オレンジ~朝焼けの島~   作:PlusⅨ

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第4話・過去と未来が触れ合うとき

 教会のベンチに腰掛け、彼女と向かい合う。

 

「i‐yo」

 

 彼女はそう言って、自分の長い髪をひと房、手に乗せて私に差し出してくれた。

 

 教会の窓から斜めに差し込むオレンジの陽が、彼女の髪を艶やかに照らし出していた。

 

「tu-sin site mo i-yo」

 

「ミク……」

 

 彼女は、あれほど恥ずかしがって、嫌がっていた直接通信を許してくれるという。

 

「本当に、いいの……?」

 

 そう訊くと、彼女は赤い顔で、小さく頷いた。

 

 手元の装置からは、少しテンポの速い、でも静かなメロディが流れ出る。

 

 それは、彼女の気持ちであると同時に、私の気持ちでもあった。

 

 いままで直接通信に特別な感情なんて抱いたことはなかったのに、今回ばかりは、不思議と気後れしてしまっている私がいる。

 

 

――直接通信は、裸で触れ合うようなもの。

 

 

 いつぞや感じた(あの時は否定的な意味だった)感覚が蘇ってきて、そして、彼女もまた同じ気持ちだというのに、それでも、この行為を許してくれたということが、私にはどうしようもなく嬉しかった。

 

 直接通信によって彼女の時間制御装置を調査し、この時間停止した世界の謎を解明するのが目的のはずだったけれど、今は、そんなことはどうだってよかった。

 

 私は、彼女のそばに寄り添い、差し出された彼女の手に、自分の手を重ねた。

 

 重なりあった手の中には、ふたりの髪が触れ合っている。

 

「いくよ?」

 

 彼女は、コクリ、と小さく頷く。

 

 私は直接通信を開始する。

 

 サーチスキャンモードを選択、彼女の中にある通信プログラムを検索する。

 

「ah…っ」

 

 他人のプログラムが体内を走り回る違和感に、彼女が幽かに声を漏らした。

 

 その仕草に、私の心が反応してしまう。

 

 今までこの行為に特別な感情を持っていなかった分、私は、彼女の反応の一つ一つを強く意識してしまう。

 

 本当は、対象プログラムの検索なんて一瞬で終わる行為だった。

 

 でも、最初に彼女と出逢ったとき、強制的にそれをやってしまって彼女を驚かせてしまった。

 

 あんな強引なことは、もうやりたくない。

 

 それに……

 

 ……けれど、なによりも、

 

 どんな形であれ、すこしでも長く、深く、彼女とつながり、その存在を感じていたかった。

 

 結局、こんな身勝手な理由で、私は彼女の検索を続けた。

 

 ひとつ、ひとつ、丁寧にプログラムをチェックするたびに、彼女は抑えたような微かな声を漏らす。

 

 性別も失って、性的興奮なんて生じるはずもないサイボーグの身体だけど、私は、彼女のその仕草に異様なまでに悩ましさを感じて、貪るようにプログラムを漁った。

 

「ah…ah…uaaa……っ!」

 

 抑えきれず、彼女が大きく声を上げて身体を震わせる。

 

 いけない、思わずやりすぎてしまった。

 

 検索を一時中断する。

 

「大丈夫?」

 

「un……dai jo bu……da yo」

 

 と、彼女は頷く。

 

 目に涙を浮かべ、頬を赤く上気させながら、

 

「ki te……」

 

 彼女はそう言って、私の手を引き、抱き合うように身体を密着させ、首筋に顔をうずめた。

 

「motto……kite」

 

 耳元に吐息とともに囁かれた言葉に、私の思考回路がショートした。

 

「hann!」

 

 検索が速度を増し、彼女のすべてのプログラムを網羅し、通信プログラムをさらけ出す。通信プログラムを介し回線を接続。そこを突破口に、さらに彼女の奥深くへと押し入っていく。

 

 どっ、と彼女の内部の感覚が、私自身にも流れ込んできた。

 

 彼女自身が感じている、

 

 感覚、

 

 感情、

 

