「旦那さん! 上手に焼けましたにゃ!」
『あぁ、ありがとう』
旦那さん。
素晴らしい響きだ。
俺はオモチが焼いてくれた肉───『こんがり肉』を骨ごと一気に頬張る。
鼻腔をくすぐり、食欲を何倍にも膨れ上がらせるこの香り。
分厚くともとても柔らかいこの食感。
そして何よりこの溢れんばかりの肉汁。
なんて美味さだ。
アプトノスを生で食って意外に美味いとか言ってたのはどこのアホ? 笑ってしまうわ。
オモチは俺が狩り殺したアプトノスから手際よく生肉を剥ぎ取り、次々とこんがり肉を焼き上げていく。
たいしたものだ。
さすがはオモチ。
さすがは俺のオトモアイルー。
オモチの焼き上げるこんがり肉はどうしてもサイズ的に小さなものとなってしまうが、それを差っ引いてもあまりある手際の良さ。
次々と焼き上げていくものだから、数でいくらでもカバーできてしまう。
幸せだ。
俺はなんて幸せなんだ。
オモチとの出会いは、俺をリオレウスにした存在からの贈り物に違いない。
『今日はさらに奥まで行ってみよう。ただ、まだ見ぬモンスターがいないとも限らない。油断せずに行こう』
「了解にゃ! この“古代樹の森”もだいたい探索し終えたのにゃ。……全然見つからにゃいけど。もう少し探して、それでも見つからないようなら別のエリアに行くのもいいかもしれないにゃ」
『そうだな』
オモチと出会い俺は様々なことを知った。
その一つがまさしくこの情報だ。
この森林が───『古代樹の森』と呼ばれていること。
薄々そうではないかとは思っていた。
だがそれが確信へと変わったのだ。
ここは『新大陸』である。
MHWの舞台。
だが、完全に俺の知っている古代樹の森なのかは未だによく分からない。
なんせ今俺がいる場所がそもそも記憶にない。
古代樹の森にこんな古代遺跡の跡地のような場所あったか?
俺自身、正確に記憶しているわけではないが恐らくなかったはずだ。
これはどういうことだろうか……?
だいたい、リオレウス希少種がこんな最序盤のエリアにいたらやばいだろ。
この世界に俺という異物が紛れ込んだことで、少なからず影響を与えてしまい、変化を及ぼしてしまっているのかもしれないな。
いや、まて───そもそも異物は俺だけか?
知らず知らずのうちにこの世界に巻き込まれたのは自分だけであると決めつけていた。
俺がモンスターとしてならば、ハンターとしてここに来ている奴もいるかもしれない。
そう……まさしく『主人公』として。
MHWにおける主人公、つまり“プレイヤー”がこの新大陸にやって来るのは確か第5期調査団としてだったはず。
ならば今は一体何期まで来ているんだ?
そもそもハンターなんて俺はまだ一度も見かけていない。
もしかして、いないのか……?
ここに存在するのはモンスターのみで、人の身でモンスターと渡り合うハンターという超人集団はいない……のだろうか?
いや、それは楽観的すぎだ。
少しばかり強い存在となったものだから、気付かぬうちにうぬぼれていたようだな。
古龍の集う新大陸。
決して俺は生物として最強ではない。
ほんのわずかな隙が命取りとなる。
ここはそういう世界だということを忘れてはならない。
「旦那さん……どうしたのにゃ?」
声につられオモチの方へと目を向ければ、俺の足元で心配そうにこちらを見上げている。
オモチと出会い数日。
本当に良い友人を持った。
いや、良い友アイルーか。
『心配ない。少し考え事をしていた』
そう言って俺は、翼爪でオモチの頭をそっと撫でた。
「そうだったのかにゃ!」
俺の言葉を聞き安心したのか、オモチは自分用に焼いたこんがり肉を再び食べ始めた。
そんな愛くるしい姿に微笑ましいものを感じながら、俺は改めて覚悟を新たにする。
それは生きる覚悟。
そして守る覚悟だ。
オモチは俺が守らなくてはな。
ん、そういえば───
『オモチは自分で装備を作れるのか?』
何となく聞いてみた。
「んー、できるけど得意じゃないにゃ」
確かに。
鍛治技術の習得には長年の修行が必要であることは、俺にだって容易に想像がつく。
専用の道具だっているだろう。
『俺を素材として、オモチの装備を作れないかと思ったんだがな』
「にゃにゃっ!? そ、そんなことできないにゃっ!」
『ん、なぜだ?』
「だって痛そうにゃ!」
『なんだそんなことか。ならば何も問題ないな』
「───っ!?」
なんかえらく驚いてる。
可愛いなおい。
まあ、現状方法がないけどな。
いやそれよりも……銀レウスのオトモ装備なんてなかった気がするぞ……。
いや、レウスネコシリーズがあるのだから俺でも大丈夫だろう。
できない道理がない。
というかなんでなかったんだ?
