鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 まなとユメコのどちらが良いかと言われレバ、私は祐子ちゃん(第4期の人間サイドの女子)が一番良いデス。飴とかあげタイ。


犬山まなと猫娘

 東京都調布市の、とある中学校。

 朝のHR前のざわついた教室では、今日も様々な噂話が飛び交っている。こんな風に(・・・・・)

 

「ねぇねぇ、まなー、あの噂、知ってるー?」

 

 一人の女生徒――――――桃山(ももやま) (みやび)が、すぐ近くに座る別の女生徒に話し掛ける。

 女生徒の名前は犬山(いぬやま) 真名(まな)。ウェーブの掛かった茶髪とクリクリとした瞳が子犬のように可愛らしい、今時の十三歳(サーティーン)

 だが、彼女には誰にも言えない……というより、言っても信じてもらえない秘密がある。

 それは、この世ならざる者たちとの関り。ゲゲゲの森に住まう妖怪たちとの関係だ。特に鬼太郎や、その仲間たちとは結構仲良くさせて貰っている。

 少し前までは「妖怪なんてお伽話」程度にしか思っていなかったが、吸血木事件を引き起こした「のびあがり」との接触を機に、次々とお化け騒動に巻き込まれ、やがて「分からない事だらけだけど、だからこそ分かりたい」と考えるようになった。それに伴い妖怪たちの姿も認識出来るようになり、ますます関わる機会が増えている。本当に、色々あった。

 だから、真名はこの手の話にも積極的に首を突っ込むようにしている。分からないモノを知り、正しい付き合い方を学ぶ為に。

 

「……どんな噂?」

「ほら、最近子供が誘拐される事件が続いてるじゃない? テレビじゃ何も言ってないけど、攫われた親たちが「鳥を見た」って言ってるらしいよ」

「フーン……」

 

 まさか鳥に攫われた訳でもあるまいに。

 以前の自分ならそう考え、聞き流す所だが、今は違う。

 

(ちょっとねこ姉さんに相談してみようかな)

 

 何だか知らないけど、第六感がそう言っている。だから、次の休み時間にでもLINEしよう。真名はより詳しい話を聞きつつ、そう思った。

 と、その時。

 

「皆、おはよう♪」

「あ、藤花(とうか)さん! おはよう!」「おはようございまーす!」「今日も奇麗ね~♪」

 

 クラスのアイドル、茜雲(あかねぐも) 藤花(とうか)が教室に入ってきた。途端に幾人もの生徒が挨拶を返し、にこやかに出迎える。誰にでも優しく、柔らかな雰囲気が人気の秘訣である。

 

「まったく、今日も大人気です事……」

 

 まぁ、それを快く思わない人間も一定数いるのだが。

 しかし、藤花は気にしない。真名も気にしない。世の中には「気に食わない」という手前勝手な理由で嫌う馬鹿がそれなりにいる事を分かっているからだ。そういう輩は無視するに限る。

 そんな事より、今は妖怪である。雅曰く、被害はこの近辺に集中しているらしい。それはつまり、調布市に“ナニカ”がいるという事だ。またしても(・・・・・)

 ――――――今まで気付いていなかっただけなのかもしれないが、流石に多過ぎるような気もする。まるで、何かに引き寄せられるかのように。

 

(……いや、今は余計な事を考えてる場合じゃないわね)

 

 真名はHRの鐘が鳴ったのをこれ幸いと切り替えた。幾ら考えた所で分からない物は分からないので、今は出来る事に集中すべきだろう。

 そう、HRを眠らずに乗り切る為の心構え、とか。

 

「……それじゃあ、今夜ね」「分かったわ。お願いね」

 

 そんな真名の寝耳に、水面のように静かで小さな会話が入って来る。そっと目を向ければ、藤花と誰かが約束事をしているようだった。今夜に一体、何をしようというのか。

 

(そう言えば、被害は何時も夜に起きているのよね……)

 

 ようするに、そういう事(・・・・・)なのかもしれない。

 真名は放課後、二人の後を付ける事にした。

 

(そうと決まれば、まずはねこ姉さんに連絡ね)

 

 さらに、休み時間まで待つのが惜しくなったのか、HR中にLINEを送った。何だかんだで、彼女も立派に不真面目である。

 しかし、真名は今宵、酷く後悔し、恐怖する事となる。

 

 ……何故、自分たちならどうにか出来る、などと考えたのかを。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 放課後、逢魔ヶ時。

 

「………………」

 

 真名は藤花と名前も覚えていないクラスメイト(♀)の後を付けていた。

 

(何処に行くんだろう……)

 

 ここは調布市でもかなり外れの方で、女生徒二人で夜歩きするには少々危ない場所だ。現れるのが不審者ならまだしも(それも良くないが)、妖怪の類だったら一溜りも無い。少なくとも一人は(・・・・・・・・)

 

『まな』「ひゃいっ!?」

 

 と、後ろから肩を叩かれ、真名は変な声を上げた。

 

「な、何だ、ねこ姉さんかぁ……」

 