 無意識下の領域、

 

 歌、

 

 メロディ、

 

 膨大な情報が私たちのあいだを駆け巡り、暴風雨のように包み込んだ。

 

 

『wsvbnvgth』

 

 

『好き』

 

 

『wsvbnvgth』

 

 

『大好き』

 

 

『wsvbnvgth』

 

 

『愛してる』

 

 

 そんな言葉が、歌が、私たち二人の内部で、雷鳴のように光り瞬く。その向こう側に、彼女の時間制御装置の存在が浮かび上がってくる。

 

 私は衝動のままに、そこへ向かって電子化された己自身を飛び込ませた。

 

 瞬間、目の前が真っ白に弾けた。

 

 身体の奥から熱があふれて一気に弾けたような感覚と、無限の広がりをもつ空間に自分自身がどこまでも広がっていく気配。

 

 そして凄まじいまでの加速感。

 

 私という存在の周囲で世界という気配が、

 

 異様に回転し、

 

 収縮し巻き戻り、

 

 進み落ち上がり捻れ、

 

 私の目の前で白い光が晴れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は、異様な光景を前に、ひとり立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 景色は、夜だ。

 

 雲一つない空はビロードのように黒く、輝く星同じに埋め尽くされている。

 

 そこに向かってそそり立つ、巨大な尖塔があった。

 

 それは、信じられないくらい巨大な円柱形の建造物だった。ざっと見上げても、頂点が全く見えない。その全長はきっと数キロ程度では済まないだろう、はるか空の彼方まで伸びているように見えた。

 

 塔の直径も数百メートルはありそうなのに、この高さのせいで、高い部分はほとんど糸のようにしか見えなかった。

 

 その塔の根元にはいくつもの背の低い倉庫が整然と立ち並び、その間を輸送車両と思しき車両が何台も走り回っている。

 

 その外縁部を取り囲むように鉄道が巡り、そして、そのさらに外側は、海だ。

 

 四方八方に突き出した接舷岸壁に向かって、何百、何千という数の船舶がひっきりなしに出入港を繰り返していた。

 

 ここは、島だった。

 

 それも、巨大な軍事施設だ。

 

 船から揚陸される物資に、明らかに兵器と思われるものがいくつも混じっている。それが、塔を中心に搬入と搬出を繰り返していた。

 

 そして、塔の表面を上下に移動するいくつもの光の群れ。

 

 これは、まさか……

 

 私は、目の前の塔の正体に気がつき、愕然とした。

 

 これは、軌道エレベータだ。地上から雲よりも高く空を超えて、宇宙空間にまで達する超巨大人工建造物。

 

 しかし、その理論は提唱されているものの、現在ではまだ実現不可能な夢物語であったはずだ。

 

 そんなものが目の前に存在しているなんて、とても現実とは思えない。

 

 いや、そもそもこれは現実なのだろうか?

 

 夢のように曖昧ではなく、細部の隅々にわたって明確な景色だけど、それを眺めているはずの“私”がどこに位置しているのか認識できない。

 

 この不思議な感覚、やっぱり現実じゃない。

 

 私がそのことに戸惑っていると、突然、海上でまばゆいばかりの光が輝いた。

 

 島を取り囲む数え切れないほどの大船団から、長大な炎の柱が、まるで花火のように空中へ向かって次々と打ち上げられていた。

 

 あれは、対空砲火だ。

 

 超高々度目標迎撃用ミサイルが、天空の星空めがけ幾筋もの炎柱をそそり立てながら果てしなく、そして次々と飛翔していく。

 

 見上げてみれば、軌道エレベータのはるか高みの部分でも、塔自体から対空ミサイルと思われる光の筋が四方八方へと撃ち出されている。

 

 夜空のあちらこちらで、星とは違う強烈な発光がいくつも炸裂する。

 

 遠く遥か彼方から襲い来る攻撃者が、対空ミサイルによって撃墜された光だった。

 

 破壊された破片が、大量の流星となって空を落ちていく。

 

