がどうにかなりそうだ……。

 なんだこれは。

 違うにもほどがあるぞ。

 

「加えて、特殊個体───いわゆる“二つ名”を持つモンスターというのも二種発見されています。約30年前に『燼滅刃』ディノバルドが、約20年前に『金雷公』ジンオウガが発見されているんです。いやぁ、本当に新大陸って未知が溢れていますよね!」

 

「……もう意味が分からん」

 

「えぇ!? これも知らなかったんですか!?」

 

 どうなってんだよ。

 俺が知るMHWの世界からかけ離れすぎだろ……。

『二つ名』持ちモンスターまでいるのかよ。

 

 

 ───いや、予兆はあった。

 

 

 あの金銀夫婦が序盤に登場したことだ。

 そして、それらを従えるヤバすぎるアイルー。

 俺は無意識に、イレギュラーがアイツらだけだと思い込んでいた。

 

「それでですね、『ノウキン・ガチムチ』さんと『カカリチョウ』さんはティガレックス希少種と『燼滅刃』ディノバルドの狩猟に成功されているんです! 祖父はそのことをとても誇らしげに話してくれました!」

 

 ……え、討伐されてんの? 

 

 ノウキンとカカリチョウ……強すぎね? 

 普通に考えて、あの金銀夫婦並のモンスターを討伐したってことだよね? 

 いやいやとんでもねぇよ。

 

 凄いなんてもんじゃない。

 はっきり言って……立ち向かえたこと自体が英雄すぎる……。

 

 

 俺は───ただ震えることしかできなかったってのに。

 

 

「しかし……『燼滅刃』との戦いの際、『カカリチョウ』さんは命を落とされてしまったそうです。祖父はその話をしながら、どれほどモンスターが恐ろしいのかも教えてくれました」

 

「……『カカリチョウ』死んだのかよ」

 

 不意に胸を突かれたような気分だった。

 嫌な汗が額を伝う。

 当然、その可能性だってあったんだ。

 やっぱり……死ぬんだよな。

 そう思うと、途端に心が冷えていくのがわかった。

 

 ───死への恐怖。

 

 それは薄氷のように俺の心を覆っていく。

 やはりこの恐怖だけは、いつまでたっても克服できそうにない。

 

「えっとじゃあ……『金雷公』とナルガクルガ希少種も討伐されたのか?」

 

 今にも押しつぶされそうだったので、俺は目を背けるように話題を変えた。

 

「いえ、『金雷公』は討伐されておりません。ナルガクルガ希少種は討伐されています」

 

「マジか……それもノウキンさんか?」

 

「違います」

 

「え、違うの?」

 

 表情には出てないかもしれないが、内心では結構驚いていたりする。

 ぶっちゃけノウキンさん達だろうなと思っていた。

 俺の中ではもはや神に近い。

 

「三期団の『ゴッド・マサカズ』さんと四期団の『ユウ・タキライ』さんによって、ナルガクルガ希少種は討伐されました」

 

「…………」

 

 やっぱりいたなッ!!! 

 三期団と四期団にもッ!!! 

 

 ゴッド・マサカズって……クソガキ感エグいけど、単純に20年このヤバすぎる新大陸で生き抜いていることになる。

 それにナルガクルガ希少種を討伐しているんだ。

 全く侮れない。

 むしろ尊敬に値する。

 

 ユウ・タキライは……現地のハンターか? 

 だがなんか引っかかるんだよなこの名前。

 何だこの違和感。

 

 ユウ……ユウ……。

 

 んー、ユウタキライ…………ゆう……たきらい。

 

 あっ。

 

 

 ───『ゆうた嫌い』

 

 

 コイツもクソガキそうだなッ!!! 

 ってか、諸先輩方みんな名前に一癖あるんだが!!! 

 俺の『エクレア』って名前が一番マトモに感じてしまうわ!!! 

 

「はぁ…………それで、この二人も現大陸に帰っちまったのか……?」

 

「いえ、そのような話は聞いませんが……」

 

「えッ!!! いんのッ!?!?」

 

 ガタッ、と音を立てながら思わず立ち上がってしまった。

 その勢いで椅子が倒れる。

 だが、この興奮は抑えられそうにない。

 俺は受付嬢に詰め寄るように問いただした。

 

「どこにいるんだ!? 会いたいッ!! 今すぐ会いたいッ!!」

 

「おお、お、落ち着いて下さい! それは無理ですよ!」

 

「はァ!? なんで!!」

 

「お二人とも長期的な調査に出ているそうです!!」

 

「それはッ!! ……いや、そうか。すまない。取り乱した」

 

 俺は椅子に座り直し、熱を追い出すように頭を振った。

 

