鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 ※若干悪趣味な描写がありマス。ご注意くだサイ。


姑獲鳥の鳴く頃に

「ね、ねこ姉さん、これは……?」

『み、見ちゃ駄目よ、まな……!』

 

 そう言いつつ、じっくりとっぷり観てしまう真名と猫娘。

 だが、無理もないだろう。母親と思しき人物に見下ろされる中で、喘ぎ声を上げ、潮を噴きながら、若い身空の少女たちがナメクジよりも濃密に交接しているのだから。ここまで異常だと、逆に興味が湧く。

 しかし、お楽しみ(意味深)は長続きしなかった。

 

「ああ、逝くぅうううううう!」

 

 絶頂に達した里子が、そのまま昇天したのだ。直前まで絡んでいた、藤花のだいしゅきホールドで背骨と肋骨を粉砕骨折(バキバキ)にされて。

 

「はい、お母さんも♪」

『ありがとう、良い子ね』

 

 さらに、藤花は里子の死体を両手で頭上に掲げると、とんでもない馬鹿力で雑巾のように捩じり、絞った血を女性と共に啜り始めた。凄まじいゴアっぷりだが、何故だかとても煽情的で艶美な絵面である。

 

(こいつら、吸血鬼なの!?)

 

 そのあまりにあんまりな藤花たちの姿に、猫娘がドン引きする。

 だが、藤花の匂いは間違いなく人間であり、妖気は微塵も感じられなかった。おそらく、あの妖しい女性によって肉体の箍が外されているのだろう。

 

「嗚呼、お母さん、お母さぁん♪」『よしよし、偉いわよ、藤花』

(甘えてる……親子みたいに……!)

 

 何なんだ、この二人は。ほんの数十秒前はあれだけ異常な事をしていた癖に、今は普通に母子の如く抱き合っている。見ていて非常に気持ちが悪い。反吐が出る。

 

(……そう言えば、真名が随分静かね?)

 

 てっきり怯え震えているかと思ったのだが、真名はただ静かに猫娘を見詰めているだけだった。

 

「ねこ、姉さん……」

(いや、違う! 何かに中てられてる!)

 

 しかし、濁った瞳と紅潮した顔から、すぐに正気を失っている事が分かった。雰囲気は流石に無いとして、原因はこの甘ったるい腐臭か。今気付いたが、匂いの元は奥座敷(ここ)だ。

 という事は、これはあの女性の妖術という事になる。

 

「ねこ姉さぁん♪」

(マ、マズい……!)

 

 驚いている間に組み伏せられてしまった。これでは振り払えない。

 

『あらあら、お客さんかしら?』「そうみたいね、お母さん」

 

 その上、倒れた時の音で、藤花と女性に気付かれてしまった。誰が触れた訳でもないのに襖がピシャリと開き、両者が面会する。片や裸で抱き合う血塗れの母子、片や今にもおっぱじめそうな少女と妖女。何とも混沌とした状況である。

 

『な、何なのよ、アンタたち! この子に何をしたのよ!?』「ねこ姉さん、私、もう……」

 

 真名の良いように服を少しずつ脱がされるという締まらない恰好で、猫娘が叫ぶ。もはや羞恥しかない。

 

『私が誰かって? 私は姑獲鳥(うぶめ)よ。そして、藤花(このこ)は私の愛しい一人娘……』

 

 すると、女性の身体が背中から裏返り、獣の耳と蟲のような瞳の無い丸い眼玉を持つ、巨大な怪鳥へと変じた。それまで以上の甘美な腐臭を垂れ流しながら。

 

◆『分類及び種族名称:死産怪鳥=姑獲鳥』

◆『弱点:炎』

 

『グヴェェェイァアアアアアッ!』

 

 そして、愛娘である藤花をくっ付けたまま、恐ろしい金切り声を上げて襲い掛かってきた。

 

『くっ……まな、もっと強く、しっかりと抱き締めて!』「はい、ねこ姉さん♪」

 

 猫娘は妖気を解放し、真名にギュッと抱き締められつつ、跳びはねる。思った以上に強い力でガッチリと組み付かれていたので、いっその事もっとキチンと抱いて貰った方が安定する、と判断した結果である。抱き締める力が強まった時に、猫娘の口から「あっ……♪」という甘い声が零れたのは内緒だ。

 

『ギャァヴォオオオオッ!』『くぅっ!』「「はぁん♪」」

 

 屋敷とは言え、狭くて古ぼけた奥座敷でそんな真似をしたので、たちまち屋根を突き抜け、夜闇の中へ躍り出る。双方共に腹に女子を抱えているという奇妙な格好だが、姑獲鳥も猫娘も至極大真面目である。お腹の二人は知らないが。

 

『何なのよ、本当に……!』

『ウフフフ、私はただ、娘の望みを叶えているだけよ』

 

 猫娘が目を光らせ、爪を伸ばして威嚇するも、姑獲鳥は何でもないように答える。

 

『娘の望みですって?』

『ええ、そうよ。この子はとても可哀想な子なの』

 

 さらに、異形である筈なのに、人間態時の笑みが想像出来てしまう程に嬉々として、己と娘の生い立ちを語り出した。

 

『この子はねぇ、自分と同世代の同性しか愛せないの。しかも、殺す事でしか愛情表現が出来ない、哀れな子供よ。だから、ワタシが引き取り、育てているの。今までは可愛がる事だけしか眼中に無かったけど、こんな面白い子が(・・・・・・・・)育ったらどうなるのか(・・・・・・・・・・)、という楽しみに目覚めちゃってねぇ♪』

『な、何を言っているのよ、アンタ……!?』

 

 姑獲鳥の発言に、絶句する猫娘。何を言っているのか、一から十まで分からない。姑獲鳥は死産した女のお化けだと言われているが、何処まで業を積み重ねると、これ程までに腐り果てるのだろうか。全く理解出来ないし、したくもない。

 最早、元が人間だったかどうかなど関係ない……こいつは、存在してはいけない生き物だ。

 

『……お邪魔だったかな? なら、お詫びに一曲弾いてやろうか?』

「そういうレベルじゃないと思うっスけど……」

 

 だが、猫娘が姑獲鳥を八つ裂きにしようと、牙や爪を鋭くしたその瞬間――――――“それら”は現れた。




◆猫娘

 ゲゲゲの鬼太郎における“妖怪側のヒロイン”。
 半妖だったり完全な妖怪だったり逆に気病を患った人間だったりと、出自がぬらりひょんばりにあやふやだが、とある一件で寝子(人間)のように地獄に留まらなかった所を見るに、6期の彼女は少なくとも半妖以上ではあると思われる。
 何れにしろ「鬼太郎の幼馴染」という側面は変わらず、鈍感系主人公の鬼太郎にヤキモキしているのはどの世界線でも一緒。6期は“彼女”が出来掛けているのは内緒。
 6期の猫娘は戦闘能力が高く、過去作ならあっさり無力化されそうな相手にも善戦するどころか致命傷を与えるレベルまで上昇している。等身が伸びたおかげだろうか。
 ねずみ男とは天敵同士だが、実は一番理解し合っている間柄でもある。まなとは、その……お察しください。

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