《化け物共め! 私は宣告する! 鬼滅の刃の名の下に、鬼殺隊は貴様らと命ある限り戦うと!》
画面の向こうで、大空 つばめが日輪刀を構えて、力強く宣言する。その切っ先の向かう場所には、銀髪の魔女と黒髪の鬼女が。二人の素性は知る由も無いので伏せられているが、見る人が見れば分かる程に良く映えている。一般人の目線でも、彼女らが東京中を巻き込んだ一騒動の首謀者というか、黒幕に見えるだろう。
何故なら、
《――――――以上の理由により、東京都は都市機能を完全に失った為、長野県長野市松代町を「第二新東京市」、神奈川県箱根町を「第3新東京市」と改め、遷都する事となりました。第二新東京市は生産と発電をメインとした工業区画、第3新東京市は経済性と居住性を重視した運用をする見通しで……》
さらに、別のチャンネルに切り替えれば、東京都の終わりと、都市機能を二分した新たな「東京市」の設立が発表されている。
この話は真実と嘘が半々であり、表向きは紹介の通りだが、裏の顔は造兵廠(第二新東京市)と要塞都市(第3新東京市)である。千葉と東京の沿岸部を壊滅させた内閣総辞職事件の時から手を付け始めた突貫工事も良い所の都市計画だが、そこはつばめのチート能力と鬼殺隊士の化け物染みた体力と腕力に物を言わせた力押しにより、急ピッチとは思えない速さで完成した。
そして、人々は何も知らずに、どちらかの都市へ次々と移住し始めている。
どう考えても色々とおかしな話なのだが、人間とは現金な物で、便利な物が据え膳されれば有難く頂いてしまう物だ。溺れる者は藁をも掴むと言うし、真面な思考をする余裕が無いのだろう。
《妖怪は敵です。東京都に現れた大小様々なモンスターたちも、根本的に相容れる存在ではありません。そこで京都跡を「カントー地方」と改め完全な隔離地区とし、区内から出て来た物に関しては「害獣」として処理する事とします。妖怪に関しても、目撃情報があれば随時鬼殺隊へ連絡をして頂きたく――――――》
また、更に別のチャンネルでは、つばめ本人による記者会見が開かれ、魑魅魍魎(妖怪を含む魔物、ポケモン、モンハンのモンスターなど)の類との完全な対立を宣言していた。全てを害獣扱いしているので、知恵が有ろうが無かろうが関係なく殺処分する、と公式に発表したのである。
これもまた平和ボケした日本とは思えない過激な発言だが、流石に首都を壊滅させるような生物たちを保護しようと考える者など殆どおらず、むしろ大衆には歓迎を持って受け入れられた。それ程に酷い目を見た、という意味でもある。数百万人規模の死者と、その倍以上の負傷者を出したのだから、当然の反応であろうが。
また、帰る家を失くした人々が一斉に疎開した事もあって、東京大事変とは直接関係の無い避難先の他県民までもが妖怪たちに悪印象を抱いており、日本全土が“妖魔は死すべし慈悲は無い”という歪な人間至上主義に染まりつつあった。
こうして、人々の生活は思ったよりも早く回復したものの、妖怪を含む“人外”との間に埋めようのない深い深い溝が出来てしまったのだった。
◆◆◆◆◆◆
――――――この世界の何処か、闇の中。
『……凡そ予定通り、ですな?』
『そうね。人間は愚かだけど、何とかと鋏は使い様だわ』
移動式城塞「妖怪城」の天守閣で、九尾の狐の姉弟が次々と流されるTV映像を見てほくそ笑んでいた。復活後、表立って動く事の無かった彼らだが、裏では力を蓄える為に尽力していた。おかげで中国妖怪軍は以前を遥かに超える規模と勢力を持つに至っている。
『それもこれも、アナタのおかげかしらね、黒雲坊?』
玉藻の前が対面に座る人物――――――黒雲坊に話題を振った。
顔立ちこそ息子の黒鴉に似ているが、“作成”の過程によるものなのか全身が真っ白で、凶悪かつ鋭い真紅の眼を持つアルビノとなっている。服装に関しては、赤乱坊や息子への当てつけなのか、赫い修験装束に身を包んでいた。
『いやいや、部下が優秀だっただけの事よ』
「……勿体無きお言葉、有難う御座います」
さらに、その傍らには黒坊主が恭しい態度で立っている。
まさに絵に描いたような悪代官とその部下だが、黒雲坊の言葉は謙遜でも何でもなく本音であり、心の底から黒坊主の事を労っている。何故なら、今の黒雲坊の肉体を作り上げたのは、この黒坊主だからだ。
黒坊主は水質を汚染する能力を持つが、美人画が本体なだけあって“思い描く姿を絵として実体化する力”もあり(※ただし自分が汚染した水が溶液としてしようされている場合に限る)、それにより黒雲坊の身体を3Dモデルとして創り上げ、そこに必要な素材を嵌め込んでいく事で完全な肉体を構成したのである。
