オレンジ~朝焼けの島~   作:PlusⅨ

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第1話・サイボーグの夢

 逢いたい。

 

 そう願った人の顔は、もう思い出せなかった。

 

 ただ、逢いたい、という気持ちだけが人の形をとって、私の目の前に現れていた。

 

 私はそれが誰だか思い出せなかった。

 

 ただ、それがかつて愛した人だったというのはわかった。

 

 愛してる、いつまでも……

 

 そんな言葉を支えに戦ってきて、もう何年が過ぎただろう。

 

 何十年かもしれない。

 

 もう、顔も名前も思い出せない。

 

 ただ覚えているのは、私にも誰かを愛したことがあったという、そんな微かな実感だけだった。

 

 戦場から戦場へ飛び回る輸送機の中、スリープモードで眠る私の意識は、いつもこんな夢を漂っていた。

 

 

 

 

 警報。

 

 

 

 脳に直接響き渡る危険信号。

 

 眠っていた私の意識よりも早く、身体が戦闘モードに移行する。

 

 太平洋上、高度一万メートル。

 

 軍用輸送機内に搭載されていた四十体のサイボーグ兵士たちが一斉に稼働状態に入った。

 

 

――状況知らせ。

 

 

 訓練によって染み付いた反射行動で、私は無意識にそう叫ぶ。

 

 その言葉は、音声として喉から発せられることなく、電気信号となって輸送機のコンピュータに伝達される。

 

 ゼロコンマ一秒よりも早く、コンピュータから返答。

 

 

――敵の対空攻撃、ミサイル接近中、数は四、到達まで残り八秒。

 

 

 報告と同時に、輸送機は右へ急旋回。

 

 私の身体に遠心力による大Gがかかる。私はコンピュータにリンクし、外部カメラの映像をリアルタイムで入手。

 

 後部下方から、四つの火の玉が矢のように向かってくるのが見えた。

 

 輸送機は出力最大で加速、右旋回しながら対ミサイル防御を開始。電波妨害およびチャフとフレアを射出。

 

 輸送機の周囲に、雪のような大量の銀片と、数十発の発火体が散乱した。

 

 旧式のミサイルならこれで回避できる。だが、最新の高度知性型ミサイルだったなら、チャフやフレアといった妨害処置を自律判断で無効化し、どこまでも執拗に目標を追いかけてくる。

 

 この、ミサイルは、どちらか。

 

 一発のミサイルが針路をそれ、あさっての方向へと飛んでいった。しかし残り三発は、電波妨害もチャフもフレアもものともせず、突っ込んでくる。

 

 輸送機は機体の傾きを90度を超えてロールさせ、ほぼ背面飛行で右急降下。その構造限界を超えた角度の急降下に、機体が悲鳴のような音を立ててきしんだ。

 

 ミサイル二発が、輸送機を見失い、先へと飛び抜けていく。

 

 だが、最後の一発が至近距離を通過。

 

 ミサイルに搭載された近接レーダーが、輸送機が被害圏内にいることを捉え、近接信管を作動させる。

 

 そして、ミサイルが自爆した。

 

 爆炎と振動。

 

 外部カメラが作動を停止する。

 

 機体は激しく回転し、さらなる力を増した遠心力が、私たちの身体を輸送用固定装置に押し付ける。

 

 輸送機は数秒間、きりもみ運動に陥ったが、なんとか体勢を立て直した。

 

 いい腕をしたパイロットだ。

 

 そのパイロットが、コンピュータを通じて、私に指示を下す。

 

 

――ミサイル第二波を探知。……左の主翼をやられた。機体を安定させるので手一杯だ、回避はできない。脱出しろ。

 

 

――了解。

 

 

 私は部下に脱出用意を命じる。

 

 パイロットからの指示。

 

 

――ミサイル到達まで五秒、固定装置解除、ハッチ強制開放、幸運を祈る。

 

 

――そちらも。

 

 

 私たちの身体を固定していた装置が一斉に外れると同時に、機体後方の隔壁が小爆発を起こし、脱落した。

 

