鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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先ずは手始めに……。


運命の戦争

「なぁ、姉さん」

「何だよ、円花(まどか)

「ゴシャハギ!」『グヴォオオオオッ!』

「冷静に伝えるなよ!?」

 

 通りすがりのゴシャハギに何時もの張り付いた笑みで指を差す円花に、俺――――――梅田(うめだ) 六花(りっか)は全力で突っ込み、すぐさま踵を返した。

 ここはカントー地方。東京都の跡地に設けられた禁足地。ポケモンやモンハンのモンスターが跋扈する、世界でも有数の危険地帯である。

 

『ガヴォオオオッ!』

「追って来るねぇ♪」

「見りゃ分かるよ! ……クソッ! 行け、リザードン!」『バギュアッ!』

 

 そんな恐ろしい隠れ里に、何故ただの人間が居るのかと言うと……俺らがポケモントレーナーだ。

 政府の方針により、ポケモンとモンハンのモンスターを1ヶ所に押し込め、超大型巨人でも越えられない「命の壁」によって取り囲み、完全に隔離状態となったのだが――――――彼らを手持ちやオトモンにしていた人間も一緒に閉じ込められた。大空総理大臣様がポケモンとモンハンのモンスターを害獣とし、それらを所持している者も人でなしとして扱っているからである。

 よくそんな過激な差別主義者が総理大臣でいられるなとは思うが、あの大災害を考えれば仕方無いだろう。世間が受け入れるのは対岸の火事までだからな。降り掛かる火の粉は払い除けられるのは当然と言える。それが例え同じ人間だとしても。

 だが、押し込められる方は堪った物じゃない。災厄の原因とは言え、彼らのおかげで命を拾った身としては、撮り上げられるなんて御免だし、かと言って甘んじて処刑(処罰に非ず)される気も無いので、差別されようと禁足地に踏み入る以外、道が無かったのだ。

 そして、同じ境遇の物同士で身を寄せ合い、己の相棒たちの力を借りながら、独自の生活を始めたのである。

 

『ヴォオオオオオッ!』

「リザードン、「かえんほうしゃ」!」『バォオオオオッ!』

『グヴヴヴ……ゴァアアアアアアッ!』

「クソッ、流石に牙獣種は体力が多いな!」『グゥゥゥ……』

「――――――狩猟を開始する!」

「うぉっ!? ハンターか!?」『バギュアッ!?』

 

 しかし、人が集まれば派閥が生まれる。ポケモントレーナー、ポケモンレンジャー、モンスターハンター、モンスターライダー、etc……数え出したら切りがない。

 強いて言えば、派閥はポケモン派とモンハン派に大別され、モンハン側は更にハンターとライダーに二分される。これらの派閥は基本的に相容れず、小競り合いまでは行かないが、お互いに不干渉を貫いている。どれかがピンチに陥っても、自分にも火の粉が降り掛からない限りは援助も援護もしないのだ。

 だから、こうして森の中で雪鬼獣に襲われているトレーナーの卵をハンターが助けるなど、普通は有り得ない事なのである。

 

「おおっ、フィオレーネさんじゃん! リアルで見ると、中々に良い女だねぇ。そう思わないかい、姉さん?」

「俺に聞くなよ。つーか戦えよ……」『ドォーン』

 

 というか、サンブレイクのヒロイン枠である「フィオレーネ」その人だった。モンスターが居るからって、モンハン世界の登場人物まで存在していいのか?

 まぁ、助けてくれるなら、別に何でも良いさ。

 

『ヴォオオオオッ!』

「ファルコォォォン、パァァァンチッ!」

『グヴォオオオッ!?』

 

 おお、咆哮に滅・昇竜撃を合わせて昏倒させたぞ。盟勇クエストでもバシバシ当ててくれていたが、その実力は顕在か。

 ……つーかさ、本当にこいつはフィオレーネ本人なのか?

 今、明らかに「ファルコン・パンチ」って言ったぞ。実は中身だけ別人とか、そんなノリだったりして。現に俺たち姉妹という前例があるから、転移・転生が有り得ないとは言い切れない。

 結局、使えるモノは使うという方針に変わりは無いけど。

 

「吹き飛べ!」『グヴォァッ……!』

 

 とか何とか言っている間に、フィオレーネにゴシャハギが討伐された。散々罠で嵌めて爆破して、最後にジャストラッシュを決めるとか、実に片手剣らしい戦い方をしている。素材もしっかり剥ぎ取っちゃってまぁ。

 

「フゥ……ここは何処だ? キミたちは?」

「「ポケモントレーナーです」」

「ほぅ、ここにはポケモンも居るのか。中々に面白い世界だ」

「「………………」」

 

 うーん、こいつやっぱり憑依者なんじゃ……?

