鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 初めて大人の猫娘を見てから十数年、まさか本当に大人のお姉さんになってしまうとはナァ……。


鬼太郎の武者修行②

 それから、戦い続ける事しばし。

 

『ぬぐぉ……こ、こんな……ものぉ……っ!』

 

 遂に、天邪鬼が倒れた。

 腹に焼け爛れたような切り傷があり、そこへ突き刺された髪の毛槍が海栗の如く内臓を食い破っていた。それでも死なない。倒れて気絶しただけだ。

 

『ハァ……ハァ……ッ!』

 

 それに鬼太郎の方も無事ではない。左の膝から下が引き千切れており、もう一本の髪の毛槍を支えにやっと立っている状態である。右腕は雑巾を絞ったように捩じくれ、右の頬肉が抉れて奥歯と舌が見えている。腹にも穴が開き、内臓が零れ落ちていた。

 これ程のダメージを受けなければ、天邪鬼を倒す事が出来なかった。今の彼は(・・・・)その程度(・・・・)という事だ(・・・・・)

 

『足りない……もっとだ……ッ!』

 

 こんな物では、あの化け物は殺せない。

 髪の毛針やリモコン下駄はもちろん、体内電気も霊毛ちゃんちゃんこも通じない。指鉄砲なら掠り傷を付けられるかもしれないが、あの再生力の前では無意味である。

 そもそも、肉弾戦ではパワーでもタクティクスでも劣っている。手足が千切れる程度で怯んでいては、真面に組み合う事すら不可能だろう。

 だからこそ、まず鬼太郎は天邪鬼との戦いを選んだ。“捨て身の戦い”という物を学び、“絶対に負けない”という執念を思い出す為に。

 次はラクシャサだ。

 筋力こそ天邪鬼に劣るが、武芸に秀で、髪の毛を操り、どんな攻撃にも一切怯まないというタフネスさが、最大の特徴である。

 

『どうするよ、鬼太郎。少し休憩するか?』

 

 しかし、誰がどう見ても、鬼太郎は戦える状態ではない。それどころか、今すぐ妖怪病院に連れて行った方が良いくらいだ。

 

『……いいや、このまま行くよ』

 

 だが、鬼太郎は戦闘継続へと固辞した。その眼は手負いの蛇よりも爛々と輝いている。

 

『はぁああああああああああっ!』

 

 さらに、妖力を全開にして再生力を高め、手足を生やし、腹の傷を塞いでしまった。

 ただし、大分無理をしたのか、息切れを通り越して過呼吸になっており、体力は回復するどころか更に減ってしまった。ここまで来ると、普通なら妖怪ですら倒れるだろう。

 しかし、鬼太郎は倒れない。霊毛ちゃんちゃんこを左腕に巻き付け、右手に髪の毛槍を持ち替え、ラクシャサを睨み付ける。

 

『フハハハハハハハハッ!』

 

 そんな彼を見て、ラクシャサが実に嬉しそうに笑う。

 

『素晴らしい闘志だ。その純粋無垢な敵意、称賛に値する!』

『へぇ、お前さんが鬼太郎を褒めるたぁね』

 

 と、蒼坊主が茶々を入れた。

 

『……当然だ。敵への殺意は戦いの礼儀。安っぽい正義を語るなど言語道断。以前の奴は腑抜けで、最近のこいつは腰抜けだった。しかし、今のこ奴は違う。すぐにでもこの俺を殺そうと燃え上がっている。それこそ、悪鬼羅刹のようにな』

 

 それに対して、ラクシャサが鼻を鳴らしながら答える。

 

『ならば、それに応えるのみ! 行くぞ、鬼太郎! 妖怪は人間を苦しめてこそ、人間界にての存在理由がある! 妖怪同士もまた然り! 今の貴様は王道だ、鬼太郎!』

『黙れ外道! 地獄で僕に封じられたお仲間に泣き付いて来るといい!』

 

 そして、ラクシャサと鬼太郎の戦いが始まる。

 

『ヌゥウウン!』

 