不思議でたまらんわ。
『そうだ、念のため───ん?』
俺は思わず言葉を遮った。
何か、自分でも表現できない“違和感”のようなものを感じ取ったからだ。
人間とはかけ離れた優れた感覚。
ゆえに察知した得体のしれない何か。
「どうしたのにゃ?」
オモチの問いかけに答えている余裕がない。
この違和感の正体を突き止めろと本能が訴えかけてくる。
俺は崖淵まで歩き、そして古代樹の森を見渡した。
一見、これといって変わった様子はない。
だが───異様に発達した俺の視力はその小さな変化を見逃さなかった。
ここからかなり距離はある。
しかし確実に、木々が大きく振動している場所があるのだ。
何か、強大なモンスター同士が戦っている……のか?
それとも単体?
とてつもなく巨大なモンスターでも現れたか?
人間の規模ではないな。
いや、それは軽率な判断だ。
なんらかの生物を捕えるために、大型の道具を用いてるのかもしれないのだから。
いずれにせよ、確認しないわけにはいかない。
不安要素を放置することはできないから。
『オモチ、俺は少しやることができた』
「なんにゃ? ボクもいくにゃ!」
『いや、俺だけでいい。たいしたことではないからな。すぐ戻る。ついでに、またアプトノスも狩ってこよう』
「うーん……そうかにゃ? でもわかったにゃ! ボクはお留守番にゃ!」
俺は絶対に伝わらないだろうが笑みを浮かべ、そして勢いよく翼をはためかせた。
一気に上空へと舞い上がる。
さらに翼をはためかせ、目的の場所へ向けて加速する。
今回はあまりにも不安要素が大きい。
オモチを連れて行くわけにはいかない。
強大なモンスターだった場合、俺自身も撤退を視野にいれておくべきだろう。
幸い、俺は飛ぶのが凄く得意だ。
++++++++++
『ガァ……クソッ……』
『アナ、タ……』
そこには黄金の輝きを放つリオレイアによって踏みつけられ、倒れ伏すリオレウスとリオレイアの姿があった。
この森の主であるリオレウスと、その番であるリオレイアだ。
「ガルァァァァァァッ!!!」
この戦いにおける勝者、金色のリオレイアは勝利の咆哮を上げた。
『……悪くない。悪くない強さだ。途中から加わった番との連携も良かった。───だが、足りんなァ。あまりにも足りん』
『グゥゥ……』
もしもこれが彼女にとっての最初の戦闘であったならば、勝敗が覆ることはなかったかもしれないがもう少し彼らも善戦できただろう。
その証拠として金色の彼女も今回は幾ばくかの大きな傷を負っている。
しかし、彼女は強かった。
とてつもなく強かったのだ。
なんせ、番を探すために彼女は数々のリオレウスとの戦闘をくぐり抜けてきた。
ゆえに彼女自身も強くなり続けていたのである。
まあ、そのせいでさらに番を見つけることが困難になっていくのだから皮肉な話だ。
『クソ強ェなァ……ちくしょう……』
『フフ、そうだろうッ! 私は強いのだッ!』
その言葉に気分を良くした彼女は、またしても咆哮を上げた。
『だが、及ばねぇぜ……?』
『……なんだと?』
次の言葉を聞いた瞬間、彼女から笑みは消えた。
最も飛竜であるため、人間からすれば笑っているなど分かりはしないが。
『それはどういう意味だ?』
彼女は問いかける。
問いかけなくてはならない。
そのとき───
「グルガァァァァァッ!!!!」
地を震わせる咆哮が轟いた。
彼女もそれには驚き、思わずその方角を見る。
『なんだ……?』
組み伏せられながらも、リオレウスは笑っていた。
『へ……テメェは、勝てねェ……ぜ? ───兄貴にはなァッ!!』
そして、その存在は姿を現した。
───白銀の太陽と黄金の月が今、邂逅した。
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