「何なんだ、ここは?」
《知らんがな》
一体全体、この洋館は何時からこの場所に建っているのだろうか。窓ガラスが殆ど割れ、壁は塗装が剥がれるばかりか穴が開いてる場所まであり、全面が隈なく蔦が巻いている。放棄されてから相当の年月が経っているのだろう。少なくともここ数十年では利くまい。キノコ生えてんぞ。
「ここが一体何なんだ?」
『ウンバウガ、ウーヴー』
「マッドハ○ス? その名前はアカンのよ……」
『ウンバラララ、ウバ、ウゴン!』
「ハウス・オブ・ザ・マッドって」
名前を変えりゃいい訳じゃないのよ、ブソさんや。
まぁ、この子は同族に比べればマシだけど、基本的に頭が弱々だからな。自分で確かめるしかない。
「あなたは、他のアスワングたちにこの事を報せて。出来れば応援を寄こして頂戴」
『ウガウン!』
とりあえず、腕力以外は頼りになりそうもないブソにはお引き取り願って、いざ入館!
――――――ギィィィィ……。
触れるだけで開いてしまう扉を潜ると、案の定とても汚かった。ガラスの破片や元は壁材だった瓦礫が散乱し、その上から落ち葉の絨毯が掛かり、天井には蜘蛛の巣のカーテンが垂れ下がっている始末。廃墟なのだから仕方ないが、もう少し何とかならなかったのだろうか。玄関ホールの筈なのに、足の踏み場も無いんだけど。
とは言え、悪い事ばかりでもない。足の踏み場もないとはつまり、誰かが歩けばすぐに分かるという事。よーく見てみれば、カミーラの物と思しき足跡があるし、
「どう思う?」
《フム……数が多いな。直立二足歩行こそしているが、どいつもこいつも真面な姿をしてないぞ。これじゃあまるで
だが、流石に見ただけで全てを把握するのは無理なので、無惨に調べてもらう事にした。超能力者なんだから、サイコメトリーくらい有るだろうと思ってはいたが、本当に持っていると逆に引くなぁ。マジで001じゃん、こいつ。
つーか、ここにゾンビ居るの? 嫌過ぎるんですけど……。
《問題無かろう。相手は高がゾンビだぞ?》
「私、ホラーが苦手なんだってば。特にゾンビとか生理的に受け付けない」
《敵は殺すのに?》
「それはそれ。これはそれ」
《何だそれは……おっと、お出ましだぞ》
ついつい尻込みしていたら、廊下の向こうからやって来てしまった。ゲームや映画で散々見て来た、ノソノソと歩く腐乱死体たち。一応服は着ているが、ボロボロの布切れに近いし、肌どころか見えちゃいけない物が露出してしまっている。ホルモンとか、レバーとか、ミノとかが。
うへぇ、暫く焼き肉が食べられなくなりそう……。
《馬鹿な事を言ってないで、さっさと迎撃しろ。触るのが嫌なら魔法で焼いてしまえ》
「結局焼肉なんだよなぁ……」
そう言いつつ、しっかりと魔法でヘッドショットを決めていく。ゾンビの弱点は頭って相場が決まってんのよ。
うわっ、汚い。私の傍に近寄るなァーッ!
「――――――って、流石に多くない!?」
さっきから【
というか、出力を抑えているとは言え、火の玉をバンバン放っているのに、館が炎上する様子が一向に見られないのは、一体どういう事なのか。
否、壊れてはいるのだが、何故かすぐに元の形に戻っている。まるで奈落村の廃屋みたいだ。そんなに直りが早いのなら、いっそ新品に生まれ変わればいいのに。雰囲気を大事にしてるのかな?
……とまぁ、下らない事を考えられる程度には余裕があった。
無惨の言う通り、高がゾンビ、動く死体の群れ。攻撃が当たらなければ動作は鈍いし、攻撃も単純な引っ掻きや噛み付きばかり。これなら奈落村の死人憑きラッシュの方がまだ歯応えがあった。あっちはモンスターとかも出て来たからな。
――――――ドギャアアアン!