 振り向いた先にいたのは、彼女の憧れの存在である猫娘だった。

 紫色の髪をシニョンに纏め、リボンで結わいでいる女の子らしいヘアスタイルに、まさしくお姉さんという顔立ちをした、可愛らしさと美しさを両立させた、素晴らしい相貌。高身長にくびれた腰、きめ細やかな肌と、モデル顔負けのスタイリッシュな体形。白いシャツにフレアのミニスカートという乙女チックな格好をしているのに、これでもかと見せ付けられる生足のせいで、妙に艶めかしい。赤いチョーカーとアンクレットが良い味を出している。

 そんな絵から飛び出して来たような彼女だが、その正体は猫の半妖怪であり、猫由来の高い身体能力を持ち、並みの妖怪なら軽くあしらえる。めっちゃ強いのに、素敵で、綺麗で、すっごくかっこいい。それが猫娘なのである。

 

「――――――って言うか、驚かさないで下さいよー」

 

 幸い先行く二人には気付かれていないようだが、危ない所だった。

 

『……突っ走り過ぎ』

「あたっ!」

 

 だが、猫娘の返事はデコピンだった。地味に痛い。

 しかし、それは自分を心配しての事であって、真名もそれが分かっているので、「はぁい」と涙目ながらも素直に謝った。二人の仲の良さが窺える。……若干良過ぎるようにも思えるが、気にしたら負け。

 

『それで、あの子がそうなの?』

「はい。藤花さんって言います」

 

 猫娘が藤花を睨め付けながら言い、真名が同意しつつ詳細を話す。

 雅によれば、藤花は男女問わず気に入った子を見付けると、決められた日に夜間デートに向かうらしく、出掛けた生徒は二度と帰って来ないとか。

 

『思いっきり妖しいわね』

「そうですね」

 

 むしろ、何で誰も気にしていないのかがさっぱり分からない。もしかすると、敵は認識を誤魔化す能力があるのかもしれない。

 何れにしろ、藤花が妖怪と通じているのは間違いなさそうだ。

 

『……建物に入るわ』

 

 それから尾行する事、数十分。藤花たちは、鬱蒼とした竹林の中にポツンと佇む、古びた屋敷に入って行った。一昔前は大地主だった事が窺える豪華さだが、今ではすっかり荒れ果て、朽ちている。庭に咲き誇る曼殊沙華も何故か真っ青で、不気味だった。

 

「何この臭い……」

 

 しかも、屋敷の庭に一歩踏み入れた瞬間から漂い、充満している強烈な臭いが鼻を突く。

 それは砂糖菓子すら及びもつかない程に甘く――――――腐った死体のような臭いだった。

 

「『………………』」

 

 二人共、もはや喋る事すら億劫になり、唯々冷や汗を垂らしながら、屋敷の中へと歩を進める。腐った床は気を付けていてもギシギシと音が鳴り、今にも踏み抜いてしまいそうである。

 

「キャッ……!」『まな!』

 

 とか何とか言っていたら、本当に床が抜けてしまった。間一髪で猫娘が真名の手を掴み、事なきを得る。

 だがしかし、

 

「ひっ……!」『これは……!』

 

 露わになった床下の有様に、真名と猫娘は血の気が引いた。

 真名と同い年くらいの、小柄な人間――――――その死体が、捩じくれ、絡み合い、腐り果てている。殆どは白骨化しているが、中には死んで間もないのか、生乾きの腐乱死体もあった。湧き出る蛆が腐汁の中で蠢き、生命力をばら撒いている。

 

「うっ……ぐぅ……!」

 

 真名は思わず吐きそうになるが、こんな所でリバースしたらそれこそ止まりそうも無いので、我慢した。猫娘も酷い臭いに顔を顰めている。

 とても妖怪の所業(・・・・・・・・)とは思えない(・・・・・・)。何故なら、妖怪であれば死体を残しておく筈がないからだ。

 かと言って、人間業とも思えない。何せ死体が宿り木のようにギチギチに絡んでいるのである。人力ではまず不可能だろう。

 では、一体誰の……何の仕業なのか。その答えが、この先にある。

 知りたいけど、分かりたくない、そんな物が。

 

「……ぃい……気持ち良い!」

 

 ふと、屋敷の奥から妙に色っぽい声が聞こえてくる。進んでみると、奥座敷から妖しい光が漏れ、声も漏れていた。

 そして、そっと襖の間から覗いた二人の目に飛び込んで来たのは、

 

「ああ♪ 好きです、大好きですぅ♪ 藤花さぁああああん♪」

「ええ、私もよ、里子さん♪」

『ウフフフフ……♪』

 

 あられもない姿で絡み合う藤花と里子(クラスメイト)、それを愛おしそうに見下ろす美しく妖しい女性であった。




◆犬山 まな

 漢字で書くと「真名」。前世・血筋・体質と、色々な宿命を背負わされた、結構可哀想な生い立ちの女の子。その上、今作では更なる業を背負わされた。
 しかし、本人は天真爛漫(でも少し強か)な女子中学生でしかない。鬼太郎と出会って以来「分からないモノとも分かり合いたい」と考えるようになり、気難しい鬼太郎やお姉さまな猫娘とも宜しくやっている。好奇心が旺盛で行動力もある為、常日頃から様々なトラブルに巻き込まれ、周囲を振り回していく。
 男っ気がまるでなく、妖怪にしかモテない疑惑がある。
 ついでに、猫娘に対して友情や憧れを超えた何かを抱いている可能性も指摘されている。

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