月の少年と五つ星 作:古参ちゃん
よろしくお願いします。
実体験を交えた純文学とは実に面白いものだ。読書にハマる理由もわかってきた気がする。ファンタジーとフィクションで塗り固められたSFも興味を惹かれるが、趣味と言えるほど読み尽くしてはいない。
「ふむ……」
ガタ……ガタと車体の揺れる音をBGMに、ペラペラと読み進めていると、物語はラストを迎えていた。本を読むようになって半年、読むペースが上がったと思う。もう作品は終わってしまった。桜餅の葉をしっかり食べる派なのと同じで、あらすじもしっかり読む派なので読み始める。
特別、賞を取れるといったような面白い話というわけではない。しかし決して駄作ではなかった。この話を理解するのには考察やら余韻やらでかなり時間がかかる。それほどまでに素晴らしい作品ではあった。
「次は〜表参道、表参道です」
目的地のアナウンスが丁度耳に入った。今後のためにも原宿、表参道、青山は熟知しておきたいのだ。
荷物を持って電車から降りる。すると誰に見られてるわけでもないのに、少し羞恥心が自分の中に現れた。
「浮いてる……」
この世で誰も着てないこの制服は、ただのコスプレでしかない。それも当たり前だ。普通の学生とはちょっと違う、自分は
立ち止まるのも不自然なので、とっとと移動してしまおう。そうして、僕は東京を探索しながら歩みを進めた。居候先の喫茶店へ。
☆☆☆☆☆
街へ出ると、人、人、人、人。
どこを見てもまさに人混みだった。こういうところは歩くだけで疲れる。さすが都会、想定の何倍もの人で溢れかえっていた。
当たらないように避けながら歩いていくと、やがて東京ならではの車で営業する店が並ぶ通りへ出た。食欲をそそる匂いが辺りに充満している。
そういえば長旅していてすっかり忘れていたが、お腹が空いていた。
「こうもソースの匂いを嗅がされると、たこ焼き食べたくなってくる……」
目の前にあったたこ焼き屋で腹ごしらえをすることにした。店の前に立つと自分と同じぐらいの少女がこちらに気づいた。
「いらっしゃ〜い! お客さん、珍しい制服を着てるね〜。この辺の人じゃないのかな?」
やはりというかこの
「ええ、まあ。たこ焼きを一つお願いします」
「毎度あり!」
しかしこのお団子が特徴の店員さんはやけにフランクだ。プロフィールでもあれば特技の欄に初対面の人と仲良くなれるとでも書いてありそうだ。
「はい! どうぞ! お熱いのでお気をつけて!」
「ありがとうございます。ところで一つお伺いしたいのですが、
先程の物言いやこの店員さんの接しやすさもあり、今後通う学校の場所を聞いてみた。
「
店員さんは奥から紙とペンを持ち出し、徐に書き始めた。地図だろうか、なんだか優しさに甘えて申し訳なくなった。
「はい、お客さん」
「すみません、たこ焼きまた買いにきます」
「ふふ、また会えるといいね」
「……? え、ええ」
両手で頬杖をつき、その整った容姿が見やすい前髪の少女にいい笑顔を返された。この笑顔からは営業スマイルだけではない感情も感じた。また、会えるといいね。その言葉が少し引っかかったが、その場を後にした。
☆☆☆☆☆
「ここか……」
都内にある、一つの喫茶店。ここが今日からお世話になる場所のはずだ。ここにくるまでたこ焼きも食べきり、あまりの美味しさにお土産としてもう一つ買ってくるべきだったかなとすら思えてくる。
そんなことを考えながら扉を開けると、いらっしゃいと出迎える声が聞こえた。
「こんばんは、
「あら、随分到着が遅れたわね〜東京はどう? 迷子になった?」
何故迷子になるの前提なのだろうか。確かに前に住んでた場所に比べて入り組んでいるけども。あと二つも質問してこないで欲しい。
「普通でした」
「東京に来て普通と答える辺り相変わらずでホッとしたわ」
この人はここの喫茶店を経営している澁谷さん。うちの家族と昔からの付き合いがある……らしい。そこまで関わりがあったわけじゃないから接し方もイマイチ掴めず、困ったものだ。