『フヴヴヴゥ……ッ!』
「ドワォ!?」《何だ!?》
すると、ミチミチになった死体たちを鷲掴んでバッタバッタと投げ飛ばし、通路の奥から巨大な何かが姿を現した。
全身がサイバーパンクな強化外骨格で武装され、身の丈以上の戦斧を持った、5メートルはあろうかという巨人。歩く度にガシンガシンと硬質な音が響き、口元のガスマスクからは疫病を齎しそうな黒煙を漏らしている。ぎらつく油の血液のみが、唯一生物らしさを感じさせた。触ったら譫言、ひきつけ、そして死を齎されそう。
◆『識別コード:Type 27
◆『弱点:各所関節部』
「えっ、何これ!? ボスキャラ!?」
《知らん! ともかく迎撃しろ!》
「お、おう!」
言われるがままに【火炎弾】を放ってみたのだが、
――――――バチィン!
「魔法反射装甲だとぉ!?」
こ、こいつ、魔法を跳ね返す、だと!?
『ホヴォオオオォ……ッ!』
「危なっ!」《のわーっ!》
さらに、驚いた隙を突いて、サイボーグ野郎が戦斧を力任せに振り下ろして来た。動きこそ鈍いが、一撃で大理石をバラバラにする威力を持っているので、下手な避け方は出来ない。ちゃっかり振動でこっちの足を取って来るし。耐震スキルが欲しくなる。
しかし、一番の問題は奴の装甲に魔法が通じない事である。
躱しながら古代魔法の【
かと言って、物理ダメージを伴う【
《おい、貴様。弾丸に魔法を込めて撃ってみろ》
と、意外な所から光明が。
……そうか。魔法である筈の【鉄硬弾】が反射されないって事は、実態を持つ攻撃は跳ね返せないのか。それならそれで、
「【
私は虚空に魔方陣を描き、そこからメラルの遺品である「ネコ獣砲ニャノン」を取り出し、魔法効果の弾を込めて撃ち出した。
『フヴヴウウァッ……!』
効果は大有りで、火炎弾と氷結弾の熱疲労コンボでダメージを蓄積していき、止めの竜撃弾(ぽいナニカ)で完全に胸部装甲を破壊した。ついでにギュウギュウ詰めのゾンビ軍団も蜂の巣にしてやった。
「せぇいっ!」
『グヴァァ!?』
ネコ獣砲ニャノンをしまい、代わりに呼び出したクィーンレガリアで襲い掛かる。傷口からエキスを吸い取り、自身にバフを掛けながら怒涛の連撃を繰り出す。
サイボーグ野郎も必死に抵抗するが、如何せん鈍間過ぎる。装甲という武器を失ったお前では相手にならんよ。
『ゴヴァァァァ……!』
限界を迎えたサイボーグ野郎が、汚い息を吐きながら倒れ伏す。その際に全身の鎧も解除され、機械とも生物とも言い難い本体を晒した。キモイ。
つーか、何だこの油。武器ごと私を侵食しようとしやがる。これが本体なのか?
ともかく、このまま放っておくのは確実にヤバいので、浄化魔法と火炎魔法の重ね掛けで奇麗さっぱり消し去ってやった。そういうのは効くのね。油には魔法耐性が無いのか、単に熱に弱いのか。うーむ、よく分からん。
「結局、こいつは何だったんだ?」
《いや、分からんて。……むっ、誰か来るぞ》
「えぇ、まだおかわりがあるの?」
とりあえず、無惨の見ている方へ視線を向けてみると、そこには白いワンピースドレスと鍔帽子を被った、貴婦人のような女性が。身長が3メートル近くあるから、すぐに人外だって分かるけど。
『あ~ら、アデルじゃないの。相変わらず独身貴族のようねぇ? 臭いで分かるわ』
というか、幼馴染のオルチーナ・ドミトレスクだった。
彼女はハンガリーとルーマニアの境目に領地を構えていた元貴族かつ女吸血鬼で、右翼曲折の果てに国を追われて海を渡り、ハンガリーに移住して来た。
そして、そのまま現地のアスワングと結婚、ベイラ・カサンドラ・ダニエラという3人の娘を儲けた勝ち組でもある。手紙で知った事だが、最近4女も生まれたらしい。リア充爆発しろ。
「……煩いわよ、没落貴族」
『お生憎様。今はホテルやカジノも経営している現役貴族よ』
「チクショウ!」
だから苦手なんだよ、こいつ。会う度にマウント取って来やがって。鳴女とは別ベクトルでムカつく。
『いい加減、良い相手を見付けなさいな。良いものよ、娘は。どの子も手が掛かるけど、そこから学ぶ事も多いわ』
「急に真面目な話をするなよ」
やめてよ。私のメンタルライフはとっくに0よ!