基本は黒鴉の血液だが、それだけでは再び返り討ちに遭う可能性もある為、変幻自在な身体を活かして様々な生物の血肉をこっそりと収集し、遺伝子レベルで設計し直して完成させたので、黒雲坊は見た目こそ黒鴉の色違いだが、中身は最早天狗とは言い難い、キメラ状態となっている。
しかし、雑種だからと言って弱いという訳ではなく、今目の前で余裕たっぷりに黒雲坊たちを見据える九尾の狐たちと同等か、それ以上の力を秘めている。まさに悪の天狗王と呼ぶに相応しい化け物となって、この世に完全体として舞い戻ったのだ。
だが、それ程までに力を高めても、来訪者には勝てない。感覚的に分かってしまう。だからこそ、黒雲坊は中国妖怪たちと
そう、知っての通り、黒雲坊は鬼太郎やぬらりひょんとも繋がっている。それどころか、鵺とも擦り合わせをしているので、伊吹丸以外の四将と関りが有ったりする。
そして、そんな事は謀略に長ける九尾の狐たちは、とっくに知っている。分かった上で、黒雲坊の提案に乗ったのである。
『そんなに謙遜しなくても良いのよ。こっちも天狗の秘術を手に入れられたからね』
これこそ、話に乗った最大の理由。九尾の狐たちは、とある理由により、天狗の秘術を欲していたのだ。
遥か太古の昔、天を翔る一匹の
元々の天狗は中国の妖怪で、流星と共にやって来た宇宙からの来訪神であり、その一部が海を越えて日本へ渡り、現地の生物を改造して人型となったのが、日本の天狗たちだ。
その為、姿形は一定しておらず、様々な“品種”が作られたが、現在まで生き残れたのは鳥類をベースとした「鴉天狗」と、人間をベースとした「鼻高天狗」のみである。始祖の天狗が来日したのは人間が蔓延る以前の話なので、歴史が古いのは鴉天狗だ。
そんな太古より続く技術集団の知識はまさしく宝の山で、彼らにしか成し得ない神業も数多い。
しかも、鼻高天狗と鴉天狗では伝授された技術に違いがあり、天狗全体が天狗ポリスとして纏められる際の統一戦争――――――つまり、赤乱坊と黒雲坊の戦いを最後に失われたテクノロジーなど、本当に腐る程にある。
その最たるものが、「傀儡術」と「魂移し」だろう。それがあったからこそ、器を破壊された黒雲坊は生き残れたのである。
そんな天狗の、それも真の鴉天狗系統の叡智を手に入れられるとなれば、協力しない手はあるまい。
『カハハハハハ、それはこちらも同じ事よ。九尾の力は素晴らしいな』
まぁ、黒雲坊の方も伝説の存在である九尾の狐たちの血肉を得られたので、割とウィンウィンなのだが。
『……さて、何時までも邪魔するのも悪いな。今日はもうお暇するとしよう。行くぞ、黒坊主』
『承知致しました』
と、話は終わりだとばかりに、黒雲坊は黒坊主を伴って、蒸発するように姿を消した。残されるは九尾の狐たちのみ。
『奴ら、どう動きますかね?』
すると、黒雲坊と全く会話をしていなかったチーが、ようやく口を開いた。彼とはそれなりに因縁があるので、あまり喋りたくないのである。
『最終的な目標は皆同じ。後はそこに至るまでの過程が違うだけ。何時どう動くのかのチキンレースになるでしょうね』
そう、まさに玉藻の前の言う通り。
ぬらりひょんもバックベアード軍も鳴女一派も、鬼太郎ファミリーでさえも、東京事変の時に動く事は無かった。言うまでもなく嵐の前の静けさであり、一度始まってしまえば、スーパーセルのような暴風雨となるだろう。
その為にも、今は優雅に準備を進めるだけ。
『さぁ、つまらない話し合いは終わり。食事にしましょうか?』
『ええ。今日は満漢全席ですから、楽しみにしておいて下さい』
『あら、そんなにサービスされちゃって、食べきれるかしら?』
中国妖怪たちの、最後の晩餐が始まる。
◆黒雲坊
第5期で起こった様々な怪事件の黒幕たる驚異の天狗王にして、天狗ポリスのエースである黒鴉の実父。
遥か太古の昔、赤乱坊との戦いに敗れ肉体を失ったが、隠れ里に魂だけで逃げ延び、息子の肉体を奪う事で現世に舞い戻ろうと暗躍していた。最終的に黒鴉が四十七士に覚醒した影響で身体から追い出されてしまい、大天狗・黒鴉・鬼太郎という無理ゲーにも程がある最強トリオの猛攻により、今度こそ魂ごと滅び去った。
今作では部下である黒坊主に己の魂を託しており、原典通り初めは黒鴉の身体を奪おうと画策していたが、鳴女の出現を機に考えを変え、様々な魔物の遺伝子の良い所取りの完璧な肉体を再構成する方向にシフトした。
ちなみに、中の人は初代ねずみ男であり、嫁を食う狐であり、悪魔の白イタチであったりもする。