鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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※鳴女さんはこの物語の主人公デス。


鳴女さん、久々に主人公する

 やぁ、諸君。何時でも何処でもアルカイックスマイル(無)の鳴女さんだ。

 何か久々に主人公をした気がするなぁ。最初はチャラトミと私だけだったのに、何時の間にか随分と賑やかになったものだ。主に零余子のせいで。

 あいつ、色んな所でフラグを立てては魑魅魍魎を引っ張り込んで来るからな。幾らお仕置きしても治らないし、最近は天然物だと諦めている。結果的にプラスになっているから、別に良いんだけど。

 

『そんな事より、一狩り行こうぜ!』

「それはモンハン的な意味ですか?」

『食事的な意味に決まっているだろう』

「ですよねー」

 

 言うまでも無かろうが。

 さぁ、チャラトミwikiの出番だぞ!

 

「――――――で、今晩のメニューは、どんな物をご所望で?」

 

 こいつも大分染まって来たな。

 だが、それで良い。順応性の高さこそ、生物として優れている証なのだから。

 

『そうだな……何かこう、ガツンと食いたい気分だ』

「深夜のドカ食いは太りますよ?」

『人間と一緒にするな。それに、私は元々夜行性だよ』

 

 琵琶の演奏も、基本的に夜の街でやってたからな。そういう意味では、鬼になってからも生活スタイルは変わってないのかもしれない。殺す→弾くの間に“食う”が挟まっただけで。

 

「ドカ食いするとなると、ある程度の大きさか数が要るっスよね。うーん、河童は流石に居ないだろうし……」

 

 チャラトミがうんうん唸っている。今までは一点物だったからね、しょうがないね。だけど、お前なら解決出来ると信じているぞ。

 

「……じゃあ、“化け狸”とかどうっスか?」

『狸か……』

 

 仕事の関係上、臭みが有る物は食べる機会が殆ど無かったけど、逆に新規開拓するチャンスか?

 とある漫画で読んで以来、ジビエ調理を食べてみたかったんだよねー。蛙とか蛇は微妙だけど、獣肉は普通に美味しそうだし。穴熊が意外とイケるんだっけ?

 

『でも、化け狸の本場って四国じゃなかったか?』

 

 しかし、私が食べるのは妖狸であって、そこらの畜生ではない。有名処の偽汽車の狸はとっくに死んでるし、狸囃子や竹切狸も今はもう居ないだろう。それなら稲荷狐を探した方が早い気がするんだけど。

 

「所がどっこい、今は居るんですよ。……地下深くにね」

 

 チャラトミが、ニヤリと笑って真下を指差した。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 チィーッス、皆のチャラトミさんだよ。

 今日は久方振りの鳴女さんとデートだ。零余子ちゃんが来てから、猛烈な勢いで住人が増えたからね。大半は無限城住まいで、残るは手乗りサイズだから、圧迫感は無いけどね。

 ああ、そうそう。俺のプライベートスペースは相変わらずロフト下の物置なんだけど、隣の部屋との間に不自然なデッドスペースがある事が分かったから、拡張したんだ。広さにして四畳程。隙間なくセメントが敷き詰められていて、五体分くらいの人骨が出てきたけど、今更その程度じゃビビらないぜ。鳴女さんがふりかけにして食っちゃったし(主食はもちろん零余子印のステーキ)。

 ちなみに、掘削作業は何と藤花ちゃんが担当した。彼女は口や糸疣から溶解液を分泌する能力があり、石灰質を吸収して内外の骨格を強化しているらしい。

 そう、あの見た目で藤花ちゃんは内骨格を持っているのである。

 だので、サイズに反して案外と重たいのだ。密度が高いのだろう。試しにトンカチで叩いたら「カン!」って音がしたし、相当硬いみたいだね。今なら拳銃程度なら弾き返せるんじゃなかろうか。

 それでも藤花ちゃんと空間の相対比が大き過ぎるので、出来上がるまで一週間は掛かった。化学反応で物を溶かすには、相応量の液体が必要なんだよー。充分凄いけどね。

 そんなこんなで、俺にも真面な部屋が手に入った。窓も取り付けたし、床材や壁材も持ち寄ったから、少し狭い事を除けば文句の無い出来栄えである。元の居場所は物置兼出入口であり、藤花ちゃんの住処ともなっている。お疲れ様です。

 ……話を戻そう。

 俺たちは今、東京都葛飾区亀有に在る「見性寺」という曹洞宗のお寺に来ている。ここには偽汽車の狸を祀る「貉塚(むじなづか)」があるのだが――――――実はごく最近に、地下へ通じる空洞が出来た。

 そう、八百八狸の築いた地下帝国への抜け道である。

 筆頭(ボス)刑部狸(ぎょうぶだぬき)や妖怪獣の蛟龍(こうりゅう)は鬼太郎の活躍で完全に死滅したが、部下の化け狸たちは石化した状態(おそらく自分で化けた)で生き埋めにされている。

 つまり、雑魚敵がわんさか今も閉じ込められているのだ。鳴女さんにとっては、まさに入れ食いである。……美味しいかどうかは別として。

 

『フン!』

 

 という事で、鳴女さんに一発お願いした。人力で掘り起こすのは無理があるからね。指向性を持たせた音波で破砕して貰いましたとも。

 あ、寺の住職や近隣住民は、姑獲鳥さんのお香を借りて深い眠りに着いてるから、バレる心配は無いよー。

 

『よし、穴も開いた事だし行くとするか』「了解でーす」

 

 ポッカリと開いた奈落の洞穴に、俺と鳴女さんは何の躊躇も無く足を踏み入れた。狸が出ようが蛇が出ようが、本物の鬼である彼女に敵は居ない。

 

 ……この時は、そう思ってたんだけどねぇ。




◆刑部狸と八百八狸

 ゲゲゲの鬼太郎に登場するオリジナルの狸軍団。
 伝承の隠神刑部狸は義理と忠義に厚い漢なのだが、この刑部狸は第三帝国の某チョビヒゲ並みの野心家である。何せ目標が日本制圧と狸至上主義の独裁国家の設立であり、人間の女をメイドとして侍らせ、男はソーセージにして食ってしまおうと考えるなど、残虐非道な性格をしている。凄まじい神通力と妖術を持っていて、鬼太郎も正面からは手も足も出なかった。
 部下の化け狸たちは精々腕っぷしが強いくらいで取り立てて個性は無いが、知性と統率力に優れており、封印が解かれてからはあっという間に国会議事堂を制圧してしまった。
 また、妖怪獣や大鯰と言った巨大で不死身の生物兵器まで有しており、彼らには核ミサイルも通じないので、人間では天地が引っくり返っても勝ち目がない。
 まぁ、刑部狸たちを封印したのは天海 上人という高僧だったりするのだが。昔の日本には、錦田小十郎景竜みたいなバグ人間が沢山いたのだろう。

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