 海上の大船団――いや、大艦隊と、そして軌道エレベータ自信から放たれ、空中を駆け上がっていく大量のミサイル群と、夜空から舞い落ちる膨大な破壊片。

 

 上下二方向から注がれる流星のシャワーが、空間を埋め尽くしていた。

 

 そんな中を、破壊をまぬがれた攻撃者のミサイルがひとつ、長い炎の尾を引きながら、高空から真っ逆さまに海上へ突っ込んでくる。

 

 一隻の軍艦がそのミサイルの直撃を受け、巨大な火柱と水柱を上げて、真っ二つにへし折れて沈没した。

 

 さらに数発の攻撃ミサイルが、迎撃の弾幕をすり抜けて海上に落下する。

 

 あたりに、水柱と、そして運悪く撃沈させられた軍艦の火柱が乱立した。

 

 空からくる流星はその数をさらに増し、海上の艦隊の迎撃ミサイルの弾幕を徐々に押し下げ、一隻、また一隻と、血祭りにあげていく。

 

 ついに、軌道エレベータ自体が被害を受けた。

 

 塔の地上百数十メートル付近の低高度部に数発のミサイルが次々と命中し、巨大な爆発が塔の一部分をえぐりとった。

 

 吹き飛び、落下するがれきが、足元の倉庫群を押しつぶす。

 

 さらに数発、ミサイルが同じ場所に着弾する。

 

 軌道エレベータ全体が、地鳴りのような恐ろしい音を響かせた。

 

 止めとばかりに、また一発、ミサイルが飛来する。

 

 もはや海上の迎撃艦隊は過半数が被害を受け、そのミサイルを防ぐだけの力を残していない。

 

 ミサイルは誰にも邪魔されることなく、真っ直ぐに軌道エレベータめがけ――

 

 ――突っ込む寸前で、集中砲火を受け、爆散した。

 

 軌道エレベータの被害箇所の目の前の空間に、ひとつの影が、そこを守るように浮いていた。

 

 その影は、人だ。

 

 それも子供のような小柄な体躯に、細い手足。長い髪は頭の両側で左右に拡がり、まるで翼のように揚力を発生させて空に浮いている。

 

 それは、サイボーグ兵士だった。

 

 しかし、私とは違う――私の知っているサイボーグ兵士とは違う。

 

 その姿は脆弱な素体のままだ。本来、戦闘中に必要な外部兵装ユニットを装着していない。

 

 しかしその代わりとして、そのサイボーグ兵士の周囲を、小型飛行機のような砲台がいくつも飛び回っていた。

 

 その小型飛行機のような砲台――おそらくサイボーグ兵士が遠隔する無人機だ。それが、また新たに飛来した数発のミサイルに向かって飛んでいった。

 

 ミサイルを取り囲むような位置に移動し、一斉に射撃を加え、撃墜する。

 

 サイボーグ兵士は、無人機を操りながら次々とミサイルを迎撃していった。

 

 しかも、サイボーグ兵士はひとりではなかった。

 

 同じように無人機を従えたサイボーグ兵士たちが、軌道エレベータ内部から次々と出撃し、防御を固めていく。

 

 と、唐突にミサイル攻撃がやんだ。

 

 雨のようなミサイル攻撃の代わりに来たのは、防御側のサイボーグ兵士と同じ、サイボーグ兵士の大群だった。

 

 攻撃側も同じように無人機を従え、それを槍のように前面に押したて、数十体ごとに編隊を組んで一斉に突撃してくる。

 

 防御側も数体が集まって、無人機を盾のように密集させ、猛烈な対空砲火を張った。

 

 空中で弾け合う弾丸と弾丸、

 

 衝突する無人機、

 

 さらに、サイボーグ兵士同士も生身でぶつかり合った。

 

 それはおよそ、私が見たことも経験したこともないような戦場だった。

 

 戦いはいっそう激しさを増していき、サイボーグ兵士たちも攻撃・防御側問わず次々と墜ちていく。

 

 全身を撃ち抜かれた者、

 

 炎に包まれた者、

 

 爆発に巻き込まれ吹き飛ばされた者、

 

