時は少し遡り、平釜平原跡。元祖軍が陣取った西の南側、岩場にある『守り鏡』。そこから対角の方向にある本家軍側のものは小屋となったが、前述のはそこまで近いと言えない程度の距離……そもそもの影が薄かったこともあり、変化が加えられることはなかった。
平原内に点々と生えた15の石と合わせて結界とも称されるのだが、鏡の実態は「ムゲン地獄への入口」である。これを介し、一方通行前提で
ただ、全く
ケータが妖怪ウォッチを手にしたあの日辺りだろう、夏休みが永遠と終わらなくなった現象の始まりは。それはムゲン地獄から溢れる瘴気が、超常的な歪みを人間界に与えた結果だと考えられている。ウィルオーウィスプの関与があろうとなかろうと、原因の一端はムゲン地獄だと。しかしウィルオーウィスプを考えないとして……それを招いたのは、かの『どんどろ』の封印が弱まっていたこととされていたからだが、原因の100%ではない。一方通行だから抑えられていたものを、梯子で相互干渉を簡単にしてしまったから。極論ただの空洞、そんな何も防げない穴を通してしまったから。この現象は起きざるを得なかった、起きるべくして起きた。基礎に欠陥のある建物が容易く崩れるように、いずれそうなるのはわかりきっていたはずなのだ。
「まさか……天野ケータを! 彼の妖怪ウォッチを媒介として!!」
耳障りの悪いザラついた音声が、輪廻の気を揺さぶる。妖怪ウォッチが悶え苦しむように軋み鳴く。奴を召喚するのに、軽快なリズムは相容れない。
「ン? ひとり逃がしたのか? 輪廻……逃がせたつもりでいるのか? この我から…………」
「今です……今、ここで! 何もかもを! 彼を! 命を! 平穏を!! こちらへ返しなさい!! ウィルオーウィスプ!!!」
「返す、返すだと? ククックハハハ……。
フザケたことをッ――返されるべきは我だ! 何度命を奪われた……人間が思い込んだ恐怖如きのために何度殺された? 殺されるたび再生し、同時に力が分散してゆき……それが行き所のない意志と混ざり“妖気”となって、死した生物の魂と結びついて“妖怪”となって…………我は妖怪文明における神のような立場にあってしまったのを、気付けば鬼どもが王座を自作していやがり、次はただちょっぴり武力が上澄みなだけの奴が王族を名乗り出したではないか。それが力でなく血族に依る世襲制となった頃にそいつらは我を封印した……!! 我一体を三位に分けやがった旧い人間と同じような、恐怖の思い込みで!! 我が何をしたと言う! 何を脅かしたと言う!! 勝手なことを……!!
…………だからだ、輪廻。我こそが返されれべき者なのだよ。全ての者から全ての物を、何もかもをな」
ウィルオーウィスプは煮え滾っている。中身だけでなく、言葉だけでもなく、魂がまるで沸騰するように震え膨れている。
そして膨れたまま容姿が出来上がっていく。つい先日見た、つい先日に押し負けた相手だ。ウィルオーウィスプとパックプキス、三位の内ふたつが揃う脅威を体験している。だが、だからこそ、輪廻は“手”を用意していた。
「ひとつ、気になっていたことを思い出したのですが。答えていただけますか? ウィルオーウィスプ」
「? ……ふゥム……
「封印されていた
無許可で向けられた質問を待たず、輪廻の腹部に小石が刺さる。河原の水流で丸く研かれた小石が弾丸のように刺さっている。
「何だ、欠片が引き合うのがそこまで不思議だったか?」
「フ……フフ…………封印を解いたことや、ウィスパーへ辿り着いたことも含め……不思議だったのですが…………色々と」
「本当に……無能は無駄な詮索をするのだな」
ウィルオーウィスプがほんの少し前傾した瞬間、仕掛けられた違和感に気が付く。違和感に気付くが、その先はなかった。
「おや、踏んで跳ばした石ごときに……ここまで苦しい思いをさせられていたとは…………。
解けた前例は聞いたことがないのですが……対象の時を止める『イチジテ石』、5分ですか? 1時間ですか? それとも……何にせよ、少し保てば
そのまま意識が朦朧としていく輪廻の視界には、固まったウィルオーウィスプが最後まで映っていた。
が、意識が一旦完全に消えた頃、でんじん親方と合流したジバニャン・ゲンシャ・エンマが来るまでの1分もない時間。小屋から這い寄り出た何者かがウィルオーウィスプをイチジテ石の力から解放して、操り人形化しているケータも連れてそのまま地獄の底へ消えていった。それを目撃した者は誰一人といない。
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