妖怪ウォッチバスターズ『FUTURES!』   作:妖怪紳士奴

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21.進撃、パックプキス

 赤と青の煙が混ざったような珠を中心に、汚い灰色の、複数の関節がある長い左手が、奴の後ろから大量に湧き出る。まるで暗い排水口に引きずり込まれるようで、多大なる嫌悪感を散らした。

 

 

 

「元よりここを出る予定はなかったのですが……大王よ、今だけはお許しいただきたい」

 

 

 

 それを全て、輪廻に備わる素の闇妖力だけで跳ね除けた。

 

 

 

「――残念ですが、名誉なく薄汚れた手を握る下卑た趣味はありません」

 

 

 

 その言葉に、人魂がふわっと揺らぐ。

 

 

 地獄に風は吹いていない。だが、勝利への追い風はこちらを助けるように吹いているように感じられた。

 

 

 今度はほぼ真透明の右手を、千手観音と見間違えるくらいに吐き出す。術にせずとも驚異的な圧を持った輪廻の妖力に、反応する素振りは特にない。さっきとは性質自体が違う。だがそれも易々と貫くのが、輪廻だ。

 

 

 

「貴方に効くと良いですが」

 

 

 

 その瞬間、溢れ出た妖気が奴を包み、直後にすべての時間が止まった。圧倒的な力に驚くジバニャンとゲンシャだけでなく、ウィルオーウィスプでさえも出した手の指1本動かせない状態。

 

 

 誰も瞬きすらできない中で、輪廻だけが静かに言葉を連ねる。

 

 

 

「《地》《人》《畜》《餓》《修》《天》――――――」

 

 

 

 言葉に応じて字を、丸く固まった妖気の上に発光させる。

 

 

 

「――《六道法輪・輪廻》。さぁ、永久に苦しみなさい!」

 

 

 

 奴を取り巻く妖気が破裂した。中からウィルオーウィスプが出てきたと同時に、時間が動き出す。

 

 

 《六道法輪・輪廻》。対象ひとりを闇の妖気で包み込み、『地獄の魔力』を強引に引き出す必殺技。その影響で時間停止が起きるが、輪廻自身も動くことはできず、状況の認識と詠唱以外の術はない。魔力は現世の何にも似通らない独特な渾沌を持ち、それこそ『地獄の魔力』以外での表現できない異端な力。対象は魔力を受け、避けられないダメージを刻まれる。

 

 

 メカニズムは不明だが、『六道輪廻』の力を扱える輪廻ならではの技だろう。六道輪廻、単純に言えば「全てのものが生と死を繰り返し転生し続ける概念」。その一端を彼は持つ。“アミダ極楽”の主が生前の運命を操り、輪廻が死後の道を導くのだ。

 

 

 

「あァ゙…………素晴らしい……力だ…………」

 

 

「おや、終わりですか? あまりにも呆気ない。この程度なら脅威にもなり得ないでしょうに」

 

 

 

 ほんの少しの時間で、今まで苦戦し続けた敵を容易に捻じ伏せた。これが、極妖怪を掌握した者の実力。

 

 

 

「す、すごいニャ……」

 

 

「いえ、まだよ。ウィルオーウィスプ。()()()()()()?」

 

 

 

 高圧的な雰囲気を出しながら、ゲンシャがそう問いかけた。その言葉の意味を理解できないジバニャンは頭上にハテナを浮かべている。随分と火の小さくなったウィルオーウィスプは、なぜか機嫌が良さそうだった。

 

 

 

「……クク、ハハハッ! 何を言う、我らみんな本物だ(・・・・・・・・)

 

 どうせすぐにわかること。今、我から答え合わせをしてやろうか。そもそも勿体振る話でもない。

 

 肉体の“変り身の仔(パックプキス)”、記憶の“■■を嫌う記憶保管所(ヘイトピーアーカイブス)”……魂の“囁く火の人魂(ウィルオーウィスプ)”――我はこの三位一体のひと欠片に過ぎない。全て“(ウィスパー)”だ、全て併せて(ウィスパー)なのだ。むしろ欠片でしかない我を、ただの魂をウィルオーウィスプと言う「一個体」だとする貴様らの認識が間違っていると言うのに。意識して合わせるのに苦労してしまうしなァ」

 

 

 

 結局ウィルオーウィスプが言いたいのは単純、「我を圧倒する程度では何も変わらない」こと。そこにハッタリはなく、何をせずとも打倒できる神のような力でなければ、恐らく完全な状態の奴には勝てないのだろう。

 

 

 

「しかし、あれだ。貴様らを下に見ていた考えを改めよう。バスターズは『取るに足らない弱小一派』『ウィルオーウィスプ以上』であるとして、徹底的に踏み潰すことにした。悪くないだろう? パックプキス」

 

 

「…………まずいですね……」

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ……そんな漫画らしい幻聴が聞こえそうな、魔王を前にしたような、きつく張り詰めた空気が流れる。

 

 

 嫌な予感を考えさせた直後、下から巨大魚の形をしたモノが、一定の強度があるはずの畳の床を突き破り高く飛んだ。そのままウィルオーウィスプを喰らい、肉体に取り込む。

 

 

 

「た、多分あいつ、()()だニャ……! フユニャンが言ってた、マスターニャーダを殺したヤツ……!!」

 

 

「まさかパワーアップって感じの…………?」

 

 

 

 粘土のように自在に人型に変形していき、奇を(てら)う化物と成った。(いびつ)で細くも筋肉質、ウィスパーを模した顔、高さ3メートルはありそうだ。その姿は、いつかウィスパーが変化した状態“ウィスパゲリオン”と酷似している(ウィスパー自身が物理的に自由自在な変化を可能としている。ウィスパゲリオンとはその中でも類を見ない、一種の暴走・狂乱形態)。

 

 

 

「グォァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

 

 口を開き、鼓膜を引き裂ける大きさの叫びを上げる。

 

 

 右腕を上に掲げ、地面に叩きつけた。

 

 

 

「あぶニャい! 畳が保たんニャあ!」

 

 

「2度も使わせてくれるとは! 《地》《人》《畜――っ!!」

 

 

 

 一瞬で妖気が奴を囲み、また止まった時の中で詠唱をした。しかし奴は時間停止中であるにも関わらず妖気を喰らい、必殺技を強制的にキャンセルさせる。予想外の展開に一瞬の隙を見せた輪廻の目の前に瞬間移動、鞭のように(しな)った脚で強烈な蹴りを与えた。

 

 

 別の畳が壁になってくれたおかげで止まったが、それがなければ、確実に地獄の星屑となっていた。クッションになった畳も原型を留めていない。いや、()()()()()()()()と称賛すべきか。

 

 

 

「なんて……デタラメな力を……!」

 

 

「ふっふざけてるニャっ! こんなのっ!」

 

 

「ここは逃げないと! ジバニャンっ!!」

 

 

 

 冗談なく神に等しい力でないと勝てないと思わせる、見た目と比例するふざけた“差”に圧倒される。数分前まではこちらが押していたことを忘れてしまいそうになる。どう動くにも、それを通してくれる余裕はない。

 

 

 ここで、終わる。ウィルオーウィスプと同化したパックプキスによって、物語は絶望の終焉を迎える。

 

 

 かの大王が、いなければ。

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