やぁ、こんにちは。
ぼくはキッド。皆には、そう呼ばれていた。
少し前までは人間だったけど、今はただのマスコット。あのお婆さんの趣味らしいね、この姿。
しかし、ぼくは死んでしまった。あの地獄のような船の中で。ぼくは“あの子”の助けになれたのだろうか。
だが、全ては過ぎ去った出来事。結果を知る方法は、もう無い。
そして、ぼくは不思議な森で目を覚ました。枯れ木ばかりの不毛な大地。誰もいないし、何も無い。夢も希望も、何もかも。
しかし、“あの人”が来た瞬間、全てが変わった。枯れ木は潤い色付いて、草花は歌い、動物は立って歩きだす。とても楽しそうな世界だった。
さらに、“あの人”が思い描く通りに風景や住人の姿が書き換わり、次々と騒動が巻き起こる。何て楽しい人なんだろうか。着物姿は誰かを思い出して嫌だけど、もっとずっと見ていたいと思ったんだ。
だが、何事にも別れがある。ちょっとアレな科学者と一悶着あった後、その時が来た。寂しそうな笑顔で手を振る“あの人”に、ぼくも手を振り返す。
……そして、ぼくは何故か“あの人”と居候する事になった。
何を言っているのかって?
うん、ぼくにも分からない。一度死んで、目を覚まして、また別の世界にやって来た。
ここは何処なんだろう?
あの船のゲストエリアのように和風だが、上も下も右も左もあべこべで、重力も一定ではない。誰も何もかもが、好き勝手に着地している。ある種の異空間みたいだけど、詳しい事はさっぱりだ。
まぁ、良いや。ぼくも結局は姿が変わったままだし、次があるのかも分からない。それでも“あの人”と一緒なら、何処でだって楽しくやって行けるだろう。
というか、実際に面白い。今日はそんな“あの人”や、その周囲を取り巻く人々の様子を見てみようかと思う。
さっそく、まずは“あの人”――――――零余子さん、なんだけど、
「えっと、印を消して……ぬっ!? ……へ、えへへ……わ、分かってるもんね! どうせ、一回目は死ぬんでしょ!? 良い臀部しやがって……いくら決めポーズ取ったからって、私はぁあああっ!? ちょ、いや、それはアスリート……ぱぉおおおおおおん! アニバーサリィーッ!」
《はっはっはっはっ!》《まぁ、最初は死ぬよね》《伝統だもんね》《ぴえんは超えられなかったか》《パワーアップしとったなぁ》《つーか、アニバーサリーって何だよ》《意味☆不明》
……何の記念日なんだろう?
相変わらずよく分らない人である。何時もゲームをしてるか歌ってるし、外に出る気配は微塵も無い。引き籠りかな?
あと、何で裸なのかなぁ。あの森ではちゃんと着てたのに。そういう趣味なんだろうか。
しかし、何故か彼女の近くにいるとホッとするというか、親近感が湧くというか、魂に刻まれた何かを感じるというか……ともかく、零余子さんの傍に居たいという気持ちに嘘は無い。ホントだよ。服は着て欲しいけど。これでも男の子なんだよ、ぼくも。
ただこの人、言動や仕草が見た目よりずっと幼くて、思わずさんじゃなくて“ちゃん”付けしたくなっちゃうんだよねー。正直、デッカイ妹にしか見えないです、ハイ。間違いなく年上の筈なのに……。
そんな零余子さんだが、その人柄のおかげか周囲に色々な人がいる。
『あんたがたどこさ』『ひごさ』『ひごどこさ』『くまもとさ』『くまもとどこさ』『せんばさ』
仲良く鞠付きをしている二人は、丸子ちゃんと
傍らには姑獲鳥さんという奇麗な
さて、次はちょっと“外”に出てみようか。
この異空間は「無限城」という名前らしく、特定の襖を開けると別の狭い部屋に行ける。その部屋は現実世界の一部――――――曰く付きの格安アパートの一室、なんだとか。都会の駅近で家賃2万5千円って、逆に怖いよね。
「鳴女さん、シャワーまだかなぁ?」
このチャラチャラしている人が、ここの世帯主。零余子さんには「チャラ男先生」、他の皆には「チャラ男」とか「チャラトミ」とか呼ばれているけど、本名は知らない。無理して聞く気は無いから、別に良いけどね。
このチャラトミさんも、零余子さんと同じくゲームをしている事が多く、解説動画を撮っている場合もある。意外と生活力があるみたいで、家事全般を殆ど一人で熟している。これが「主夫」って奴だろうか。
『あ、ノームくん。お散歩かしら?』
おっと、藤花さんだ。
元は人間だったらしいけど、今はぼくと同じ手乗りサイズになっている。しかも、頭が人間で胴体は蜘蛛という、人面蜘蛛の状態。主な役目は害虫駆除で、毎日嫌そうに食べている。
そもそも、変えられた事自体が嫌みたいだけどね。気持ちは分かるけど、その内慣れるよ、きっと。
ちなみに、この子は基本的に部屋から出してはもらえない。無限城への立ち入りも禁止されている。無限城から出られない丸子ちゃんたちとは逆の扱いだ。
『ねぇねぇ、聞いてよ。この前さぁ……』
藤花ちゃんは、ぼくによく愚痴を言う。他の人だと告げ口されると思っているのだろう。ぼくがロクに喋れないのも都合が良いのかもしれない。内容が“自分が如何に不幸で可哀想なのか”って感じなので、同情は全く出来ないけど。蜘蛛に変えられたのは別として、後は自業自得じゃん。黙っとくけどね。
『……ふぅ、良い湯だった。あの入浴剤は当たりだな』
と、お風呂場の方から一つ目の鬼女が現れる。彼女が無限城の主にして、ここを牛耳っている鳴女さんである。ある意味全ての元凶と言えるかもしれない。
異空間を生み出す能力の他に、琵琶で音を操ったり、衝撃波を生み出したりと、かなり多彩なスキルを持っている。まだ見た事は無いけど、肉弾戦もかなり強いんだとか。
まさに全ての頂点って感じだ。仮にあのお婆さんと戦っても圧倒出来るだろう。それくらい凄いオーラを纏っている。
以上が零余子さんの周りにいる人々だ。家族とも友達とも言えないが、少なくとも仲間ではある、そんな間柄である。
ぼくは、零余子さんと家族になりたいなー。
『ぴきゅきゅ♪』
「あ、おかえり。一緒に動画でも見る?」
さぁ、今日も零余子さんと遊ぶぞ~♪
◆ランナウェイ・キッド
リトルナイトメアのDLC――――――謂わば外伝作品の主人公。おそらくはシックスと同じく、人間の子供。
何の特徴もない地味な男の子だが行動力はピカイチで、誰に言われるでもなく、船からの脱出を目指す。その度胸と(シックスとは違って)優しい性格からか、ノームにも人気。実は本編にも出演しており、シックスとも何度か遭遇している。
しかし、船の奥でモウの支配者:レディの秘密を知ってしまい……。
シックスが能動的トラウマの担当なら、こっちは受動的なトラウマ担当である。可哀想過ぎるだろ、この子。