「色々お話したいけど、疲れたでしょ。何か食べる?」
「あ、大丈夫です。軽く食べてきました」
「そう? 満喫してるわね!」
どこがだ。飯食べただけなんですけど。
「そうだわ、ウチね? 丁度あなたと同じ年と年下の娘がいるのよ〜」
「へぇ」
「興味なさそうね!? 年頃の男の子らしさが微塵もないわよ!?」
「興味ないです」
「はっきり言った!! 日本人らしからぬ拒絶!?」
居候させてもらう身で失礼すぎるとは思う。でもここの家族はリアクションが面白すぎるのだ。こうして騒ぎまくっていると、上から誰かが降りてくる音が聞こえる。明らかに生活感丸出しの女の子が来た。この子が同い年なのだろうか。
「うえええっ!? 今日はもう営業終わりなんじゃ!?」
その少女は自分の顔を見ると慌てて上に戻っていった。大きな声で喋っているので会話が聞こえる。
「ありあ! あの人誰!?」
「お姉ちゃん聞いてなかったの〜? 今日から一緒に生活する人だよ」
「はぁ!? 何それ!?」
どうやら彼女にだけ知らされてなかったらしい。もしくは聞いていなかったのか。
「ごめんね……いつもこんな感じなのよ」
「……了解です」
呆れた顔をする澁谷さんに察するほかなかった。上ではまだ話し声が聞こえる。
「ところでその音楽科の制服、似合ってるわよ!」
「ありがとうございます。正直普通科でも音楽科でもなんでもいいんですけどね」
「それ、かのんの前で言わない方がいいわよ……?」
澁谷さんの口からかのんさんという先程の慌ててた人の話を聞いた。どうやら音楽科を受験するも落ちてしまったらしい。
じゃあ何だ。自分はこれから毎日顔を合わせるであろうかのんさんに気を遣わないといけないわけか。
「わかりました。あまりそういった話は控えます」
「お願いね」
そのまま、「夕飯の支度があるから、その間に家族に挨拶をしてきなさい」と言われたので荷物を置いて上に上がった。
「ありあさん、今いいかな」
「あ、はい。大丈夫です」
まずは安全そうである妹のありあさんから。
「僕のことは聞いているよね。これからよろしく」
「よろしくお願いします、私のことは呼び捨てでいいですよ」
「わかった」
ありあさんは打ち解けやすい方だと思う。少し話しただけでもわかる。話しやすい。
「それにしても結ヶ丘から推薦されるだなんて凄いですね! やっぱり、将来はこれになりたい! とかあるんですか?」
「強いて言うなら大物の音楽家」
「ざっくりですね……」
「未来は絶対じゃないからね」
歴史が変わるように、自分の想像以外の何かが起こるかもしれない。確定された運命はない、と信じている。
無難な会話をし、いいところで切り上げ、翻訳の仕事をしている澁谷さんのお父さんにも似た挨拶をした。お父さんの方は世間話だったけれど。
「最後は……」
澁谷かのんさんだけだ。最後にしただけあってもうそろそろ準備できてるはずだろう。
「かのんさん、お時間大丈夫かな」
「……大丈夫です」
扉を開けると、結んでいた髪を下ろし、眼鏡も外していた。これがかのんさんのオンモードのスタイルということなのか。
「さっきはごめんね、今月から君と同じ結ヶ丘に通うからもしよかったら仲良くして欲しい」
「え? でもあそこは女子高ですよ?」
「理事長にスカウトされたんだ」
「スカ……ウト?」
結ヶ丘は新設されたばかりで歴史も何もない。全てが初の試みだ。
「そうなんですか。でも関係ないと思います。私は普通科なので」
「そうだよね。それじゃあお互い頑張ろう」
「え? ちょ、ちょっとちょっと!!」
かのんさんが露骨に関わりたくないオーラを出していたのでさっさと撤退しようとしたら、逆に呼び止められてしまった。
「名前! なんていうんですか!」
ああそういえば、かのんさんだけ知らないんだった。名乗らなければ。
「
いかがだったでしょうか。これからも精進していきますのでもしよろしければ感想、評価をお待ちしております。