「時間制御装置、加速起動」

 

 電子命令と同時に、私は思わず声を出していた。

 

 言い終わる前に、私も含め全員の反応速度が飛躍的に上昇していた。

 

 周囲の時間が、急激に遅くなる。

 

 空気のゆらぎが目に見えるほどの世界で、破壊された隔壁の向こう側に、炎を履きながらゆっくりと迫り来る三発のミサイルの姿が見えた。

 

 

――降下開始。

 

 

 扉に近い場所から、部下のサイボーグ兵士たちが次々と空中に飛び出していく。

 

 部下たちは空中に出ると同時に、頭部両脇から伸びるツインウィングを展開し、空中機動を開始。

 

 加速された身体、遅くなった時間の中で、接近するミサイルに近づかないよう、脱出していく。

 

 しかし、三十五体目が、接近していたミサイルのすぐそばに近づいてしまう。

 

 私は思わず舌打ちした。どれだけ加速しようとも、光の速さには勝てない。ミサイルの短距離レーダーがその部下の影を捉え、すかさず自爆信号を発した。

 

 遅くなった時間の中でも、至近距離爆発をかわす術はなかった。

 

 ミサイルが外郭に亀裂を生じさせ、真っ赤な爆煙を風船のように膨らませたかと思うと、粉々になった外郭の破片が散弾となって、間近の部下の身体を引き裂いた。

 

 その後を追うように、爆炎がその姿を飲み込む。

 

 残り二発のミサイルが、輸送機に迫る。

 

 残る部下は四名。そして指揮官は常に最後だ。

 

 私は右手の大型熱線銃を最大出力にセット、最も近いミサイル弾頭部に向けて照準、発射。

 

 極太の大出力熱線が、ミサイルを飲み込む。破片すら残さず、ミサイルが消滅する。

 

 しかし、残る一発を片付けるにはエネルギー残量が足りない。急速充電する時間もない。

 

 だが、遅くなった時間内にいる私たちにとって、ミサイルが到達するまでは、まだ余裕があった。その間に四人の部下が機体の外に飛び出していく。

 

 パイロットに告げる。

 

 

――脱出完了、そちらも脱出しろ。

 

 

――了解。

 

 

 同じく加速状態に入っていたパイロットが、操縦席ごと機体から分離されていく。

 

 その衝撃に、機体が大きく揺れ、失速、バランスを失い落下する。

 

 残るは、私だけ。ミサイルは間近だった。

 

 私は、墜落していく輸送機から身を躍らせた。ミサイルとの距離は、ぎりぎりでミサイルの短距離レーダーの範囲外だ。

 

 しかし、それよりも輸送機そのものにミサイルは接近していた。

 

 ミサイルが赤い火球となって、衝撃波と同時に大量の破片が降り注いできた。

 

 私は頭部のツインウィングを展開、力場を発生させ、破片から遠ざかろうとする。しかし、衝撃波の方が早い。

 

 空気の壁が、全身に激突した。その衝撃に、展開していたツインウィングが破損した。力場が乱れ、思うように加速できない。

 

 続いて、破片が次々と私の身体を打ち抜いていく。

 

 背中のバックパックユニット、右腕の大型熱線銃、左腕の多目的アーム、両足の追加ブースーター、全身を覆う強化装甲、

 

 身に着けていたそれらに次々と穴があいていく。

 

 全身が砕かれていく感触。

 

 

 

 私が最後に目にしたのは、視界全体を覆う、オレンジ色の炎の光だった。

 

 

 

 

 私が戦場で戦い続けて何年になるだろう?

 

 十年?

 

 二十年?

