ありふれた世界に鋼鉄軍団を放り込む?よろしい、ならば戦争だ 作:リン・オルタナティブ
第四話、ゆっくりしていってね!
アイアンレギオン、まだまだ活躍するよ!
「Rex!奴に有効打を与えられそうなスーツは?」
〘ベヒモスの攻撃に耐えられるスーツはそんなに多くありません〙
Rexの解説___もといインジケーターに表示されているベヒモスの解析結果を見て甲菜は唸った。
ベヒモスの頭部にある捻れた二本の角は超高温の熱を纏い赤熱化するため、生半可なスーツで立ち向かっても両断されるか貫かれて死亡するのがオチだ。
つまるところ___構図的に敵は違えどアイアンマン3の敵アルドリッチ・キリアンとの決戦のようなものだった。
「ならどうするの!?」
〘最適なスーツを召喚します。少しの時間だけ、フィドラーで時間を稼いでください〙
「しょ、召喚?一応了解!」
甲菜はRexからの突拍子もない指示に驚きながらも、時間を稼ぐために有効な方法を模索するために周囲を見回す。
メルドさんらがベヒモスを足止めしている間に退路を確保するため、フィドラーを入口側に向かわせる。案の定戦闘は始まっており、甲菜は上からリパルサーを乱射して骸骨型モンスター__トラウムソルジャーの大群を手あたり次第に攻撃し始める。
だが甲菜が来ても状況は変わらず、むしろ増え続けているのが現状だった。
「くっ!討ち漏らしが!」
Rexが捉えた敵性マーカーの一つがホバリングする甲菜の下を通って転倒したまま動けなくなっていたクラスメイトの一人へ手に持っていた剣を振り上げる。
「間に合わない!」
〘問題ありませんマスター〙
Rexの冷静な言葉が聞こえたかと思うと橋の地面の一部が隆起し、剣を振り上げていたトラウムソルジャーの一体が躓かせる。その躓きの波が伝染し、他のトラウムソルジャーを何体もまとめて巻き込むと揃いも揃って奈落の底へと落ちていった。
「まさかさっきの地面の隆起って___」
〘はい。ハジメ様の錬成魔法です〙
Rexからそう言われると甲菜は納得がいった。連続して錬成魔法を使うことで滑り台のような地面に改造したのだ。頭を使った頭脳プレイ。非戦闘職だが、うまく使えば戦闘のアシストすら可能だということを見せつけたのだ。
「ナイスハジメ!」
甲菜の言葉を聞き下でサムズアップしたあとにベヒモスの方へと走り出した。ハジメを止めようとしたが、甲菜はここで原作を思い出す。今丁度ハジメが殿を受けるところだろうかと。
「私達も、合流しないとね、Rex!」
〘はい。ジャッキーハンマーの出力リミッターを解除。フルパワーでいけます〙
「了解。いつも助かるよ」
Rexを褒めつつ甲菜は旋回し、リパルサーを最大近くまで吹かし地面すれすれで加速すると、左のジャッキーハンマーを思いっきり突き出す。だがそれではただの鉄塊だ。ジャッキーハンマーにこっそり細工していた空気圧をハンマー全体に纏わせ、一時的に空気のコーティングをする。
この行為で甲菜とトラウムソルジャー軍団の全面衝突は風圧と衝突した時の衝撃でトラウムソルジャー軍団が奈落に落ちていくという当たり前のような結果になったのだ。
「何ボケっとしてるの!さっさと走る!急いで!」
甲菜の叱責で我に返ったクラスメイト達は我先にと入り口に辿り着き、次々と上り階段を登っていく。
クラスメイト達が登っている最中、周囲を警戒していた甲菜は再び大咆哮をするベヒモスの姿を捉えた。どうやら最高戦力たる聖絶が破られたようだ。
「全く、ハジメ達と合流するよ。Rex!」
〘了解。
Rexの言葉とともに現れたのは、青白い魔法陣。一見するとただの転移系の魔法陣だが、よく見ると中央にはアイアンマンのシンボルたるアークリアクターがあしらわれている。
その魔法陣を視認した直後、甲菜の頭の中にある一文が無意識に現れる。
「時には歩く前に走ることも必要だね」
トニーの言葉を拝借した甲菜はフィドラーを魔法陣の中へと突っ込ませる。するとフィドラーは解体され、青い粒子へと変換されていく。
