めっちゃ好きです。
───私は嘘をついた。
あんなに良くしてくれる銀レウスさんに、私は嘘をついているんです。
各地を旅するアイルーでもなければ、私に親なんてものはそもそもいない。
いるはずがない。
だって私は───転生者なんだから。
目が覚めて、どこだろこの森ー? なんて呑気なことを考えていた私は、次の瞬間とてつもない衝撃をうけることになりました。
何体もの黄色の巨大生物が今にも私を襲おうと、様子を伺っていたのです。
───『ジャグラス』でした。
モンハンに出てくるモンスター。
ただ、私の知っているジャグラスではありません。
……異常なほどに大きかったんです。
『ぎにゃぁぁぁっ!!!』という訳の分からない悲鳴を上げながら一心不乱に逃げました。
考えるよりも先に身体が動いたんです。
その時は必死すぎて、自分が四足歩行で跳ねるように逃げていたことにも気づきませんでした。
そして、逃げながらも私の耳には声が聞こえてきたのです。
───『美味そう』
───『待て待て』
───『食いたい 食いたい』
───『弱そう』
背筋が凍りました。
私は……モンスターの声が聞こえたのです。
でも───だからなんだというのでしょうか?
心には恐怖しかありません。
殺人鬼に襲われ、言葉が通じるからと言って助かるかと言われれば絶対にそんなことはありません。
『食べよう』としてくるモンスターに話かける勇気は私にはありませんでした。
そして私は何とか逃げ切りました。
どうやら逃げ足だけは速かったようです。
ただし……こんなものは序章に過ぎませんでした。
息を整えながら、なんとなく水溜まりを見たんです。
そしたら、そこには私の姿が映っていました。
───猫になっている私の姿が。
またしても私は『ぎにゃぁぁぁぁ!!』と叫びました。
それはもう心の奥底から。
ただなぜか私はふと冷静になり、今の叫び声を聞いてさっきのモンスターがまた来るかもしれない、と思いました。
あわてて木に登ろうとします。
幸い、猫の私は木登りが上手でした。
そして、安全を確保したところでもう一度考えます。
ここはどこなのか、と。
でも私は……すでに答えなんてとっくに分かっていました。
さっきのモンスター。
辺りを見渡せば目につく妙に見覚えのある木々。
ここは───MHWの世界。
私は生粋のモンハン女子。
めちゃくちゃやり込んでいたからすぐに分かったんです。
なら……今の私って……。
いえ、それももう分かっています。
二足歩行の猫なんて───『アイルー』しかいません。
そういえば、メラルーなどと色々種類があった気もしましたが、私には私がアイルーなのだと確信がありました。
この純白の毛並み。
エメラルドのつぶらな瞳。
私が愛してやまないオトモアイルー。
───『オモチ』でしたから。
なんど……一体なんどこの可愛い生物を現実世界に連れてきたいと願ったことでしょう。
でも聞いてません。
ほんと……聞いていません。
なんで私自身がアイルーになってるんですかぁぁぁぁぁッ!!!!
そりゃ願いましたよッ!!
モフモフのおなかに頬ずりしたいって!!
ぷにぷにの肉球に触りたいって!!
でも、私自身がアイルーになるなんて聞いてませんよぉぉぉぉっ!!!
……取り乱しました。
まぁでも仕方ないですよね。
気づいたらアイルーになっていた、なんてことになって冷静でいられる人なんているわけありませんから。
それよりも、一刻も早く状況を把握しなくてはいけません。
一応何となくわかっていることもあります。
多分ここが───『古代樹の森』であること。
つまり、もっと大きく言うならばここが『MHWの世界』であるということ。
なんでこんなことになってしまったのか、なんてことは考えても絶対に答えは分からないので、今は考えないことにします。
次に私は記憶を辿りました。
可能な限り覚えていることを思いだし、整理します。
思い出すのは友人と一緒に『あのハゲ死ねッ!! セクハラだからな完全にッ!! 口臭いんだよ近づくなっつーの!!』と、暴言を吐きながら、日頃の鬱憤をモンスターにぶつけていたこと。
……口悪くてすみません。
普段は友人にさえ敬語な私ですが、怒ると凄く口が悪くなってしまうのです。
いや、今はそれはどうでもいいですね。
問題なのは、その『ハゲ』が誰なのか全く思い出せないこと。
そして、一緒に遊んでいた友人が誰なのかも思い出せないこと。
つまり私は───モンハン以外の記憶が全くありませんでした。
本当に意味不明です。
もう何がなんだか分かりません。
なんでこんなことになってしまったのか……。
これからどうすればいいのか……。
日頃の鬱憤晴らしにモンスターを狩りまくっていた罰なのでしょうか。
そんなことを考えているときでした。
ブーン、という鋭い羽音が聞こえたのです。
私は即座に振りむきます。