 

 いや、とっくに百年近くが経過しているのかもしれない。

 

 時間の経過は長すぎて、もう麻痺してしまっている。

 

 機械とのハイブリット体なのだから、稼働時間を測るために正確なタイマーが組み込まれているだろうと人は思うかもしれない。

 

 だが、私の体内時計は客観的な時間を刻んではくれない。

 

 加速された身体と意識によって間延びした時間の中で活動する私たちサイボーグ兵士には、人間的な時間感覚など存在しなかった。

 

 永遠にも近い一瞬の戦闘を過ごしたあと、その傷を癒すために一瞬の夢を見ながら悠久の時を過ごす。

 

 覚醒とスリープモードを繰り返しながら戦っているうちに、正確な時間など忘れてしまった。

 

 私自身の記憶についても同じだった。

 

 自分がいつ改造されたのか、もう思い出せない。

 

 自分がかつてどんな人間だったのかも。

 

 名前も、男か女かさえも思い出せない。

 

 ただ、少なくとも子供じゃなかったのは覚えてる。

 

 もう大人だった。

 

 改造された直後、初めて目にした自分の子供のような姿に、ひどく違和感を抱いたから、多分そうだ。

 

 サイボーグ兵士は一見すると子供のような外見をしている。

 

 小柄な背丈、華奢な手足、白い肌、大きな瞳、長い髪。

 

 およそ戦闘兵器に似つかわしくない、その外見は、せいぜい十歳ぐらいの少女にしか見えなかった。

 

 しかし、小柄なのはその周囲に戦闘用外部ユニットを装着し、かつ輸送の際のスペースを抑えるために限界まで小型化したためである。

 

 手足は細長く華奢であるが、外部ユニットとして装着する大馬力モーター内蔵型多目的マニュピレーターや移動支援ユニットを操る分には問題なく、むしろ内部スペースの確保のため、一般的な子供よりもスリムになっている。

 

 白い肌と大きな瞳は、それそのものが高感度センサーであるが故であり、過敏で脆弱なその身体も、厚い装甲を持つ強化服を装着すれば防御力に何の問題もない。

 

 兵士にとって本来は短く刈り込むべき頭髪は、サイボーグ兵士にとってはそれそのものがナノマシンによって構成された超極細ワイヤーセンサーである。

 

 サイボーグ兵士の脳と、それが装着する強化服および外部ユニット、さらにパイロットなら乗り込んでいる機体とのダイレクトリンクを必要とするため、髪は不自然なほど大量で、長く伸ばされている。

 

 いわば、サイボーグ兵士は各種兵器を運用するためのコアユニットとして存在しているのであり、素体の状態ではむしろ生身の人間と同等、いやそれ以下の力しかなかった。

 

 人間を超えていながら、人間以下の力しか持たない、

 

 人間に似ていながら、あらゆる面で非人間的な、

 

 不合理な形にみえて、その実、徹底的に合理化された形態、

 

 それが、サイボーグ兵士だった。

 

 だがサイボーグ兵士の最大の特徴は、その体内に搭載された、とある装置にあった。

 

 サイボーグ兵士の高速運動を可能にする、その装置。

 

 その正式名称は、外部時空遮断体内時間加速減退装置――長ったらしくて呼びづらいので、単純に時間制御装置と呼ばれているものである。

 

 それは時空を遮断し、時間の速度を操る装置。そんなものが、私たちの身体には組み込まれている。

 

 原理はよくわからない。

 

 しかし理屈だけを言えば、この身体が感じている体内時間と、外部の時間を切り離す装置であり、この装置によってサイボーグ兵士は周囲の時間とは関係なく動くことが可能だった。

 

 この体内時間だけを加速させれば、相対的に周囲の時間は遅くなり、逆に体内時間を遅くすれば、周囲の時間は早くなる。

 

 スリープモードの時は、体内時間はほぼ停止しているも同然なので、サイボーグ兵士の身体は劣化することも老化することもない。

 

 さらには体内時間を負の領域にまで押し下げることも可能だ。

 

 つまり過去への逆行。身体が若返る。

 

 これによってサイボーグ兵士は、高エネルギーによってチリひとつ残さず消滅させられない限り、何度でも復元することが可能だった。

 

 ほぼ不死身と言っていい。死んでも蘇る。時間制御装置がある限り。

 

 最強の兵器と、かつては言われた。

 

 かなりの昔の話だ。戦場に投入されてから、一年目ぐらいの話だろう。

 

