本当は色々と長ったらしく話したいところだが、べらべらと喋ってもうるさいだけなのでとりあえず事実を述べようと思う。
俺は───転生者だ。
言っている意味がまるで分からないだろうが、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、これが現実なのだから仕方ない。
転生者、と言う他ないんだ。
気づいたら知らない天井が広がっていた。
しかも記憶が全くと言っていいほどないときている。
そのため最初はえらく混乱したものだ。
だが、一つだけ覚えていることもあった。
モンハンである。
モンハンをやり込んでいた記憶だけは鮮明に残っているんだ。
何となく鏡を見る。
めちゃくちゃよく知っている顔がそこにはあった。
白髪に赤い目。
そして厨二病を象徴するかのような眼帯、『竜王の隻眼』をつけている。
……俺が作り上げたキャラがそこにはいたのだ。
まさか、と思った。
だが、次の瞬間俺はさらに混乱を極めることとなる。
俺は部屋の端にあった箱に目がいったのだ。
見覚えのある箱だ。
───『アイテムボックス』
そう、それはまさしくモンハンおなじみのアイテムボックスだった。
気にならないわけがない。
俺は好奇心の赴くままに触れた。
すると───『メニュー画面』が突如として出現したのだ。
何もない空中に突然現れた。
ゲームと全く同じ。
あのメニュー画面だ。
当然驚愕した。
思わず声が出てしまう程には。
だが、その驚愕はあっさりと塗り替えられることになった。
なぜなら、そこにある膨大すぎるアイテムの数々が目に入ってきたからだ。
───俺のやり込んだデータが、そのまま反映されていたのである。
脳裏には『チート』という言葉が過ぎる。
そしてそれは確信に変わる。
装備だ。
装備までもがそっくりそのまま残っている。
マジか……という言葉しか出てこなかった。
俺の語彙がもう少し豊かであったならば、他に適切な表現ができたのかもしれない。
だが残念なことに、俺には『マジか……』しかでてこなかった。
───『ブラックミラブレイド』
───『ミラボレアスの防具一式』
もはや笑うしかない。
ヤバすぎる。
俺が作った最強装備だ。
なぜか俺は少しだけ震えていた。
「ははっ……本当に苦労して集めた装飾品までそのままじゃねぇか……」と、独り言が漏れた。
うすうす気づいていた。
俺はMHWの世界へ転生したのだと。
強大なモンスターが蔓延る、とてつもなくヤバい世界。
だが、これならば生き残れる。
それどころか英雄となれる。
強いて不満を上げるとすれば、名前が『エクレア』という美味しそうなものになってしまったことか。
安易に大好きスイーツをプレイヤーネームにするんじゃなかった。
───このときはまだ、そんな呑気なことを俺は思っていたんだ。
何となく防具を装備してみる。
すると、一瞬にして俺の見た目が切り替わる。
ミラボレアスシリーズの武具だ。
大剣はやはり重い。
でも俺の愛用武器だ。
野良で共闘する際は、初見だと大抵の場合地雷扱いされた。
だがそれでも、幾度となくプレイで黙らせてきたのだ。
俺の武器は大剣以外ありえない。
鏡を見つつ、ニヤニヤしながら色んなポージングをしてみる。
キャラメイクは細部までこだわった。
そのおかげで今の俺はとてもイケメンだ。
どんなポーズも絵になる。
だが、ふと冷静になった。
ミラボレアス装備はさすがにまずいのではないか、と。
モンハン好きであれば誰しもが知っていることだが、ミラボレアスとは古より語り継がれる伝説の存在であり、『禁忌のモンスター』の代名詞。
その存在自体がタブー中のタブーである。
ならば、そんな伝説のモンスターの装備を纏った俺はどうなるか?