「い、いえ……大丈夫です。でも珍しいですね。いつも冷静すぎるくらいなのに」

 

「まぁ、な」

 

 なんだよ調査って。

 調査になんて行くなよバカタレ。

 そんな子供のワガママのような思いを抱かずにはいられなかった。

 

 それにしても……コイツはいろんなことをよく知っているな。

 

 俺は受付嬢へと視線を向ける。

 情報統括のエキスパートってのはダテじゃない……ってことか。

 

「ところで、2人はどんな調査に出てるか知っていたりするか?」

 

「はい、知っていますよ」

 

「知っとんのかい」

 

「まず『ゴッド・マサカズ』さんですが、モンスターの生態調査を行われているそうです。彼の調査記録は本当に読んでいて面白いんですよ! ここ新大陸において、多くのモンスターの生態を明らかにした本当に凄いお方なんです! それに、『カセキカンス』をはじめとしたとても希少な環境生物の捕獲にも成功してるんです!」

 

「……生態、それに環境生物って……」

 

 何が楽しくてそんなことをやっているのか、俺には皆目見当がつかない。

 てか、リアルで『カセキカンス』ってマジ? 

 イカれてるわ完全に。

 

 うっ……『ツキノハゴロモ』のトラウマが……。

 

 ただ、思ったよりみんなこの世界に順応してんだな。

 生き甲斐を見つけ、時には友の死さえ乗り越えている。

 

 

 俺は、そんな強くなれるんかな……全くなれる気がしねぇよ……。

 

 

「あと『ユウ・タキライ』さんは、“大団長”と一緒に調査に出ているそうですよ。……どこかを放浪している、とも言われているようですが」

 

 マジかぁ……やっぱすぐには会えそうにないな。

 とはいえ、希望はある。

 話を聞く限り、どう甘く見積もっても俺より強そうじゃないか。

 

 

 ───『ゴッド・マサカズ』

 

 

 ───『ユウ・タキライ』

 

 

 俺の急務はこの二人に会うことだな。

 間違いない。

 “転生者”は俺だけじゃなかった。

 

 

 この二人と一緒なら───どんなモンスターからも逃げ延びることができるッ!! 

 

 

 不安や恐怖が消えた訳では無い。

 それほどまでに、ここは残酷で苛烈な世界なのだから。

 しかし、心が少しだけ軽くなったこともまた事実だ。

 

「よしッ!! 食うかッ!! 話聞かせてくれてありがとな!!」

 

「お、元気でたんですね!! 良かったです!! いいですね、私もまだまだ食べたりません!! お供しますとも!!」

 

 それから俺はオカワリを頼み、飢えたケモノの如く貪るように食べた。

 俺の心に差した一縷の光は小さなものだが、それでも光であることに変わりはしない。

 不安や恐怖の反動が食欲となって現れたんだ。

 

 

 ++++++++++

 

 

 翌朝、総司令から『陸珊瑚の台地』を調査してきて欲しいと頼まれた。

 ギルゴールの定期報告が途絶えたと、彼とバディを組む編纂者から連絡があったそうだ。

 だから俺に調査を頼みたい、と。

 ギルゴールはアステラでも指折りの実力者の1人であるから、それを上回る不確定要素となると俺にしか頼めない、なんて説明を受けた。

 

 ったく、あのゴリラはどこで何やってんだか。

 ぶっちゃけアイツらなら『陸珊瑚の台地』の生態系トップであるレイギエナであっても、危うげなく狩猟できるだろう。

 つまりは、どこかで道草を食ってるってことだ。

 

 どうせ、モンスターのフンを踏んだとかそんなんだろう。

 んで、プライドの高いアイツは匂いが消えるまでどこかで時間を潰してるんだ。

 

 だが、今の俺は気分がいい。

 ギルゴールを連れ戻したら、飯でも奢って笑ってやるとしよう。

 嫌な奴だが、どうにも俺はアイツを嫌いになれねぇからな。

 

「聞いたろ、これから『陸珊瑚の台地』へ向かう。すぐ準備しろ」

 

「準備ならとっくにできてますよ相棒! さあ、行きましょう! あ、その前にご飯ですね! 食べなきゃ力が出ません!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 とりあえず、料理長の飯を食おう。

 出発はそれからだ。

 俺は食事場へ向けて歩き出した。

 

 そういや、大団長とその『ユウ・タキライ』ってハンターは今どこにいるんだろうな?

 確か……大団長が最初に姿を見せるイベントは『ゾラ・マグダラオス誘導作戦』の後だったはずだ。

 その時、なんか“結晶”を持ち帰るん……だったよな。

 

 

 なら今は───『龍結晶の地』にいるってとこか? 

 

 




お読みいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。