『頼む!! 先っちょだけ……先っちょだけでいいんだッ!!』
『……うるさい』
こんなクソみたいなこと言いつつ、ダメージがある為かどこかぎこちないフラフラとした飛び方で、それでもこのリオレイア希少種は俺にずっとついてくる。
何なんだ一体……。
俺は疲れているというのに……。
俺もそれなりにダメージがあり、コイツを振り切るほど速くは飛べなかった。
というか、コイツから何としても俺についてこようとする並々ならぬ執念を感じる。
それはもう怖いほどに。
本当にやめて欲しい。
そしてさらに最悪なことに、もう俺が巣としている遺跡の跡地が見えている。
コイツ……本当に最後までついてきやがったよ。
あ、オモチが俺に気づいて手を振っている。
かわいい。
鼻が利くのだな。
しかし、だからと言うべきか。
俺の後ろを飛ぶ存在にも当然のように気づいてしまい、困惑を隠せずドギマギしている。
俺は翼をはためかせながら高度を下げつつ、ゆっくりと地面へ降り立つ。
迷惑極まりないが、着いてきたこの金ピカも同じように降り立った。
ただ息が上がり、見るからに辛そうだ。
……やりすぎてしまったか? なんて考えてしまうのはマジでなぜだろう。
同情の余地なんてないのに。
だいたい竜にこんな感情を抱くこと自体おかしい。
そう……おかしいんだ。
ゲームの中とはいえ、何百、何千、いやそれ以上に多くのモンスターを狩り殺してきた。
そこに可哀想なんて感情は雀の涙ほどもありはしない。
しかし、今の俺はどうだ……?
竜のために命の危険を犯した。
そして己を殺そうとしてきた竜にさえ同情の念を抱いている。
───心までもが竜になってしまったというのか。
だとすれば俺は……まだ見ぬ人間に対しては一体どういう感情を抱くのだろう。
同族の竜に向けるような情を……抱けるのだろうか。
「だ、旦那さん! おかえりなさいにゃ! えっと……そちらは……」
オモチが俺に隠れながらチラチラと後ろの金ピカの竜を見ている。
そりゃ怖いよな。
いきなりこんな奴連れて来たら。
オモチを怖がらせてしまった。
しかもアプトノスを狩ってくると言ったのに、その約束も果たせていない。
全部……全部この金ピカのせいでなッ!!
『あぁコイツはな───』
『ほう、私たちと言葉を交わせるとは珍しいアイルーだな。お前の非常食か? すまない、腹が減っているんだ。私が食べても───きゃうっ!!』
思わず強めの頭突きをかましてしまった。
反省は全くしていない。
『な、何をするんだ!!』
『こっちが言いたいわ。何ふざけたこと言ってやがんだ? 次、オモチを非常食なんて呼んだら今度こそお前を殺してやるからな』
『───っ』
強めに脅す。
疲れていたとはいえ、コイツをここに招いてしまったのは俺の失態だ。
オモチに万が一のことがあってはならない。
見ろ、オモチが俺の足元に隠れながらすっかり怯えてしまっているじゃないか。
ぶるぶる震えて可哀想に。
俺は金ピカ野郎を再び睨んだ。
『……単なる餌では……ないのか?』
戸惑いと困惑を隠そうともせず、本当に不思議そうにそんなことを言ってくる。
コイツにとっては、いや、モンスターにとってアイルーは食べ物なのか。
いや……分かっちゃいたけどやっぱりそうなんだな。
モンハンとは残酷な世界だ。
こんな可愛い生物を食べるだなんて。
『そうだ。このアイルーの名はオモチ。俺の大事な友だ』
オモチは未だに隠れつつ様子を伺っていたが、意を決したようにちょこんと顔だけをだした。
「よ、よろしくにゃ……リオレイアさん」
なんて勇気ある行動だ。
とてつもなく怖いはずなのに。
果たして俺がアイルーに生まれ変わったとして、意思疎通できるからといってリオレイア希少種に『よろしくにゃ』と言えるだろうか。
その答えは分からないが、簡単なことではないのは疑いようがない。
俺は口に出すことこそなかったが、心の内で盛大にオモチを称えた。
しかし───
『アイルーの分際でこの私と対等に話そうとするとは……我慢ならんッ!! 今すぐ噛み殺───きひゃっ!!』
俺はまたしても頭突きをかました。
さっきよりもうんと強めに。
リオレイア希少種……プライド高すぎてもはや笑えるわ。
『き、気を失いかけたぞ! お前は平気なのか!? こんな矮小な存在が私たちと対等かのような態度をとったのだぞッ!! 所詮、喰われるだけの存在がッ!!』
「ガルアァァァァァァッ!!!!」
終いには吠えたぞコイツ。
どんな単細胞なんだよ。
本当に疲れてるってのに……勘弁してくれ。
「あわわわ……ごめんにゃさいにゃ……食べないで欲しいにゃ……」
『ハッ、今さら許しを乞うたところでもう───』
『───もう、なんだよ?』
俺が甘かった。
どういう理屈かは知らないが、同族であるリオレウスやリオレイアを殺すことに躊躇いを感じてしまい、コイツを生かしてしまった。
殺す覚悟がなかったんだ。
オモチは俺が守ると約束したのに。
『ま、待て! 待ってくれ! なぜお前が怒るのだ? 私はお前と争うつもりはないぞ! お前の番となり交尾がしたいんだッ!』
この状況でコイツは一体何を言ってんだ。
『俺の目の前から消えろ。それか死ぬかだ』
本気だった。
偽りのない殺意をぶつけた。
『うぅぅ……それしか道はないのか……?』
『ない。お前は危険だ。殺さない選択肢を残してやったことが最後の慈悲なんだよ』
そう、これは慈悲。
さあ選べ。
どちらであろうと俺は尊重する。
『くッ……なら殺せッ!』
ただ、その返答は俺の覚悟を嘲笑うように予想外だった。
『……え』
思わず間抜けな声が出てしまった。
再び戦闘になるか、潔く飛び去っていくか。
そのどちらかであると思ったから。
『もう私はお前以外の雄は考えられないッ!! お前と番になれないのならば、死んだ方がマシだッ!!』
……コイツのこの熱量はマジでどこから来るんだろう。
怖すぎるんですけど。
その理解不能すぎる返答に、俺は毒気を抜かれた。
一触即発の雰囲気が霧散していく。
『もう懲り懲りなんだ……。これから先いくら探したとしても、お前以上の雄など絶対に見つからないと私は確信してしまっているッ!!』
『…………』
もはや怖い……。
何だこの気迫は。
そして今更なのだが……さらに怖い事実が発覚してしまった。
俺はコイツが───とてつもなく美人に見えてしまっているということ。
いや、正確に言うならば美竜と言うべきなのか……?