するとそこにいたのは───『ランゴスタ』でした。
2m近くある巨大な虫。
全身が凍りつきました。
心臓が握り潰されたかような感覚。
それは圧倒的な恐怖と嫌悪。
またしても私は脱兎のごとく逃げました。
それから私は『アステラ』を目指すことにしました。
アステラに保護してもらう。
私が生き残るにはそれしかありません。
何よりもう二度とランゴスタを見たくないのです。
完全にトラウマですよ……あれは。
そして、私の『アステラ』を探す旅が始まりました。
でも……無理でした。
この森、広すぎて何がなんだか全く分からないんです。
今自分がどの辺にいるのかすら分かりませんでした。
当然アステラになんて行けるはずありません。
ほぼずっとモンスターに追われ、飲まず食わずで逃げる毎日。
そんな日々が3日目を迎えた時、私は少しだけ生きることを諦めはじめていました。
この森に安全な場所はありません。
僅かな音さえとてつもない恐怖であり、眠ろうにも眠れません。
極限状態でした。
私はここで死ぬんだろうな、と思ってしまうほどには。
そんな時です。
私は見たことない場所にたどり着きました。
それはとてつもない崖です。
所々にボロボロになった遺跡のようなものがありました。
こんな場所あったかな……?
それが最初に思ったこと。
でもすぐに登ることを決めました。
高いところは比較的安全。
というのがこの過酷すぎる3日間で知った数少ないことだったからです。
それに、この見たことない場所こそがアステラに続く道なのかも知れません。
そう思うと僅かに希望を見出すことができました。
僅かな希望だったとしても、その時の私にとってはとても甘い蜜のようでした。
階段になっているような場所もあったけど、ほとんどは崩れてしまっています。
でも幸い、蔦などの植物がたくさんあったので登ることはできました。
とても大変でしたが。
そして私は何とか頂上にたどり着いたのです。
そこはとても広く、気持ちの良い場所でした。
怖かったけど崖から森を見渡してみました。
すると……なぜかとても感動してしまいました。
あんな嫌な記憶しかない森なのに、とても美しかったんです。
登ってよかった。
素直にそう思えました。
とてつもなく疲れていたこともあり、それ以外のことは考えられません。
これからどうしたらいいのか、という不安と恐怖を一瞬だけ忘れることができました。
しかし───それも長くは続きません。
バサッ、という音。
何かが羽ばたく音。
ランゴスタのような鋭い音ではなく、とても重厚なもの。
ピリリとした鋭い恐怖とともに、音のする空
を見上げました。
そして私は出会ったのです───『リオレウス希少種』である彼と。
……あぁ、死んだな私。
なんでこんなところにリオレウス希少種がいるのか、という疑問はありませんでした。
感じるのは濃厚な死の気配だけ。
それは容易く恐怖を通り越し、なんで私がこんな目に合わなければならないのか、という怒りに変わりました。
これまでの経験で分かっていたんです。
私はモンスターと言葉を交わせるけど、それだけだって。
言葉がわかるからといって、私に協力してくれるわけではないんです。
森で出会ったモンスターは幸い全て小型だったけど、例外なく私を襲ってきました。
結論、私はここで死ぬんです。
そう思いました。
でも───初めてその予想は嬉しい方向に裏切られることになりました。
この銀レウスさんはとても理性的で、私を食べようとしなかったんです。
それどころか『こんがり肉』を作って欲しいと言ってきました。
だから私はできる───と、嘘をつきました。
そして親を探して旅をしている───と、嘘をついたんです。
利用価値がなくなればすぐに食べられてしまう、逃げるための時間稼ぎをしなくては。
そう思いました。
私はとっくに“信じる心”を失っていたんです。
銀レウスさんとの会話の中で、一人称が強制的に『ボク』そして語尾に『にゃ』をつけてしまう呪いにかかっていることにも気づきましたが、はっきり言ってどうでもいいです。
いつか、銀レウスさんの気が変わって食べられるかもしれない。
そう思うとたまらなく怖かったんです。
なんとかこんがり肉を焼くことに成功しました。
いや、思いのほか簡単でした。
それどころか何度もやったことのある、とても馴染み深いもののようにさえ感じました。
それからは逃げるタイミングを探しました。
狙うべきは、銀レウスさんが狩りに行っているタイミング。
寝てるうちにこっそり、とも考えましたがバレた時は完全に終わりなのでやめました。
まずは、狩りを終えて帰ってくるまでどのくらい時間があるのかを知らなければなりません。
そして理解してしまいました。
逃げることなどできないと。
なぜなら───狩りを終えて帰ってくるのが異常に早いッ!!!!
