「や、ややや、やるのかにゃ……よ、容赦しにゃいぞ!!」
巣としている遺跡に戻ると猫がいた。
いや、ただの猫ではない。
モンハンのマスコットキャラクターであり、ハンターの頼もしい相棒───アイルーだ。
「グルガァ……」
可愛いなおい、と思わず言ってしまった。
口に出るのも仕方がない。
ちょっとした感動だったのだから。
自作だろうか、荒々しくもしっかりとした皮鎧をつけている。
小さな短剣をこちらに向け、威嚇している。
ただ、恐怖からかその手はひどく震えていた。
しかし、次は俺が驚かされる番であった。
「か、かわいいだと……!? ボクはオモチっ!! 孤高の旅アイルーにして、立派な剣士だにゃっ!! にゃ、にゃめるんじゃないぞっ!!」
……え?
ちょっと待って。
今言葉通じなかった?
驚愕のあまり、思わず翼をバサッと広げてしまった。
「うわぁぁぁ!! やめてくれにゃぁぁぁ!!」
まずい、怖がらせてしまったか。
いやそれよりも、絶対に確認しなくてはならない。
『オモチ、と言ったか?』
多分、普通の人間が聞いても『グルァ?』的な感じでしか聞こえないだろう。
ただの鳴き声だ。
でももし……このアイルーが俺の言葉を理解しているのだとしたら───
「そ、そうだにゃっ!! ボクは───」
「グルァァァァァァッ!!」
えぇぇぇぇぇぇ!!! と思わず絶叫。
当然と言うべきか、俺の咆哮を聞いたオモチは完全に戦意を喪失し、お尻をこちらに向けて頭を抑えながらブルブルと震えている。
「に、逃げにゃきゃ……あな、穴を掘るにゃ……あぁダメにゃ、手が震えて……」
やってしまった……。
言葉を理解できるアイルーという事実が衝撃的すぎて、咆哮という名の絶叫を上げてしまった。
まずい……オモチが絶望しすぎてもはや生きることを諦めている。
なんかアイルーってヤバくなったら穴掘って戦線離脱するはずなのに、それすらできていない。
というかこれ、とんでもないぞマジで。
いや、まずはこのアイルーと仲良くならなくては。
まずは驚かせてしまったことを素直に謝ろう。
『すまない、驚かせてしまったな』
「……にゃ? ぼ、ボクを食べるのかにゃ……?」
怯えきっている。
なんてことをしてしまったんだ俺は。
こんな可愛い生物を怖がらせてしまうなんて。
罪悪感で死にそうだ。
『食べるつもりはない。ただ、オモチが俺の言葉を理解していたから驚いたんだ』
よし、これなら大丈夫か……?
逆の立場なら俺だってコイツのように怯えるだろう。
捕食する側とされる側。
言葉を話せるからと言って、この関係が覆ることはない。
やはり……諦めるべきか。
と思っていたら───
「にゃーんだ。そうだったのかにゃ」
『……え』
まさかのすんなり受け入れた。
いや、ちょっと待って。
肝座りすぎてない?
オモチはちょこんと座り直し、「ふぅー、もうダメかと思ったにゃ……」と呟いた。
やはり怖いのは怖かったようだ。
ただ、俺は聞かなくてはならなかった。
もう好奇心が抑えられそうにない。
『オモチはモンスターと話せる……のか?』
俺の口から出るのは相変わらず人の言葉からかけ離れている。
本来、わかるはずがない。
アイルーがモンスターと話せるなんて設定があったか……?
いや、さすがになかっただろう。
モンハンってめちゃくちゃ世界観作り込まれていたし、その全てを知っている訳では無いけど……アイルーがモンスターと話せるなんて重要設定があるならさすがに知っていると思う。
それなりにモンハンはやり込んでいたからな。
「そうだにゃ。この能力のおかげで、ボクは今まで生きてこられたんだにゃ!」
マジか!!
