別作品完結させてきました。
これからはもう少し早く更新できるはずです。
……あ?
ここは……どこだ?
辺り一面真っ暗な世界。
何の音もない。
記憶がぼやけてて、なんで自分がこんな場所にいるのかも分からない。
不安ばかりが広がっていく。
そんなとき───
「───旦那さん」
後ろから声が聞こえた。
とても聞き覚えのある声だ。
そう、それは俺の頼れるオトモアイルー。
「チョコ……チ…………」
俺は振り向いた。
当然だ。
早くチョコチップの顔が見たかった。
安心したかったんだ。
でも───そうはならなかった。
そこにいたのは血塗れのチョコチップだった。
体を大きくに引き裂かれ、なぜ生きているのかわからないほどの傷。
見るも無惨な姿のチョコチップがそこにいたんだ。
「チョコ……お前……」
「なんでニャ?」
「え?」
俺は───
「なんで……助けてくれなかったのニャ?」
───救えなかったんだ。
++++++++++
「うわァァァアアアアアアッ!!!!!!」
俺は叫びながら目を覚ました。
荒れた息を整えながら現状を理解する。
そう、全ては夢だったんだ。
「ハァ……ハァ……いや、夢とも言いきれねぇか」
俺の身体は包帯で至る所がぐるぐる巻きにされている。
そして何より、僅かに動かしただけでも響くこの痛み。
つまりそれが意味することは───あの戦いが現実であったということ。
ポタり、と何かがベッドに落ちた。
それはポタりポタりと次第に数を増やしていった。
「ははっ……弱ぇなァ……俺は」
ベッドにシミを作っていくそれは───俺の涙だった。
チョコチップを失った。
今でも鮮明に覚えている。
目の前でチョコチップが無慈悲に斬り裂かれるあの光景。
当たり前にいた存在がいなくなるって、こんなに辛いんだな。
そういやなんで俺は生きてんだろう。
ならチョコチップも生きてたりしないんかな?
そんな考えが頭を何度も過ぎるが、その事実を否定するのは俺自身だった。
皮肉にも俺の知識と経験が、あの傷は致命傷であると結論を下すんだ。
「あぁほんと……なんで……」
一度流れ始めた涙は止まることを知らなかった。
拭いても拭いても止まらない。
歯の隙間から声が洩れ、いつしかそれは嗚咽に変わった。
色んな感情が溢れて抑えることができない。
俺はみっともなく泣いた。
泣きじゃくった。
「あ、あの……だ、大丈夫? 悲しいの?」
その時、左の方から声がした。
振り向けばそこには、小さな女の子が尻もちをついていた。
アステラで見たことがある女の子だ。
なんで気づかなかったんだろう。
あぁそうか……俺は左目を失ったんだったな。
「ごめんな驚かせて」
「う、ううん……私も、よ、よく泣いちゃうから」
「ははっ、なら俺たちは仲間だな」
俺がそう言うと女の子は少しだけ笑顔を取り戻したようだった。
まったく、小さな女の子が同じ部屋に居たことにさえ気づかないなんて。
思った以上に俺は身体だけでなく心の方も疲弊しているらしい。
ドタドタドタっ。
やっと色々と整理がついてきたところで、扉の向こう側から足音が聞こえてきた。
軽い足音ではない。
勢いよくこちらへ走ってくるのが容易にわかるような音だ。
何となく誰が来るのか予想できる。
勢いそのままに扉が開かれた。
「相棒ーっ!!!」
ほらな。
やっぱりコイツだ。
「よぉ」
「ううぅ……あ゛いぼォォオオッ!!」
「ギャァァアアアッ!!!」
あろう事かコイツは重症の俺に抱きついてきた。
全身が悲鳴を上げる激痛。
めちゃくちゃ痛いしムカつく。
けどまあ……そんなに嫌ではなかった。
「あぁぁごめんなさい!! 痛いですよね、私……ほんとごめんなさい!! ……でも、本当によかった……本当に……」
「そうだな」
「私、守りましたよ。どんなに心配でも……キャンプから出ずに……」
「あぁ」
「救援も呼びませんでした。……アナタがピンチになる状況、下手に仲間を呼んだら……被害を拡大させてしまうだけかもしれないと言っていたので……」
「分かってる。お前は何も間違ってないよ。ありがとう───“ララ”」
「……え? な、名前! 今私の名前を!」
「あ? 何?」
