鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 今回は懐かしい連中が出て来まスヨー。


鬼太郎の武者修行①

 ここは日本の何処か。断崖絶壁の谷底にポッカリと存在する、外界から隔絶された陸の孤島。常に菖蒲の花が咲き乱れる、この世とは思えない景色が広がっている。

 そんな浮世離れした場所に、幾つかの影があった。一つは鬼太郎。もう一つはねずみ男。

 

『……どういうつもりだ、鬼太郎?』『オレたちの封印を解くなんて、どういう風の吹き回しだぁ?』『………………』

 

 それに対峙するは、大小三人の妖怪たち。

 如何にも不機嫌な顔で睨み付けるのは、「ラクシャサ」。青く不利乱れた髪の毛と巨大な頭が特徴で、そこから丸太のように頑強な手足が生えている、サイコジ○ニーみたいな体形の妖怪だ。インド出身なので、額に宝石、手足に金の輪、腰に赤い布という僧侶染みた格好をしている。大中小の中を担当。

 鬼の形相ながら何処か愛嬌もある赤ら顔は、「天邪鬼」。強靭な赤い皮膚と山のように盛り上がった筋肉が自慢の怪力無双であり、5メートルはあろうかという巨体を誇る、角の無い鬼である。腰蓑一着だけだが、彼の筋力の前では下手な装備は枷にしかならないだろう。大中小の大を担当。

 特に何のコメントもしなかったのは、「手の目」。目を閉じた黒髪の少年という風貌だが、掌にギョロッとした目玉があるのが特徴だ。恰好も数珠を下げた旅の僧と言った感じで、かなり地味である。大中小の小を担当。

 彼らは皆、過去に一度は鬼太郎と対峙し、封印された者たちだ。つまりは敵である。

 だからこそ、分からない。こんな地獄のような場所に敵妖怪と面を突き合わせるなど、殺してくれと言っているような物だ。

 

『――――――どうもこうもねぇさ。こいつは単に、お前らと戦いたいだけだよ』

 

 すると、何処からともなく現れた、蒼い行脚僧の恰好をした男が不敵に告げる。頭頂部の一本角と閉じられた額の第三の眼が、只者ではない雰囲気を漂わせる。

 

『誰だ、貴様は?』

『俺かい? 俺は蒼坊主。鬼太郎(こいつ)の兄貴分さ』

 

 彼の名は蒼坊主。日本全土を巡礼しつつ、行く先々で悪い妖怪を封印している退魔師である。その実力は折り紙付きだ。方向音痴だけど。

 

『……退魔師が何の用だ?』

 

 姿恰好と滲み出る強者の風格から、彼が退魔師だと見抜いたラクシャサが、訝し気に訊ねる。退魔師と鬼太郎が兄弟分なのは置いておくとしても、自分たちの封印を解いた理由が分からない。そんな事をして、一体何の得があるのか。

 

『俺はただの後始末さ。用があるのは鬼太郎の方だ』

 

 だが、蒼坊主は取り合わない。あくまで事後処理の為にいるだけだと。

 ならば、鬼太郎の目的とは?

 

『……お前たちと、手合わせを願いたい』

『何だと?』

『いや、手合わせなんて生温いな。殺しに来てくれ。……で、僕が負ければ、自由にしてやる。蒼兄さんには手を出させないさ』

『………………!』

 

 つまり、ちょっと殺し合いをしてもらいます、という事である。何処のバトル・ロワイ○ルだ。

 

『ヴァッハッハッハッ! 面白れぇじゃねぇか!』

 

 今までの鬼太郎からは考えられない台詞に、天邪鬼が豪放に笑いながら前に出る。最初は自分から、と言わんばかりに。

 

『どういうつもりかは知らねぇが、良い度胸だ。立ち塞がると言うなら、潰すまで。オレはもう閉じ込められないぞ。……前にも言ったな。オレは誰からも自由だぁあああああっ!』

『……来いっ!』

 

 さらに、余計な詮索は一切せず、真正面から突っ込んでいく。彼は出会った時からそうだった。捻くれ者だが、自分を嘘偽りなくぶつけて来る。言葉の上でも、物理的にも。

 シンプル・イズ・ザ・ベスト。「力尽く」という単純明快な遣り方が、天邪鬼のポリシーである。

 

『ドラァッ!』『くっ……!』

 

 野太い腕が岩を砕き、大地を揺らし、文字通り鬼太郎に手も足も出させない。髪の毛針は歯が立たず、ちゃんちゃんこは掴み取られ、リモコン下駄(修復済み)は払い除けられる。以前戦った時もそうだった。

 

『フフッ……!』

 

 しかし、今宵の鬼太郎は一味違う。

 

『何がおかしい!』

『いや、ふと思っただけだよ。……“あの女”は砕いたのに、お前は払い除けるのが精一杯なんだってな』

 

 敗北の味を知った彼は、実にムカつく悪ガキだった。

 

『言ったな、小僧! なら、オレ様の本当の恐ろしさを見せてやる!』

『見せられる物なら見せてみろ、脳筋野郎!』

 

 そして、指鉄砲やオカリナ剣を織り交ぜながら、必死に食らい付く。時には本当に噛み付き、食い下がったりもした。その荒々しい戦い方は、まさに狂犬だ。

 

(良いぞ、鬼太郎。今はそれで良い)

 

 そんな彼の有様を見て、蒼坊主が満足そうに呟く。

 

(お前は忘れてしまった。我武者羅な正義感を。勝つ為なら何でもして、勝つまで戦い続ける力強さを。……ユメコちゃんと共にいた、あの頃を思い出せ!)

 

 蒼坊主は知っている。昔の彼を。天童(てんどう) ユメコと共にあった頃の姿を。

 あの頃の鬼太郎は、明確な正義感と意志を持って戦っていた。弱きを助け、傲慢な強きを挫く。そこに妖怪も人間も関係ない。きちんと向き合い、正面からぶつかっていた。

 だが、時が経ち、人の闇に触れ続ける内に、彼は人間と距離を置くようになった。色々と理由はあるが、単純に嫌気が差したのだろう。ユメコと死に別れてしまったのも大きい。今の鬼太郎は、まるで世捨て人である。

 だから、この武者修行で思い出して欲しい。ヤンチャだった頃のお前は、もっとずっと輝いていたぞっ!

 

『ウォアアアアアアッ!』『はぁあああああっ!』

 

 ――――――鬼太郎と天邪鬼の死合は続く。




◆天邪鬼

 「捻くれ者」の代表選手的な存在。四天王像が踏み付けにしているアレ。
 簡易な読心術と凄まじい怪力を誇り、かつては鬼太郎でさえ手も足も出なかった。自由奔放な性格で、己の邪魔立てする物を一切許さない。祖先は、完全無欠の読心術に捻くれた心、神すら投げ飛ばす超力を持つ、暴虐の女神「天探女(アメノサグメ)」。
 鬼太郎の世界観では“燻製肉が大好物の怪力無双な妖怪”として描かれており、特に第4期の彼は小賢しい読心術など使わず、腕っぷしだけで鬼太郎を完全に無力化した、とんでもない奴である。「オレは誰からも自由だぁ!」とは彼の信条だが、どこら辺が捻くれ者なのか怪しくなってくるのは気のせい。

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