この世界で過ごすうちに、俺はある仮説にたどり着いた。
ここが、MHWの『上位』の世界なのではないかということだ。
そう考えれば色々と辻褄が合う。
モンスターの弱さや出現する種類、そして古龍であるネルギガンテでさえもそこまで脅威に感じなかったこと。
あとは『クラッチクロー』がないことなんかも説明がつく。
もちろんこれは俺の推測に過ぎない。
だから安心できるというわけでもない。
例え今が『上位』だとしても、いずれはくるということなのだから。
───『マスターランク』の世界が。
しかし、だからこそ疑問が残る。
ここが『上位』の世界であるとすれば、あの銀レウスと金レイアの存在だけがどうも筋が通らない。
受付嬢の話であった『ティガレックス希少種』『ナルガクルガ希少種』『燼滅刃ディノバルド』そして、『金雷公ジンオウガ』なんかも異質そのものだ。
しかもコイツら10年おきに現れてやがる。
転生者が現れるのと同時期だ。
ふざけんなよほんと。
なんだこの笑えないジョークは。
あとなんで今回だけ2匹いんの?
銀火竜と金火竜はセットですか?
クエスト『陰陽賛歌』のためですかね。
そんなクエスト毛ほども受けるつもりないんでやめて下さい。
お願いします。
「はぁ……憂鬱だ……」
「どうしたのニャ?」
「いやちょっとな……とりあえず憂鬱なんだ……」
「旦那さん! 大丈夫ニャ! 旦那さんはスゴいハンターニャ! それはボクが保証するニャ!」
「ありがとうチョコチップ。俺もお前がオトモで良かったよ」
「ニャっ!」
俺はチョコチップの頭を撫でてやり、導蟲に従って最大限の警戒をしながら歩いていく。
今は『陸珊瑚の台地』になかなか帰ってこないギルゴールのバカ達を探しに来ているのだ。
「まったく……どこで道草くってんだか」
本当はこんな不確定要素の多いクエストを受けるのは危険なんだ。
本編で登場していないこの世界特有のクエスト。
何があるかわかったものじゃない。
でもまあ───受けないわけにはいかないわな。
アステラの奴らは個性的過ぎるバカが多くてイラつくことも少なくないが……最悪なことに俺は居心地がいいと思ってしまっているんだよなぁ。
あぁほんと最悪だ。
それに、アステラには子供もいる。
ゲームでは見かけることがなかったが、この世界では家族を作って生活している奴らも当たり前のようにいるんだ。
だから危険があれば排除しなくてはならない。
アステラを守るって意味でも。
はー、嫌だ嫌だ。
自分の命だけを考えて生きていけたならどれだけ楽だったか。
「まーた難しいこと考えてるニャ」
「……こればっかりは直らん」
「旦那さんは昔っからそうニャ。気楽にいきましょうニャ!」
「そうだな。そうしたいよ俺も」
……本当に不思議なんだが、チョコチップには俺との昔の記憶があるようなのだ。
現大陸での記憶が。
歴代モンハンの記憶でもあるのだろうか。
まあ、些細なことだけどな。
俺にとってチョコチップがかけがえのないオトモだってことに、変わりはないんだから。
そんなことを考えているときだった。
俺は視界の端に3匹のシャムオスを捉えた。
ぶっちゃけシャムオスなんて何匹出てこようが問題なく対処できると思う。
とはいえ、最大限の警戒はする。
突然変異により古龍級のシャムオスになっているかもしれないから。
「キシャアアアッ!!」
俺は大剣を振り下ろした。
一撃で屠り去る。
どうやら突然変異したヤバすぎるシャムオスではなかったようだ。
それからも俺は、無限に湧いてくるのではと思わずにはいられないシャムオスを斬り殺しながら先を急いだ。
導蟲に導かれるがままに。
そして───
「……なんだよ……これ……」
辿り着いたのはシャムオスの巣と思われる場所。
そこで見つけてしまった。
ほとんど食い漁られ、人間としての原型をまるで留めていない無惨な死体。
辛うじてそれがハンターだと分かるのは、俺のよく知る装備を確認することができたからだ。
「だ、旦那さん……」
「分かってる……大丈夫だ……大丈夫……」
放心状態だった俺を、心配そうにチョコチップが見上げていた。
正直言って俺は今まるで冷静じゃない。
思考がぐちゃぐちゃだ。
疑問が雲のごとくわいてくる。
「……有り得るかッ!!! こんなの……有り得るわけねぇだろうがッ!!!」
海のように深い悲しみと烈火の如き怒りが同時に押し寄せた。
ギルゴール達がシャムオスにやられただと?
そんなわけあるかッ!!
なんの冗談だよクソがッ!!
