――――――あっ、死んだわ、これ。
我が血鬼術「無限城」に鬼殺隊の連中を引きずり込んでの最終決戦。ふとした油断から
当然、そんな事を許す
『……ん?』
そして、見知らぬ土地で目を覚ました。
何だここは。建物が全部コンクリートとガラスで出来ているどころか、地面の全てがアスファルトだと?
それに街行く人間共の装いも大分様変わりしている。やたらとチャラチャラしている者もいれば、葬式でもないのに正装をかましている輩もいる。中には「何処の文化だ?」と言いたくなるような奴もいた。
そもそも、誰も彼もが持っている、あの平たいカラクリは何だろう。耳に当てて話す者もいれば、写真を撮る者、ガラス版を指で弄る者もいる。
どうやら、色々な機能を持った電話のようだ。何それ、私も欲しい。
……というか、周囲の劇的な変化に戸惑っていたけど、現状一番目立ってるのって、私じゃね?
大正の世でも充分に浮いていたが、今この場においては確実に浮き彫りとなっている。周りを必死に見渡してみても、着物姿の琵琶奏者なんかいねぇよ。
どうしよう、何か凄く居心地悪いんだけど。長い前髪のせいで一つ目である事がバレていないのが、せめてもの救いか。知れ渡ったら、確実に騒ぎになるからね。
「おっ、スッゲェ美人」「まさに大和撫子って感じしてるじゃ~ん♪」
とか何とか考えていたら、如何にも駄目な感じのチャラ男と、思わず右目が疼きそうな雰囲気の痛い男に絡まれた。
「やぁ、そこの君、渋谷のど真ん中で、そんな格好してどうしたの~?」「もしかして、誘ってる? なら、ちょっとお茶しな~い?」
いや、何だこいつら。誰が誘い受けだこの野郎。「お茶しない?」とか言ってるけど、絶対ヤる気だろテメェら。
つーか、ここ渋谷なのか。「最近大分発展してるなー」とは思っていたけど、何時の間にこんな有様に……。
「ほら、来なよ!」「俺たちが女の喜びって奴を教えてやんよ!」
……って、無駄な事を考えてる内に、路地裏へご案内されてた。やっぱ身体目当てなんじゃん。
ムカつくわー。言動が物凄く
『えい』
「ビッ!?」
とりあえず、痛い感じの方から殺してみました。撥で脳天を唐竹割り。汚い花が咲いた。
うーん、何度やっても心に響くわね、人を殺すのは。私は今生きているんだと実感させてくれる。
「へっ……カスパー? えっ、死んだの!? 嘘だろ!? つーか、一つ目!? 人間じゃないってのかよ!? うぁああああああああああ!」
友人(カスパーというらしい)の死にチャラい方が漸く気が付き、腰を抜かす。安心しなよ、お残しはしないし、お前は頚を撥ね飛ばしてやるから。
よし、まずは素振りを――――――、
「ひぃぃいいいいっ! や、止めてくれ! 殺さないでぇえええええっ!」
すると、チャラ男が三つ指着いて命乞いを始めた。無惨様の集会でよく見たなぁ、この光景。
と言うか、涙と鼻水はもちろん、股間から黄色い液体を垂れ流しにしてやがるよ、この男。ここが夜の路地裏で良かったな。往来の真ん中でそれやったら、ただの生き恥だぞ。
まぁ、命乞いされたからと言って、聞いてやる筋合いは無いがね。所詮、人間なんぞ曲調を上げる為のカンフル剤でしかないのだから。
『よし、殺すかー』
「うひょあああああ! 止めて止めて、お願いしますぅうううう! ……あっ、何なら一緒にウーチューバーやりませんかぁああああ!? ちょうど、そこに転がってるゴミと一緒にやる予定だったんですよぉおおおお!」
『……“ウーチューバー”? 何だそれは?』
というか、友達をゴミ呼ばわりするのはどうなんだ。半天狗みたいな奴だな、こいつ。
「えっ、あ、ハイ! ウーチューバーと言うのはですねぇえええええ!」
それから、チャラ男のたどたどしくも分かり易い、ウーチューバーについての解説が成された。
今の世の中、インターネットなる情報媒体によって全世界と繋がっており、ネット上での人気が現実での収益になり得るらしい。売れっ子作家みたいなものか。それが全国どころか世界規模で名が売れるのだから、そりゃ大金持ちだろうよ。
さらに、インターネットにはウーチュブという“誰でも作れる映画集”があり、ウーチューバーはそれを自作する者の事を指すという。
えー、何それ、凄い贅沢。映画ってだけでも凄いのに、映像はカラーで音声付き。それが只で見られるとか、良い時代になった物である。
ああ、そうそう、チャラ男に確認した所、今は大正から百年以上経っており、「令和」という元号になっているそうな。天皇がお飾りになったり、国会が腐り切っていたりと、世も末な感じ。
うーむ、これは一から常識を学び直した方が良いかもな。大正が浪漫とか言われてる時点で、全然会話が通じないもん。
私は奏者として大成したい。無惨様に出会うまではそこそこ名は売れていたけど、所詮宿場町の一奏者としてだし、何より鬼になってからは誰も真面に聞いてくれなかった。無惨様も便利な女としてしか見てくれなかったしね。
だからこそ、今度こそは自由気儘に弾き語りたい。あわよくば超有名になって、チヤホヤされながらニートしたい。
幸い、今の私は無惨様の支配からは外れている。彼はおそらく殺されたのだろう。殺意ヤバかったもんなー、
つまり、今の私は数少ない「鬼」の生き残りにして、自由の身という事だ。
ならば、今世では好き勝手に生きるとしよう。今まではやって来なかったが、せっかく便利な情報媒体があるのなら、それを使ってもう一度「
そうと決まれば、
『よーし、ならば殺すのは待ってやろう』
「え、マ、マジですか!?」
『その代わり、私が売れるように努力しろ。私の為に働け。良いな?』
「ハ、ハイ……」
そんな感じで、私はこのチャラ男(チャラトミという芸名らしい)を従え、令和の世で返り咲く事を目標に、動き始めるのだった……。
◆鳴女
鬼舞辻 無惨のお気に入りである女の鬼。本名は不明。無限城という異空間を自由自在に操る能力を持ち、直接的な殺傷力こそ低い物の非常に厄介な存在である。最期は愈史郎と無惨の脳取りゲームの末に、面倒になった無惨の呪いで頭をヒートエンドされて死亡した。
しかし、何の因果かゲゲゲなあいつの居る平行世界に生前の記憶と能力を保ったまま転生する事となり、好き放題に生き始める。
人間時代は、賭ケグルイな夫のDVに悩まされる悲劇の奏者――――――と思いきや、一度キレれば平然と人を殺し(しかも最初の殺人が夫の頭をトンカチでケーキ入刀)、それを演奏の華にしてしまう、マジもんのキチ○イ。無惨との出会いも、「今日の一殺」をしようとしたら返り討ちに合う、という何とも言い難いもの。良くこんな奴を鬼(というか部下)にしようとしたな、無惨様。
この世界では無惨という絶対的なストッパーが居ない為、色々と箍が外れた挙句、文字通りに暴走している。