鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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ついにやっちゃっタカー。


鳴女さん、結婚式を挙げる

 フィリピン。東アジアに存在する、ASEAN加盟国。

 大小7000にも及ぶ島からなる島国で、地域によって異なる多種多様な文化を楽しめる、南洋の楽園――――――と言えば聞こえは良いが、二度に渡る独立の失敗(アメリカの植民地だったり日本の占有地にされていた事があった)と共和国樹立後の政治的な大混乱により、一気に世界経済から置き去りにされてしまった発展途上国でもある。

 つまり、ちょっと貧乏なのだ。現状、最も当てになる財源が国外へ出稼ぎに行った若者の仕送りという時点で察して欲しい。貧富の差も激しく、中には明らかに堅気じゃない奴までいる。他にも自称イスラム国の皆さんを始めとするテロリストや頻発する自然災害など、問題は山積みである。

 しかし、観光事業が盛んな南国リゾートなのも事実で、見所も沢山ある。

 首都マニラを始めとする都市部は驚く程に発展している為、ハングリーな若者には物足りないかもしれないが、資本主義に疲れた中年以降が静かに暮らしたり、観光地として訪れる分には問題ないだろう。観光業を除けば農業や漁業などの第一次産業がメインなので、老後に農家として生活したい人にはお勧めかもしれない。

 また、鉱業面は潜在的に高いポテンシャルを秘めており、鉱山夫として働けば案外と稼げる可能性もある。重労働に目を瞑ればの話だけど。

 そうした様々な面を持つフィリピンであるが、ある意味一番特徴的なのは、棲んでいる魔物の面々だろう。

 何を隠そう、フィリピンの魔物は、その多くが吸血鬼なのだ。

 島という物は生物相が偏り易いものだが、それは魔物も同じであり、“無数の島と人種から成る南洋の国”という中々に特異な条件も相俟って、フィリピンの魔物は非常に愉快な事になっている。

 と言うのも、妖怪や魔物の殆どは人食いなのだが、狭くて許容出来る人口に限りのある島国では、大陸のように野放図に人を取って食う事は出来ない。そんな事をすれば、あっという間に餌が枯渇してしまうからである。

 妖魔は人間を見下して憚らないが、彼らにとっては生産者に当たる存在なので、根絶やしにしてしまえば、諸共滅ぶ種族は結構いる。人と妖魔は手を取り合えないが、共存しない訳にはいかない、とても微妙な関係なのだ。

 ……話を纏めよう。

 ようするに、フィリピンの魔物には人を殺し尽くさない生態(・・・・・・・・・・・)を求められているのである。だからこその吸血鬼だ(・・・・・・・・・・)。血は吸い過ぎなければ死なないし、再利用も出来る。仮に殺すにしても、生殖機能を高めたり、燃費を良くして試行回数を減らしたりなど、ただ捕食する以上の意味を見出している。

 そして、その生態的なニッチに収まっているのが「アスワング」である。

 アスワングとは現地の魔物の総称で、吸血鬼でありながら日本妖怪並みに多様な姿と特性を持つ、摩訶不思議な一族だ。これがある1匹の吸血蝙蝠から伝染し種族として定着したのだから、適応拡散と収斂進化の賜物と言えるだろう(基本的に飛べない生物は海洋島に辿り着けない)。

 むろん、他地域のような巨大生物や凶暴な種族も居るが、そちらは個体数が少ないか既に絶滅している。

 また、人間から派生して生まれた存在もいる。マンババランやマンククラームなどの「魔女」の類がそれだ。彼女たちは土着の蟲妖怪や悪霊の媒介者(ベクター)であり、元が人間である為、アスワング族とは持ちつ持たれず共存している。中には異種間で子供を儲ける場合も少なくない(基本的に魔女は何かしら人外との“契約=セ○クス”によって成り立つ事が多い)。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「――――――で、その混血児の1例が、そこのアデル・フォン・アスワングさんなんですよ」

『フ~ン……』

 

 やぁ、諸君。マガンダン・アラウ(こんにちは)。只今マクタン島でバカンス真っ最中な鳴女さんだ。傍らにはもちろんチャラトミが居るし、何ならアデルとカミーラも居る。今は眩しい太陽の下、白い砂浜でビーチチェアに寝そべっているので、全員が水着姿である。

 それにしても、チャラトミ(こいつ)の会話は情報量が多いなぁ。一体何処から仕入れて来るんですかね、その専門家顔負けな知識は。聞いてて面白いから良いけどさ。

 言われて思い出したけど、アデルって純粋な魔女じゃなくて、吸血鬼とのハーフなんだよね。カミーラも元はキーエフ・キュリアンとか言う人間だったらしいし、意外と純血種の魔女や吸血鬼が少ないんだな、ベアード軍。

 いや、確かドラキュラ一族も対等な協力者として居るんだっけ?

