鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

13 / 116
 たブン、姑獲鳥にとっては死ぬよりキツい結末を迎える事になりそうデス。


野生の裏ボスが現れた!

 琵琶を持った着物姿の大和撫子にチャラい男という、中々に異色の組み合わせ。

 しかも、よく見ると女の方は単眼の異形。チャラい奴は人間のようだが、そんなのと一緒にいる時点で堅気ではあるまい。

 しかし、一番驚くべきは、その出現方法だろう。

 突如、中空に襖が現れたかと思うと、中から男女の異色ペアが出て来た。何を言ってるか分からねーと思うが、猫娘たちにも分からない。実に異彩を放つ連中である。溢れ出る妖気も凄まじい。

 

 “野生の裏ボスが現れた”。

 

 まさにそんな感じなのだ、あの女は。

 

『な、何よ、あんたは!』「答えなさいよ!」

『おい、Wikipedia、こいつで間違いないか?』

「最早チャラ男ですらないですね。……ええ、間違いなく、こいつが姑獲鳥っス」

 

 姑獲鳥たちもそれを感じ取り、抱っこを止めて威嚇態勢に入ったのだが、琵琶の女は軽く無視。チャラ男に事実確認を始めた。その有様は、獲物を前にした狩人。姑獲鳥に対して何の脅威も感じていない事が明白だった。

 そして、それは紛れもない事実であった。

 

『グヴェエエイヴァアアアッ!』「死ねぇええええっ!」

『煩いぞ鴨が』

『ガッ……!?』「きゃっ!?」

 

 襲い来る姑獲鳥と藤花を、振り向きもせずに無力化する琵琶の女。藤花は伸びる髪で縛り上げ、姑獲鳥は四つの鋭利な襖(・・・・)で五等分にしたのだ。

 

(嘘でしょ……!?)

 

 猫娘は驚愕した。

 さっき接触したから分かるが、姑獲鳥の羽毛は肌触りの良さに反して、鋼鉄のように硬い。真面に引っ掻いたら、自分の爪でも刃こぼれするだろう。

 だから、相手の目を狙って攻撃しようとしたのだが、まさかそれを絹ごし豆腐のように切断してしまうとは。恐ろしい殺傷力である。

 その上、髪も自由自在に操れるとなると、近付く事すらままなるまい。接近戦オンリーの猫娘にとって、相性が悪過ぎる。

 

「……あ、あれ? ねこ姉さん!? 私は一体何を……!?」

『おはよう、まな。さっきはお楽しみだったわね』

「何の話ですか!?」

 

 一応、姑獲鳥が瀕死の重傷を負ったおかげで真名に掛かった妖術も解かれたが、喜んでばかりもいられない。

 

『嬉しや嬉しや。こやつが、約束の母か』『ヒッ……!?』

 

 まず姑獲鳥が新たに出現した襖の中に引きずり込まれて退場。奥に六本腕の座敷童子が居たような気がするが、速過ぎて確認出来なかった。

 

『とりあえず、小腹でも満たすか』「え、あ……ちょ、待っ……!」

 

 さらに、姑獲鳥の加護を失い、ただの人に戻った藤花が女の胸元に運ばれる。

 

「い、いや! 誰か助け……ぎゃああああああああああああああ!」

『おいおい、殺人鬼が助けては無いだろ。むしろ、私にハグされて死ねる事を感謝して敬え』

 

 そして、母親が子供を抱きしめるようにして食い尽くした。血の一滴すら残さずに。

 

『……うーん、妖怪の味を知った後だと、やっぱり人間って薄味に感じるな』

「まぁ、言って一人分ですからねー」

『まったくだ。何人、何十人殺していても、所詮は一個人。実に薄っぺらな、下らない人生の歩みを感じさせてくれるよ』

 

 しかも、問答無用で食った相手を、これでもかと扱き下ろす。賞味期限が切れたスーパーの半額豆腐をそのまま食べたような感想だった。

 これで確信出来た。この女は人も妖怪も関係なく、命を何とも思っていない。食われた事実よりも琵琶の女にハグされた事を羨ましがる、連れのチャラ男も同類だろう。

 

「な、何て事を……!」

 

 これには真名もドン引き。常日頃から妖怪とも分かり合えると思っている彼女だが、この女はどうにも理解し難いようだ。ここまで見境の無い奴は流石に初めてだから仕方あるまい。

 だが、そんな物はまだ序の口だった。

 

『何だ、食った事を怒ってるのか? それとも味の品評が低過ぎたか? 自分を殺そうとした相手だろうに、お優しい事だ。だが、安心しろ。こんな薄味な奴でも、生まれた意味はある。こんな風にな(・・・・・・)。……ペッ!』

 

 と、琵琶の女が口から何かを吐き出す。

 

『うぅぅぅ……』

 