 まずはラクシャサの攻撃。髪の毛を振り乱し、幾つもの刀剣に変えて斬り掛かる。

 

『舐めるなぁ!』『何ッ!』

 

 だが、鬼太郎はそれを避けようともせず、勢いのまま突っ込んで来た。当然、身体はバラバラになるが、それらを念力で操り、斬撃の壁を掻い潜って、再び一つに戻る。

 

『はぁあああっ!』

 

 さらに、驚き開いたラクシャサの口に左腕を叩き込む。巻いてあるちゃんちゃんこを体内に送り込み、内部から殺してしまおうという算段である。

 

『甘い!』

 

 しかし、そこは元八部鬼衆が一柱。即座に狙いを読み取り、素早く腕を掴んで地面へ叩き付けた。そこへ間髪入れず刀剣で串刺しにして縫い付ける。

 

『うぉおおおっ!』『何だとぉ!?』

 

 だが、鬼太郎はそれを逆に利用し、何でも溶かす胃液を解放する事で拘束を解き、ついでにラクシャサ本体も溶かし食ってしまおうとした。それ自体はラクシャサが機敏に飛び退いたので失敗したが、おかげで反撃のチャンスをもぎ取った。

 

『てりゃあああああっ!』

 

 まずは髪の毛槍を投擲。ラクシャサがそれを受け止めたのを見計らってリモコン下駄を飛ばし、槍を押し出す事で彼の眉間を貫いた。

 しかし、鬼太郎はまだ止まらない。生物は簡単には死なないし、ましてや相手は妖怪だ。その程度で動けなくなるような軟な敵ではないのである。

 

『うぉおおおおおおお!』『ぐぬぅうううううっ!?』

 

 鬼太郎は髪の毛槍にオカリナロープを巻き付け、体内電気を発揮。数億ボルトの電圧を掛け、その隙に接近し、オカリナを打ち石代わりに全力で槍を押し込む。切っ先がラクシャサの頭を貫通した。

 

『地獄へ落ちろぉおおおおっ!』

『ぐわぁああああああああっ!』

 

 そして、残った左手でラクシャサの右目を突き刺し、全妖力を込めて指鉄砲を連射。彼の頭を爆砕した。誰がどう見ても決着は付いただろう。流石のラクシャサも、頭部を粉々にされては暫くは再起不能である。

 

『ハーッ……ハァーッ……ぐふっ!』

 

 しかし、目標を完全に沈黙させた所で鬼太郎にも限界が訪れ、まるで糸の切れた人形のようにドサリと倒れ伏す――――――直前に、蒼坊主がフワリと受け止める。お姫様をそうするように。

 

『お疲れさん。一先ず、今日はもう休みな』

 

 ……その手には、天邪鬼とラクシャサの描かれた札が握られていた。




◆ラクシャサ

 インド神話に登場する人食い鬼の一族。仏教では悪鬼羅刹と呼ばれている。同じルーツを持つ夜叉(ヤクシャ)は親類であり、同僚であり、ライバルでもある。
 主な役割は人を苦しめ、痛め付け、絶望させる事。大義名分こそ様々だが、何処へ宗旨替えしても、その本質は全く変わらない。まさに悪鬼に相応しい所業だが、神聖な儀式をぶち壊しにして喜ぶような一面も。ヒャッハー!
 アニメでは4期に登場。夜叉と近しいからか、同じく髪の毛を武器に使う。これが非常に強力で、“相手の大切な人に化けて不意打ちする”という搦め手に加え、鬼太郎の霊毛ちゃんちゃんこすらバラバラにしてしまうパワーを持っている。インド行者の円陣で弱体化していなければ、鬼太郎は仲間諸共殺されていたかもしれない。
 「妖怪は人間を苦しめてこそ、人間界にての存在理由がある」という心情を持つ武断派で、趣味の悪い搦め手を使う悪辣さ、鬼太郎を真正面から叩きのめす力強さも相俟って、たった1話のゲストとは思えないインパクトを残した。

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