鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 6期の鬼太郎ッテ、弱くはないけど強くもない感じがするんですヨネー。斜に構えた小僧というか何といウカ……。


運命の戦い

『………………?』

 

 素早い動きで回避した琵琶の女が空を見上げると、そこには一反の木綿に跨る、不思議な少年の姿が。

 短めの茶髪で片目を隠したのっぺり顔をした、身長・体格共に小学生くらいの子供サイズだが、歴戦の勇士らしく、かなり鍛え上げられている。服装は紺色の学童服に縞柄(黄色と黒の二色)のちゃんちゃんこを羽織り、下駄を履いているなど、何処か昭和臭い格好をしている。学校では田中 ゲタ吉とか名乗ってそう。

 

『――――――何だぁ、あの主人公面した野郎は?』

「いや、面も何も主人公ですからね? 彼がかの有名な「鬼太郎」っスよ」

『ほほぅ、あいつが……シンセサイザーの』

「あんた俗世に染まり過ぎだろ。そっちじゃなくて、妖怪の方」

『ああ、幽霊族の方か』

「はい。ちなみに、これが今分かる彼のスペックですね」

『なるほどなるほど』

 

 そう、彼こそは幽霊族の末裔にして妖怪退治の専門家――――――ゲゲゲの鬼太郎その人だ(チャラ男wiki参照)。猫娘たちの危機を感じて、文字通りかっ飛んで来たのである。

 

『……遅れて済まない』

「き、鬼太郎!」「き……た……ろ……ぅ……!」

『一反木綿、まなと猫娘を頼む』『合点承知の助!』

 

 さらに、まなと猫娘を空飛ぶ布切れ妖怪「一反木綿」に任せて退避させ、自分は琵琶の女と対峙する。その瞳には明確な敵意がありありと浮かび上がっていた。自分の大切な仲間を傷付けられた怒りからであろう。

 まぁ、琵琶の人は、それくらいで怯むような女ではないのだが。今までもっとヤバい連中に付き纏われていたからね、仕方ないね。

 

『自己紹介は要らないようだな』

『ああ。代わりに私の紹介をしてやろう』

『必要ないね! 「髪の毛針」!』

 

 そして、鬼太郎はさっきまでとは打って変わって無表情に戻った琵琶の女に、問答無用で髪の毛針を放つ。妖気を宿した髪の毛を針のようにして発射する技で、特別強力な技でもないが、それでもコンクリートブロックを粉砕する威力はある。真面に食らえば、並みの妖怪では一溜りもない。

 

 ――――――べべん!

 

 だが、そんな針の筵も、琵琶の衝撃波によって一つ残らず薙ぎ払われてしまった。

 

『まぁ、そう言うなよ。自分を負かした相手の名前くらい、知っておきたいだろう?』

『うるさい! 「リモコン下駄」!』

 

 しかし、鬼太郎も負けじとリモコン下駄を射出する。この下駄は彼の念力によって自在に宙を舞い敵を打倒する、牽制技である髪の毛針よりも殺傷力の高い飛び道具だ。

 

『フン!』『なっ!?』

 

 だが、それさえも琵琶の女には通用しなかった。

 というか、衝撃波で防ぐどころか裏拳で殴り砕かれた。そこらの妖怪とは、根本的に肉体強度が段違いのようである。

 

『この……「体内電気」!』

 

 こうなっては仕方ないと、必殺技の一つを切る。敵に髪の毛を伸ばして巻き付け、雷級の電撃を浴びせるのだ。

 しかし、これも大したダメージにはならず、指先から伸びたで刀で髪を切断され、中止させられてしまう。感電している筈なのに、どうして動けるのか理由が知りたい。髪の毛をアースにでもしたのだろうか。

 

『「霊毛ちゃんちゃんこ」!』

 

 ならば、これでどうだと、先祖の霊毛を編み込んだちゃんちゃんこを伸ばし、琵琶女の顔面を覆い尽くす。これにより敵は窒息し、その上で霊力を吸い取られて消滅する……筈なのだが、

 

『ドラァッ!』『がはっ!?』

 

 琵琶の女は弱る素振りさえ見せず、ちゃんちゃんこをムンズと掴み、力いっぱい鬼太郎を投げ飛ばし、地面へ叩き付けた。リモコン下駄の時といい、とんでもない馬鹿力だ。

 

『くぅぅ……「指鉄砲」!』

 

 それでも鬼太郎は諦めない。目隠しされている今の内にと、指鉄砲を放つ。霊力を光弾として発射する技であり、さっきの不意打ちで使った連射式の時とは違い、チャージした上での大玉である。思わず「霊丸!」と叫びたくなる有様だ。

 

 ――――――べん!

