レウスはレイアを拒めない   作:黒雪ゆきは

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017 とっても心配性な銀火竜。

 オモチです。

 龍結晶の地にお引越ししてから、それなりの時が流れました。

 日の登る回数的にだいたい3ヶ月程でしょうか? 

 早いものですね。

 

 ソルさんとルナさんが作った新しい巣もとっても快適で、はっきり言って何一つ不満がありません。

 木の枝とか葉っぱで作ったかなり簡素なもので不便なことも多いんですが、なぜか毎日が充実してます。

 

 最近は私専用のちょっとしたハンモックを作ってみました。

 ゆらゆらと気持ちよくて、とても安眠できます。

 

 ……人間的とはとても言えないような生活なのに普通に良いと思っちゃってる私。

 これもアイルーになった影響なんですかね。

 

 まあそれはいいです。

 楽しいんだから細かいことは気にしません。

 

 あ、あとここに来てからすっごく身体の調子がいいんです。

 もうね、野原を走り回るワンパク小僧くらい毎日元気が溢れてますよ。

 これが龍結晶の地のエネルギーなんでしょうか。

 辺り一面に広がる結晶は、確か古龍の生体エネルギーが元になっているとかいないとか。

 多分そのせいですね。

 

 ソルさんが龍結晶の地に行くと言ったときは、『ネルギガンテ』を始めとした色んなヤベェモンスターいるけどそれ分かってて言ってるの? と内心は思っちゃってましたけど……ごめんなさい、大丈夫でした。

 

 そういえば、陸珊瑚の台地に居た時もリオレイア亜種がいませんでしたね。

 何故でしょう。

 龍結晶の地に古龍の姿がないことと関係あるんですかね……? 

 

 ソルさんはこういったことまで考慮して龍結晶の地に行くと決めたのでしょうか……いや、それはなさそうだなと思ってしまっている失礼な私。

 

 まあね、ヤバいモンスターに出会っても逃げればいいんですよ。

 ソルさんやルナさんは飛ぶのすごく速いですし、あとは私が死ぬ気でしがみつけばいいだけの話。

 

 追ってくるようなら嫌がらせの『こやし玉』を大量に投げつけてやります。

 古龍には効かないでしょうが、単純にこんなものを投げつけてくる奴は嫌に決まってます。

 大量に投げつけてやり、割に合わないと思わせた時点で私たちの勝ちですよ。

 

 ……ルナさんが戦うとか言い出しそうなのが唯一怖いところですが。

 

 とまあこんな感じで、色々不安なことはあるのですが毎日楽しくやってます。

 こんな日々がずっと続けばいいなと思うくらいには、今が好きです。

 

 ここは人間の匂いがほとんどないのも高評価ですね。

 ……ゼロじゃないのが少しだけ不安ですが。

 ほんの僅かに人間の匂いがありました。

 ソルさんも気づいています。

 

 でも、龍結晶の地はそれを差し引いても今のルナさんにとって最高の環境と言えます。

 お腹の子にとっても。

 ソルさんがいつの間にかルナさんを妊娠させていたときは『順応しすぎかよおい』と思いましたが、今は心から応援しています。

 私も早くちっちゃな竜の子供を見たいです。

 

 とはいえ、やっぱり怖いものは怖いですね。

 人間と戦うのはできるだけ避けたいです。

 報復とかしてきそうですし。

 

 

 何はともあれ───今さら人間と共存する道なんてありません。

 

 

 もしかしたら私の『モンスターと話せる能力』は、人間とモンスターの共存を可能にする能力だったのかもしれません。

 でも、もうできません。

 既に私たちは人間を殺してしまいましたから。

 ソルさんは理解を示してくれるかもしれませんが、ルナさんは絶対に無理でしょう。

 

 まあ人間と生きていけないことになんの未練も感じていない私に、私自身かなり驚いているんですけどね。

 

 と、こんな感じで今の生活に不満はないんです。

 

 ……不満は、あり、ません。

 

 はい……ありませんよ。

 

 いや、やっぱりあります。

 

『今日の狩りは私も行こう。たまには身体を動かしたい』

 

『バカかやめろ。お前はもっと身体をいたわれ。狩りなら俺がする』

 

『……そ、そうか……? フフ、なら仕方ないな。私は巣で大人しくしていよう』

 

『あぁ、そうしててくれ。どこか痛いところとか?』

 

『そんなものはな……いや、ちょっとお腹が……』

 

『なにィィィッ!?』

 

『嘘だ』

 

『……なんだ嘘かぁ……良かった……』

 

『フフ』

 

「…………」

 

 

 この光景を毎日見せられているってこと以外には不満ありませんよッ!! 

