大団長が帰還した。
原作にはいない、蒼い着物のような装備を身に纏った女性を連れて。
理解するのに時間はかからなかった。
あぁこの人だ、と思った。
そこからの流れは想定通りのもの。
大団長が発見した『龍結晶の地』の調査を俺たちに任せるとのことだ。
だが、やはり気になるのは狩猟したであろうリオレイアとともに帰還したことだ。
偶然遭遇したから狩らざるを得ない状況になったのかもしれない。
ただ俺は何となく違う気がした。
こればかりは感覚の話だが。
「おい、お前」
「よォ!」
鋭く刺すような女性の声と、低めのアイルーの声。
俺は兜を脇に抱えたまま振り返った。
そこに居たのは、先程大団長と共に帰還した“転生者”と思われる綺麗な女性がいた。
あとやたらイカついオトモアイルー。
「───『5番目』だろ?」
……“5番目”という言葉に戸惑ったのは一瞬で、すぐにその意味を理解した。
だから、
「そう、ですね」
と答えた。
我ながら当たり障りない返答だったと思う。
「……チッ、甘ったれが」
「…………」
でも、どうやら何かが気に障ったらしい。
めちゃくちゃ嫌そうな顔された。
普通に心折れそう。
俺がいったい何したっていうんだよ。
ただ返事しただけなのに。
「お久しぶりですね、ユウさん、ウメボシさん」
『そう、ですね』と答えたら『……チッ、甘ったれが』と言われた場合の模範解答を誰か俺に教えてくれと切に願っていると、今度はよく知る声が聞こえた。
ものすごく安心している自分がいる。
「久しぶりだなァ、ゴッド!!」
「なっ! ゴッドさん、帰っていらしたんですね! ご挨拶が遅れて申し訳ありません!」
「いえいえ、謝る必要はありませんよ。こちらこそ直ぐに声をかけられず申し訳ありません」
「やめてください! ゴッドさんが謝ることなんて何一つありませんよ! ゴッドさんを見つけ真っ先に挨拶できなかった私が悪いんです!」
「フフ、謝ってばかりですね。ではお互い様ということで、このくらいにしておきましょう」
「分かりました! ゴッドさんがそうおっしゃるなら!」
「…………」
ねぇ、ちょっと違いすぎない?
俺の時はすっごい嫌そうな顔で『……チッ、甘ったれが』だったんですけど。
初対面でそれだったんですけど。
なのにゴッドさんにはこれ?
明らかにテンション高いし。
クールな美人キャラと思ったら全然違うじゃん。
「積もる話もあります。どうでしょう。これから私の家で少し話ませんか?」
「俺ァ構わねェぜ」
「もちろんです! エリーナさんにも挨拶させて下さい!」
「それは良かったです。もちろんあなたもですよ、エクレアさん」
「あ、俺もですか?」
「……チッ」
「…………」
もう嫌だこの人ォォォォッ!!!
俺が何したっていうんだァァァァッ!!!
++++++++++
───『エクレア』
そう呼ばれた“5番目”の転生者を見た瞬間、私の心は苛立ちで満たされていった。
この世界に来たばかりの自分を見ているようだったからだ。
モンスターハンターの世界に転生したという事実に浮かれ、自身が強者であることにあぐらをかく。
あまりにも容易く命の灯火は消えるのだということをまるで理解していない。
5番目には期待していたということもあり、その苛立ちは小さくなかった。
だけど───
「───エクレアさんは“あの”ジンオウガをソロで討伐しました」
「冗談……かにゃ?」
「……今なんと?」
一気に血の気が引いていく感覚。
驚愕しすぎて心がぐちゃぐちゃだ。
大恩があるゴッドさんの言葉を疑うなんてあってはいけない。
それでも、とても信じられるものではなかった。
「金雷公をソロで討伐したんです、エクレアさんは。だからユウさんもウメボシさんも、敬意を払わなければいけませんよ」
「そん……な。信じられない……だってあのモンスターは───」
「えぇ、私たち2人とウメボシさんで挑み撃退するのがやっとでした」
「苦い記憶だぜ……にゃ」
私は改めてその青年を見る。
ツキミちゃんとヒナタちゃんと戯れながら、困ったような笑みを浮かべている。
覇気なんてまるで感じない。
普通の青年。
「信じられませんよね。私もこの目で見ていなければ貴方と同じように疑っていたでしょう」
「……じゃあ本当に」
「はい、嘘はありませんよ。その際、左眼とオトモアイルーを失っております」
「…………っ」
───『竜王の隻眼』
私が彼を侮った原因はそれだ。
ただのファッションアイテム。
そんなものをつけているのは、この世界を舐めきっているからに他ならないと思った。
でも違った。
私の想像を軽く凌駕するほどの経験をした───紛うことなき『ハンター』だった。
気づけば私はエクレアの前に膝を着いていた。
「本当にすまない!」
「……え」
心からの謝罪。
地べたに頭を擦り付け、ひたすらに謝った。
「私は君を侮っていた!! 本当にすまない!!」
「ちょ、ちょっとやめてください! 顔を上げて下さい!」
「あー! エクレアがユウちゃんをイジメてるー!」
「イジメてないよ! あの子供も見てますんで……」
