『……何だこいつ?』
非常にコメントし難い。見た目はさっきの通りなのだが、真紅の鎧を着た武者と言うより、鎧自体が動き出したように見える。着地の衝撃からして、中身はギッチギチなのだろうが……。
こいつは一体何だ?
「おそらく、「槐の邪神」ですね」
すると、チャラトミwikiから情報が。「邪神」ってお前、何それ大物っぽいんですけど。
『どんな妖怪なんだ?』
「主に槐の根元にある祠に棲んでいる妖怪で、通りすがる人間から有り金を巻き上げる習性があるっス」
『ただのチンピラじゃねぇか』
滅茶苦茶に小物だった。
つーか、妖怪のお前が人様の金を巻き上げて何に使うんだよ。
「ちなみに、正体は育ち過ぎたカブトムシです」
『面影が一つも無いだろ』
いや、まぁ細かい部分に面影は有るけどさ、そういう問題じゃないと思うんだよ。兜しか合ってないじゃん。
「いやー、でも侮れないっスよ。見た目通りに鋼鉄の身体を持っていて、金属を吸収して強化する能力がありますから。あと火を噴けます」
『それは生物なのか? 器物の間違いじゃないのか?』
しかし、チャラトミの言う通り、油断出来ない相手なのは確かである。
おそらく、昔は集めた銭を吸収していたのだろうが、今はもっと強力な合金がそこら中にある。それらを吸収・強化しているのだとしたら……。
◆『分類及び種族名称:
◆『弱点:左目の眼帯部』
というか、何で火を噴くんだ貴様。金属と関係ないやろ。
『グヴァオオオッ!』『ズワォ!?』
クソッ、マジで噴いて来やがった。火炎放射というより、火山の噴火に近い爆発力だ。アレか、内部に溶けた金属でも仕込んでやがるのか?
『ゴァアアアアッ!』『速いっ!?』
さらに、鈍重な見た目に反して、身体をスピンさせて襲い掛かって来た。忍者ロボみたいな事しやがって。刀を高速回転させるとか、普通に危ないわ。
うーむ、食べる所が無い奴を相手にするのは嫌だが、歯向かうというなら仕方ない。ボッコボコにして進ぜよう。
『ドラァッ!』
という事で、私は赤紫色の妖気を纏った鉄拳を叩き込んだのだが、
――――――ゴシャッ!
『………………!』
嫌な音がして、拳が砕け、腕の骨が折れた。
『一本くらい何よ!』
残った方で爪刀を形成し、斬り付けたものの、こちらもパキンと砕け散る。
……久々だよ、こんな痛みはぁ!
『ぶっ殺してやる!』『ゴヴァアアアォッ!』
そして、完全にトサカに来た私は、腕を再生しつつ、槐の邪神に襲い掛かった。
◆◆◆◆◆◆
やぁ、俺だよ、チャラトミさんだよ……と、挨拶をしている場合じゃない。
ヤバいヤバいヤバい、こいつはヤバいぞ!
まさか、鳴女さんの拳が砕かれるとは思わなかった。分かっていた事とは言え、痛いのが嫌だからって防御力に極振りし過ぎだろ。あの槐の邪神、ニューZくらいの超合金で出来てそうである。
本来は伝承通りの小物にして俗物妖怪なのだが、最近の金属事情のせいで、とんでもない強敵になってしまっている。貫通ダメージも受けていない事を鑑みるに、衝撃を外に逃がす能力までありそうだ。
さらに、ファイヤーと言うよりボルケーノな火炎攻撃。炎が赤いので温度はバーナーよりも低そうだが、液体は気体よりも熱を伝え易いので、こっちの方が厄介である。半分はプラズマ化している事を考えても非常に危険だ。
だが、一番の脅威はその重量だろう。ゴリラ並みのパワーを持つ鳴女さんが殴っても微動だにしなかった事から、相当な重さに違いない。相手が直立二足歩行をする場合、かなりのハンデになる。
『ガァヴォオオオッ!』『ぐっ……!』
と、言うが早いか、槐の邪神が体当たりをかます。鳴女さんもガードするが、耐え切れずに吹っ飛ばされる。骨の折れる音や袋が破裂する音が聞こえた。衝撃が貫通して中身がかき混ぜられたのだろう。
いやいやいや、本気で強敵だぞ、こいつ。ただのチンピラ妖怪の癖にぃーっ!
『ゴヴァアアアッ!』『ぐぁっ!』
そして、再びのボルケーノ(またの名をカブトムシファイヤー)。鳴女さんの半身が焼け落ちた。燃えるだけでなく纏わり付くの、本当に厄介だなぁ!
『ガァヴォオオオッ!』『………………っ!』
さらに、間髪入れず大回転魔弾を繰り出す。再生途中で攻撃されたので、鳴女さんはロクに耐えられず、細切れにされた。明らかにダメージレースで負けている。鳴女さんにも限界はあるし、このままでは――――――クソッ、マズいぞ……これは本当に、ひょっとしてしまうのか!?
ヤバいヤバいヤバい、どうする、どうすれば良い……!?
「――――――そうだ!」
溶岩を噴出している事を鑑みるに、外部装甲の耐熱性は相当な物だが、熱に強いからと言って化学反応にも強いとは限らない。
今、俺の手元には藤花ちゃんの溶解液がある。効くかどうかは不明だが、少なくともセメントは泡を立てて溶けるぐらいだから、何かしらの反応はあるだろう。
鳴女さんがピンチなんだ、今使わずして何時使う!
「頼む……頼むから通じてくれ!」
いや、効かなかったら切れるからな、大マジで!
「よし……っ!」
狙うは左目の眼帯らしき部分。鳴女さんの動きに対して真っ先に反応しているのがあそこだから、おそらくはセンサーの役割を果たしていると思われる。精密な場所はそのまま弱点となり得る筈である。
「おらぁあああっ!」
俺は投げた。鳴女さんを甚振る事に夢中となっている、槐の邪神目掛けて。
『ガァヴォァッ!?』
すると、藤花印のオイル瓶は見事に槐の邪神の眼帯部にヒット。大ダメージという訳ではなさそうだが、大きな隙は生み出せた。
しかし、実際は悪手だったのかもしれない。何せ、槐の邪神が怒り心頭な様子で、俺を睨み付けて来たのだから。
あっ……これはマズいんじゃ――――――、
『グァヴォオルァアアアアアッ!』
槐の邪神が三度のボルケーノを噴射する。小規模な火砕流が、俺目掛けて迫って来た。
――――――あれ? これ……俺……死、
◆槐の邪神
名前通り、槐の木の近くに潜んでいる邪神。信仰を失った社や祠を乗っ取り、あたかも自分が主のように振舞う横着者。
そして、通りすがりの旅人からカツアゲを行う。もうこの時点で、こいつの小物振りが分かるだろう。正体は甲虫系の虫けらだし。
伝承ではマジもんの天罰覿面を喰らって死んでしまう雑魚妖怪だが、金属を吸収する能力が有る為、様々なレアメタルや合金に溢れる現代社会に適応し、非常に厄介な存在となっている。あと、何故か火を噴く。虫の癖に。
ちなみに、鳴女さんたちの出遭った槐の邪神は、超合金ニューZ級の装甲と溶岩魔人クラスの攻撃力、ソール11遊星主の忍者並みのスピードを持つトンデモ個体であり、物理攻撃は一切受け付けず、特殊攻撃に対しても耐性が高い。