「初めて私の名前を呼びましたね!!」
「え、初めてだっけ」
「初めてです!!」
そうだったっけ。
新大陸に来てそれなりに時間経ってるのに。
そういや、今まで『オイ』とか『お前』とか『受付嬢』って呼んでたかもな。
まあどうでもいいわ。
「無事、とは言えませんが、お目覚めになられたこと心から祝福致します」
知らない声がした。
左側はわざわざ首を向けなきゃ見れないからめんどくさいわ。
こればっかりは慣れだな。
そこにいたのは、どっかの貴族のような髭を貯えたイケおじだった。
見た瞬間何となく分かった。
この人だって。
「あ、紹介しますね! こちら『ゴッド・マサカズ』さんです! 相棒……え、エクレア! の命の恩人ですよ!」
「…………」
コイツはなんで言っちゃった! みたいな顔してんの。
怖いんだけど。
いや、それよりも……やっぱこの人か。
俺と同じ───『転生者』
イメージと違いすぎるだろ。
絶対キッズだと思ったら超ダンディーなイケおじでてきたんだけど。
「どうも、エクレアです。それとありがとうございました。命を助けてもらって」
「いえいえ。私はちょっと手を貸したにすぎませんとも。全ては貴方の力。まさか“あの”金雷公ジンオウガを倒してしまうとは……想像以上の実力者のようですね」
「……とんでもない。俺は……弱いです」
強けりゃ左目を失うこともなかった。
強けりゃ『チョコチップ』を失うこともなかった。
負の感情ばかりが心の奥底で渦巻く。
俺には足りないものが多すぎる。
「謙虚なことは美徳ですが、あまり自分を卑下するものではありません。貴方は強い。私の知る誰よりもね。ただ逸る気持ちは理解しますが、今はゆっくり休んで心と身体を癒して下さいね」
「そう……ですね。ありがとうございます」
それからゴッドさんはあの金雷公の事を色々と話してくれた。
ゴッドさんはその脅威ゆえに金雷公の動向を長年探っていたようなのだ。
そうだよな。
あんな化け物がアステラに奇襲でもしかけてきたら本当に笑えないから。
「実は『陸珊瑚の台地』の近くに金雷公の巣があるんです。加えて、三体目となる子供が生まれたばかりだったので気が立っていたのでしょう。……金雷公は巣の場所を転々と変えます。あの場所を私が発見したのは最近のことでした。もう少し早く見つけていればこのようなことにはならなかったかもしれません。深く……深く謝罪致します」
「……謝らないで下さい。ゴッドさんが悪いことなんて何もありませんよ」
なるほど、アイツからしたら俺こそが排除しなくちゃならねぇ脅威だったってことか。
子供を守るために戦ってたんかよ。
なら……なら俺は……何のために…………。
「そんな顔しないで下さい。貴方はハンターとしてすべきことをしたのです」
ゴッドさんがポンと俺の肩に手を置いた。
「それに、これからは微力ながら私も貴方をサポートします。足手まといと思うならご遠慮なく仰ってください。───まあ、そうはならないでしょうけどね」
「え……」
その表情からは、これまで積み上げてきたものの大きさが伝わってきた。
この人もこんなヤバすぎる世界に飛ばされ、ここまで生き抜いてきたんだ。
それだけで実力は保証されている。
正直に言えば、これまで俺はソロでクエストをこなすことが多かった。
その方が効率的だし、生き残る上でも最善だと判断したからだ。
一人ならばどんなヤバいモンスターからも逃げ切れる自信があった。
そう───金雷公と出逢うまでは。
でも、あのレベルのモンスターがいるなら今後は仲間が必要になってくるのかもしれない。
俺の背中を預けられる……そんな仲間が。
「あなた、エクレアさんは5日間も目覚めなかったんですよ。あまり負担をかけないでくださいね」
「おっと、私としたことが」
そんな時、半端じゃない美人が部屋に入ってきた。
その手にはお粥のような食べ物を持っている。
白雪のような肌に切れ長の目が冷たくも凛凛しい印象を与える。
綺麗な黒髪をまとめるポニーテールがとても似合ってる。
え、そういえばここってゴッドさんの家?
ってことはさっきの子供はこの人たちの……は? 子持ち?
子持ちでこの若さ……美人すぎるだろうがッ!!