ヤバすぎる。
俺は精神までもが確実に竜となっているんだ。
これもまた、受け入れて順応するしかないのか……。
とはいえ、コイツに好意なんて欠片ほどもありはしない。
こんなオモチに殺意を向けるような、プライドの塊でしかない金ピカなんて願い下げだ。
ただ客観的に見て、綺麗な竜であると思うだけ。
「あ、あの……!」
さて、コイツはどうしようか。
と思っていると、意外にも声を上げたのはオモチだった。
「ボクなら大丈夫にゃ! それよりもここで戦われる方が怖いのにゃ……」
『……それもそうだな』
確かにその通りだ。
目の前にいるコイツは強い。
その事実は身をもって知っている。
オモチを庇いながら戦って勝てるほど、甘くはない。
思考をいくら巡らせたところで、俺の大したことない頭では良い答えなんて見つからない。
『……お前、どこか他の所へ行く気は───』
『ないッ!!』
『…………』
元気のいい返事だこと。
またしばらく思考を巡らせてみる。
最後の抵抗だ。
しかし───天は俺を見放したようだ。
『はぁ……いいか、自分の餌は自分で取ってこいよ。それからオモチは何があっても襲うな。むしろ守れ。俺の留守中とかな』
『そ、それはつまり、私を───』
『……幸いここは広い。竜が1匹増えても、まぁ問題はない』
やはり甘いな。
でも仕方ないだろ?
今の俺はコイツとの戦闘でとてつもなく疲れているんだから……。
これが正しい判断なのか、そうじゃないのかなんて……ほんとわからないんだよ。
「ガルアァァァァァァッ!!!」
この金ピカの竜は俺の言葉を聞くと、本当にダメージ受けてんのかと問いただしたくなるような凄まじい咆哮を上げた。
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今日はいろいろなことが起こりすぎた。
とりあえず寝よう。
そう思い俺は、新しく増えた『交尾っ! 交尾しよう交尾っ!』とうるさい同居竜をガン無視して寝ようとしたんだ。
すると、オモチがテクテクとやってきた。
「旦那さん酷い傷にゃ! ……レ、レイアさんの方も。だから、これどうぞにゃ……!」
そう言って、オモチは何かをその小さなポーチから取りだしこちらに差し出した。
怯えつつ、金ピカの方にも同様に差し出す。
渡し終えると猛ダッシュでこちらへ逃げ帰ってきたけど。
見るとそれは、とても小さい黄色の塊だった。
人間の一口サイズくらい。
リオレウスとなった今ではもはや豆粒ほどにしか見えない。
『……なんだこれは?』
そう問いかけたのは俺ではなく、金ピカの方だった。
「これは“秘薬”にゃ……! 傷によく効くのにゃ!」
秘薬……だと?
オモチには申し訳ないが、俺は半信半疑のままそれを頬張った。
すると───嘘のように回復した。
なんなら今から一狩りいけるほどに元気ハツラツである。
本当に俺の知る『秘薬』だった。
やはりモンスターにも効果があるのか。
いや、ヤバいぞこれは。
モンスターが秘薬とか持ち始めたらマジで……クソゲーじゃねぇか。
まあこれは現実なのだから、リオレウスになった俺としてはクソゲー万歳だけども。
『す、凄いなこれはッ!!』
金ピカが驚く。
当然と言えば当然である。
だが、俺は疑問も湧いた。
『オモチが……作ったのか?』
その疑問は自然と口に出てしまった。
「いや、これはもともと───そ、そうにゃ! 大変だったにゃー。まずは“にが虫”と“アオキノコ”を調合して、“栄養剤”を作るのにゃ! それから“ハチミツ”を加えて、そこに───」
そう言って、オモチは次々と調合のレシピを言っていった。
それはまさしく、数多の旅を乗り越えてきたからこそ身に付いた生ける知識……のように聞こえる。
しかし俺には───何か隠し事があるようにも思えた。
竜となり、感覚がより優れたものになったからこそ余計にそのことが分かってしまう。
ただ、俺はオモチを追求するようなことはしなかった。
秘密など誰にでもある。
アイルーだってそれは同じだろう。
今度こそ俺はもう寝ることにした。
外的な傷は癒えても、精神の疲れは寝ることでしか癒すことはできないのだから。
寝る直前、ふと考えた。
竜、猫、竜。
そんな異質すぎる3匹の行方は一体どうなるのか、と───。
お読みいただきありがとうございました。
たくさんの高評価や感想、ありがとうございます。
とても励みになっています。
これからも頑張ります。