「だがそれでは私が私を許せない!」
「本当に大丈夫ですから! これから協力していきましょう!」
「だが───」
「……あの、本当にもう大丈夫ですんで」
「え、エクレア……あ、あんまり、ユウちゃんをいじめちゃ……ダメだよ……?」
「違っ……アアアァァァァっ!!」
彼は頭を抱え込んでしまった。
私の謝罪は伝わったんだろうか。
不安だ。
やはりもっと謝ろう。
私の誠意を伝えなくては。
++++++++++
……なんなんだこの人。
本当になんなんだよマジで。
初対面ですっごく冷たい態度とってきたと思えば、急にめちゃくちゃ謝ってくる。
もはや怖いわ。
ツキミちゃんとヒナタちゃんも見てるところで謝ってくるもんだから、完全に悪者だわ。
「俺ァ、ウメボシ。よろしくにゃボウズ!」
「……あ、はい。よろしくお願いします」
この歴戦の猛者感半端ないオトモアイルーも怖いし。
「改めて、私はユウ・タキライ。知っての通り、君と同じ転生者だ。よろしく頼む」
「えっと、こちらこそ。エクレアです。よろしくお願いします」
「先程は本当に───」
「あの、その件はもう本っっっ当に大丈夫なんで」
「分かった。君がそう言うならばもう謝るのはやめておこう」
「フフ、2人がさっそく仲良くなったようで私も嬉しいですよ」
……ゴッドさん、あんたの目は時々とっても節穴になりますよ。
ご自覚下さい。
「───それでは、本題に入らせてもらう。私が龍結晶の地で見た『銀火竜』についてだ」
そう言って、ユウさんは話し始めた。
先程までのおどけた雰囲気はもうどこにもなかった。
「私と大団長は龍結晶の地で銀火竜を見た。おそらく5番目の特異個体。極めて強力だ。今すぐに討伐しなくては手がつけられなくなると思う」
「銀火竜ですか」
「まさか……」
銀火竜、と聞いて直ぐに俺はすぐに分かった。
多分アイツだ、と。
この世界で最初に“恐怖”を植え付けられた存在。
「知っているのか、エクレア?」
「たぶん。俺の知る銀火竜ならばソイツには番がいる」
「なんだとッ!? 番がいる……クソッ!! 遅すぎるくらいだ!!」
ユウさんの怒声が響く。
だが、俺は言わなくちゃいけない。
それ以上に絶望的事実を。
「それだけじゃない。アイツらを従える存在がいるんだ。───1匹の『アイルー』だ」
「……は?」
空気が凍った。
「アイルー……だァ?」
ウメボシが問いかけてきた。
俺だって信じられないさ。
でも、確かにこの目で見たんだ。
「あぁ、『ゾラ・マグダラオス捕獲作戦』の時に銀火竜と金火竜が現れた。一目でヤバいと分かった。まあ、何もせず立ち去ってくれたんだが。その時見たんだ。───銀火竜の背に、一匹の『アイルー』が乗っているのを」
しばらく無言の時間が流れた。
全員がこの事実を受け入れられないんだ。
そりゃそうだよ。
俺だって未だに信じられない。
あんなヤバいモンスターを従えるアイルーがいるなんてな。
「……すまねェが俺ァおりるぜ」
「ちょっとウメボシッ!! これは個人の感情で決めていいことじゃ───」
「───もう俺ァ身も心もとっくに『アイルー』なんだぜ?」
「……っ」
「どんな理由があろうと同族とは戦いたくねぇ。悪ぃな」
そう言うと、ウメボシは本当に出ていってしまった。
身も心もとっくにアイルー。
その言葉の意味はあまりよく分からなかったが、全てが理解できなくはない。
俺だってどんなに悪人だろうと、同じ人間を殺せるかと聞かれれば分からないと答える。
「……仕方ない。私たちだけでこの件はどうにかするしかないわ」
「えぇ、そうですね」
重い空気が流れる。
本当に嫌になるな。
ハンターってやつは、どう足掻いてもモンスターと戦う運命らしい。
「……直ぐに対処するのは不可能。でも、何もしないのも愚かだと思う。だからまずは『調査』するというのはどうだろう」
「調査、ですか」
「はい。寝床はどこか、本当に番とアイルーがいるのか、何か他にも未知の要素はないか。まずはそういった情報を集めるんです」
ユウさんの提案。
とてもいい案だと思った。
「なるほど。それなら“敵対しない道”もあるかもしれないな」
何気ない発言だった。
「───何を言ってるの?」
だからユウさんの雰囲気が変わった時、驚きを隠せなかった。
「躊躇してはいけない。特異種の危険は絶対に排除すべきだ。私たちの仲間がそのモンスターに殺されたらどうする?」
「…………」
何も言えなかった。
彼女の瞳の奥に揺るぎない意志を見たから。
きっと、彼女は俺が何を言っても曲がらないだろう。
「その辺にしましょう、ユウさん」
「……少し感情的になった。申し訳ない」
「いえ、大丈夫です」
「どちらにせよ、調査するという案には私も賛成ですね。情報がなければ対策の仕様がありませんから」
「そうですね……」
そこからもしばらく話し合いは続いたが、結局『銀火竜』の調査するということで纏まった。
最初に見た時から、何となくこうなるような気はしていたんだ。
いつか必ず対峙する時がくるって───。
……お久しぶりです。