立体的な地の獄を飛んで走って、3人は白き人型の悪魔から逃げ惑う。その間は約20メートル、立ち止まれば一瞬で埋まるほどの小さな差だ。
「駄目ニャ! もう終わりニャあああ!」
「まだチャンスはある! それまでは逃げるのよ!」
「なにか案でもあるのですか?
「チャンスは絶対ある……はず!」
「無理ニャああああああああああっ!」
チャンス。ゲンシャはそう言うが、頼みの綱である輪廻は妖力を激しく消耗している。合流のために自分を妖術の勢いで飛ばしたが、そもそもムゲン地獄で分断された仲間と合流できた事自体が奇跡。残り
ゲンシャは桁違いの妖気を持っている。回復妖術もある。だが戦闘経験の練られていない攻撃は「下手な妖怪より強いね」程度で、同時に回復の隙もくれない状況。ジバニャンはひとりでは強く出れず、仲間がいてこそ全力を発揮する。今までそうして難敵を撃破してきたのだ。今やそれが
戦闘開始から5分も経っていない。しかし、彼らの限界は目の前にある。
「影……進行方向の先に誰かいますね」
「挟み撃ちされニャああああああああああっ!!」
輪廻は今更進行方向を変える余裕もなく、ジバニャンは最悪の想定に泣き叫ぶことしかできない。ただゲンシャだけは、違う者を見ていた。
「コウ……ちゃん…………!」
「――人前ではやめてくれって、いや、それより。よく耐えてくれた……ここからはオレが戦う、反撃の時間だ!」
遠くの影の正体――エンマ大王は両
「ハァッ!」
奴は長い手足を駆使し、
敵意をエンマ大王に向けるため、ジバニャンたちと奴の間に瞬間移動し、肉弾戦へ移行した。
「こいつ何者だ、全く隙がない……!」
攻撃のリーチはウィルオーウィスプにある。それでも防御に徹するのではなく、受け流してカウンターのチャンスを常に狙っていた。
隙ができたその時、エンマ大王が奴へ一撃を与えるその時。
「な――――――ぐあっ!!」
奴はわざとらしく避けていたエンマ玉を右足で蹴り、それに気を取られた瞬間に、鉄のように重い左足の薙ぎ払いを受けた。回転により勢いを増した攻撃は、様子見に近かったお互いの流れを変える。
「来い! “
エンマ大王の言葉に反応して、どこからともなく“覚醒閻魔
髪は白く、
「見せてやるよ、本気の“
さっきのように、両手にエンマ玉を創る。だが威力・密度は比べ物にならない。赤を経て紫にまで変色した《覚醒エンマ玉》がものすごい速度で放たれ、ついに奴の守備を突破した。
「オ、オオォ……!!」
「フッ! まだまだァ!」
ただのパンチ、ただのキック。それすら必殺技に劣らぬ威力に強化され、余すことなく振るうその力で圧倒していく。
「
呼びかけに応え、またどこからか“エンマブレード”が飛んでくる。埋め込まれた3色の宝玉が赤い刀身に力を与え、どれほど邪悪な闇でも断ち斬るのだ。
「《獄滅エンマブレード》ォォオッ!!!」
縦横無尽に斬り刻み、最後に左胸に投げ刺す。
少し離れ、即座にエンマ玉を創り出した。全力、必殺のエンマ玉。紫よりも黒く、黄金の妖気を纏って輝く。
「消えろッ! 《魔眼獄滅波》ァァァァァッッ!!!!」
「ガァァァァァッ!!」
「だァァァァァァァァッ!!!」
奴は強い光に呑み込まれる。その余波は大きく、ムゲン地獄を眩しく照らす――――――
それが止む頃、光の中心にはボロボロのウィルオーウィスプがいた。損傷を負っていない箇所を探す方が大変なくらいにダメージを与えた。畳は用意周到に重ねられていたようで、最下の1枚がかろうじて形を保ってくれている。
時を同じくして、力尽きて“覚醒”が切れる。肩を上下させて呼吸する動きが、体力の消耗を表していた。
「はぁっ、はぁっ……粉々にしたつもりだったんだがな…………」
「あれが、エンマ大王の本気……圧巻ですね」
「ニャはぁ……助かったニャーン…………」
「これが…………コウちゃんの……」
「あ……ぐぁっはあ…………」
「「「「!?!?」」」」
ウィルオーウィスプが体――パックプキスから出る。また随分と小さく、弱々しい。
「くそ……倒し切る力も出てこねぇ……」
「クク、お互い様だな。痛み分け――と言うには少しこちらの
また会おうか、閻魔ども……!」
炎が揺らめき、吹かない風に乗って消えた。パックプキスも、液体のように地に吸われて消える。激闘の末の、余韻ひとつ残さない終幕。とりあえず危機は脱した。かに思えたが、それは全くの見当違いである。
「すまない、みんな。逃しちまった………………ああ、そういえば…………
「「…………え?」」
「まさか、『こちらの有利を取ってしまった』、と言うのは……」
ジバニャンとゲンシャの困惑。そこには、微妙で奇妙で大きすぎる違いがあった。
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