 それでも、彼女たちはサイボーグ兵士だ。その身体は時間制御装置によって、損傷する前の状態に戻っていく。

 

 けれど、無人機はそうじゃなかった。

 

 破壊されてバラバラになって、周囲に墜ちていく。

 

 無人機という武装を失ったサイボーグ兵士は、それでも徒手空拳で戦いを挑むが、無人機を残している相手には敵わないらしく容易く蹴散らされてしまう。

 

 戦況は攻撃側の有利になりつつあった。

 

 防御側のサイボーグ兵士たちは、その大半が無人機を失い、いまはせめて不死身の身体を盾に、軌道エレベータの被害箇所を必死に守っている。

 

 攻撃側が、残った無人機を集結させ、防御側のサイボーグ兵士たちに一斉射撃を放った。

 

 防御側のサイボーグ兵士たちが吹き飛ばされ、守っていた軌道エレベータへの道が開かれてしまう。

 

 すかさず、攻撃側が突撃を始めた。

 

 残った防御側を押しのけ、ミサイル攻撃によって破壊された場所から、無人機ともども軌道エレベータの内部へと侵入していく。

 

 軌道エレベータが内部から次々と爆発を起こしたかと思うと、その付近一帯が激しく鳴動し、残った隔壁も上下に引き裂かれ始めた。

 

 そして――

 

 ――ひときわ激しい爆発によって、軌道エレベータは、完全に上下に分かたれた。

 

 そこから先、私は、信じられない光景を目の当たりにした。

 

 軌道エレベータが、上昇していくのだ。

 

 遥か天空へと伸びるその長大な塔が、破壊された場所から、地球重力を振り切って、上へと浮き上がっていく。

 

 遠心力だと、私は気がついた。

 

 地球自転の遠心力によって、軌道エレベータそのものが宇宙に放り出されようとしているのだ。

 

 この軌道エレベータが、私の知ってる理論で建設されているならば、その全長は約10万キロに達するはずだった。

 

 その先端の高度は、人工衛星などが浮かぶ静止軌道を超えている。そこまでいくと地球の重力よりも、地球の自転によって生じる遠心力の方が影響は強い。

 

 軌道エレベータは、その遠心力によって直立していた。だから、根元が地球という大地に繋がっていなければ、宇宙へと放り出されてしまう。

 

 それが、いま目の前で起こっているのだ。

 

 しかもそれは、想像を遥かに超えた凄まじい光景だった。

 

 軌道エレベータの上昇速度は、瞬時に音速を超えた。

 

 直径数百メートルの超巨大な構造物が音速を超えて上昇したことにより、その直下部に広大な真空地帯が発生した。

 

 一瞬遅れて、そこに周囲の空気が一斉になだれ込む。

 

 地上に残った軌道エレベータの基部を中心に、島全体を包み込む超巨大竜巻が発生した。

 

 その竜巻は島に残る構造物のみならず、周囲の海域に漂う艦隊を海ごと巻き込んで、上昇する軌道エレベータを追って、天空に長大な螺旋の水柱を伸ばしていく。

 

 竜巻に飲み込まれたものは圧倒的な力で粉々に粉砕され、高度数千メートルの彼方でばらまかれた。

 

 巻き上げられた海水はさらに上昇を続け、高度一万メートルを越えたあたりで、薄い大気と極低温によって微粒の氷結晶と化し、その大半が広大な雲へと変化した他、その一部は成層圏を超えて飛び出していった。

 

 その遥か先を、軌道エレベータは月軌道さえも超えて、深宇宙を目指して消えていく。

 

 竜巻は、一晩中続き、朝になってようやく消滅した。

 

 晴れ渡っていた空も、巻き上げられた膨大な海水によって雲を生じ、辺りには塩辛い雨が降り注いでいた。

 

 その雨に混じって時折、粉砕された機械や兵器の破片が、ぽつり、ぽつりと落下する。

 

 そこに、小さな島だけが残っていた。

 

 破壊された軌道エレベータの基部や、軍事施設の残骸が集まった島だった。

 