 

 

 私には分かります! 

 ルナさん、あなたあえて不安をあおるようなこと言って動揺するソルさんの反応を楽しんでますよね!? 

 なんですかこれは! 

 世にも珍しい竜の新婚生活ですか! 

 

 ……ふぅ。

 

 私としたことが取り乱しました。

 些細な問題ですよね。

 

 ───こんなクソみたいな光景を見せつけられるくらいなんの問題ありませんとも、えぇ。

 

 …………。

 

 くぅぅ、どこかに超カッコいいアイルーでもいませんかね。

 ソルさんもソルさんですよ。

 最近はちょっと心配性すぎます。

 

『今日はヴォルガノスにしよう。たまには魚も食べた方がいい』

 

『ナッ……! アレはオモチが焼いても固いのだぞ。正直あまり好きではないのだが……』

 

 

 ───ソルさん、ヴォルガノスは魚なんですか? 

 

 

 ++++++++++

 

 

 最近は自分でも神経質になっていると思う。

 自覚ならちゃんとあるんだ。

 オモチが時折とてつもなく冷たい目を向けてくることにも気づいている。

 

 だけど……ダメだッ! 

 

 何だこの尽きることのない不安は……ッ!! 

 

 ルナのほんの些細な行動一つでさえも俺の心はやたらと掻き乱される。

 この前俺が少し眠っている間にルナが狩ったプケプケが転がっていた時は頭がどうにかなりそうだった。

 

 原因は分かっているんだ。

 そう、難しいことは何一つない。

 至って単純明快なもの。

 

 

 ───俺が父になるということ。

 

 

 陸珊瑚の台地にいた頃は色んなことがあり、実感が伴っていなかった。

 だが、龍結晶の地に移り住み僅かばかりの平穏を手にしてからというもの、時を重ねる事にこの事実が重くのしかかるんだ。

 

 全く関係ない事を考えていても、ふとした時にその蔓は絡みついてくる。

 ルナの身体は大丈夫なのかという心配だったり、どんな子が生まれてくるのだろうという胸の高鳴り。

 色んな感情が一気に押し寄せて俺の心をぐちゃぐちゃにしてしまうんだ。

 

 ……繁殖期の動物は気が立ってることが多いけど、もしかしてこんな感じなのだろうか? 

 

 とはいえ、やるべきことは何となくわかるんだ。

 雄の俺にできることなんてたかが知れているどころかたった一つしかない。

 守ることだ。

 ルナ、そしてオモチという俺の大切なものを守ること。

 

 はぁ……気持ちだけがはやっていかんな。

 

『オモチ、行ける?』

 

「もちろんにゃ!」

 

『じゃ行ってくるから、ルナは大人しくしててくれよ。頼むから』

 

『分かっている』

 

『…………』

 

 ……本当に分かっているのだろうか。

 もうとっくに既知の事実だが、ルナの気性はかなり荒い。

 そのせいもあり、俺が狩りから帰ってきたらルナが狩り殺したものが転がっているなんて珍しくもないんだ。

 こればかりは何度言っても直らない。

 最近ようやく控えるようになってきたが。

 

 やはり不安だが、あまりくどくど言うのも良くないよな。

 

「すぐ帰ってくれば大丈夫にゃ!」

 

 俺の心を見透かしたかのようにオモチがそう呟いた。

 既に俺の背に乗ってスタンバってる。

 

『そうだな。すぐ帰る』

 

『待っているぞ』

 

 俺はルナに背を向け翼をはためかせる。

 向かうのは『龍結晶の地』南西部。

 溶岩の湖がありヴォルガノスの生息している場所だ。

 

『いつもの感じでいこう』

 

「りょーかいにゃ!」

 

 オモチと一緒に狩りをするのも随分と慣れた。

 最初はこちらも心配だったのだが。

 でも数回一緒に狩りをすれば嫌でも気付かされる。

 

 オモチは決して弱くない。

 

 明らかに狩り慣れしている。

 オモチは俺と同じ転生者だ。

 歴戦のアイルー……ではないはずなんだが。

 