とりあえず厄介なことになるのは間違いないだろう。
最悪の場合ギルドから刺客が派遣される、なんてことになるかもしれない。
ヤバすぎだ。
しかし、その不安は一瞬で解消されることとなる。
───『重ね着』だ。
重ね着システムさえも俺は使うことができたのである。
これならば、最強装備を身につけたまま見た目だけ初期装備にすることが可能。
俺は嬉々として『レザー』の重ね着を選択した。
するとどうだ。
見た目だけレザー装備に変わるではないか。
なんて都合のいい能力。
ついでに武器も重ね着によって適当なやつに変えておいた。
これで完璧だ。
ひとしきり色んなことを試し終え、いくつかの不安も解消することができた。
興奮が収まることはなかったが、疑問も尽きることはない。
次なる俺の疑問は、ここはどこか、というシンプルなもの。
とりあえず部屋を出てみることにした。
すると、MHWのオープニングムービーで見た食堂のような場所が広がっていた。
武具の手入れをするハンター。
食事を運ぶアイルー。
胸にぐっとくるものがあった。
感動しすぎて思わず涙が零れてしまいそうになるほどに。
どうやらここは、新大陸へ向かう船の中であると俺にはすぐに分かった。
適当な席に座ると、とても見覚えのあるモヒカンの奴が「よう! もうすぐ新大陸に到着だな!」と話しかけてきたことで、俺の予想は完全に正しかったのだと確信した。
そしてやってきた俺のオトモアイルー。
真っ黒な黒猫。
本当に可愛くて仕方ない。
思わずわしゃわしゃと撫でてやると、気持ちよさそうに鳴くのだから可愛さがカンストしすぎてヤバい。
ただし、オトモの装備は初期のものとなっていた。
どうやらアイテムや装備を引き継げたのは俺だけのようである。
いや、それで良かったのだ。
むしろ安心した。
なぜなら俺のオトモ装備は『黒龍ネコ』であり、完全なる小さなドラゴンと化していたのだから。
それからも至って順調だった。
受付嬢は色んな意味で迫力満点であり、アンチも多かったが別に俺は特別嫌いというわけではないので上手くやっていけそうだと思った。
ゾラ・マグダラオスに船がぶつかるイベントも当然のように起こったが、なぜかそこまで動揺することもなく、むしろ俺がハンターとしての凄まじい身体能力を持っていることを理解することができて良かったとさえ思う。
全てが順調だったんだ。
本当に、全てが順調だったんだ。
そう……翼竜にぶら下がり、新大陸に到着するまでは───。
++++++++++
───と、ここまでが俺が転生してから今までに起きた出来事。
本当に濃いよな。
こんな濃い経験をしながらも、俺はどこか浮かれていたんだ。
だってそうだろ?
本当に大好きでやり込んでいたゲームの世界に転生だなんて、テンション上がらない奴いるか?
いーや、いないね。
ただ……俺は今草むらに隠れ、ただただ震えながら己の浅はかさを痛感している。
「……飛んでいきましたね」
「いや、まだだ。まだ安心できない。戻ってくるかもしれないから、もうしばらく隠れていよう」
「でも見てくださいよ! あのブレスによって焼き焦げた跡! すごい火力です! 私、ちょっと見てき───あうっ!」
俺はなんの躊躇いもなく受付嬢の脳天にチョップをぶちかました。
気持ち弱めにしたのだから俺は優しい方だ。
「な、何するんで───モガッ!!」
今度は大きな声を出すこのバカの口を即座に押さえた。
「……いいか、よく聞け。俺はお前が好奇心の化け物で、己の知識欲を満足させる為ならばどんな危険をも厭わない勇敢な奴だってことは知っている。すごいよ、尊敬している───だが今は俺に従え。俺まで危険に巻き込むな。分かったか?」
コイツのことを嫌いと言っていた奴の気持ちが今ならばよく理解できる。
小声で、しかしとても大きな怒りを込めて言いたいことを全て伝えた。
俺の本気が伝わったのか、受付嬢はコクコクと小さく頷いた。
……はぁ。
なんだよ……コレ。
一体どうなっているんだ。
なんでこんな最序盤に、リオレウス希少種とリオレイア希少種が出てくるんだよッ!!!!!!
夫婦喧嘩は他所でやれッ!!!!!
ざッけんなァァァァッ!!!!!
心の中で絶叫した。
はぁ……。
ほんと……順調だったんだよ。
英雄になれるはずだったんだ……。
なのになんなのあれ。
モンスターってマジでモンスターやん……。
チート?
足りんわ!! 全然足りんわ!!
ちょっと装備が強いだけで、あんな化け物に立ち向かえるかってーの!!!
1乙で人生終了とかクソゲーじゃねーかッ!!!
せめて3乙制にしてくれ!!!
2乙したらクエストリタイアするから!!!
「……ど、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。不安だからとりあえずあと1時間はここで息を殺していよう」
「えッ!?」
調子にのってはいけない。
分をわきまえよう。
俺はただの人間。
慎ましく生きよう。
はぁ……ハンターとしてやっていけるか不安だ……。
これからどうしよう……。
お読みいただきありがとうございました。