「
甲菜がそう叫ぶと、青い粒子は再び再構成され、その姿を表す。非対称だったフィドラーとはまた別で、青とシルバーのカラーリングに、猫背のようでありながらガッチリとした体型を持つスーツに変化した。
アイアンマンマーク38、固有ニックネーム、イゴール。重量物運搬用のアイアンマンスーツだ。
「やらせはしないよ!」
イゴールを纏った甲菜は慣性に従いながら、ベヒモスの方へと滑空する形で飛行し、丁度ベヒモスが角を赤熱化させてハジメ達へと突進を始めたところで着地。中間へと割り込んだ。
「甲菜!!」
ハジメの声とベヒモスの突進が同時だった。甲菜はハジメの声に答える形で前に一歩踏み出し、ベヒモスの二本角をガッシリと受け止める。
受け止めた瞬間途轍もない衝撃が甲菜を遅いイゴールの体が2メートルほど押されたが、踏みとどまった甲菜はベヒモスと拮抗状態の押し合いに縺れ込んだ。
◆◇◆◇◆
『やらせはしないよ!』
その一言と共に颯爽と言い争いをするハジメと光輝達の前に現れたのは、なんともゴツい外見をした青と銀色に塗装された鉄の塊。___否。ハジメの目は確かに鉄の塊に青く発光する目のような場所が見えた。つまりそれは_____
「甲菜!!」
ハジメが甲菜の名を張って叫んだ時ベヒモスが突進を始める。ハジメの目にはゴーレムのような鉄の塊が貫かれるのを幻視してしまったが、実際の結果は違った。鉄塊は腕を伸ばしベヒモスの赤熱化した角を受け止めたのだ。衝撃で2メートルちょっと__ハジメ達の目の前まで押されてしまっていたがなんとか踏みとどまっているようだ。
「南雲くん!」
「八重樫さん」
ハジメのところへ雫が近寄ってくる。雫も押し合いをしている鉄塊が甲菜だとわかっているようだ。
「八重樫さん、あのスーツって....」
「甲菜で間違いないわね。マーク38イゴール.......甲菜のお気に入りスーツよ」
雫とハジメが話している間にも、戦況は変わりつつあった。ベヒモスの突進する勢いが無くなり始めているのだ。赤熱化していた角も、元の色に戻り始めているようだ。一方でイゴールはというと未だ健在。ずっとベヒモスの角を握り続けているのだ。
「よし!コイツが抑えている間に___」
剣を握り直した光輝へ雫が何かを言う前に、目の前の鉄塊__イゴールから鋭い声が響いた。
『ゴチャゴチャ言ってないで早く逃げて!退路は確保してるから急いで!』
聞き覚えのある声に光輝は怒りや憎しみの篭った声を出そうとしたが、雫に止められる。
その間にメルドからの撤退の指示に光輝は聖剣を担いで入口側へと走り始めた。坂上やメルドらも撤退しようとしていたが、その中で二人、撤退しようとしないクラスメイトがいた。
「南雲くん!」
「八重樫!」
ハジメと雫だ。二人はそれぞれの戦闘準備を整えイゴールを纏った甲菜の両端に並ぶ。甲菜はベヒモスの角を持ったまま片足でベヒモスの顔面へキックする。キックする際に甲菜の両手は角から離されているため、ベヒモスは奥側へ吹き飛ばされ地響きを起こす。
『なんで二人共いるの!?』
「僕達も戦うってことだよ!」
「放っておけるわけ、ないじゃない!」
二人の意思は本気のようだ。甲菜は止めることを諦めると、二人へ的確な指示を出す。二人を死なせないようにするためだ。
『ハジメは錬成でベヒモスの地面付近に罠を』
「わかった」
『雫は私のカバーに回って。合図で撤退して』
「わかったわ」
二人からの了承を得られると甲菜はイゴールの拳を握り気合を入れ直した。ここからは何もミスすることは許されない、一発勝負。
数秒の睨み合いの末、ベヒモスが巨大な咆哮をしながら突進してくるのと、甲菜がイゴールを動かしベヒモスと同じく突進するのが同時だった。甲菜とイゴールがぶつかった瞬間、ハジメと雫が動き始めた。
どうも。ベヒモスと押し相撲している甲菜です。って痛い痛い!!ベヒモスの攻撃がガンガン中身に衝撃来てる!うげっ、吐きそう。
〘戦闘終了まで、我慢してください〙
クッソぉ!Rexの鬼!悪魔!