さすが銀レウスッ!!!
アプトノスなんて一瞬ですよねッ!!!
だけど私は諦めません。
逃げるタイミングは必ずくると信じてます。
それから銀レウスさんと私の奇妙な共同生活が始まりました。
幸か不幸か、食べ物には困りませんでした。
銀レウスさんが狩ってきてくれるからです。
そして、その生活のなかで新たな気づきもありました。
それはずっと空だと思っていた『ポーチ』の中になんとなく手を入れてみたとき───ブォン、とメニュー画面が現れたのです。
そこにはオトモの装備や道具、そして私がゲーム内で集めたアイテムがありました。
なんで今になって……と思いました。
こんなことにも気づけないほど、私は極限状態だったのです。
可愛らしいオトモの防具や武器。
忙しくてミラボレアスを討伐できておらず、その装備をゲットできていないことが残念ですが……。
『EXエスカドラネコ』が現状の最高装備です。
銀レウスさんに怪しまれないためにも絶対装備したりしませんが。
アイテムも使えるのは本当にありがたい。
これなら逃げ出せる可能性がうんと高まる……とは思ったのですが……。
その頃にはすっかり───私は逃げる気力を失っていました。
だって、
楽しかったんです。
銀レウスさんとの日々が。
銀レウスさんとの何気ない会話が。
本当に辛いのは……ひとりぼっちであることなんだと気づきました。
なんの前触れもなくこんな世界にひとりぼっちで、それもアイルーとして放り出された私。
銀レウスさんとの出会いに───どれだけ救われたか。
銀レウスさんのそばにいるのはとっても楽しい。
それは私の“本当”の気持ちでした。
怖いモンスター蔓延るこんな世界で、楽しいと思えている。
これがどれだけ凄いことかなんて、さすがの私にも分かります。
だから私は、ちょっと怖いけど銀レウスさんの傍にいることにしたんです。
───金レイアさんを連れてきた時は怖すぎてやっぱり逃げようと思いましたけど……。
いつかは本当のことを言わないと。
嘘をついたままじゃ……嫌ですから。
++++++++++
いい匂いがする。
深い眠りから俺を呼び起こすのに、それはあまりにも十分すぎた。
俺は目を開ける。
世界にはすでに光がさしていた。
ちょっと寝すぎたな……なんて思っていると、
『……何してる?』
目に入るのは───俺の翼を延々と甘噛みしてる金ピカである……。
『ムラムラしすぎてあまり眠れんかったのだ……これくらい許せ』
『ええぃッ!! 離れろ気色悪いッ!!』
翼爪が両方ともピカピカだ。
自分でケアする必要もない。
それが余計に気持ち悪さを引き立てる。
……コイツ、一体どれだけ俺の翼を甘噛みしてたんだ……。
『なら交尾させてくれッ!! 目の前にこれほどの雄がいるのに何もするなだとッ!? 生殺しにもほどがあるッ!!!』
『何意味のわからねぇこと言ってんだッ!! 俺の翼に二度と噛み付くなよ!!』
『なッ……私に死ねと言うのかッ!? 最低でも一日に三度は噛ませてくれッ!!』
『ザッけんなッ!!』
朝から疲れさせんな……。
なんなんだコイツは本当に。
いや、もういい。
俺はオモチの方へ振り向いた。
とてもいい匂いがする。
「あ、おはようにゃ! もうすぐ焼き上がるからまって欲しいにゃ!」
どうやら、朝からこんがり肉を焼いてくれているらしい。
金ピカとはえらい違いだ。
『ふむ、分をわきまえ私たちの食事を用意したのか。少しは───ムキャっ!!』
また偉そうなことを言うコイツに頭突きをかました。
『感謝できないなら食うなよ』
『か、感謝だと……ッ!? この私が……こんな矮小なものに……で、できんッ!! そんなことは断じてできんッ!!』
『じゃあ食うな』
俺は同じ竜だからこそ分かる。
食欲をこれでもかと刺激する、この香ばしい匂いの暴力。
我慢できるもんならしてみやがれ。
『く、くぅぅぅ……』
何がそんなに苦しいんだ……。
見るからにめちゃくちゃ葛藤している。
なんでこんなにプライドが高いんだ。
竜にとってはこれが普通なのか……?