 戦争の技術革新は早い。すぐに敵も味方も同型のサイボーグ兵士であふれかえった。

 

 本来、消耗品であるはずの兵士が殺しても死ななくなったのだ。物量や動員人数の差は問題にならなくなった。

 

 いつまでも、好きなだけ戦争が続けられる。

 

 死なない戦争。ゲームも同然だ。前線の兵士以外にとっては。

 

 私も、何度も破壊された。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 数え切れないくらいに。

 

 その度に新品同然の身体に時間を巻き戻された。自分の意志ではどうにもならない、一種の安全装置による作用だ。

 

 身体が破壊される前まで巻き戻されるなら、いっそこの意識も巻き戻してくれればいいのに。

 

 けれど、なぜか意識は常に連続し続ける。そういう仕様らしい。

 

 自分の身体の時間が加減速しようとも、逆行しようとも、私という意識は客観的な時間のなかに存在し続ける。

 

 奇妙な話だった。本来最も主観的であるはずの意識が、客観的時間として成立しているのだ。

 

 だから、加速状態になったとしても、意識はそのままだ。身体のみが高速運動する。そため、超高速で動く身体に意識を対応させるために、サイボーグ兵士は生体脳を物理的にも加速状態に置く必要があった。

 

 マイクロコンピュータとナノマシンによるシナプスバースト。

 

 一時的に情報処理能力を増大させられた生体脳によって意識は強制的に加速され、時間制御装置によって加速された時間に置かれた身体に追いつくことができた。

 

 だけどこの処置は、意識に対してあまりに負担が大きすぎるために長時間持続させることはできなかった。

 

 しかし、生体脳自体は時間制御装置の影響内にあるので、物理的損傷をうけても時間逆行によって修復できるはずで……

 

 では意識が感じる負担は何によるものかといえば、おそらく加速状態にある身体とのギャップそのものが圧力となって負荷をかけているのではないかという説があり………

 

 ……つまり、意識は、脳が生み出しているわけじゃないらしい。

 

 意識というのは生体脳の機能とは関係なく独立して存在するらしいということが、サイボーグ兵士の存在によって証明された。

 

 生体脳をシナプスバーストさせることによって意識に影響を与えることはできるが、それは絶対ではない。

 

 意識は物理存在に依存しているのではなく、客観的時間軸の中に存在する別次元の存在、いや、それそのものが、ある種独立した時間軸として存在しており、それゆえ、時間制御装置の影響を受けない。

 

 それはつまり、もしもタイムマシンが実用化されたとして、誰かが過去の事象に干渉して未来を改変したとしても、サイボーグ兵士の意識だけは改変されない。

 

 きっと、サイボーグ兵士は自分の身体も含めて、変貌していく世界を見ることができるだろう………

 

 ………学者は、そんなことを言う。

 

 与太話だ、と私は思う。

 

 サイボーグ兵士によって出番のなくなった生身の人間の、死ぬまでの退屈しのぎに生み出された夢物語。

 

 だいたい、タイムマシンならとっくに存在している。

 

 私たちサイボーグ兵士が、それだ。時間制御装置は一種のタイムマシンと言っていい。

 

 自分の時間を極限まで加速させ続ければ、いずれ周囲の時間が相対的に負の領域にまで落ち込む。そうすれば時間は逆行し、過去へ行けるだろう。

 

 理論上は、そういうことになる。

 

 だけど、誰もやったことがない。

 

 時間が逆行する前に、意識が加速による過負荷に耐え切れないから不可能なのだ、と言う者もいるが、本当の理由はそうじゃない。

 

 本当は、誰もそこまでの加速の仕方を知らないからだ。

 

 私たちサイボーグ兵士はもちろんのこと、整備担当の技術者も、そしてきっと開発者たちでさえ知る者はいないブラックボックス。

 

 なぜならこの時間制御装置は……いや、それを含むサイボーグ技術そのものが、現有科学で開発されたものじゃない、未知のモノだったからだ。

 

 ロストテクノロジー、超古代兵器。

 