「紹介します。私の妻、エリーナです」
「エリーナです。エクレアさんのことは以前から知っていました。訓練してる様子も時々拝見させて頂いているんですよ。私も大剣使いなので」
「え、大剣……使うんですか?」
「はい。今は子供の世話が忙しくてハンター活動はお休みさせていただいておりますが。これでも現大陸では、イビルジョーも狩ったことがあるんですよ。エクレアさんと比べたら私なんてまだまだですけどね」
そう言ってエリーナさんは見る者全てを魅了するような軽い笑みを浮かべた。
「へ、へぇぇ……」
……冗談だろ。
こんな美人が大剣使いってだけでも驚きなのにこの人イビル狩っとんのかい。
てかその細い腕でどうやって大剣振るの?
大剣かなり重いよ?
え、急にファンタジーやん。
この血腥い世界で急にファンタジーだしてきたやん。
華奢な人間がゴリゴリのデカブツを倒しちゃうアレね。
「落ち着いたら食べてくださいね。回復するまでいつまでも家に居ていいですから」
「あ、ありがとうございます」
「ヒナタ、ツキミ。エクレアさんに挨拶しなさい」
エリーナさんがそう言うと、後ろからひょっこりと2人の女の子が現れた。
「この人やっと起きたんだ」
「げ、元気になって、あの、よかった、です」
元気そうな子が姉の『ヒナタ』ちゃん、おどおどしてる子が妹の『ツキミ』ちゃんというそうだ。
時々アステラで2人が遊んでるのを見た事がある。
目覚めた時、最初にこの部屋に居たのはツキミちゃんの方か。
「ヒナタ、エクレアさんに失礼のないようにね」
「わ、分かってるよママ!」
「…………」
一瞬エリーナさんがものすごく怖い雰囲気になったんだけど……見なかったことにしよう。
というか、みんないい人やぁぁ……。
クソ、羨ましいなゴッド・マサカズてめぇコノヤロウ。
めちゃくちゃ順風満帆じゃねぇか!!
超絶美人な嫁がいて、可愛い子供までいてよォッ!!
敵だ。
お前は今この瞬間から俺の敵だッ!!
命の恩人でも関係ねぇからなクソッタレェェッ!!
……はは。
生き残っちまったな。
やっぱり俺は恵まれてるよ。
こんなに温かい人たちに囲まれてさ。
チョコチップ、ごめん。
守れなくて……俺が弱いばっかりにお前を死なせちまって本当にごめん。
絶対にお前のことは忘れねぇよ。
俺がそっちにいったとき死ぬほど謝るわ。
だから、今は前に進むよ。
お前に貰った命を精一杯生きるよ。
これが生き残っちまった俺にできる唯一のことだと思うから。
「……あとで、チョコチップのお墓に案内しますね」
受付嬢、ララが小さな声でそう言ってきた。
「あぁ、頼む」
「それとこれを」
ララが手渡してきたのは、俺が捨てたはずの『竜王の隻眼』だった。
ほんと懐かしい。
この世界に来た当初、ファッション感覚でこれ付けてたっけ。
んですぐにそんな馬鹿なことはできんと思って捨てちまったんだよ。
何の因果か、『竜王の隻眼』が似合う顔になっちまったな。
「ありが───」
……いやちょっと待て。
そういや俺、『竜王の隻眼』を捨てたのって家のゴミ箱だったよな?
じゃ……じゃあなんで……コイツが持ってんの?
ゾクッ。
背筋に冷たいものが走ったのをはっきりと感じた。
うん、考えないようにしよう。
これは開けてはならないパンドラの箱だ。
「ん、どうかしましたか?」
…………。
…………。
……とりあえず休もう。
俺は深呼吸と共に思考を切りかえた。
今は休んで、それから再出発しよう。
懸念は尽きない。
真っ先に思い浮かぶのは“あの”『金銀夫婦』とそれを従える『アイルー』。
願わくは金雷公より弱くあって欲しい。
だが、それはただの願望。
金雷公よりヤバい可能性は十二分にある。
はぁ……やめだやめ。
うだうだ考えるのはお終い。
どうせやることは変わらないんだ。
───『強くなること』
結局はこれしかないんだ。
それにこれからゴッドさんという頼もしすぎる仲間もいる。
悪いことばかりじゃない。
はぁ、ダルいな。
でも頑張るわ。
だから見ててくれよな、チョコチップ。
受付嬢───『ララ・ロックハート』
お読みいただきありがとうございました。
久しぶりにこの作品の話を書くとき、改めて皆さんから頂いた感想を読みとても励まされました。
いつも温かい感想をありがとうございます。
これからも頑張ります。