「深い尊敬」
「純血」
元々は別の短編を書くためのメモでしたが、それっぽい形になったので文章を直して投稿します。
鶴喰鴎にとって、恋とはある種神聖で心の中に長く強く根付くべき感情だった。
贄波生煮にとっての恋とは、軽いとまでは行かないにしても、捨てる捨てられる。
もしくは互いの合意の上での離別をいつでも選べるようにしておくべきモノだった。
贄波生煮にとって優しさとは下心だ。
それはマイナス13組ひとりひとりの抱える心と過負荷のように、密接に絡まりあって簡単に解けるようなモノではない。
鶴喰鴎にとっての優しさとは、無私とは程遠くとも、誰かにとっての益を目的として、何かを成すことに重点が置かれる。
そもそも下心を持った言葉や甘えるのが様になる男とならない男に区別すれば、鶴喰鴎は間違いなく後者である。
甘えるのが上手い男はそれに自覚がない。
だから危なっかしくて、皆がその誰かに惹かれるのだ。
そういえば。
そういう人間“ヒト”を、ひとり知っている。
鶴喰鴎は、決して気の利く男ではない。
楽しませよう、相手のために何かしよう。
そういう気持ちがあるのはよく分かるけれど、どうしたってそれが空回りする。
照れ屋なのも一因か。と、贄波生煮は思っている。
贄波生煮は、実は存外気が利く女である。
いつでもフラットだからなのか、少なくともそれがあいつの基準で人道的であるならば、あいつはどうでもいいと言いながら全てに平等に肩入れをする。
動きは少ないけれど、その分を観察に使っているのではないか。と、鶴喰鴎は思っている。
贄波生煮は、何かに対して執着を持つことが少ない。
それは本人が根無し草を自称する事と大きく関係しているけれど。
それでも数少ない執着を向けたタイミングでは、何かとてつもない引力を発揮するような女だ。
贄波生煮はそういう女だと、鶴喰鴎は彼女と付き合ってきて学習した。
鶴喰鴎は、どうでもいいようなことに異様に執着する。
それはきっと本人がある意味で潔癖で、自分のこだわりに対しての誇りのようなモノも持っているからだ。
だからこそ彼の執着は恐ろしい、根無し草を決め込んでいたこんな自分を引きずり込んで、彼を好きにさせる程だ。
鶴喰鴎はそういう男だと、贄波生煮は彼と長く共に在って理解している。
そういえば。
そんな化物“ヒト”を、ひとり知っている。
だからふたりは、劇的なことなんて何も無く、こんな白の中で並んで立っている。
「新郎鶴喰鴎、汝は病める時も健やかなる時も、新婦贄波生煮と、愛を持って支え合い共にあることを誓いますか?」
「誓います」
「新婦贄波生煮、汝は病める時も健やかなる時も、新郎鶴喰鴎と、愛を持って支え合い共にあることを誓いますか?」
「…………誓います」
劇的なことなんて、何も無かった。
初めて結婚の話題が出たのがいつだったかすらも覚えてない。
それでもまあ、ふたり揃ってここに立っているのは必然だったんだろうなって、互いに納得してる。
だってそうじゃなきゃ、こんな場所に立つはずがないんだ、誰だって。
「それでは、誓いのキスを」
鴎が、私のヴェールをゆっくりと上げて、まっすぐと私の目を見つめてくる。
真剣な目だ。
覚悟なんてとうに決めてると、そう嘯いていたのは誰だったっけ?
ゆっくりと唇を重ねようと近付いてくる鴎の顔が、なんだかおかしくて。
鴎の襟を掴んで、こちらから強引に唇を重ねた。
なんだっけ、黒神は確か、こう言ったんだっけ?
「……うん、ピッタリ」
楽しんでいただけていたら、幸いです。