それはそうと、ベヒモスの攻撃って、こんなに貧弱なものだっけ?まるでハエがちょっかい出してるような感覚なんだけど。むしろ鬱陶しい。
〘イゴールの装甲が硬すぎるだけです〙
あそっか、この世界だとイゴールのボディのみならず、すべてのアイアンマンスーツは異常な硬さなのか。
そんなことを思っていると、突然
「Rex、損傷は?」
〘損傷軽微。戦闘に支障は無いと思われますが、注意してください〙
ベヒモスの顔面に二度目の蹴りを喰らわせたあと、今度は私の方から突撃を開始する。肩に力を込めた渾身のショルダータックル.......のフリをする。
攻撃されると思ったからなのか、ベヒモスも再び突撃モーションに入る。........かかった!
「錬成!」
突撃体勢に入ったベヒモスの前にハジメが錬成を行い地面を脆くさせる。そして雫がベヒモスの横から一閃。ベヒモスが少しだけスピードを緩めたところで、私は右足に力を入れる。たったそれだけで橋にヒビが走り、ガラガラと崩れていく。錬成で脆くさせていたところが最初に崩壊し、止まりきれなかったベヒモスをそのまま奈落へと飲み込んだ。
「二人共!撤退して!」
ハジメと雫へそう叫ぶと、私も撤退するために走り始める。にしてもイゴールのパワー、凄いね。力を入れただけなのにヒビが入るって。相当だよね。
〘走るのに集中してください〙
「はいはい」
橋の崩落が途中で収まり、私の心に余裕ができたところで何かが横を掠めて着弾する。そっちを見ると、私の目_____ヘッドディスプレイが捉えたのは爆発の余波で吹き飛ぶハジメの姿だった。
クラスメイト達の声なき悲鳴が響く中、私は咄嗟にイゴールの向きを変え全力で走る。奈落へハジメの身体が落ちる直前に、私の右手はハジメの手を掴んだ。
「甲....菜.....!」
「よし、掴んだら後は_____」
ハジメを引き上げようとした瞬間、インジケーターが赤く染まる。警告音が響いたと思ったら右腕に力が入らなくなり始める。
「Rex!?」
〘イゴールの損傷拡大。右腕のパワーダウンを確認しました〙
私は急いでハジメの身体を橋へ持ってこようとしたが、イゴールのパワーが落ちるのが早すぎる。
そしてトドメとなったのが、
後方___背中から飛んできた光の玉はイゴールの損傷があった右肩に直撃し、火花を散らした。
「あっ.....!」
「ハジメぇ!!」
遂に右腕への供給が断たれ、ハジメの右手が離れていく。奈落へ吸い込まれるようにハジメの身体が落ちていくのを、私はただ黙ってみるしかなかった。完全に機能停止してしまった右腕は虚空を掴んだまま止まっていた。
どうも。ハジメを救えなかった甲菜です。はぁ........これは修正が必要になってくるね。
〘ハジメ様の現状がわからないうえ、奈落はとても危険な可能性があります〙
「そんなこと.....わかってるよ」
Rexの警告を聞きながら私は窓の外に広がる夜空を眺めていた。雲で月明かりが見えない__私の心を表したような空をしていた。
「入っていいか?」
二回ドアをノックする音の後、男性の声がドア越しから聞こえる。恐らくメルドさんだろう。
「どうぞ」
「少し邪魔するぞ。甲菜」
私はドアの開閉音が聞こえると窓を見つめるのを止め、室内の方を振り返る。メルドさんの顔を見る限り、恐らく、例の件だろうか。
「本当に、いいのか?」
メルドさんと話しながら、私は先程の出来事を思い返していた。
◆◇◆◇◆
時間を遡ってハジメの死亡報告をしに行った時の出来事____。
「貴方達は__やっぱり私の信用に値しません」
国王や教皇の前で私の声が響いた。それもそのはず、ハジメのしを聞いて、顔を青くした国王や教皇だったが、ハジメの名を聞いて明らかに安堵していたのだ。