「……どうするニャ?」
「そうだな……」
俺は一度深呼吸してから心を鎮めた。
冷静になんかなれはしない。
でも少しくらい心を落ち着けて、この状況を確認しなくては。
俺は一人のハンターとして、この事実を伝える義務があるのだから。
死体は酷い状態だ。
すでに判別がつかないほどに。
だから見るべきは装備の方。
俺はしばらく観察してみた。
するとどうだ。
やはりシャムオスなんかにやられたんじゃないということが分かった。
大きすぎる爪痕。
これは明らかに大型モンスターのものだ。
もしかしたらアイツなら種類まで分かったのだろが、俺には分からない。
それでもシャムオスのものではないことくらいは分かる。
極めつけがこの焦げ跡だ。
これが炎によるものなのか、雷によるものなのか、はたまた別の何かによるものなのか。
どうであれ、凶悪なモンスターによってギルゴール達の命が奪われたことに変わりはない。
「……あぁ、クソっ……」
これ以上の事は分からない。
ベースキャンプで待機してるアイツに直接見てもらう他ないだろう。
「……行くぞチョコチップ。一度キャンプに戻って───」
───なんの脈絡もありはしなかった。
“ソレ”は本当に突然その姿を現したのだ。
俺が悲しみを胸にキャンプに向けて歩き始めようとした時───『金雷公ジンオウガ』は立ちはだかった。
意識はしていなかった。
本当に無意識に俺はいつの間にか大剣を構えていた。
息が詰まるような重圧。
首元にナイフを当てられているかのように身体が強ばり身動きもできない。
逃げる、なんて選択肢はなかった───いや、逃げることなどできないと本能が理解していたんだ。
目の前の化け物から少しでも気をそらせば、その瞬間に俺は死ぬだろう。
生きる為にはコイツを狩るしかない。
不思議な話だ。
俺と同じように、金雷公もこの唐突な邂逅に驚いているように見えたんだから。
もしかしたら、この出会いは偶然に偶然が重なったものであったのかもしれない。
だが、どうやらコイツも俺と同じように覚悟を決めたようだ───。
「グゥオオオオオオオオオオオオンッ!!!」
++++++++++
最初に仕掛けたのはどちらからだっただろう。
俺とコイツの殺し合いが始まってから、どれくらいの時が流れたのだろう。
そんなことはもはやどうでもいい。
戦いの中で俺は自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされていくのが分かった。
「回復ミツムシ設置完了だニャ!!」
チョコチップには何度も逃げろと言ったが聞いてくれなかった。
だから仕方なく回復に専念してもらっている。
だが、それによって俺は命を救われている。
俺一人ならばとっくに死んでいただろう。
回復する隙などありはしないんだから。
「グラァッ!!」
「……チッ!」
雷による攻撃を躱す。
しかし、俺が躱すことなどわかっていたかのように続け様に爪による攻撃が俺を襲う。
避ける場所すら予測した正確無比な攻撃だ。
恐ろしく高い知性。
コイツは俺の動きを学び、戦いの中で成長している。
ただ、そんなことは戦闘が始まってすぐに理解した事だ。
俺の『金雷公ジンオウガ』の知識など微塵も役に立たないことなど。
型にハマらない動き。
高すぎる機動力。
雷撃による広範囲攻撃。
凶悪なんて言葉では収まりきらない。
本当なら身体が竦んで動かなかっただろう。
そのはずなのに、俺の身体は俺の意志に反して完璧に動いた。
知識は当てにならない。
ならば初見モンスターとして対処を始める。
淡々とそう結論を下し、俺の身体は動いたんだ。
最初は攻撃をくらわないことに重きをおいて動いた。
コイツは基本的に型にハマらない動きをするが、モーションが存在しないわけではない。
特に大規模な攻撃の前には必ず特有のモーションがある。
それを見極めなければならない。
しかしコイツもまた俺に合わせて次第に動きを変えてくる。
だから俺もさらにそれを考慮した上で攻撃を仕掛けなくてはならない。
その読み合いだ。
直撃は避けなくてはならない。
分の悪い賭けはしない。
だが、いけると思ったら迷わずに攻撃する。
慎重に、時に大胆に。
必死だった。
ただ必死に大剣を振るった。
一発縦斬りを当てて、納刀。
時々なぎ払い。
ほとんどがそれだ。
溜め斬りなんてほとんどできない。
ただ、完全に隙がないわけではないんだ。
俺は全部位の『怯み値』を計算しながら戦闘している。
無意識に計算してしまうんだ。
だからこそ分かった。
この世界にも、怯み値の概念は確かに存在していると。
そして、その値は従来の『金雷公ジンオウガ』と何も変わらない。
ならば殺れる。
ダウンのタイミングを含めた全てを把握できる。
最初は必死で、怒りを抱く余裕なんてなかったが今ならば抱いてしまう。
ギルゴール達を殺ったのは間違いなくコイツだ。
あの大きな爪痕。
そして焦げ跡も雷撃によるものだと考えれば辻褄が合う。
この感情は間違っている。
怒りに任せて狩りをしてはならない。
でも無理だ。
「ハァ……覚悟しやがれよこの野郎」
俺はそんなできた人間じゃねぇのさ。
大剣を握る手に力が入る。
それに、分かったことがあるんだ。
───俺は強いということ。
この戦いの中で気づいた。
俺が天より与えられた力はゲーム内で手に入れた装備やアイテム等では断じてないということを。
俺の強さは───『経験』だ。
やっとわかった。
俺がコイツと戦えている理由。
そして、強烈にイメージを作り出してトレーニングできる理由も。
───『ゲーム内での出来事が、俺がこの身体で実際に経験した事として蓄積されているのである』
歴代モンハンの膨大な知識は確かな経験として俺の血肉となっている。
これこそが俺の強さ。
俺は正しく歴戦のハンターなんだ。
だから俺は強い。
しかし───だからこそ目の前のコイツが異常だということも分かる。
それでも負けるわけにはいかない。
俺は何としても勝つ。
勝って生き残る。
「グゥオオオオオオオオオオオオンッ!!!」
「お互い……ハァ……そろそろ限界だよなァ……」
確かに限界だ。
身体の至る所が痛み血が流れる。
ダメージが半端じゃない。
それでも勝てる。
絶対に勝てる。
何としても生きる……ッ!
