さくら中央シティにある桜中央駅から5駅通過し福の宮駅へ、乗り換えで更に5駅、その道を経て着くのは
ナギサキ――目立つものは特にない、海岸沿いの小さな町だ。だからこそと言うべきか近所間の繋がりは強く、海産物の共有は日常茶飯事。今となっては珍しい、
その北東端に、「人魚が棲んでいた洞窟」と語られる場所がある。海辺にあることから、“海辺の洞穴”と名付けられている。まぁ正確には棲んでたのではなく
この区域に筋肉質の鬼と優雅な冷姫は、場違いと言う他ない。しかしウィルオーウィスプがいる可能性があるとなれば帰るわけにもいかず、とりあえず一旦は二手に別れた。
ふぶきちゃんは駅からすぐの崖に建つ廃屋、ブリー隊長は例の洞穴へ向かう。
廃屋に行って、何か特別なものでもあるのか? 答えは
内側が異空間へと繋がっており、名は“あやかし通り”。全方向どこを見ても長い道路が敷かれており、四角の穴に落ちるか暗闇の中に入るかで、また別のところへ移動ができる。一定の条件を踏めば特別な両引き戸や宝箱、妖怪ガシャが出現する。そんな場所だからこそ、何かある可能性があった。
「うーん……何もないかな――っ!?」
行く道征く路全てを確認していると、まるでブラックホールに魂を吸い込まれるかのような感覚がふぶきちゃんを襲った。
小石が肌を刺激する。彼女が目を開いた時には崖下。“
それと同時刻に、目が
「――――――まさか!」
ふぶきちゃんは焦りを感じていた。歴戦の勘が
「ぐっ……お、おォォーッラァッ!!」
光の正体である雷を掴み、目の前の洞穴内に投げ込む。それは雷属性の妖気を持つブリー隊長だからこその対応であった。
電撃が乱反射された空間から無傷で出てきた神鳴りの主は、でんじん親方。やはりと言うべきか、最悪の場合と言うべきか。強敵である以前に仲間、有効打を撃てずにいる。しかし危惧すべきは紫のオーラ。極玉を与えられたビッグボスと似て非なる、形を
「クソ! 目を覚ますんだ親方! 想い出せっ俺たちの今までを!! 仲間だろうが!!!」
“鬼の教官”と称されたままの、腹と心の底から湧き上がる声を吐き出す。しかしそれが届くことは――――――
「届くことはない。貴様ら強者なら当然わかっているだろう?」
「ンの野郎……!」
「やっぱりウィルオーウィスプ! 消えなさい……《キラキラ雪化粧》!!」
ふぶきちゃんの必殺技の掛け声に合わせ、巨大な氷塊が地面から生える。でんじん親方にとっては慣れ親しんだ技であるので簡単に避ける。だが狙いは後ろ、ウィルオーウィスプだった。が、人魂の
「クク、自ら顔を出してもう終いと
また雷が落ちる。“雷神”の腕に帯電し、その拳に全妖力を乗せる。それに対抗し、自らに取り憑き攻撃力を底上げしたブリー隊長の拳が振るわれる!
「起きろぉぉぉぉぉお親方ぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
両方の最大威力を込めたパンチがぶつかり合い、幾度となく鳴る雷よりも大きな爆音が起きる。純粋な力と力の衝突! たった一撃の本気、その一撃で勝敗は決まった…………。
「たい、ちょ…………ブリー隊長ーっ!!!」
「クク、ハハハハハハハハーッ!! 凄まじき!
顔のない人魂が、ない口を開けて
ブリー隊長の右腕はあからさまにボロボロで、骨の粉砕だの肉の断裂だの字面だけでまずそうな具合。橙色の体表は青黒さのある不快な紫に変色し、形も腫れ上がりの不細工なさまに仕上がった。余力を残す暇のない一撃に全てを懸けていた心身は限界を迎え、生命力も覇気もない前屈の立ち姿で止まって動きを見せない。
対する親方はオーラが鎧となり、損傷なし。怪我ひとつ確認できなかった。
完敗。
ただ、それだけ。
ありえない、と震えた言葉を漏らすふぶきちゃん。
「ハ、最高の宴であったわ! うむ、景品として面白い報をくれてやろう。
我が名はウィルオーウィスプ・ウィスパー。始まりの存在。閻魔より前に妖魔を
鬼時間の明けに合わせ、黒幕とでんじん親方は消えていった。伝説と語られる戦力を完全に削がれたことと、引き換えに。
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