 まぁいいや。ベアード軍の動向なんて知った事じゃない。今は新婚旅行中なんだよ。

 

『そんな事より、日に焼ける吸血鬼が存在する件について』

『はい、新鮮な気分です!』

『いや、あのねぇ……』

 

 私の皮肉に満面の笑みを浮かべるカミーラが案外と可愛い件について。誰だ、こいつをオバサン呼ばわりする奴(※猫娘)。

 そっか、こいつ生まれながらに病弱で兄妹共々ロクに外へ出られなかったから、実質的に今回が初めての日光浴なのか。提供した私や零余子の血で陽光を克服したおかげだな。日に焼けるんじゃなくて、日で焼け死ぬ立場だったからね。

 青い空の下、眩しい太陽を目一杯浴びられる事に感動する辺り、こいつの根本的な部分はキーエフ時代で止まってるのかもな。

 

「そう言えば、式は何時何処で上げるんだ? マクタン島はリゾート地だから、ホテルで上げる事になるぞ?」

 

 おっ、食い付いて来るねぇ、アデルさん。やっぱりフィリピン人としてはオススメしたい教会があるのかもしれない。フィリピンはカトリックが国教だからな。

 だが、心配はご無用。私には無限城というチートスキルがあるし、チャラトミwikiでしっかり下調べもしてある。予約も完了済みだ。あっと言う間に結婚式会場ですよ。

 

『さて、そろそろ一旦切り上げて結婚式すっかー』

「二次会するかー、みたいなノリで言うなよ……」

 

 わははははは、褒めても何も出んぞ。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 と言う事で、わざわざマニラ大聖堂へ移動して披露宴を開いたのだが。

 

『病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?』

『何でここに居るんだ貴様』

 

 神父役がヴォルフガングだった。何でや。忙しいんじゃなかったのか。

 

『病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?』

『村人Aかお前は』

 

 うーん、この調子だと、ベア子たちも居そうな気がする。

 

『何時かワタシも袖を通したいわね』『絶対に似合うよ、ベア子ちゃん!』《フム、良いワインだな》

 

 居たよ、普通に。何サラッと来賓席に座ってんだよ。あと少しは興味を持てベアード。

 

『……まぁいいか。誓います誓います』「誓いまーす」

 

 どうせ悪ノリで来たんだろうし、今更突っ込まんさ。それよりも式を進めよう。

 

『それにしても、まさかお前とこんな事をする日が来ようとはな』

「最初の出会いは最悪でしたからね」

『主にお前がな』

「はて、何の事やら?」

 

 こいつも良い性格になったよなぁ。やっぱりチャラいままだけど、そこがまた良い。変に気取る奴よりずっと魅力的だ。

 

『そう言えば、人前でするのは初めてかもな』

「ここに真面な人間は存在しないっスけどね」

『人間どころか妖怪や魔物ばっかりだもんな』

 

 こうして見ると、本当に奇跡のような面子だな。色々と有りはしたけど、楽しい連中だよ。是非とも末永くお付き合いしたいしたいね。特に大尉さんとお父様。これからも誠心誠意、動画投稿致します。

 さて、すべき事をするか。今まではなぁなぁだったけど、改めて向き合うと、お前は掛け替えのない存在だよ。

 

『それじゃ、これからもよろしく』「オッケ~♪」

 

 そして、私たちは公衆の面前で、初めてのキスを交わすのであった。

 

『……おい、ウェディングケーキのデザインをバベルの塔にした理由を言ってみろ』

 

 ちなみに、入刀するケーキの形は傲慢の末に倒壊した巨塔だった。ふざけるなよ貴様ら。




◆アスワング

 フィリピンの吸血鬼一族。大小7000の島から成る限られた土地にやって来た吸血蝙蝠が適応拡散と収斂進化をした果てに、日本妖怪ばりに様々な姿形を持つようになった。
 西洋の吸血鬼と違い、ニンニクや聖水も平気だし陽光も効かないが、交雑種はそうでもなかったりもする。中にはアカエイやガチョウの尾で作った鞭に弱い奴もいる。ただのMとか言ってはいけない。
 ちなみに、日中は人の姿で社会に溶け込んでいる種族が殆どなので、仲良くなっていると襲われないどころか、他のモンスター的な連中から守ってくれたりもするらしい(結婚しよ)。
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