 

「ところで、近くに集落は無いかな? この森で目を覚まして以来、全く休息を取っていないのでな。代わりと言っては何だが、私で良ければ護衛をしよう。なぁに、これでも騎士団筆頭なんでね。実力は保証する」

「は、はぁ……」

「ま、良ーんでない?」

 

 そういう事に為った。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 カントー地方、「トキワシティ」……と言う名のナニカ。

 東京大事変の後、東京都はほんの数十日で緑溢れる大自然と化した為、その一部を切り開いて各々が集落を起こし、ゲームにちなんだ名前で呼んでいる。なので、シティと言えど赤・緑時代の「タウン」ぐらいしか発展していない。ホワイトフォレストみたいなのが散在していると考えると、イメージし易いだろう。

 

「おねぇちゃんたち、おかえり~」『ケェエエエエン!』

 

 そんなトキワシティ(笑)の自宅にて、仮称「トキワの森」から帰還した俺たちを、末妹の姫花(ひめか)が出迎える。相棒の「ぽっぽー」ことケンホロウも元気一杯だ。元は一介のマメパトに過ぎなかった彼だが、姫花を守る為なのか、猛烈な勢いで進化を果たし、今では頼もしい護衛役になっている。他にもラランテスやニンフィアも控えているので、例え同じポケモントレーナーだとしても、姫花に手を出すのは容易な事ではない。

 まぁ、そんな輩は俺が直々に手を下してやるがな。黒いリザードンの火が吹くぜぇ。

 ちなみに、俺の手持ちはさっきも見せた黒いリザードンに、赤いギャラドスとパープルなプテラの3匹。見事にでんきタイプで沈められるパーティーである。サトシには勝て無さそう。一応は切り札がもう1匹居るけど、そいつとは日が浅いからなぁ……。

 一方、円花の手持ちは、ヒスイクレベース、ラプラス、ユキメノコ、アローラキュウコン、ハルクジラの5体。全員、ある日に難破した貨物船の中から出て来たのを捕まえた個体だ。こいつ、本当に何でも有りだな……。

 

「おねえちゃん、そのひとだれ~?」

 

 と、姫花がフィオレーネを指差す。前に会った謎の覆面ハンターに比べたら怪しさは薄いからか、割と躊躇なく近寄っていく。この好奇心、吉より凶と出る事の方が多いから、いい加減に矯正しないとマズいかぁ?

 

「あー、通りすがりのハンターの――――――」

「フィオレーネだ。ちなみに、ハンターではなく騎士だから、そこの所は宜しく」

「――――――だ、そうだぜ」

 

 正直どっちも同じだろうがよ。

 

「そーなのかー」

 

 そーなのだー。全然理解してないね、キミ。別段問題無いけどさ。

 

「さて、色々と聞きたい所だが……」

「そうだな。先ずは自己紹介と行こう。私はフィオレーネ。とある王国で騎士団の筆頭を務めている」

 

 うん、それは知ってる。散々ゲームでやったからね。

 

「しかし、ある日、メル・ゼナという古龍の毒に倒れてな。……で、目を覚ましたら何故か知らない森の中にて、途方に暮れていた所にゴシャハギの唸り声と女の子の声が聞こえた物だから、急いで馳せ参じた訳だ」

「ふーん……」

 

 つまり、自分もどうして森の中に転移したのか分かっていないと。というか、転移した事自体が分かって無いようだな。

 

「それじゃあ、先ずは誤解をとく所から始めようと思うが……ここはアンタの知る世界じゃない。元は東京って大都市で、今は「カントー地方」って名前で呼ばれてる。アンタのよく知るモンスターと、ポケモンって不思議な生き物が跋扈する、一般人は立ち入り禁止の“禁足地”さ」

「東京!? カントー地方だと!? というかポケモンも居るのか! ケンホロウが居る時点でそうなんじゃないかとは思っていたが、そいつは是非見てみたい物だな!」

 