おっといかん。
また叫びそうになってしまった。
もう怖がらせてはいけない。
『オモチはどんなモンスターとも話せるのか?』
俺は好奇心の赴くままに質問を投げかけた。
「うーん、今のところ大きいモンスターからは逃げてきたから、小さいモンスターとしか喋ったことないけど多分話せるにゃ」
『それはアイルーの能力なのか?』
「いや、違うにゃ。同族と会ったこともあるけど、モンスターと話せるのはボクだけだったにゃ。でも、極稀にそういうアイルーもいるってお年寄りのアイルーが教えてくれたにゃ」
なるほど。
そういえばオモチは旅をしていると言っていたな。
アイルーって旅するんだ。
てかココって結構高いところにあるけど。
こんなところに来るなんて、オモチは割とベテランだったりするんだろうか。
アイルーってハンターのオトモってイメージしかなかったけど……いや、この世界が俺の知っているモンハンの世界とは限らないか。
今の今まで疑いもしなかったが、当然その可能性だってあるんだ。
でもそんなことはどうでもいい。
この出会いは絶対に運命だ。
あれが……アレが食べられるかもしれない。
自分で何度試しても出来なかった……アレが!!
『なぁオモチ、今アプトノスを狩ってきたところなんだが……お前これを調理して“こんがり肉”にすることってできるか……?』
そう、俺は食べたいのだ。
こんがり肉を……!!!
俺は期待の眼差しをオモチへと向けてしまう。
だが、オモチは少しだけ不満そうな目を俺に向けてくる。
まさか……無理なのか?
期待した分、その絶望はあまりにも大きいぞ……。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、オモチは言葉を紡いだ。
「レウスさん、ボクをにゃめないで欲しいにゃ。───当然、できるにゃ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は抑えられなかった。
「グルァァァァァァッ!!」
「にゃぁぁぁぁぁ!!」
地を震わせるような俺の咆哮。
森から一斉に鳥が飛び立つ。
そしてオモチも悲鳴とともにひっくり返る。
「にゃ……やっぱりボクを食べるのかにゃ……?」
今にも泣きだしそうなほど目をウルウルとさせていた。
やってしまった。
あまりの嬉しさに俺は咆哮を抑えることができなかったのだ。
『す、すまない。また驚かせてしまったな』
「ぼ、ボクのこと食べない……かにゃ?」
『食べない! 絶対に食べない! 頼む、信じてくれ。俺は何があってもオモチを食べない! それどころかどんな危険からも守ってやるさ!』
嬉しすぎて饒舌になってしまった。
「そうかにゃ……とか言って油断させておいて、実は食べるなんてことも……ないかにゃ?」
訝しむような瞳だ。
オモチは俺からジリジリと距離をとっていく。
なんだか凄く悲しい。
旅をしてきた、というだけあって妙に用心深い。
さすがはオモチだ。
『絶対にオモチを食べない! 頼む、信じてくれ……!』
俺にはひたすら真摯に頼むしかなかった。
それ以外の方法がない。
もし俺が武装した人間であるならば、その武装を解くことで危害を加えるつもりがないことを示せたのだろうが、あいにく今の俺は身体そのものが武器であるリオレウス。
最終的にはオモチに信じてもらうしかないのだ。
「うーん……」
まだだ、まだ怖がられている。
俺は土下座でもしたい気分だったが、リオレウスの身体で土下座などできない。
だからとりあえず、頭を地面につけた。
ただ寝そべっているようにしか見えないかもしれないけど。
『驚かせてしまったことは謝る。この通りだ……!!』
頭を地べたにつけてなお俺の方が目線が高いのだからもどかしい。
いっそのこと埋まってしまいたいくらいだ。
「そ、そこまでしなくていいにゃ! わかった、信じるにゃ」
「グルァ……」
尋常ではない喜びが込み上げ、またしても咆哮してしまいそうになったが、今回はぐッと飲み込むことに成功した。
だが───まだだ。
むしろここからが本番だ。
これは正しく運命の出会い。
逃せば死ぬまでこのチャンスは訪れない。
『許してくれてありがとう。だがすまない。実はもう一つ頼みがあるんだ、オモチ』
「ん? 何かにゃ?」
俺は意を決してオモチに言った。
『俺の……“オトモ”になってくれないか?』
そう、これが俺の心からの頼みである。
オモチはいい友になる。
モンスターと言葉を交わせる特別なアイルーなのだから。
それに……オモチがいれば調理をしてもらえるッ!!
