鳴女さんの令和ロック物語   作:ディヴァ子

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 ……タイトルに他意は無いでスヨー?


丸子、でーとするの巻

 キャハハハ、わしじゃよわし、座敷童子の丸子じゃよ~♪

 今日は久方振りに封印を解かれた、六部(むつべ)とでーとじゃ♪

 あ、六部というのは、今わしの目の前で零余子印のわいんを飲んでおる、この“手の目”の事じゃ。ふるねーむは矢琶羽(やはば) 六部(むつべ)という。以前世話になっていた「矢琶羽豆腐」の跡取り息子だった(・・・)男じゃ。

 六部との出会いは、大分昔――――――大正時代の話じゃ。彼は盲目ながら手先が器用で、豆腐作りの上手い男じゃった。家に上がり込んで来たわしとも遊んでくれる、良い男じゃったよ。

 しかし、ある晩、突如押し入って来た、正体不明の化け物に殺されてしまった。両親が用事で遅くまで出掛けていた日に起きた、哀しい出来事じゃ。

 その後、両親は嘆き悲しんだものの、何時までも泣いてはいられないと、何処からか養子を迎えたのじゃが、こいつがまた、どうしようもない男でなぁ。とにかく女癖が悪く、夜な夜な抜け出しては何処ぞの女と遊んどった。

 そんな屑男だが、仕事だけは出来る奴であり、おかげで両親も強く言えず、済し崩し的に跡取りとなった。

 さらに、夜遊びばかりしていた成果なのか、後継ぎにも恵まれ、何だかんだでそやつの一族が矢琶羽豆腐を取り仕切るようになっていった。

 ……正直、わたしとしては、六部が殺された時点で家を出ても良かった。屑野郎は元より、彼を忘れようとする六部の両親が許せなかった。

 だが、今わの際に六部から店を頼まれてしまったから、しょうがなく見守る事にしたんじゃ。彼を助けられなかった負い目もあったしの。

 しかし、屑の子孫は穀潰しじゃった。わしがどんなに頑張って店を盛り上げようと力を使っても、稼いだ傍から金を使いよる。先祖と同じく女と酒に溺れておった。これには後に手の目となって蘇った六部も苦笑いしとったよ。

 それでも見捨てず、我慢に我慢を重ねて、陰から支え続けた。六部がやらかし過ぎて、退魔師に封じられてからも、長い間ずっと……。

 だが、駄目男は何処まで行っても駄目糞野郎じゃった。

 何と奴の末裔が、火遊びのし過ぎで殺されてしまったんじゃ。十六人の女から滅多刺しにされて息絶える光景は、流石のわたしも絶句したわ。何しとるんじゃい。

 結果、お家は断絶。せっかく守って来た店も潰れてしまった。それからは皆の知るような顛末じゃよ。

 ――――――うん、もう矢琶羽豆腐関連の話はよそう。飯が不味くなるし、気分も悪くなる。

 それよりも、六部じゃよ、む・つ・べ♪

 彼は化け物に殺された後、無念を晴らすべく、盲人のなる妖怪「手の目」となった。文字通り手に目がある怪異で、それを使った妖術を使うのが特徴じゃ。

 大抵は催眠術や目晦ましなど、“目を光らせて”発動する補助技が殆どじゃが、中には目玉を弾丸のように飛ばしたり、敵を撃ち貫く怪光線を放つ者など、攻撃的な技を習得する場合もある。

 そして、無念の度合いが段違いだった六部は、殊更に特異な能力を得た。“周囲に生じる力の向きを自在に操る”という物で、色々と応用の利く妖術じゃ。目玉の矢印がその証。本人にしか見えない「紅潔(こうけつ)の矢」なる力場が全てを引っ張るのじゃとか。

 凄いのう、かっこいいのう、一方通行って呼ぼうかのう♪

 しかし、そんな強くてかっこいい能力を得た六部じゃったが、時は既に遅かった。己の仇は誰とも知らぬ者に討たれ、とっくの昔に死んでおった。

 捌け口を失くした彼は荒れに荒れ、人を取って食って殺しまくり、既に活動を始めていた鬼太郎や、蒼坊主という退魔師に見付かって討伐・封印されてしまい、それっきり会う事はなかった。

 

 ……寂しかったわよ、本当に。

 