コイツには癖のようなものがある。
モーションとは別の癖と言うべきものが。
このうんざりするような死闘の果てに、唯一見つけたコイツの弱点だ。
だから───ココだッ!!
「……は?」
しかし、俺の大剣は空を切った。
心はとても静かで空虚だった。
なるほど。
それは意図的に作られた癖だったのか。
クソゲーだぜ本当によ。
モンスターのくせに頭良すぎだろうが。
やたらと時間がゆっくりと流れる世界の中で、俺は目の前に迫る巨大な爪を見ながら妙に冷静な思考でそんなことを思った。
死ぬ。
死ぬのか俺は。
はぁ……クソつまらねぇ人生だったわ。
ふざけんなよボケが。
この世界の難易度イカれすぎだろ。
俺自身驚く程にすんなりと自分の死を受け入れられた。
その時、
「───旦那さん!!」
チョコチップが飛び出してきたんだ。
体当たりするように俺の前に現れ、ポンと体を押した。
またしても時間がゆっくりと流れた。
その雷を纏った凶悪な爪は、俺の目の前でチョコチップを無慈悲に斬り裂いたのだ。
それだけに留まらず、ミラボレアスの鎧兜すら貫通し俺の左目をも斬り裂いた。
チョコチップが庇ってくれなければ、間違いなく頭蓋ごと真っ二つだったことだろう。
「……チョコ……チップ……」
濁流のように押し寄せる悲哀の情。
しかし皮肉なことに、感情を支配する術さえもこの肉体は知っていた。
今は悲しんでいる時ではない。
全ての感情を心の片隅に追いやる。
残ったのは凪の心だ。
「オラァァァッ!!!」
隙は絶対に逃さない。
俺は思いっきり大剣を振り下ろした。
「グゥオラッ!」
金雷公はダウンした。
「ハハッ、どう計算ミスってもあと一発でダウンするのは分かってたぜ」
これで死ななきゃお前の勝ちだ。
縦切り。
強溜め斬り。
タックルによるキャンセル。
そして───真・溜め斬り。
「ドッセエエエエエエイィィッ!!!!」
「グゥアアアオオオオオオオオオン!!」
金雷公は悲痛な叫びを上げた。
全てを出し尽くした俺はそのまま地面に倒れ伏した。
もう動けない。
これで金雷公が生きているならば、俺の負けだ。
「……ハァ……どうやら……勝───」
何とか勝った。
そう思った。
しかし、金雷公はヨロヨロと起き上がったのだ。
かなり苦しそうだ。
それでも奴は起き上がった。
「……クソッタレが」
視界が霞んでくる。
もう限界だ。
ちくしょう。
勝てなかったか。
すまねぇ、チョコチップ───
「───させませんよ」
ズドン、という鈍い音。
それが最後に俺が聞いた音だった。
++++++++++
……間に合って良かった。
私は心底安堵しました。
長年追い続けていた金雷公の咆哮を耳にした時は肝を冷やしましたよ、本当に。
それにしても。
「とんでもありませんねぇ……」
この少年は、あの金雷公ジンオウガを一人で倒してしまった。
とてもではないが信じられない。
しかし、目の前の光景が全てです。
私は最後にちょっとこづいたにすぎません。
「相棒ーっ!!!」
この少年を早くアステラに連れ帰らなくては。
そう考えていると声が聞こえてきました。
あの女性は───ということはやはりこの少年が……。
「あ、相棒!!!」
「大丈夫、生きていますよ。オトモの方は……残念でしたが。ですがとても危ない状態です。早くアステラに連れ帰りましょう」
「あ、あなたは……?」
「おっと、これは失礼。私としたことが名乗るのを忘れていました。私の名は───『ゴッド・マサカズ』。しがない笛使いですよ、お嬢さん」
エクレアくんは強い。
さすが主人公。
……アレ?