「な、何をいきなりいうのですか?信用できないとは一体____」
国王が私に問おうとした瞬間、突然教皇と国王の間を何かが通り、轟音を立てて着弾した。一同が驚いて黙っていると、その空間__私の隣から
それは鉄製の人形___ゴーレムだろうか。だがそれは明らかにスリムな体型をした人そのもの。それの体はオレンジの上にブルーが吹き付けられた、とんでもなくカラフルな配色をしていた。
「ゴ、ゴーレム!?」
教皇が驚いているとそれは再び姿を消すと、国王達は何処へ消えたのかと辺り見回し探そうとしている。絶対捕まえようとしてるでしょあれ。
「貴方達じゃ、ディスコを見つけることは不可能ですよ」
私の言葉に教皇達は怒りの視線を向けてくる。侮辱されたのが余程気に食わないのだろう。
「貴様...!重大な国家反逆と背信行為を___」
「えぇ、構いませんよ」
私へ牽制してくる騎士の一人の言葉を遮り、おもむろに右手を上げる。すると先程まで消えていたはずのゴーレム___アイアンマンスーツマーク27、ディスコの前面が開かれた状態で現れる。私がその中に入るとスーツはカチャカチャと自動で装着され、あっという間に私の体はディスコの中へと収まった。
驚く騎士達、そして教皇や国王へ指を指し、私は言葉を続ける。
「貴方達が敵になるのでしたら____私は大切なものを守るために貴方達を殺します」
◆◇◆◇◆
そのあと色々なゴタゴタがありつつ、私は今から国を去るのだ。後悔もしてないし、する気もない。でも、この国の敵となった私の部屋に来たって、メルドさんはお人好しと言うかなんというか、根はいい人なんだよね。
〘そんな人達を殺さないように、精進しましょう〙
「あはは、それもそうだね」
夜風に当たりながら、私はRexの言葉に了承する。ディスプレイ越しから手を見ながらも私はしみじみと思う。しばらくは雫と会えないなぁ。寂しいなぁ。
「Rex、マーク5は?」
〘マスターの指示通り、置き手紙と共に雫様の部屋へ置いてきました〙
ヨシッ!(仕事猫風)やっぱりRexは仕事が早いね。
私が今着ているスーツは、マーク43。マーク42の完成形で、私が使うスーツの中でも一番新しいものだ。
〘ハルクバスターもありますが.....〙
それはまだまだ使わないから放っておいて、やっぱり着心地いいね。
そんなお世辞を言いつつも、私はインジケータを見て、今後の予定をRexと確認する。
「Rex、これからの予定を再確認するよ」
〘はい。第一にハジメ様の捜索のため、オルクス大迷宮の奈落へと突入します。その後はハジメ様と合流でき次第地上へ出る算段です〙
大まかな予定を確認したところで、私は両手両足のリパルサーを起動し、地面から少し離れてホバリングする。
〘マスターはヒーローになりますか?〙
「なるんじゃない。皆の認識でヒーローになっているの」
Rexの質問に答えた私はリパルサーの出力を上げ、上空へ勢いよく飛び出した。
加速するたびに発生する強烈なGに耐えつつも、私はある程度___雲の上まで飛んでからオルクス大迷宮の方向へと向かう。
「(待っててハジメ、今助けに行くから.....!)」
そんな思いを胸に秘めつつ、私はオルクス大迷宮へとスーツを急がせた。このあと、あんなことになるなど、知る由もなかった____。
補足しておきます。
甲菜のスキル、
その言葉の後に使用したいマークナンバーを叫ぶことで現在使用しているスーツを再構成、そのスーツへ変形させることができます。尚一部例外があるが。
あとあと、甲菜のステータスを更新しなきゃ......。
ライセン大峡谷、どのスーツで攻略する
-
マーク24 マーク17の発展型その1
-
マーク32 マーク17の発展型その2
-
マーク40 高速飛行型