 それは藤花――――――の頭を持つ蜘蛛だった。大きさはタランチュラ程度だが、頭部(及び胸部)が人間なので、非常に薄気味悪い。

 

『私は一体……何よコレ!? どうなってるの!? いやぁあああああっ!』

 

 さらに、藤花としての意思はしっかりと残っているようで、己の変化に戸惑い、泣き叫んでいる。

 

『お前は今日から部屋の害虫駆除係だ。精々よく働け。うっかり潰されないようにな』

『そ、そんな……嫌よ! これからずっと虫を食って生きろって言うの!? だ、誰か助けて! 助けてまなさん! ……ぁああああああああああっ!』

 

 しかし、そんなの知った事じゃないとばかりに、琵琶の女はべべんと藤花蜘蛛を襖にしまい込む。彼女が陽の目を見る機会は、もうあるまい。

 

「あ、悪魔だ……!」

 

 それらの光景をまじまじと見せられた真名は、血の気の引いた顔で言った。未だに見た事は無いが、きっとこんな輩なのだろう。姑獲鳥や藤花の所業など、児戯に等しい。

 こいつこそ、本当の悪魔だ。

 

『悪魔と言うより鬼なんだがね。とりあえず、お褒めに預かり光栄だ。……そんな事より、とても美味しそうねぇ、お嬢ちゃん?』

「ひぅ……っ!?」

 

 すると、琵琶の女が標的を真名に変えた。今までの無表情が嘘のような、凄惨な笑みを浮かべている。

 

『こんな所で“稀血”に出会えるなんて、今日は実に素晴らしい日だ』

『シャアアアアアッ!』

 

 真名には手を出させ無い、と飛び掛かる猫娘だったが、

 

『引っ込んでろ野良猫。私はこの子とお話しがしたいんだよ』

『がっ!?』

 

 女が琵琶を奏でた瞬間、真空の刃が無数に放たれ、猫娘の身体を切り刻んだ。全身から血が噴き出し、至る所が曲がってはいけない方向に曲がっている。刃だけでなく、衝撃波も打ち出していたようである。

 

『あ……ぁ……ま、な……』

「ね、ねこ姉さん! そんな……そんなぁ……!」

 

 たったの一撃。それだけで憧れの猫娘が虫の息だ。真名をかつてない絶望が襲い掛かった。

 

『さて、ちょっとお話をしようか、お嬢ちゃん』「………………!」

 

 そんな真名の傍に、琵琶の女がしゃがみ込む。どうやら目線を合わせて話してくれるようだが、一方通行になるであろう事は想像に難くない。

 

『君はねぇ、とても貴重な人材なんだよ。……人材と言うより、食材かな?』

「し、食材!?」

『そう、稀血という特殊な血液型の持ち主でね。たった一人でも何十、何百人分の栄養価があるのさ。特に君は、億人単位の濃度を誇る、“稀に見る稀血”なんだよ』

「………………!」

 

 今明かされる、衝撃の真実。

 目玉おやじには「偶然力」という“妖怪に近い体質”を持っているとは言われていたが、その原因が自分の血液だとは。元々治せるものではないとは思っていたが、これで確定されたと言っていいだろう。

 だが、それを今知った所で意味はなく、むしろ処刑宣告をされたに近い。何せ相手は人も妖怪も食ってしまう、とんでもない悪食なのだから。

 

『さっきのは味気なさ過ぎたからね。ここらで美味しいディナーにあり付きたい訳よ。だから、ねぇ?』

「い、いや……!」

 

 そして、話は終わりだとばかりに、琵琶女の唇が迫る。まるで、キスを求める乙女のように。

 

「鳴女さん!」『………………!』

 

 しかし、いい所で邪魔が入った。上空から無数の光弾が降り注いだのである。




◆姑獲鳥(鬼滅の刃)

 柱になる前の不死川 実弥が、先輩格にして友人の粂野 匡近と共に赴いた古屋敷で出会った、下弦の壱の女鬼。
 一見すると弱った子供を世話する慈愛に満ちた聖母のように思えるが、実際は面倒を見る振りをして虐待し、あまつさえそれを「看病」と称して周囲の心配と同情を得る事に快感を覚える、所謂「代理ミュンヒハウゼン症候群」を患った精神疾患者。人間時代も鬼になってからも、その本質は一切合切変わらない。
 “鬼になった母親を自ら手に掛けた”トラウマを持っている実弥を篭絡し、食ってしまおうとしたが、匡近の捨て身の策で術を破られて逆上、匡近を殺したものの、それに激怒した実弥に頚チョンパされて死亡した。これにより実弥は風柱となった。姑獲鳥の後釜にはトーマス(魘夢)が就任している。
 その後、何故か鬼太郎のいる世界で種族としての姑獲鳥の一個体となり、藤花という面白い玩具で遊んでいたが、何時までもそんな身勝手さが許される程、世の中は甘く無かった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。