 サイボーグ技術の核となるそういう存在が、戦争勃発直前に、どこかの島で発見されたらしい。

 

 こういう情報は、かつては最高機密扱いだったが、今じゃ秘匿すべき情報も技術も、敵味方双方に知れ渡ってしまっている。公然の秘密というやつだった。

 

 タイムマシン。

 

 もしも時間を逆行することができて、その超古代兵器を破壊することができたなら、この終わりのない、うんざりするようなサイボーグ同士の戦争も消え去るだろうか。

 

 バカバカしい、それこそ与太話だった。

 

 時間改変の影響を認識できるはずのサイボーグ兵士が、いまだそれを認識していないというのなら、時間改変そのものが行われないということだ。

 

 まだ行われていない、というロジックは成り立たない。

 

 未来の誰かが時間改変を行うにしても、それが行われるのは過去だ。つまり、現在においては既に行われたということになる。

 

 時間改変が行われるというなら、それがいつ行われるかは問題ではない。行われるという必然性だけが問題だった。

 

 だから、それが行われていないというなら、未来永劫において時間改変など行うものなど存在しないということになる………

 

 ………単なる、言葉遊び。

 

 止まらない思考。

 

 とりとめのない言葉が、いつまでもグルグルと回り続ける。

 

 私は一体、何をやっているんだ?

 

 そう疑問に思った私の目の前には、オレンジ色の光。

 

 あぁ、そうか。

 

 ミサイルの爆発に巻き込まれたんだった。

 

 身体が破壊される寸前の、死の間際に見る走馬灯のようなもの。

 

 走馬灯なら過去の記憶が蘇るものかも知れないけれど、私にはもう思い出せるような過去がない。

 

 それに、どうせ死ねない。

 

 オレンジ色の火球が、私を飲み込もうとする。

 

 その速度が、どんどん遅くなる。

 

 時間制御装置が、回避行動のために体内時間を限界まで加速させているのか。

 

 でも、もうツインウィングもバックパックも破壊され、回避起動を取ることは不可能だ。外部ユニットは体外の装置なので時間制御装置による修復も不可能だった。

 

 体内時間の加速に合わせ、生体脳も私の意識を極限まで駆動させる。

 

 火球の膨張が止まり、そして今度は縮み始めた。

 

 燃焼を終えて火勢が衰えているわけじゃない。その証拠に、周囲の破片が火球に続いて私から離れていく。

 

 縮んでいく火球の周囲に破片が集まり、それはパズルのピースのように組み合わさってミサイルを形成し始めた。

 

 

――時間が逆行していた。

 

 

 復元されたミサイルが、噴射炎を飲み込みながら後退していく。

 

 早い。

 

 逆行の速度が上がっていく。私自身の体内時間の加速が止まらない。

 

 ミサイルが遠ざかり、その後を追って輸送機が逆進する。

 

 私の仲間たちが下から上へと、輸送機の中に戻っていく。

 

 輸送機後部から大出力熱線が放たれ、射線上にもう一発のミサイルが出現する――あれは私が輸送機の中から撃墜したミサイルだ。

 

 だとすれば、あの熱線を放ったのは私のはずだが、しかし私は今もまだ空中にいる。それなのに、あの輸送機には熱線を放った私がいるのか?

 

 わけがわからない。

 

 わかっているのは、私が逆行する周囲の時間から切り離されて存在しているということだけ。

 

 逆行の速度がさらに上がり……それは同時に、私の体内時間がさらに加速したことを示す……ミサイルも輸送機もあっという間に空の彼方に消えていった。

 

 雲が凄まじい勢いで流れ、太陽が西から東へと目まぐるしく周回する。

 

 昼と夜は交じり合い、世界は再びオレンジ色の光に溶け込んでいく。

 

 変わらないのは眼下の景色だけだ。

 

 海と、小さな島。

 

 島は三日月のような形をしていた。

 

 元は円形だったが、大規模な爆発によりクレーターができ、そのため三日月の形になってしまったような島だった。

 

 そう思ったとき、その爆発が、戻ってきた――

 

 

 

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