 

『何っ……ぐわっ!』

 

 だが、とっておきの必殺技も、襖の転移攻撃であっさりと跳ね返されてしまった。どんな攻撃も当たらなければ意味は無い。

 

『……はぁっ!』

『ほ~う、やるねぇ』

 

 しかし、鬼太郎は咄嗟に霊毛ちゃんちゃんこを引き戻し、自らの手に巻き付け、返ってきた指鉄砲の光弾を受け止めて吸収――――――霊力を宿した光の剣に変えた。

 さらに、そのまま琵琶女に叩き込もうと猛進する。飛び道具が充てにならない以上、直接身体に刻み込むしかない。

 

『てぁっ!』

『ぬぅうん!』

『ぐぼぁっ!?』

 

 だが、琵琶の女は渾身の一撃をフワリと受け流し、合気道の要領でカウンターの拳と蹴りを殆ど同時に叩き込んだ。赤紫色のエフェクトが痛々しく重たい。これには鬼太郎も思わずダウン。立ち上がる事さえ出来ない瀕死のダメージを負った。

 

『ぐっ……くそっ……!』

『弱いな。所詮は再生力と地力頼みの喧嘩殺法か。今までの相手が相手だから仕方ないとは言え、対人戦闘という物を全く考慮していない。そんな事だから、こうして足元を掬われるんだよ』

 

 そんな彼を冷徹に見下ろし、琵琶の女が罵倒する。

 しかし、何も言えない。鬼太郎は今まで妖怪という異形の怪物を相手取ってきた。亜人型の者も多くいたが、大抵は野生の猿を思わせる獣染みた戦い方をする奴らばかりだった。

 妖怪にとって人間はスナック感覚のご飯であり、相手をするにしても身体スペックのみで事足りてしまう。それ故の弊害である。

 かと言って妖怪同士では妖術合戦になりがちで、やはり真面な技術のぶつけ合いにはなり難い。生存競争に「技を磨いて高め合う」暇など無いのだから。

 だので、強大な妖力と人間としての体術を併せ持った琵琶の女を相手にするのは、例え鬼太郎であっても分が悪かった。

 

「そろそろ帰りましょうよー」

『そうだな。稀血を逃すのは惜しいが、あの子は特別だ(・・・・・・・)。何れ機会はある。それに、煮ても焼いても切っても伸しても食えない奴を相手にするのも面倒だ。今日はもう帰るとしよう。それじゃ、バイバイキ~ン☆♪』

 

 そして、止めを刺そうとして、あるいは欲をかいて食べてしまい、ビックリ仰天な逆転劇に繋がる事もなく、琵琶の女は襖で転移して去って行った。完全に勝ち逃げだ。黒死牟(こくしぼう)がブチ切れそう。

 

『くそっ……!』

 

 結局、名前を聞く事どころか相手にすらされず、鬼太郎はここ最近は無かった、苦い敗北を味わう破目になった。

 雀の囀りと、キジバトのくぐもった鳴き声が、夜明けを告げる……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『……ここは!?』

 

 すっかり身体を再生し終え、美女の姿に戻った姑獲鳥が目を覚ます。

 見た事もない部屋。上下左右奥行きがあべこべな、あり得ない空間。

 

『おお、目を覚ましたか。なら、遊ぼう♪ 丸子と鞠で遊ぼう♪ ……朝も昼も夜も、永遠に♪』

 

 さらに、その一角で手招きする、座敷童子が一人。

 

『あ……ぁ……!』

 

 その瞬間、姑獲鳥は理解した。ここは地獄だと。

 屋敷の中では座敷童子に敵わない。運命率を操作され、都合の良い結果に導かれてしまうからである。

 そして、ここはあの琵琶女が用いる異空間。自分は二重に閉じ込められている。誰も可愛がれず、誰にも同情されない。全ては座敷童子と琵琶女の思うがまま。

 何も自分の思い通りに出来ないなんて、こんな生き地獄があるだろうか。

 

『いやぁあああああああああああああああああああああ!』

 

 無限城では、姑獲鳥の悲鳴は誰にも聞こえない。




◆鬼太郎

 フルネームは「墓場 鬼太郎」。世間的には「ゲゲゲの鬼太郎」で通している。妖怪退治の専門家として有名だが、人間に少し思う所があるだけで、別に人間の味方という訳ではない。悪人には容赦がないどころか、下手な妖怪より恐ろしい事をやってのける。こいつこそ本当の悪魔なんじゃねぇのって感じ。
 その正体は、かつて世界の覇権を握っていたという妖怪の一族「幽霊族」の末裔。凄まじい生命力が最大の特徴で、切っても焼いても潰しても溶かしても食われても死なず、ほぼ必ず復活する。むしろ、食ったら敵の死亡フラグである。
 時期や年代によって性格が違っており、6期の頃は非常にニヒルでリアリスト(実際には斜に構えた子供って感じだが)。その為、人間への対応は歴代で一番冷たく、真名にも初めは辛く当たっていたが、その一生懸命さと天真爛漫な心に影響を受け、後に和解した。
 ……ちなみに、今作中では鳴女に負けてしまったが、ここで彼が駆け付けなかった場合、名無しが完全体になる事は無かったものの、その代わりにヤトノカミもビックリな邪神が誕生する所だったので、ファインプレーではある。今回は初見だった事も大きいが、鳴女の進化速度が異常だっただけ。

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