『そう言えば、本体のある無限城という異空間は、安全なのか?』

 

 と、わいんを飲み干した六部が、わたしの心配をしてくれる。相変わらず身内には優しい奴じゃのう。大好きじゃ♪

 

『問題ない。城の主は正真正銘の化け物じゃからのう』

 

 わしら座敷童子は、己の分身を作る能力が有る。亜種であるたたりもっけや呵責童子もそれは変わらない。

 ただし、それは謂わば肉体の予備であり、魂の宿っていない肉人形じゃ。だから自意識は持ち合わせておらず、幽体離脱の要領で取り憑く事で、初めて動かす事が可能となる。

 だが、その間は本体が無防備になるので、本体を見捨てなければ助からないなど余程の理由がある場合か、安全が確保されていない限りは使わない事にしておる。

 今は無限城に囚われている形なので、安全ではあるが逃げられない状態であり、外界にはこうして分身に憑依して出歩いとるのじゃ。魂が分割で本体にも残っておるから、見捨てる訳にもいかんし。鳴女も上手い事考えよるのー。

 

『それはそうと、そろそろ飯を食わんか? わいんばかりでは飽きるじゃろ?』

『そうでも無いが……何か注文でもするのかの?』

 

 流石は零余子印。あの潔癖で味に煩い六部をも唸らせるとは。……ちょっと嫉妬しちゃうわ。

 

『いいや、弁当を持って来たぞぇ』

『ほーう、お前の手作りかのう?』

『いや、ちゃらとみの手作りじゃ』

『そこはお前が作っておけよ……』

 

 「主夫かそいつは」と呆れる六部じゃが、気持ちは分かるぞえ。悔しいが、あやつに料理の腕で敵う奴は、我が家には一人もおらん。何時かは超えてみたいが、少なくとも今ではない。

 じゃから、今回は涙を呑んでちゃらとみ弁当で手を打った。六部にはやっぱり美味しい物を食べて貰いたいんじゃよ、悔しいけどぉ~!

 

『『美味い』』

 

 うーん、何だかなぁ……美味しいんだけど、心が嬉しくない。遠い空の向こうで、ちゃらとみが白い歯を光らせながら笑顔を浮かべているような気がする。

 どうしよう、凄くぶん殴りたいんだけど。

 でも、今はあいつも化け物だしのぅ……。

 ――――――うん、今度はちゃんと手作りしよっと。

 

『ふぅ……』『ごちそうさま』

 

 さぁ、腹も満たされたし、でーとの続きじゃあ!




◆矢琶羽

 朱紗丸と同時期に登場した、男の鬼。こっちも無惨に煽てられただけの、自称:十二鬼月。妖怪「手の目」の如く、矢印の描かれた眼球が掌に在り、ここを開閉する事で血鬼術が発動する。能力はベクトル操作で、自分(または見破る能力持ち)にしか見えない「紅潔の矢」という矢印を放ち、触れた物体をその方向へ強制的に移動させる。かなり応用の利くスキルで、攻撃だけでなく追跡にも使われた。
 無惨の命令で、出会ったばかりとは思えないくらい相性の良い朱紗丸と共に炭治郎たちを襲ったが、兪史郎の機転で分断され、最期は自分の能力を逆用される形で炭治郎に討伐された。確かに強い事は強いのだが、後の本物の十二鬼月と比べるとやはり見劣りする。
 ただ、成長すれば一方通行さん並みの脅威になった可能性も否めない。能力の自由度はこっちの方が上っぽいし。
 その後、朱紗丸とほぼ同時期(こっちの方が僅かに後)にゲゲゲ世界へ転生、矢琶羽豆腐の跡取り息子「六部(むつべ)」として生を受けたが、元服前に謎の化け物に襲われ、食い殺されてしまった。その無念により妖怪「手の目」として蘇ったものの、仇はとっくに討伐されており、やり場のない怒りを周囲にぶつけまくった結果、鬼太郎と蒼坊主に見付かってしまい、封印された。
 彼を襲った化け物は“人の血肉を好んで食らう人間そっくりの姿をした鬼”だったらしいが、暗がりでの事だったので詳細は不明である。
 ちなみに、今も昔も潔癖症で、令和の現在は消毒セットを常に携帯している。よくそんなんで豆腐作れたな。

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