 ……確信した。こいつ、側だけフィオレーネで、中身は別人だな。本人も「あ!」って顔しているが、今更遅いぞ。

 

「えーっと……」

「ああ、良いさ。別にアンタがラノベに有りがちな憑依転生者だろうと、見た目がフィオレーネである事には変わりない」

「“さん”を付けろよデコ助」

「開き直ったな。いや、まぁ良いけど。ともかく、そういう事だから、色々と宜しく、フィオレーネさん(・・)

「よろしい」

 

 よろしいじゃねぇよ。これ絶対に中身はオタク野郎だな。それも面倒臭いタイプの。

 

「ちなみに、俺の中身は“妓夫太郎”だ」

「ああ、どうりで見た事あると思ったよ。性別も年齢も違うから、面影くらいしかないけど」

「なぁ、2人共、自分たちだけで盛り上がるの止めない?」

「「地獄に落ちろクソ野郎」」

「いきなり酷くない?」

 

 良いからお前は黙っとけ円花。

 

「――――――とりあえず、ここが私の居るべき場所ではない事は分かった」

「そりゃ有難い。で、どうするつもりだ?」

「唄にあるように、還るべき場所を見付けるさ。“向こう”は色々と立て込んでいるんでね」

「そうか……」

 

 今までの言葉から察するに、時系列的にはガイアデルムが這い出て来るよりも前だな。少なくとも、まだメル・ゼナが討伐されておらず、キュリアを野に放った元凶として扱われている頃だろう。

 だが、同時に疑問点が浮上し始めている時期でもある。こいつがサンブレイクのプレイヤーなのは間違いないとして、何処までクリアした経験があるのか次第だが……。

 

「ガイアデルムは現れたか?」

「誰だ、そいつは? そんな盟勇居たか?」

 

 あ、こりゃあ体験版か序盤ぐらいしかやってないな。

 ……このまま見過ごすのも手だが、ちょっとくらいはチートをくれてやるか。ただし、ネタバレを回避する為にも、ほんのちょっぴりだけどな。

 

「まぁ、還れるかどうかも分からん内に言うのも何だが……メル・ゼナは殺さん方が良いぞ」

「何だそれは? どういう意味だ?」

「さてね……」

「おい、まさかそれ、ネタバ――――――」

 

 と、フィオレーネが何か言おうとした、その時。

 

『ケェエエン!』「ぽっぽー?」

 

 突如、ケンホロウのぽっぽーが外に向かって金切り声を出す。殆ど同じタイミングで手持ちのモンスターボールがカタカタと揺れ始め、外も俄かに騒がしくなる。チラリと窓から覗いてみれば、森中のポケモンやモンスターが空を見上げて吠えているではないか。

 それはまるで、恐ろしい何かへ必死に威嚇しているようであり、

 

「あれは……」「何だ!?」「おいおい、こりゃ凄いね」「どらごーん!」

 

 俺たちもポケモンたちに倣い、外へ出て天を仰いでみれば、何時の間にか空は闇黒に染まっていて、

 

 

 

『グゥゥゥゥ……バァォオオオオオオオオオオァン!』

 

 

 

 ブラックホールのような次元のゲートから、巨大なドラゴン――――――伝説の黒龍「ミラボレアス」がカントーの地に降りようとしていた。




◆ミラボレアス

 禁忌の古龍にして、伝説の黒龍とも謳われる、圧倒的な破壊者。その名は「運命の戦争」を意味しており、人類やモンスターどころか、他の古龍とさえ敵対している。
 ドストレートに邪悪なドラゴンといった姿をしており、口から国をも1晩で焼き尽くす程の爆炎を吐く。事実、遥か昔に存在した、現大陸の殆どを支配していた巨大国家「シュレイド王国」を滅ぼし、東と西に分断してしまった。
 現在は自らが手を下し廃墟へ変えた「シュレイド城跡」へ陣取り悠久の時を過ごしているようだが、常に滞在している訳でもなく、何らかの条件を満たした時に、天を切り裂いて現れるという。この事から、ミラボレアスは時空を超える能力があるとする学者もいる。
 似たような禁忌の古龍は他にも存在が、大国1つを実際に滅ぼしている点から、黒龍が1番の実害を出していると言える。
 この世界に現れたのは、一体何の為だろうか……?

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