『分かった……オモチよ。……か、感謝……しなくもないぞ……』
どんだけひねくれてんだコイツは。
そんなに辛いのかよ。
よくわからんわ。
「め、めっそうもないのにゃ……! 金レイアさん……」
まあ、今日のところ良しとしよう。
俺ももう我慢できない。
「できたにゃ!」の声を聞くと同時に、俺は肉を頬張った。
『相変わらずこれは美味いな。私はもうこの肉以外食べたくないぞ』
金ピカもそう言う。
そりゃそうだろう。
生肉なんてこんがり肉と比べればゴミ以下だからな。
美味さで言えば雲泥の差だ。
「そういえば、銀レウスさんに名前はないのかにゃ?」
食べながら、オモチがそんなことを言ってきた。
それでようやく気づいた。
そういえば俺には名前がない。
それどころか、それを今の今まで疑問に思ったことすらない。
これが普通であると、当然であると信じて疑わなかったんだ。
……なんでだ?
『あるわけなかろう。そんなもの』
その疑問に答えたのは金ピカだった。
『それは群れを作る弱小な者共が他者と区別するために必要とするものだろう。私たちは強者だ。群れることなど決してない。ゆえにそんなものは必要ない』
……そうだったのか。
でもなぜかその通りであると深く納得してしまっている自分がいる。
ほんと、嫌になる。
でもまあ、受け入れるしかないんだろうな。
「そ、そうだったのかにゃ……ごめんなさいなゃ……」
なっ……!?
オモチがへこんでしまった!!
くそ、またコイツのせいだ!!
俺が睨むと、金ピカはバツの悪そうな顔をした。
『ならば今決めてしまおう。そうだな───』
だから俺は適当な名前を決めることにしたんだ。
さて、どうしようか。
といっても俺が名前に大した意味を感じていないのも事実。
よって適当でいい。
すると、ぽんっと浮かぶものがあった。
『“ソル”と“ルナ”……。うん、これでいいな。俺は今日からソルで、この金ピカはルナだ』
『ルナ……か。うむ、気に入ったぞッ!! さすがは我が夫だ!!』
『…………』
調子いいなコイツ。
あるわけなかろう……とか澄まし顔で言ってたくせに。
「ソルさんとルナさん! いい名前にゃ!」
うん、オモチが褒めてくれるならいいか。
…………。
俺とこの金ピカの素材で作られる防具『シルバーソル』と『ゴールドルナ』。
実はそれからとっただけの安直なものなんだけど……黙っておこう。
「あ、それと……ちょっと話があるのにゃ……」
そんなことを思っていると、今度は急にオモチが真剣な顔となった。
何か大切な話があるのだろう。
まさか……俺から離れたいとかなのか……?
だったらどうしよう。
俺は受け入れられるだろうか。
「どうしたオモ───ん?」
意を決してオモチの話を聞こうとした。
どんな選択であろうとオモチの意志を尊重しようと覚悟して。
だがそのとき、無視できないほどに大きな気配を感じた。
『……感じたか』
そう言ったのは金ピカことルナだった。
一体なんの気配だ。
『これは───古龍だな』
思わず目を見開く。
これが古龍の気配。
なんて大きい……飲み込まれそうだ。
刹那、俺に過ぎるものがあった。
この気配を感じる方向から考えるに……これは『ゾラ・マグダラオス』ではないか、というものだ。
確かに最近、人間の気配も強く感じるようになっていた。
ならば、まだ直接見ていないがいるかもしれない───『主人公』が。
俺の予想が正しければ古龍すら撃退してしまう存在だ。
確認しなければ……なんとしても確認しなければ。
───古龍以上に危険だ。
命の危機はある。
それでも、やらなければいけない。
やる価値がある。
『お前らはここで待っていろ……俺は少し見てくる』
だからそう言ったんだ。
『フフ……さすがは我が夫ッ!!! 古龍をも恐れぬとはッ!!!』
何か勘違いしてルナが騒ぎ始めた。
めんどくさい……。
『当然、私も付き合うぞッ!! どこまでもなッ!!』
そして、なぜかお得意の咆哮を上げ気合十分のルナ。
『ぼ、ボクも行くにゃ……! 絶対邪魔にはならないにゃ……!』
え……オモチまでどうしたの。
ちょっと、ワールドの主人公が怖すぎるから見に行こうと思ってるだけなんだけど。
それからいろいろ説得を試みたのだが、ルナはもちろんオモチまで今回は何故か妙に意志が固く、譲らなかった。
結局、全員で行くことになってしまったのだ。
ルナはやる気というか殺る気すごいけど見に行くだけだからな……?
古龍とも主人公とも戦う気ないよ俺は。
絶対ヤバいし、危険すぎる。
無駄に命は捨てたくない。
ただ───放置しておくこともできない。
このままいけば、必ず脅威となる存在なのだから。
さて、『主人公』とは一体どんな奴なんだろうな?
お読みいただきありがとうございました。