「――――――って言うか、何でアンタがこんな所に居るのよ?」
そうだよ、先ずはそこが問題なのよ。こいつは確か、ルソン島のマニラに居る筈なのに。
『娘が攫われたのよ』
「ゑ? あの分身能力を持つ三姉妹が?」
驚きの展開だった。
ベイラ・カサンドラ・ダニエラの3人娘は吸血鬼であると同時に蟲使いのマンババランでもあり、身体を無数の魔蟲に分裂させる事が出来る。
この魔蟲、低温には弱いが凄まじい繁殖力を持っていて、襲い掛かった相手の血肉を食べる事で爆発的に増殖、ほぼ不死身と言って差し支えないスタミナを発揮するのだ。
ついでに体積を増やして巨大化も出来たりする。大きさは精々数メートルだが、そこらの雑魚妖怪を相手にするには充分だろう。
もちろん、その母親であるオルチーナにも可能で、そのサイズは私の巨大化すら上回る。何処まで行っても、見上げるしかない……ッ!
『いいえ。攫われたのは、4女のローズよ。私の留守中にいきなり家に押し掛けて、あっという間に立ち去って行ったらしいわ。ベイラたちを真っ先に液体窒素で無力化した辺り、私たちの特性を理解している相手のようね』
「そうなのか……」
そんな奴が、この屋敷の何処かに存在している?
その上、カミーラにまで手を出して。……こいつはメチャ許せんよなぁ?
『似たような施設があと3つ有って、今は現地のアスワングたちと協力しながら、4手に分かれて調べているわ。……それで、あなたはこれからどうするつもりなのかしら?』
そりゃあもちろん、決まっている。
「ご一緒させてもらうわよ、マダム」
『こちらこそお願いするわ、バチェラーフドゥ』
「しつこい女は嫌われるぞ!」
そういう事になった。
果たして、この洋館の奥に何が待っているのやら……。
◆オルチーナ・ドミトレスク
「バイオハザード ヴィレッジ」に登場するボスキャラ。見た目は白で統一された格好の貴婦人と言った感じだが、八尺様を超す高身長を持つ。人間の血を吸うという吸血鬼染みた特徴を持つが、これは先天的な血液疾患によるもの。性格はとんでもないドSで、些細な事で侍女を血祭りにあげた挙句、モロアイカという化け物に変えてしまう。
その正体は、ラスボスであるマザー・ミランダが、スペイン風邪で死んだ自分の娘を蘇らせる為に行った、“特異菌の人体異色”という実験の被験者。それにより異常なまでの再生力と馬鹿みたいに高い身長、不老の力を得た。
ただし、適合率こそ高い物の、ミランダに言わせれば“成功”では無かったようで、事実“毒物に異常に弱い”“血液疾患が悪化した”といったデメリットも生まれている。
ちなみに、作中で語られる「四貴族」はあくまで“マシな4人”という意味でしかなかったが、彼女の場合は被験者となる前はどこぞの没落貴族だったので、オルチーナだけは正しい意味で「貴族」である。
この作品では特異菌の移植者ではなく、本物の吸血鬼となって登場。噛まれてなったので純血種では無いものの、ドラキュラやカミーラとタメを張れる強さを手に入れている。
しかし、世界大戦のごたごたの果てにエクソシストにぶっ殺されそうになり、故郷を追われる形でフィリピンまで遥々やって来た。その後は現地のアスワングと結婚し、4人の娘を儲けている。表向きはゲームと同じ姿を取っているが、年齢は自在に操れるので、夫や娘の前では別の姿で過ごしている。
余談だが、ドイツ系の幼馴染が居たが、大戦の最中に死別している。