 本当に凄いことだ。

 俺はリオレウスとなり生物としての強さがあるが、オモチはそうではない。

 これは技術的な強さ。

 どちらかというと人間の強さだ。

 

 オモチからすれば自分より何倍も大きな生物を相手にしているというのに、臆することなく立ち向かえる。

 心から尊敬する。

 俺なんかよりよっぽど強いよ、オモチは。

 

『……言うまでもないが言わせてくれ。気をつけろよ』

 

「分かってるにゃ。油断大敵にゃ」

 

 オモチは俺から降り、目的の場所へと歩き出す。

 そして俺は身を隠した。

 というのも、どういうわけかヴォルガノスは俺を襲ってこないのだ。

 逃げ出してしまう。

 溶岩の中を泳ぐもんだから追えもしない。

 

 そこでオモチなのだ。

 

 まずオモチがヴォルガノスに投げナイフなどを使ってちょっかいをかける。

 するとどうだ。

 怒ったヴォルガノスは溶岩から陸地へと飛び出してくるではないか。

 

 だが、そこに待ち受けるのはオモチが仕掛けた“シビレ罠”である。

 そして成功すれば音を使ってオモチが俺に合図を送ってくれる。

 

 合図だ。

 ほらな、今回もまんまと掛かった。

 オモチを舐めすぎなんだよ。

 

 とはいえ安心は出来ない。

 ヴォルガノスを仕留めるのは時間との勝負。

 溶岩に逃げ込まれたら終わりなのだから。

 

 まずはシビレ罠が機能しているうちに火炎ブレスを放ち、もう一度赤熱させる。

 続けざまに尻尾を思い切り振り抜き、コイツの纏っているマグマの鎧を引き剥がす。

 

 そして狙うのは喉だ。

 ここはゲームの世界ではない。

 生物である以上、急所というものが確実に存在している。

 

 俺は翼爪をヴォルガノスの喉に突き刺し、そのまま地面に押し倒した。

 

「ギュグルゥゥァァァァァァァァッ!!!!」

 

 まだダメだ。

 命絶えるその時まで気を抜くな。

 俺は踏みつける。

 何度も、何度も、何度も。

 

『……終わりだな』

 

「お疲れ様にゃー! まあほとんどはソルさんのおかげだけど」

 

『いや、そもそも俺だけじゃヴォルガノスをおびき寄せることすらできないよ。ありがとうオモチ。いつも助かってる』

 

「や、やめてくださいにゃ〜もう。照れちゃうにゃ」

 

『照れ───ん?』

 

 その時、何か聞こえた。

 俺の耳には確かに聞こえた。

 

「どうしたにゃ?」

 

 異様に早まる鼓動。

 良くないことが起こっていると確信にも似た胸騒ぎ。

 

 

 ───ルナに何かあった。

 

 

 そんな不吉な予感が頭に過ぎった瞬間、途方もない恐怖に襲われた。

 

『ルナに何があったかもしれないッ!!』

 

「えっ!? 急にどうしたのにゃっ!?」

 

『頼む、今は何も言わず俺に従ってくれ!!』

 

「わ、分かったにゃ!!」

 

 オモチを背に乗せ、俺は羽ばたいた。

 狩り殺したヴォルガノスの事など当然のように頭になかった。

 今はとにかく巣に戻らなければ。

 その一心で俺は羽ばたいた。

 

 何も無ければそれでいい。

 ただの笑い話だ。

 たくさん笑われたあとに、狩り殺したヴォルガノスを取りに戻ればいい。

 

 でも、もし────

 

 

「ガルァァァァァァッ!!!!」

 

 

 その咆哮は俺のよく知るものだった。

 

「る、ルナさんの声にゃ!!」

 

 あぁ、分かってるよ。

 だいぶ警戒しなくてはならない強敵と対峙してるってことまで痛いほどに伝わってくる。

 

 翼をさらに強くはためかせる。

 オモチには悪いが緊急事態だ。

 

 見えた。

 

 

 ───『ネルギガンテ』

 

 

 恐怖はなかった。

 それ以上の怒りが俺を満たしていたから。

 

『オモチ、行くぞ』

 

「当然にゃ!!」

 

 俺はネルギガンテに向かって急降下した。

 




ちょっと忙しくて更新できてませんでした。
待っててくれた読者の皆さんは本当にありがとうございます。

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