いや、最初こそそういう打算的な考えがあったが、今は違う。
少ししか喋っていないが、俺はオモチのことをとても気に入ってしまっている。
同族のアイツには嫁を作らないのかと言われたが、俺に必要なのは嫁ではなくオモチなのだと確信してしまった。
もうこの心は覆らない。
「え、オトモって……あのハンターさんと一緒にいるやつかにゃ?」
『そうだ! ぜひオモチには俺のオトモアイルーとなって欲しい! 頼む!』
「急にそんなこと言われてもにゃー……だいたいレウスさんにボクは必要かにゃ? ハンターじゃにゃいし」
『必要だ! 必要すぎる!!』
「うわ! 驚かせないで欲しいにゃ……」
『あ、すまん……本当に。何度も何度も……』
俺はまたしても頭を地べたにつけた。
必死すぎるな。
気持ちが昂ると大声になってしまう。
悪い癖だ、直さなくては。
そして少し落ち着こう。
ふぅー、よし。
『えっとまず、俺は見ての通り竜だから料理ができない。でも、俺は……うーんと、そう! グルメなんだよ! だからオモチには料理をしてもらいたい。それに一緒に狩りをすればより効率的だ!』
「……グルメなリオレウスなんて聞いたことないにゃ」
『いやそれは……あ、俺は普通のリオレウスじゃないんだよ! ほら見てくれよこの銀色の甲殻。普通じゃないだろ?』
「確かに……ボクが知ってるリオレウスは赤いけど……」
『だろう! だから頼むよオモチ!』
「でもにゃ……ボクも目的があるし……」
オモチはイマイチ返答を渋っていた。
『目的? 良かったら聞かせてくれないか?』
俺がそう言うと、オモチは少しだけ言いずらそうにしながらも、ゆっくりと話始めてくれた。
「実は……ボクは産まれたときからずっと1匹だったにゃ。だからずっと1匹で生きてきたにゃ」
少しだけ、本当に少しだけ寂しそうだった。
そして、ちょっとだけ俺と似た境遇だなとも思った。
「ボクは、ボクを産んでくれた親を探して旅をしているのにゃ。もう生きていないかもしれにゃいけど、探さずにはいられにゃいのにゃ。だからボクは旅を止めるわけにはいかにゃいのにゃ」
俺は、本当に陳腐な表現かもしれないが胸をうたれてしまった。
こんな小さな存在が、今までずっと1匹で生きてきたのだという。
数多のヤバいモンスターが闊歩するこの世界を、たった1匹で。
俺のように強いわけでもないのに。
いや───オモチは俺なんかよりずっと強いな。
『わかった、その目的を俺にも手伝わせて欲しい』
「……え」
『俺は空を飛べる。それに割と強い。きっとオモチの役に立てる』
「にゃにゃ……! にゃんでそこまでしてくれるのかにゃ……!?」
いや、そうなるよな。
よく分からんリオレウスがいきなりそんなことを言ってきたら。
でも、理由なんて重要じゃない。
俺がそうしたいと思ったからそうする。
それでいいんだ。
こんな傲慢な考え方をしてしまうのは、リオレウスになってしまったからだろうか。
『オモチを気に入ったから。理由なんて、それでいいだろ?』
だから飾ることなく素直に今の俺の気持ちを伝えた。
俺はオモチを気に入った。
理由なんてどうでもいい。
気に入ったから気に入ったのだ。
俺の返答を聞き、オモチは目を見開いて驚いていた。
それから何かを考え始めた。
うーん、うーん、と時折唸った。
だけど、最後には───
「わかったにゃ……! ボクはこれからレウスさんのオトモになるにゃ! よろしく頼むにゃ!」
オモチがそう言ってくれた瞬間、あれだけ注意していたにも関わらず俺はまたしても喜びの咆哮を上げてしまった。
それも今までで一番特大なやつを。
オモチがひっくり返るどころか吹き飛ばされてしまったのは、言うまでもないだろう。
お読みいただきありがとうございました。