閻魔大王一族のひとり、“ゲンシャ”はへらへらと語る。
「やだなぁ、そんなに驚くこと? 今までにエンマ大王とかも来てたんでしょ?」
「ニャ……ニャンというか……こーゆーのは慣れないニャンねぇ……」
「あはは」
表情を可笑しくこわばらせるジバニャンに向かって、ゲンシャは子供のような、眩しいくらいに無邪気な顔で笑う。やはりさすがは閻魔大王一族か、その顔だけで一級の価値があると思わせるほどの可愛さが溢れていた。それでも、忍ばせた暗闇だけは明るく灯されない。
引き千切れる限界まで張った糸のような緊張感が少しずつ和らいできた頃、仕事から逃げた不真面目大王と赤猫団のトラブルメーカーが、薄紫色の煙と共に現れた。
「うぃっす……ビッグタイトルの付き添いは疲れるでうぃす……」
ゆで卵のように白い、見るからに『オバケ』っぽい容姿の妖怪。彼はウィスパー。赤猫団の移動手段である、亜空間を走行しイチ早く目的地へ辿り着くための特別車「バスターズビークル」の
「ようお前ら、遊びに来……たぁ…………あ〜……なんでゲンシャが」
「なぁにぃー? “コウ”ちゃあん……?」
「……ゲンシャ
「よろしい」
ゲンシャを見た途端に汗を吹き出すイケメン大王。金髪金眼に和服と洋服の中間のようで、腰にベルトのついたワンピースのような赤い服を着た彼。
彼こそ全妖怪の王、エンマ大王である。よく仕事をサボり、人間の姿に化けて人間界を練り歩く。作るのは少々あれだが、人間の食べ物を広く好む。
人間と妖怪の繋がりを大切にし、最終的にはそれが当たり前である世界にするのが彼の夢であり最大の目標でもある。ちなみに
エンマ大王は、どうやらゲンシャには逆らえないらしい。というのも、関係が少し複雑なのだ。
先代閻魔大王様は、次期の王にするために子を複数作ったが、それはみんな女の子だった。なぜだかはわからないが、女性は『受け継がれる大王の力』が弱かったらしい。そのせいで王位継承が先送りになる中、次の子供が男の子である可能性が出てきた。だがそんなタイミングで、娘のひとりが男の子を産んだのだ。
それが、エンマ大王。つまり、エンマ大王は先代閻魔大王様の孫、の立ち位置に当たる。そして遅れて産まれた先代の実の子に継承されるはずだった力はエンマ大王に渡ってしまい、面倒な問題となったりした。
そんなことがあったため、エンマ大王とゲンシャの年齢はそう離れておらず、姉のような存在であったゲンシャには本能的なものなのか、いつの間にか逆らえないようになってしまった。
だけどそれは別の話だよね、と言いたげに、ゲンシャは手を上下に振って、エンマ大王に「こっち来て」と催促する。
「話を戻すけどね、ボクはある依頼を頼みに来たんだ。“ウィルオーウィスプ”って知ってるかな……?」
「なっ……! 待て! ゲンシャ姉ちゃん、その話をするってのか!? そいつはオレたちの中でも一部しか知らない話だぞ!」
エンマ大王は焦るように言った。その名前は、それなりの機密事項なのか。
ゲンシャのその表情は、覚悟を決めたものだ。それも、今まで一緒にいたこともあったエンマ大王ですら初めて見るような、真剣で、固い意思を持った顔。
ため息ひとつ、そのあと「全く……どうなっても知らないぞ」とエンマ大王は呟き、制止しているように出していた右手を素早く収める。
ゲンシャは、深呼吸をしてから話を再開した。
「多分、聞いたことないよね。それも当たり前、妖魔界の歴史から消された存在だから。知ってるのは、ボクやコウちゃ――エンマ大王、あとほんの一部の上層部だけ。
その妖怪は、ボクたち閻魔大王一族の前に妖魔界を統一していた“鬼族の歴史”よりも更に前の……
そんな昔のことなんて知らないってなるだろうけど、大事件よ。実は、閻魔の血に流れる『受け継がれる大王の力』が失われてきている。閻魔大王一族に伝わる伝承では、『始まりの者目醒めし時、時代の王、力を返されし。始まりの者立ち上がりし時、時代の王、世界を返されし』とあるわ。
……これはボクの考えすぎ、なのかもしれない。そうであってほしい。けどこんな事例が目に見えだしたことは今まで一切なかったの。だから、お願い。あなたたちに情報収集を手伝ってほしい。もしかしたら強敵と戦うことになるかもしれないけど…………」
話すゲンシャの手は、震え続けていた。下手に発せば抱え切れない混乱を招くであろう秘密、それを抱える重圧は、筆舌で尽くすことなどできない。そいつを解放しようと言うのだ、一種の恐怖心すらも覚えてしまう。
誰もがわかるくらいにズシッと空気が重くなる。それなりに話と責務が重いからだ、当然のこと。
だがそんなじめじめした空気、赤猫団には似合わない。
「ボーノボーノー! そんなのは決まってるボーノね」
談話室の空気を和ませる根っからのヒーラーの黄色い雲妖怪“ホノボーノ”、通称“ホノボーノさん”が、まるではじめからわかっていたかのような態度を見せる。場の空気を良くし、まとめるのはホノボーノさんの得意技だ。同時に、良い流れも作る。
「ニャニャ! こんなこと、みなまで言わなくてもわかってほしいニャン!」
「そうでウィス! ワタクシたちを誰だと思ってるんでウィッスか?」
ジバニャンとウィスパーは胸を張り、似たようなポーズで自信満々な顔をする。
「ああ! そうだ! オレたちは妖魔界の誇り、バスターズ! 今から拒否・取り消しなんて無駄だ! 一度頼まれた依頼、この赤猫団がキッチリ請け負うぞ!」
ブリー隊長の活気溢れる言葉に、この場の全員に気合いがみなぎってくる。
ゲンシャは自身も知らぬ間に流していた一筋の涙をこすり取り、エンマ大王と顔を見合わせる。そのエンマ大王も、どこか誇らしげな感じがあった。
「行くぞお前ら! 赤猫団の新ミッション、始動だ!」
「「おう!!」」
世界を揺るがすミッションの火蓋が、今切られる。
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