 振りそぼる雨と、打ち寄せる波のほかは、動くものは何もなかった。

 

 再び戦闘が起きることもなかった。

 

 何もかもが終わり、そして、そのまま何年もの時が過ぎていった。

 

 十年が経ち、

 

 百年が経ち、

 

 千年が経った。

 

 残骸だらけの島には、波と風が吹き運ぶ砂と土がかぶさり、やがてそこに草木が生えた。

 

 二千年がたった頃には、島には森ができ、鳥が通うようになった。

 

 五千年が経ち、ようやく人間が戻ってきた。

 

 木造の帆船に乗った、前近代的な格好をした漁師たちだった。

 

 彼らは島に上陸すると、火打石で焚き火を起こし、木と縄と藁で小屋を建て、小さな小舟と手作りの網で魚を獲った。

 

 小高い丘陵の上に魚の群れを見つけるための見張り台ができ、その近くに、豊漁を祈願する小さな祠も建てられた。

 

 それから数百年にわたって、人々は増えたり減ったりを繰り返しながら、島に住み続けた。

 

 その暮らしも、少しずつ発展していった。

 

 丘陵の上の見張り台は消え、代わりに小さな祠が、立派な鳥居と狛犬を揃えた神社に建て替えられた。

 

 島にはコンクリート製の岸壁を備えた港ができ、大きな動力船が日に何度も出入港を繰り返して、人と物を運んだ。

 

 島を一周する鉄道までできた。

 

 その駅はなぜだか西洋風の教会のデザインで、そこを中心に近代的な町が広がっていった。

 

 島には電気が通り、車が走った。

 

 島は大いに賑わった。

 

 だけど、島の発展はそこが最高潮だった。

 

 それから数十年と経たないうちに、島は寂れ始めた。

 

 島にやってくる人間よりも、出て行く人間の方が多くなった。

 

 島で生まれる人間よりも、亡くなる人間の方が多くなった。

 

 町には、空家が多くなった。

 

 短い鉄道を利用する者はいなくなり、廃線となった。

 

 港につく船の数も減った。

 

 やがて最後に残っていた数世帯が、最後の船便にのって去っていき、島はまた静寂に戻った。

 

 それからさらに時が流れ、残された町がすっかり廃墟となった頃、

 

 島を、地震と津波が襲った。

 

 地震は大地を隆起させ、残った建物を破壊した。

 

 そして津波が、地表のものを全て押し流してしまった。

 

 残ったのは、高台にあった鳥居と狛犬、そして倒壊寸前でなんとか残った、教会駅の建物ひとつだけだった。

 

 だけど、島の表面には奇妙なものがいくつも現れていた。

 

 それは、長い年月の果てに地中に埋もれていた、遥か太古の機械たちだった。そのほとんどが、あのサイボーグ兵士たちが使用していた無人機の部品だった。

 

 そして、バラバラになって散乱し、半ば埋もれたままの機械たちに混じって、唯一、原型を保っていたものがあった。

 

 砂浜に倒れていたそれは、小柄な身体に、細い手足、そして長い髪……サイボーグ兵士だった。

 

 いや、

 

 いや、ちがう。

 

 あれは、彼女だ。

 

 彼女の身体はあちこち損傷していたけれど、それはゆっくりと時間をかけて修復されていく。

 

 それに合わせるように、津波で禿山同然になっていた島にも、緑が戻っていく。

 

 彼女はまだ、眠ったように動かない。

 

 私は思わず、彼女に向かって駆け出そうとした。

 

「ミク!」

 

 私の声が聞こえたのか、彼女がゆっくりと目を開く。

 

 あたりの景色は夜だったけれど、やがて水平線の向こうが白み始め、朝陽が昇ろうとしていた。

 

 オレンジ色の日差しを浴びながら、彼女が立ち上がる。

 

 私はやっと彼女のもとにたどり着いて、彼女の細い身体を抱きしめた。

 

 

「ミク――」

 

「――ダメっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――彼女に突き飛ばされ、私は、教会駅のベンチから床に転げ落ちていた。

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